第四話

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**第四話 秘密  全く世話の焼ける奴だ、ユウって奴は。こいつたかが剣と盾とヘッドギアでへばりやがったのか? 剣だって市販の安価なショートソードだし盾だってこれまた市販の安価なサークルシールドだ。 「ひぃひぃ……ぜぇぜぇ……」 まぁ、命の方が大事だからな。ここは我慢してもらおう。  秘密ダンジョンの中はコボルトの体臭が更に増して鼻が曲がりそうになった。臭いが体に染み付きそうだ。 「よおおおし! いくぞー!」 ミライナが槍を振りまわして声を張り上げた。 「お、おー」 俺はノリがいいのだろうか。 「キェッ!?」 俺達に気付いたコボルト二匹がよく手入れされているようで、光沢を放つ槍を握って迫ってきた。よく見ると肌の色やマントの色が赤紫色で、俺の記憶が頼りになるならこいつらはグレムリンという種類だったはずだ。 「ハッ!」 ミライナが手に集中させた魔力を矢に変形させて放つ。このマジカルアローと呼ばれるスキルは光の属性を持ち、同じ属性を持つガーディアンポストと非常に相性がいい。先にある程度の能力をつけておかないとガーディアンポストを使いこなすのは至難の業ということだろう。  クアァッという声を上げてグレムリンが矢の当たった目を押さえつける。そこに味方の剣士がさらに追い討ちをかけるように斬りかかる。  あれ、剣士と言えば……  ……やっぱりユウの奴は後方で動けなくなっていた。まあ無理もないかもしれないが…… 「おい! てめえも戦え!」 「え、いや……だって俺は・・・…」 「ここまで来たなら覚悟決めろ!」 いささか厳しい言い方だったかもしれないがこの言葉によりユウは歯を食いしばり、俺を追い越して前線に出てきた。いつの間にか二匹に増えたグレムリンはひらりひらりと攻撃を回避するミライナに業を煮やし、ユウには目もくれない。今なら少しずつ相手にダメージを与えていけば大丈夫だろう。 「くそ! あんの馬鹿……」 前に出たのはいいが俺の射線上で戦わないで欲しいなあ…… 「クァック! 人間か!?」 何っ!?  突然コボルト特有の甲高い不快な声をあげて現れたそいつは手近にいたミライナの背中を深々と抉り、弾き飛ばした。 「こいつっ……」 「きゃあっ!?」 間を置かずビショップがミライナの介抱に向かう。 「隊長のようだな。一気に決めるぜ」 ここで少し驚くことがあった。グレムリンの前で立ち竦んでいたユウが小さく息を吐くと、ごつごつした地面を蹴り、隊長らしきコボルトに踊りかかった。 「ぐうっ?」 何だ、ちゃんと自分で動けるじゃないか。 「ユウ! 前衛は任せたぜ!」 「おうっ!」 回復が終わったらしいミライナが元気よく立ち上がり、ビショップはキャンディーを持たないユウの回復に向かった。 「うっ、そこかっ!」 俺はさらに驚いた。ユウは相変わらず相手のターゲットをとったままだというのにかすり傷程度しか負っていないのだ。見ると相手の槍を盾で軽くいなし、そのまま懐に滑り込んで剣で斬りつけている。さらに相手が行動を起こす前にバックステップで元の位置に戻るという動作を繰り返していた。攻撃回数が減少するから相手へ与えるダメージも減るはずなのだが全くそんなこともない。  奴の魔力がその力を出し始めたってことだろうか。 「クァ……」 ミライナに心臓を貫かれた隊長らしきコボルトが倒れた。 「ふひー……」 「お前、なかなかやるじゃないか」 ユウが武道家に肩をばしばしと叩かれる。 「まあ、こんなもんっすよ! あはははは!」 性格も明るくなってないか? 「じゃ、さっさと進もうぜ。日が暮れちまう」 日が暮れるなどという概念があるのかどうかは知らないがな。  どうやら部屋ごとに隊長らしい奴がいるようで、俺達はそいつらを苦戦しながらも倒して進んだ。  何部屋か進むと、シャーモンテルと名乗るコボルトに出会った。 「ん、人間か。まあこの際仕方ない……」 「なんのことだ」 俺達は油断無くシャーモンテルの動きに目を光らせながら次の言葉を待った。 