脳のある部位に損傷を負うとバランスを失う。
ジャイロが上手く働かずに、重力の向きを瞬時に捉えることが出来ずよろけてしまう。

ゆっくり動くときはまだしも、歩きながら横を向くとそのまま身体が向いた方向に振られてしまう。
寝ていてゴロリと向きを変えると天井がいつまでも回り、ジャイロが定位置に収まるまで床に両手を付いて踏ん張るしかなかったりする。

それを病だからと認めるにしても、その認め方には人によって差異があるらしい。
そのことで悩んだりするのは馬鹿げているだろうか?
いや、大方の人間は失われた能力によって生きる気力が萎えたりするだろう。
病気なのだから仕方ない、と。
こんなんで生きていくのは辛い、と。

だが、それを笑って済ます人もいる。
あれれれ、目が回ってる♪はははは・・・という風に。
おおおおッ!床はどこじゃいな♪

ウィンドウショッピングを楽しむために連れの腕をしっかり掴みながら、あっちの窓こっちの窓と忙しく目を動かす。
当然、実際はふらついているのだが、掴まる腕のお陰で倒れずに済んでいる。
実際は目が回っているのだから、何度も首を振り続けると乗り物酔いに似た感覚になるらしい。
「ふぅ…」と言って立ち止まり、ひとつ呼吸をしジャイロが平衡を取り戻すのを待つ。
脳内の揺れが収まると、再び連れの腕を引っ張るようにして歩き出す。

だが連れも我侭なので、勝手にどこかへ行こうとする。
すると「ステイッ!」と声がかかる。
連れは「わぁんぅぅ…」とひと鳴きして腕を貸す。

そうやって休日のショッピングモールでの散歩は暮れていく。

 

 

 

 

 

 

最終更新:2007年07月04日 21:12