番外編第9話

#9
「閉ざされた糸甲の世界 ~The end of Nightmare~(超適当早送り仕様でお送りします)」

某月某日、徳島県某所。
そこで背の低いショートヘアーの少女は、この世の終わりでも見たかのような絶望的な表情をしていた。
「引っ越し…? な、なんで…っ!?」
その少女は信じられないと言わんばかりの勢いで目の前にいるロングヘアーの少女に問いかける。
「中学も卒業するし…これを機にハヤブチ君から離れようって、お母さんとお父さんが決めたの」
「そ、そんな…別にあんな穀潰し、ボクが何度でも…」
必死に引き止めようとするショートヘアーの少女、雨宮菜月の声をさえぎるように、ロングヘアーの少女―――桜木華音は叫ぶ。
「それがダメなの!!」
「っ…。 華音…」
今までに聞いたことのない華音の声に、菜月は思わずひるんでしまった。
勢いのまま、彼女は言葉を紡ぎだす。
「そうやって、いつまでもなっちゃんに頼ってばかりじゃいられないの…なっちゃんが私を思ってくれて、そして守ってくれてるのはうれしい。 けど、このままじゃきっとなっちゃんが『壊れちゃう』から…」
「壊れちゃう…?」
菜月の質問に答える素振りを見せず、再び口を開く華音。
「だから、この連鎖を…悪夢の連鎖を終わらせなきゃいけない…そうするには、ハヤブチ君がいなくなるか、私がいなくなるか…それしか、手段がないの…」
「答えを急ぎすぎだよ! まだ他に手段は…」
未だに食い下がる菜月に、彼女は思わず口調を荒くする。
「じゃあどうすればいいの!? なっちゃんのその折檻で、彼を止められるの!? 彼から離れる以上にいい解決案なんて…あるはずがないじゃない!!
他に案があるっていうなら…なっちゃんがそれを示して見せてよ!!」
まるでこれまで蓄積した鬱憤が爆発したかのように華音の感情は収まるところを見せない。 もはや菜月にどうこうできるようなものではないのではないだろうか。
「これで…これでやっと終わるんだよ? 私の苦しみも…なっちゃんの戦いも…!」
そこで華音は急に勢いを失くし、俯いてしまう。
「…ごめん、なっちゃん。 …離れていても、大好きだから」
言葉だけを残すと、華音は振り返り走っていってしまった。


菜月はその場に呆然と立ち尽くしていた。
あんな華音は初めて見た。 いつも優しくて、他人に怒るなんてことは滅多にない。 その華音が―――
「…それだけ、苦しんでたってことだね」
しかし、そうだからといってただ指をくわえて見ているわけにはいかない。 菜月はすぐさま行動に出た。
「All of my actions, just for Kanon. <<ボクのすべての行いは、華音のためだけに。>>」
誰もが、予想しただろう。
華音が苦しむというのなら、彼女は全てにおいてその原因を排除する。
―――なぜなら、彼女は「雨宮菜月」。 桜木華音の嫁であり、そして婿なのだから。
全ての輪廻を、終結させる時が来たのだ。
「終わらせる…今度こそ総てを。そして在るべき正しい姿へと戻るんだ」
「ハヤブチシンヤ―――“お前”の存在だけは…許さない…!」
いつもの菜月なら“キミ”を使うであろう二人称。だが今の菜月は違う。
もはや慈悲や憎悪などという感情ではなく、ただ単に「ハヤブチシンヤを排除する」、その目的のためだけに、ただ機械的に彼女は動いているのだ。


その日の“深夜”。
ハヤブチ家の周囲には、住民に、そしてシンヤに感付かれぬように、菜月とその仲間たちが配備されていた。
そして時計の秒針が12を指したその時―――。
「オペレーション・ミルキーウェイ、状況開始」
消えてしまいそうなほど小さな、しかし確固たる意志を持った菜月の号令と共に、作戦は開始された。
まずは工作隊がハヤブチ家の電話線を切断、シンヤを混乱させ正常な判断力を奪わせる。
<こちらアンタレス1、電話線の切断に成功>
アンタレス1ことクリスから報告が入る。 すると菜月はすぐさま別の隊員へ通信を行った。
「カノープスよりアンタレス2へ、ターゲットの状況はどうか」