「フン、あの狼の野郎だ。私達が苦労して集めた宝を独り占めしてやがる」 「そいつを俺達に取り返してこい、と?」 コボルトはうなずいた。 「もちろんそれに見合う報酬はくれてやる。奴が死ぬ時は独特の音がするからそいつが聞こえたらここに戻ってこい。引き受けてもらえないか」 これはどうするべきだろう。 「モンスターの頼みを聞くのか?」 「断る理由もないんじゃないかな」 俺はその言葉を聞き、くるりと振り向いてシャーモンテルにうなずいてみせた。シャーモンテルはそれを何とも言えない表情で見つめた。 「やっぱり人間って奴は……いや、なんでもない。それじゃあよろしく」 シャーモンテルはいそいそと背を向け難しい顔をしてぶつぶつと何事か呟きはじめた。 「……さ、行くぞ」 来た道を戻り、さっき行かなかった分かれ道の獣臭い方を選び、進む。二匹のコボルトがさっとこちらに振り向き、襲い掛かってくる。すかさずユウが前に飛び出し、二匹の攻撃を受け止める。  それにしてもこいつの戦い方は独特だ。相手が二匹でもその攻撃に変化が生じることはなく、最低限の動きで槍をかわし、そこに生まれた隙を突く。一般に非効率的で弱いとされてきた戦い方だが、隣の剣士の教科書どおりの垂直斬りよりも余程相手にダメージを与えているように見える。  全く面白い奴だ。  コボルトが突きだした槍を今度は剣で弾き、そのまま相手の手を切断する。血が噴出す合間からピンクと白がのぞく腕を押さえつけ、コボルトが悶絶する。さらにもう一匹を蹴り飛ばすと、ミライナの槍がそれを正確に仕留める。難なくコボルトを倒すと俺達は隊長が現れるのを待った。 「ウヒック、人間か?」 また他の奴らと同じような台詞を吐き、目の血走ったコボルトがふらりと現れた。すかさず俺がファイアーボルトを放つと奴はそれを槍で受け止め、そのままの姿勢でずんずんと進んできた。どうやらこいつは倉庫番らしい。狼に占領されても仕事だから離れられないのか。皮肉な話だな。 「せいっ!」 武道家の一撃で地面に倒れたそいつの服から鍵を探し、横に押しやると俺達は近くにある扉の鍵を解除した。そしてその取っ手に俺が手をかけた。  ばちん  俺の体を凍てつくような何かが一瞬でかけ巡り、のたうつように全身に広がった。  クソッ、罠か!?  まだ何とか動く右手を動かし、俺は罠の切れた扉を開いた。 「ヴァイシス大丈夫!?」 「うっせえ! さっさと入れ馬鹿!」 駆け寄ったミライナを怒鳴りつける。それにあわてたのか皆が急いで部屋の中に入る。その後を追って俺も力を振り絞って中に倒れこんだ。  もうこんなのは御免だぜ……  その瞬間俺は決めた。ステータスを知識よりに振り分け、スキルはファイアーボルト一択。目指すは支援型ウィザードだ。ファイアーボルトを上げると習得できるファイアーエンチャントによる味方のダメージ強化が主な仕事で、自分から戦闘することは滅多に無い。なんだからしくない気もするが二度と前に出て罠に触りたくはないので俺は後方に下がることに決めた。  杖を振り火弾を飛ばす俺はその間にユウの能力を盗み見た。  とんでもないバラつきだ。ある一定を1とすると半分から二倍までの差があり、とても効率のいい攻撃ができるとは思えない。しかしよく見ると力が半分になっている間は健康が倍になっていたり、さらにそれが攻撃タイミングによって左右されているのが分かった。そして何よりその平均値が高い。こいつの可能性は広がる一方だ。そもそも何というか…… 「これでも食らえっ!」 今ユウは少し手を捻り自分の分身を生み出して左右から斬りつけたが、これはサザンクロスというスキルで、レベル8にならないと習得できないはずなのだ。それを既に容易に使いこなしているあたりがもうおかしい。むしろ羨ましい。  ぐるぅ、と声をあげて狼が倒れると、犬の遠吠えのような音が洞窟内に響き渡った。これが例の音とやらなのだろう。 「さて戻るぞ」 俺は皆に呼びかけて自分はそっと後ろに下がった。前でユウが扉に触って硬直していたが見ないふりをしておこう。 いっさみんみんの黒歴史 第四話2
