まだ春は遠いというのに
      裸足であるくひと
冬であろうとなかろうと
  私鉄郊外の街をぼくは裸足で歩かない
なのに
 あのひとはいつも裸足で歩いている
   ロングスカートが風にはためいていて 
    あちこちに汚れがついている
     カギ裂きの穴も開いている

あのひとは鼻歌が好き
 何が楽しいのか 
  いつもニコニコ笑いながら
   鞄をたすきがけにして
片手には
 端が裂けた紙袋をぶら下げている
もう一年以上も同じ紙袋

あのひとは駅まで行くと
 しばらく佇んでから
  クルリと反転して今来た道を戻っていく
いつもそう
  ゆらゆらと揺れながら
 鼻歌を歌いながら

あのひとはとても美しいひと
 ハッとするほど艶やかで整った柔ら
かなラインに
  化粧はされていない
   ただ唇に真っ赤な紅だけが引かれている
 なのにあのひとは
  いつも裸足で街を行ったり来たり

暗くなると
 ようやく家に帰る
  あのひとは
 国道を横切った向こうのお屋敷に住んでいる

この街のひとは皆知っている
 あのひとの美しさは
  街一番だと
皆知っている