第九話 ロシアとお前とボルシチと

「晩飯、どこで食う?」
「そうですねー…うーん、いつもの定食屋さんでいいんじゃないですか?」
「ん、あのボルシチとか置いてある店?」
「ですです」
「ああ、いいぞ」

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まるでタイムスリップしたかのような、和の店舗が一つ
ビル街の中の異端児の様なそのたたずまい

定食屋「ろし亜」

知る人ぞ知る、"ボルシチの美味しい定食屋"なのだ

「いらっしゃい、綾ちゃんに、御陵君か。デートかい?」

金髪に、山の様な体格
彼こそが店長の"レオーン・イワノフ"である

「デ・・・デートなんかじゃないですよぉっ」

顔を真っ赤にして抗議する綾

「まぁなんだ、とにかく座りな」

適当な席に座る

「ほれ、サービスのボルシチだ」
「ああ、どうも」
「えへへ、ここのは美味しくて大好きですっ」

綾は基本、好き嫌いは無い
好きなものはカレーにハンバーグ、あとヌメヌメしたもの

まるで小学生だ

「注文は、いつものでいいのかい?」
「えーと、そうですね」
「私もそれでお願いします」

淡々とした態度で接客する店長

「綾ちゃんは大盛?」
「きょ…今日は普通でいいですよぉっ」
「へいへい」

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妙に俺よりも、ご飯が多い感じのする綾のお茶碗

…まぁそんなことより
エビチリにボルシチにスープカレー

本当に何でも出てくるな、この店は。

「御陵君、御陵君」
「ん?」
「エビチリ一口だけ・・・」
「またか。」

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帰り道、さっきまで元気だった綾の様子がおかしい

「どうした?」
「…思い出してしまいました」
「うん?」
「明日は…」
「明日は?」
「球技大会じゃないですか…」
「ああ」

説明しよう
普段は天真爛漫な癒し系少女、綾だが、年に数回異常にネガティブな時がある
そう、体育会系イベントだ

「また、椋と応援に行くし・・・な?」
「でも・・・綾は運動苦手ですし・・・」
「いや、な?その代わりお前は料理とか掃除が得意じゃないか、な?」

口をとがらせてぶつくさ言っている綾。
…なぜだろう、珍しすぎて笑いそうだ

「ぶー」

そうこう言っているうちに、綾の家の前に着く

「じゃぁ、また明日な」
「今晩中に、40度の熱を出すしかありませんね…っ」
「おいおい…」


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最終更新:2010年09月23日 20:51