**第四話 秘密  全く世話の焼ける奴だ、ユウって奴は。こいつたかが剣と盾とヘッドギアでへばりやがったのか? 剣だって市販の安価なショートソードだし盾だってこれまた市販の安価なサークルシールドだ。 「ひぃひぃ……ぜぇぜぇ……」 まぁ、命の方が大事だからな。ここは我慢してもらおう。  秘密ダンジョンの中はコボルトの体臭が更に増して鼻が曲がりそうになった。臭いが体に染み付きそうだ。 「よおおおし! いくぞー!」 ミライナが槍を振りまわして声を張り上げた。 「お、おー」 俺はノリがいいのだろうか。 「キェッ!?」 俺達に気付いたコボルト二匹がよく手入れされているようで、光沢を放つ槍を握って迫ってきた。よく見ると肌の色やマントの色が赤紫色で、俺の記憶が頼りになるならこいつらはグレムリンという種類だったはずだ。 「ハッ!」 ミライナが手に集中させた魔力を矢に変形させて放つ。このマジカルアローと呼ばれるスキルは光の属性を持ち、同じ属性を持つガーディアンポストと非常に相性がいい。先にある程度の能力をつけておかないとガーディアンポストを使いこなすのは至難の業ということだろう。  クアァッという声を上げてグレムリンが矢の当たった目を押さえつける。そこに味方の剣士がさらに追い討ちをかけるように斬りかかる。  あれ、剣士と言えば……  ……やっぱりユウの奴は後方で動けなくなっていた。まあ無理もないかもしれないが…… 「おい! てめえも戦え!」 「え、いや……だって俺は・・・…」 「ここまで来たなら覚悟決めろ!」 いささか厳しい言い方だったかもしれないがこの言葉によりユウは歯を食いしばり、俺を追い越して前線に出てきた。いつの間にか二匹に増えたグレムリンはひらりひらりと攻撃を回避するミライナに業を煮やし、ユウには目もくれない。今なら少しずつ相手にダメージを与えていけば大丈夫だろう。 「くそ! あんの馬鹿……」 前に出たのはいいが俺の射線上で戦わないで欲しいなあ…… 「クァック! 人間か!?」 何っ!?  突然コボルト特有の甲高い不快な声をあげて現れたそいつは手近にいたミライナの背中を深々と抉り、弾き飛ばした。 「こいつっ……」 「きゃあっ!?」 間を置かずビショップがミライナの介抱に向かう。 「隊長のようだな。一気に決めるぜ」 ここで少し驚くことがあった。グレムリンの前で立ち竦んでいたユウが小さく息を吐くと、ごつごつした地面を蹴り、隊長らしきコボルトに踊りかかった。 「ぐうっ?」 何だ、ちゃんと自分で動けるじゃないか。 「ユウ! 前衛は任せたぜ!」 「おうっ!」 回復が終わったらしいミライナが元気よく立ち上がり、ビショップはキャンディーを持たないユウの回復に向かった。 「うっ、そこかっ!」 俺はさらに驚いた。ユウは相変わらず相手のターゲットをとったままだというのにかすり傷程度しか負っていないのだ。見ると相手の槍を盾で軽くいなし、そのまま懐に滑り込んで剣で斬りつけている。さらに相手が行動を起こす前にバックステップで元の位置に戻るという動作を繰り返していた。攻撃回数が減少するから相手へ与えるダメージも減るはずなのだが全くそんなこともない。  奴の魔力がその力を出し始めたってことだろうか。 「クァ……」 ミライナに心臓を貫かれた隊長らしきコボルトが倒れた。 「ふひー……」 「お前、なかなかやるじゃないか」 ユウが武道家に肩をばしばしと叩かれる。 「まあ、こんなもんっすよ! あはははは!」 性格も明るくなってないか? 「じゃ、さっさと進もうぜ。日が暮れちまう」 日が暮れるなどという概念があるのかどうかは知らないがな。  どうやら部屋ごとに隊長らしい奴がいるようで、俺達はそいつらを苦戦しながらも倒して進んだ。  何部屋か進むと、シャーモンテルと名乗るコボルトに出会った。 「ん、人間か。まあこの際仕方ない……」 「なんのことだ」 俺達は油断無くシャーモンテルの動きに目を光らせながら次の言葉を待った。 「フン、あの狼の野郎だ。私達が苦労して集めた宝を独り占めしてやがる」 「そいつを俺達に取り返してこい、と?」 