赤はない 黒
ダウンパーカー
 赤を欲しいと思ったが それは あまりに淋しい記憶を呼び起こすだろうから
 黒を持った
命が噴出すという
   真っ赤な命が…
 流れるような音楽に包まれながら
僕は鐘の音を聞こうとする
  讃えよう と思う
                 かつてのひと を
赤く染まる白い便器の中は命の海だと思った 
広大な水平線を眺める時のように 絶望が襲う 世界がない!
   君の優しさが壊れてしまったね
無惨な仕打ちに粉々になって 必死で掬い取ろうしたのに その両手の指の間から零れ続けて止まらない
 solitudine
黒い孤独
     真っ赤な命に背を向けて ひとり とどまる場所
肥沃な大地はあっと言う間に渇き 黄色い砂の原 風に舞う断念
ひっそりと聴こう 便器が奏でる濁流 無限な谷底へと落下する恐怖の音楽を
 ましろき花 捧げよう
 まだ何も無かったころの 愛の始まり
悲しそうな顔をしないで 僕はもうすぐどこかへ行くんだから
                                 そう遠くない明日は
やはり来る
 おとなしく受け入れることは出来るだろうか
二度と会えない幸福を感じて欲しい
  いつまでも心の怨念と共に生き続けることの出来る幸せを
父よ母よ
 僕は馬鹿でした 僕は馬鹿です 僕は馬鹿でしょう
  どこに転がる墓か 一度も訪ねずに終わる 父よ母よ
あなた方の死が今 勝るほどに生き始める
 その歳で生を終えた母 まだ十分な若さを保ったままの一葉の絵
 あの歳で静かに旅立った父 十分に生き切ったのでしょう書物となって
僕は馬鹿という人生を愛し 愛したということだけを愛し
笑顔のひとを失い
 柔らかな瞳の光を浴びることなく
  もうひとつの精神と同衾する
バンクーバーに停泊する北行きの観光船は僕を拒んだまま笑う
 意味なく 
                                ことばを失ったまま
solitudine
鮮やかに震えて 美しい闇に 息するひと 目は閉じたままですか
別離は “悲しい夢”
         閉じた心を写す封印された手紙
“かまわないでください”
赤い命が黒いダウンパーカーに変わった瞬間
目深にフードを被ったまま 僕は夜という音楽の中を歩く
鐘の音を聴こうとし どこからも消え去った鐘の音を聴こうとする 聞こえない真実 
ただ 讃えたいがために
             かつての命 を
あ あ あ あ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
プラタナスの毒舞い散る舗道 電線に絡み付いて 方向を見失いショートする 秋
逆さにぶら下がる腹筋
          横倒しのままの大胸筋
                    前のめりに倒れる広背筋
                               傾いて迷走する大臀筋
ベルトラン 心拍145 割れる膝蓋骨 まっぷたつ踵骨 崩れる大腿骨々頭

雪よ
雪よ降れ
太郎の家に 次郎の家に 花子の家に ましろき雪よ降れ
“やさしく発狂”するために
真冬の蝉