何かがおかしい。
先程までちゃんと繋がっていたはずなのに、なぜかインターネットにアクセスできない。シンヤは焦っていた。
まとめウィキに掲載されていた自らの大敵の画像をおかずに凌辱シーンを妄想せんとそのページにアクセスするはずが、表示されたのは中央に青い文字で「i」と書かれたコピー用紙のアイコンと「ページを表示できません」という、IE6を使っていたものなら必ず見たであろう404エラーの表示だ。
「ふっざけんな種アンチ!!!!!!11111!!!1111!!1111」
といってシンヤはまったく筋肉の付いていない骨と皮だけの腕でパソコンのディスプレイを殴りつける。 しかしディスプレイにダメージは見られない。
気分転換にとシンヤは部屋を出た。その部屋の窓に、“アンチ”がいることも知らずに。

<こちらアンタレス2、ターゲットは部屋から出た模様>
“アンタレス2”セラフィーナ・アークライトからの報告が入る。
“アンタレス”とは「アンチ・アレス」が語源となっている。ギリシャ語において、「火星に対抗するもの」という意味だ。
しかしながら、今ここにいる“アンタレス”は「シンヤに対抗するもの」――――――いうなれば「シンタレス」だろうか。
「カノープス了解。 ライジェル隊、状況の報告を」
<こちらライジェル1、スタンバイ。 いつでも行けます>
“ライジェル1”如月由布がいるのは、ハヤブチ家の目前だ。 そこにはヴェステンフルスとその愛車の姿もある。
シンヤを確保し次第、迅速にしかるべき施設に搬送する準備は整っているのだ。
「にしても、いいのかねぇ? シンヤとやらの親御さんには連絡取ったのかい?」
「ええ、まあ。 いずれ施設入りは決まっていたわけですし、承諾してもらいました」
シンヤの家族にしては、自らで彼を連れて行く手間が省けたというものだろう。 利害は一致したのだ。
「…そろそろかな。 …ライジェル1、エンゲージ」
そういうと、由布はハヤブチ家のインターホンを押した。

「んだよこんな時間に…種アンチめ…」
ぶつぶつとぼやきながら嫌々シンヤは玄関の扉をあける。 インターホンで確認をしないのは彼なりの流儀なのだろうか。
「すいませーん、宅配便でーす。 サインお願いしまーす」
現れる宅配便会社の男。 シンヤは何のためらいもなく彼に近づいたが―――それが命取りとなったのは言うまでもない。
ニヤリと微笑む男、そして手に持っていたダンボールの中からおもむろにスプレー缶を取り出すと、
「ゲームオーバー…ってやつ?」
と言った。 シンヤの意識はその言葉の真意を知る前に途絶えてしまった。

<こちらライジェル1、ミッションコンプリート。 これより搬送任務をライジェル2に移管する>
「カノープス了解。 …よくやってくれたね、ありがと。 あとでご褒美あげるよ、手と足どちらでしてほしい?」
<…遠慮しとくよ>
「なーんだ、つまんないの」
菜月は軽くおどけた表情でそう言ってみせる。 シンヤを捕獲したことで緊張も解けたのであろうか。 しかしながら、これで彼女の望みが叶うわけではなかった。



「…やっぱり、ダメなの…?」
「うん、あっちの高校に行くつもりで、もうお父さんが家も借りてるから…」
「…そう、なんだ…」
いつになく、そして非常に菜月の表情は暗い。 それだけ、彼女は華音を愛していたのだから。 そのためだけに、菜月は彼を社会的に葬ったのだから。
「……じゃあ、仕方ないね。 でも、最後に…」
その先の言葉を紡ぐ前に、菜月は自らの唇と華音の唇を重ねた。
「…また、どこかで」
「…うん」








4月、東京都内某所、とある高等学校。
真新しい制服に身を包んだ新入生たちが群がる教室、その中には、桜木華音の姿があった。
他人の保護欲を高ぶらせる、そんな儚げな印象を持つ彼女は、すぐにクラスの人物と親交を持つことができた。
しかしながら、彼女の脳裏には一人の少女の姿が未だに焼きついていた。 最後の別れのときの、あの表情―――悲しげな、まるでこの世の終わりを目撃したかのような―――。
だが、そんな華音の心残りを一瞬にして払拭する出来事が訪れる。
廊下に響く足音、それは段々と華音のいる教室へと近づいてくる。 元気のよい、まるで小学生のような―――。
そしてその足音の主は、彼女の居る教室へと入ってきたのである。
「かっのーんー!!!」
華音のもとへ盛大にルパンダイブ。 刹那、クラス中の視線がその場へと注がれる。 緑色のショートヘアーに、頭につけたカチューシャ、小学生かと見まがうような小さい身体。 そう、その人物の名は―――。
「なっちゃん…!?」
「ざーっつらいと!!」