コボルトはうなずいた。 「もちろんそれに見合う報酬はくれてやる。奴が死ぬ時は独特の音がするからそいつが聞こえたらここに戻ってこい。引き受けてもらえないか」 これはどうするべきだろう。 「モンスターの頼みを聞くのか?」 「断る理由もないんじゃないかな」 俺はその言葉を聞き、くるりと振り向いてシャーモンテルにうなずいてみせた。シャーモンテルはそれを何とも言えない表情で見つめた。 「やっぱり人間って奴は……いや、なんでもない。それじゃあよろしく」 シャーモンテルはいそいそと背を向け難しい顔をしてぶつぶつと何事か呟きはじめた。 「……さ、行くぞ」 来た道を戻り、さっき行かなかった分かれ道の獣臭い方を選び、進む。二匹のコボルトがさっとこちらに振り向き、襲い掛かってくる。すかさずユウが前に飛び出し、二匹の攻撃を受け止める。  それにしてもこいつの戦い方は独特だ。相手が二匹でもその攻撃に変化が生じることはなく、最低限の動きで槍をかわし、そこに生まれた隙を突く。一般に非効率的で弱いとされてきた戦い方だが、隣の剣士の教科書どおりの垂直斬りよりも余程相手にダメージを与えているように見える。  全く面白い奴だ。  コボルトが突きだした槍を今度は剣で弾き、そのまま相手の手を切断する。血が噴出す合間からピンクと白がのぞく腕を押さえつけ、コボルトが悶絶する。さらにもう一匹を蹴り飛ばすと、ミライナの槍がそれを正確に仕留める。難なくコボルトを倒すと俺達は隊長が現れるのを待った。 「ウヒック、人間か?」 また他の奴らと同じような台詞を吐き、目の血走ったコボルトがふらりと現れた。すかさず俺がファイアーボルトを放つと奴はそれを槍で受け止め、そのままの姿勢でずんずんと進んできた。どうやらこいつは倉庫番らしい。狼に占領されても仕事だから離れられないのか。皮肉な話だな。 「せいっ!」 武道家の一撃で地面に倒れたそいつの服から鍵を探し、横に押しやると俺達は近くにある扉の鍵を解除した。そしてその取っ手に俺が手をかけた。  ばちん  俺の体を凍てつくような何かが一瞬でかけ巡り、のたうつように全身に広がった。  クソッ、罠か!?  まだ何とか動く右手を動かし、俺は罠の切れた扉を開いた。 「ヴァイシス大丈夫!?」 「うっせえ! さっさと入れ馬鹿!」 駆け寄ったミライナを怒鳴りつける。それにあわてたのか皆が急いで部屋の中に入る。その後を追って俺も力を振り絞って中に倒れこんだ。  もうこんなのは御免だぜ……  その瞬間俺は決めた。ステータスを知識よりに振り分け、スキルはファイアーボルト一択。目指すは支援型ウィザードだ。ファイアーボルトを上げると習得できるファイアーエンチャントによる味方のダメージ強化が主な仕事で、自分から戦闘することは滅多に無い。なんだからしくない気もするが二度と前に出て罠に触りたくはないので俺は後方に下がることに決めた。  杖を振り火弾を飛ばす俺はその間にユウの能力を盗み見た。  とんでもないバラつきだ。ある一定を1とすると半分から二倍までの差があり、とても効率のいい攻撃ができるとは思えない。しかしよく見ると力が半分になっている間は健康が倍になっていたり、さらにそれが攻撃タイミングによって左右されているのが分かった。そして何よりその平均値が高い。こいつの可能性は広がる一方だ。そもそも何というか…… 「これでも食らえっ!」 今ユウは少し手を捻り自分の分身を生み出して左右から斬りつけたが、これはサザンクロスというスキルで、レベル8にならないと習得できないはずなのだ。それを既に容易に使いこなしているあたりがもうおかしい。むしろ羨ましい。  ぐるぅ、と声をあげて狼が倒れると、犬の遠吠えのような音が洞窟内に響き渡った。これが例の音とやらなのだろう。 「さて戻るぞ」 俺は皆に呼びかけて自分はそっと後ろに下がった。前でユウが扉に触って硬直していたが見ないふりをしておこう。 [[いっさみんみんの黒歴史]] [[第四話2]]

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