番外編第2話


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菜月は自らの目を疑った。
ラテールの神ことシンヤのホームページ「ラテールランド」に掲載されていた小説の第一話、そこにはこんな一節があった。
―――こいつは俺の彼女のかのん
ラクス似の女の子だ―――
彼女?
華音がシンヤの彼女になったことなど、噂を含めて一度もない。 そしてラクスとは一体誰なのか。
それにこのセリフも―――


「おめでとうラテールの神くん」
「ありがとう」
「凄いなぁ」
「え?」
「テストの成績もクラスで1番で、スポーツもできて」
「そんなことはないよ(にこっ)」


「…華音はそんな事言わない」
菜月の口から思わずそんな言葉が漏れた。
文才の無さもさることながら、“あの”シンヤ相手に華音がこんな事を言うなんて有り得ない。 むしろシンヤ本人以外の誰も、彼に対して称賛の言葉をかけることなどないだろう。
それに、この設定はなんだ? 危ない薬でも飲んだか、それとも脳を病に侵されたか。
小説の1話を見終わった時、彼女の心の中には怒りの感情が芽生えていた。


翌日。
菜月はいつもより周囲に目を光らせていた。 いつどこでシンヤが華音をいやらしい目で見ているかわからないからだ。
保健室登校とはいえ―――いや、むしろ保健室登校だからこそ、授業中などといった教師や他の生徒がいない時間帯に廊下から華音を狙っているかもしれないのだ。
あの男が華音にやましい事をする妄想をしていると考えるだけで虫酸が走る。 実に不愉快だ。
「どうしたのなっちゃん? そんな怖い顔して・・・」
まだ菜月は華音にサイトのことについて話をしていない。 あの内容は彼女にとって衝撃的過ぎるからだ。
「ううん、なんでもないよ」
「そういえば昨日、ハヤブチ君のブログが・・・とか言ってたけど、見つかったの?」
まるでこちらの考えを見透かしていたような質問を華音は投げかける。
「・・・見つからなかったよ。 ボクの探し方が悪かったのかなぁ? ・・・あ、先生こっち向いてるからほら、前向いて」
「あ、うん・・・」
菜月は平静を保ち、華音のことを考えてわざと知らないふりをした。
それに、現状ではシンヤをつるし上げるには証拠が足りない。 できれば妄想だけでなく彼女に被害が及ばない程度に行動に出てもらえればこちらとしても好都合であるのだが。
しかし、その一線を越えられてしまっては困る。 元々内気な華音がそのようなダメージを受けた場合、最悪再起不能になってしまう恐れがある。 顔立ちのあまり良くないシンヤが夜中にストーカー行為でもすれば、華音にとって恐怖の対象に他ならない。
そしてその華音の表情は、シンヤの網膜に歪んで映し出されるだろう。
恐れをなして逃げ出したり、隠れたりすれば「恥ずかしがっている」と思い込み、怯えて口ごもったりすればそれも「ツンデレ」などといった歪んだ解釈になる事はあのサイトやブログからも容易に想像できる。
如何にして「華音に被害を与えず」シンヤを行動に移させるか、そしてそれをどのようにして証明するか。
菜月の頭の中はその事だけに支配されていった。
放課後、シンヤにストーキングされぬように、菜月は華音と共に速やかに帰路に着いた。
彼女を家まで送り届けると、菜月は帰宅し、塾の支度を始める。
中学3年ともなると、勉強に本腰を入れなければ志望校に合格することはできない。 そういえばどこかの誰かはこの前のテストで7点などという悲惨な点をとっていたが、菜月の知るところではない。 ニートでもなんでも好きになればいい。
塾へ向かう最中、通り道にある公園で一人の少年が泣きじゃくっているのを見つけた。
見間違えるはずも無い、あれはシンヤだ。
砂場に頭を突っ込んだ惨めな姿を晒し、近くにはコーヒーの缶が転がっている。 おおかた誰かに殴られでもしたのだろう。 さっさと通り過ぎようとした矢先、彼女の頭の中で悪魔が囁いた。
(…どうしてこうも悪知恵が働くんだろうね、ボクは)
そう自嘲して菜月はその足を砂場へ向かわせ、シンヤの目の前で歩みを止めた。
「ハヤブチ君…砂場に頭から突っ込んでどうしたの?」
(インターネットでは大きな口を叩く割に、現実では赤ちゃんみたいに泣いて…こんな自分のことをみじめだと思ったことは無いのかな…? まあ、そんな頭も無いからあんな恥知らずな内容を書けるんだろうけど)
「…」
シンヤは砂に突っ伏した自らの体を起こす事こそすれど、何も語ろうとはしない。
(華音のことを『彼女』なんて大法螺吹いてる威勢のいいキミはどこに行ったんだろうね…)
「泣いてばっかりじゃ男が廃るよ? キミ、華音のことが好きなんでしょ?」
「!…」
(ビンゴ)
相変わらずシンヤは何も語らなかったものの、わずかな表情の変化から彼女は答えを読み取った。
「華音は内気だから、そっちからアタックしてこないと何にも進展はしないよ?」
(…そう、キミを吊るし上げて華音から遠ざけるというボクの計画もね)
言い終わると、菜月は公園から立ち去った。 不敵な笑みと共に。
(ハヤブチ君、残念だけどキミみたいな子に華音は渡してあげられないんだ…)



その夜。
華音の部屋の中にキーボードを叩く音が響く。
今日はシンヤにストーキングされなかったこともあり、彼女の機嫌は良好だった。
「『ハヤブチシンヤ』…と。 なっちゃんだけに全部やらせるわけにはいかないからね」
検索ボタンをクリックする華音。 ずらりと並んだ検索結果、そのほとんどにとある単語が含まれていた。
「『ラテールの神』…?」
まさか本名で彼のブログないしサイトにアクセスできるわけはないだろうと思っていたものの、彼女はとりあえず検索結果の一番上のリンクをクリックした。 するとそこには―――
「奴のブログ…奴のHP…これってもしかして…」
彼女は記載されていたアドレスにアクセスし、そしてその内容を見てしまった。
「こんな…こんなのって…!」



同時刻。
シンヤはインターネットで「電話番号から住所を見つける方法」を発見してしまった。 華音の電話番号は学級連絡網から調べる事ができたため、これでついに華音の住居を突き止める事ができた。
つくづくインターネットとは便利なものだとシンヤは実感する。
これは恋のキューピットが自分を応援しているのだと錯覚するほどだった。
もし今日、華音へのストーキングに成功したら、もしタクヤに殴られずあの場に突っ伏していなかったら、シンヤはこんな気持ちにはならなかっただろう。
しかし、彼は菜月の手の上で踊らされているにすぎなかったのだ。
その事も知らず、シンヤはそのサイトに記載された文章を黙々と読み続けた。





趣味で菜月をボクっ娘にした、反省はしない。
華音視点っていうより菜月視点になってしまったでござる。

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