新宿西口スバルビル前から、ボクと観光バスに乗ってみないか。どこか遠くへ行ってみたいだなんて、感傷的に過ぎるかい。あれから随分と時間が経ったんだね。いくつの秋を迎えただろうか。電話番号をお互いに知っているのに、一度も掛かってこないね。もちろん、ボクからも掛けたことないんだけどね。あっ、一度くらいは発信ボタンを押したかもしれない。すぐに切ったと思う。だって、折り返しの電話なんてなかったから、着信履歴に残る手前で切ったに違いないんだ。メールアドレスだって知っているのに、一度も来たことがない。あっ、一度・・いや二度かな、別のメルアドを使ってイタズラメールを送信したことがあるけど、あれがボクだと分かったかな。不着報告が来なかったから、ちゃんと届いてはいると思う。
 淋しくないかい。ボクは淋しくなんかないよ、たぶん。やることがたくさんあるからね。そう、仕事。いやでもやらなくちゃならないことだしするからね。君は花柄のワンピースを着て湖のほとりでダンスをしていたんだったね。覚えているよ、背の高い君はまるで北へ帰るのを忘れた羽ばたきを持て余している鶴のようだったね。
  雪よ降れ 雪よ降れ 溶かしてあげよう うう いい気持ち
 君が歌いながら舞い踊るのを見るのは幸せな気分だったよ。だから、ボクと観光バスに乗ってみないか。一緒に北の街や海、森や花畑を観て廻らないか。あの頃、喧嘩ばかりで苛立っていたふたりだけど、今はもうすっかり別々の暮らしに慣れてしまっているから、きっと何もかも許せるに違いないと思うんだ。どうだい、この手の中で君は暖かいのかな。いつまでも押入れには置いとけなかったからね。綺麗に洗ってこうしていつもボクの傍にいられるようになったんだよ。幸せかい、淋しくなんかないよね。ボクは淋しくないよ、たぶん。
 君の白い骨がカラカラと笑っているから・・・。