なんと、菜月は華音を追いかけて本州、しかも東京都までやってきたのだ。 これには流石にシンヤも苦笑いかもしれない。
入学式を終えたその後、華音は彼女の親戚のいるという学校近くのマンションに案内された。
「深海姉に渚さーん、今帰ったよー!」
比較的最近に建設された建物のようで、壁面なども真新しく、各種設備も最新式のもののようだ。 さぞかし家賃も高いか、あるいは買ったのだろう。
「おかえりなさい」「おかえりー」
すると、廊下の向こう側から二人の影が現れ、それは近づくごとに段々とはっきりした輪郭を持ち、最終的には一人の少女と女性の姿になった。
「はじめまして、あなたが桜木華音さん?」
長い髪の毛をポニーテルにまとめた若い女性がまず華音に話しかける。
「え、ああ、はいっ!」
「はじめまして、私は菜月ちゃんの叔母にあたる、雨宮渚です。 よろしくね、華音ちゃん。 で、こちらが…」
と、渚が示す先には跳ねた前髪が特徴の菜月に少しばかり似た少女がいた。
「キミがなっちゃんの嫁の華音ちゃんかぁー。 あ、ボクは深海(ふかみ)ってんだ、よろしくー」
「は、はい…よろしく、お願いします…」
渚と名乗った菜月の叔母はともかく、この少女―――菜月の従姉妹にあたる―――深海はどこか、菜月に似たものを感じる。 一人称といい、口調といい。
「にしても、なっちゃんも大胆だねぇ。 愛する人のためにはるばる東京までやってくるとは…あとでご褒美をあげようじゃないか…主に性的な意味で」
「ベッド汚さないでよ、洗濯するのはお母さんなんだから…」
「ふぅむ…じゃあ押入れの中で擬似体育倉庫プレイかな? あ、その前に今日のなっちゃんのパンツの色を確かめないとね~♪」
「ちょ、深海姉なにす、んっ、やぁっ…」
前言撤回、どうやらこの二人は菜月を軽く凌駕する変態のようだ。
「むふふ~、どう? 公衆の面前でいじられて嬌声漏らす気分は~? あ、嬌声だけでなく―――」
―――そのあたりで華音は考えるのをやめた。







それから数ヶ月。
菜月と、そして深海はとある政令指定都市にいた。
そこは、埼玉県さいたま市―――大宮。
「見せてもらおうかな…かつて『バクシンヤー1号』と呼ばれた男の性能とやらを…」
「愚かなら愚かであるほどいじめ甲斐があるんだよねぇ~こういうキチガイって。 ああもうゾクゾクして濡れてきちゃったよボク…」
「まったく深海姉は…あとでボクがたっぷり相手してあげるから♪」
「んー? いいのかなボクばかり相手にして~? 華音ちゃん寂しさのあまり一人でしちゃうかもよ?」
「大丈夫だよー、華音は寂しいときには自ずとボクを押し倒しに来るから…にひひ」
公共の場所で卑猥な会話をしている二人の少女の姿は非常に奇妙なものであった。 しかしながら、この二人の少女達が、もう一人の「シンヤ」を追い詰めることになろうとは、誰にも予測できなかったであろう。
「そういや、ハヤブチなんちゃらって今どうしてんの?」
「聞くところによると、少しは更正したみたいだよ。 …まぁ、ボクの手にかかれば童貞一人更正するぐらい朝飯前だよー☆」
「とかいうなっちゃんは処女なんでしょ?」
「むっ…深海姉もでしょー」
「ばれたかっ」
彼女たちが周囲から奇妙な目で見られていたのは言うまでもない。






つづかない?




糸甲が更正したようなので超突貫工事で仕上げました。 何かおかしいところがあっても気にするな俺は気にしていない。
どうみても変態祭りです本当にありがとうございました。
モリベトン編はやるかもしれないしやらないかもしれません。
完全に時期を逃した更新ですが、どうか呼んでいただければ幸いです。
それではまたどこかで。 もしかしたら名無しとして癌スレや山スレに潜んでいるかもしれません。

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最終更新:2012年04月06日 23:35