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 二○○八年!! 思えば、わが人生最大の血みどろの激闘の年。風雲の年の六月七日を、わたしはこんな暗い雑木林‥‥どどめきとの戦いでむかえた‥‥のだが。  荻野正規(談)
 身体が嘘みたいに軽い。例の決闘騒ぎからもうすぐ一週間。中途半端に女性化した状態から回復しないまま久し振りに魔法少女に変身したわけだが、やたらめったら肉体がアグレッシヴに動く。
 きっとマグネットコーティング処理を施したガンダムに乗ったアムロがこんな気分だったに違いない。フフフ。思うぞんぶん、からだを動かして‥‥理屈ぬき、空手家としての生きがいで全身が充実してくる!! ありがとう雄一くん! おかあさん‥‥。
「荻ノ花真咲、必殺の技! 空手の秘技――三角とびっ!!」
 秘技 三角とび!!
 若き日の倍達が、しばしばもちいた空手のアクロバット技で、まっすぐ目標をねらわず、まったく見当ちがいの方角にある物体(この場合、雑木林のコナラ)めがけてとび、その反動を利用しての三角線で目標をおそう。
 敵の虚をつきやすいかわりに、よほどバネがないと高段者でも不可能な特殊技である。ぶっちゃけこれを軽々とこなす若島津はサッカーを辞めて空手に専念するべき。
 まあ、そんな感じで全身に目があり「見えるぞ……私にも敵が見える!」とひょいひょい逃げ回っていた百々目鬼とかいうビジュアル的にも相当気持ち悪い妖怪変化を追い詰めたわけです。
 俺のターン! 飛び蹴りのダメージでヨタヨタしているどこを殴っても全身に露出した柔らかい眼球がぐちゅ――(このノベルには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています)――この世の理はすなわち速さだと思いませんか?
「お前に足りないものはッ! それはッ! 情熱、思想、理想、思考、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりもーッ! 速さが足りない!!」
「小一時間も振り回されておらなんだら多少は様になったやもしれぬがのう」
 と、勝利の余韻に水を差すこけしの声も心なしか弾んでいるような気がした。やっぱダメだな、体動かさないと。こもるだけでは何ができるといじける俺に教えてくれたとか何とか。
 わざわざ関東まで遠征してきた暗い森の中、魔法少女の皮を被った24歳無職と風属性の妖精様がサタデーナイトにフィーバーしてハイタッチしているのが今この時。またも新調した手袋越しに、こけしの小さな手が僕の掌をぽすぽす叩く。
「とまれ危なげない戦じゃったな」
「ま、今の私は阿修羅すら凌駕する存在だってとこですか」
 軽口を叩く僕に「くどいようじゃが」と前置きし、こけしが自宅からずっと何度か繰り返してきた問いを再度かけた。
「……真に、身体の具合はもう良いのか?」
「絶好調っスよ」
 こけしの不安そうな表情に、嘘をついたわけではない。ホワイトドールのパイロットの言う事は本当だ。死の淵から復活したサイヤ人ばりに調子がいい。
 普段から女みたいな身体で過ごしているせいで魔法少女への変身にかかる負荷――成人男子が無理して思春期の少女たちと同じ土俵に立っているが故の――が減っているのかもしれないな、という嫌な推論が思い浮かんだりはしたが。


 ――事件は、リアルタイムで起こっている。(シーズンⅡより)
 僕の名前は荻野正規。NMK日本魔法少女協会の特別戦闘員。時は最強の魔法少女決定戦の当日、最有力候補オギノハナ二級魔法少女の身に危険が迫っていて――「24時間以内に、マサキ・オギノハナの私刑が決行される」
 男性初の零級魔法少女が誕生する歴史的瞬間を前に僕が再起不能(リタイア)されれば、妖精ネットは大きな混乱に陥るだろう。僕の急務は私刑計画の阻止。そして、もう六日。
 ――「あの時の雷使いに、このNMKの誰かが関わっている可能性がある」「何です?」「確かな情報を掴むまで、断定はしにくいな……どうにもな」
 千秋早苗は心当たりがあるという。三大魔法少女で、かつての東京生まれ八神あかり。三大魔法少女であかりに現在同行している道明寺ジュリア。雷使いの正体は早苗に接触した彼女らにも解き明かすことはできない。
 時を同じくして、居候のシオンが彼女たちに同行したきり戻ってこない。そして合流しようと東京に向かいかけた僕らも、恐るべき陰謀へと巻き込まれていく。
 果たして雷使いの正体と、彼女らの真の目的とは? そして魔法少女の絆は、この危機を乗り越えることができるのか? 僕の人生で最悪の24歳が始まろうとしている。
「――マサキ!」
 こけしの警告に反応し損ねた。ばちっ、と火花が散るような音がしたと思った瞬間、背後からの予期せぬ衝撃に吹き飛ばされ近くにあった大木に叩きつけられる。Dammit!(くそっ!)痛すぎてゲロ吐きそうになった。
 ただ痛いだけでなしに、全身が痺れ心拍数が異常に上がっている。呼吸しているのに酸素が身体に取り込まれていない感覚。息苦しい。眩暈がする。血の巡らない頭が典型的な感電の症状だと結論を出し、「奴が来た!」と鼓動を更に早めた。
 激痛と吐き気に耐えつつ後ろを振り返ると、案の定、先日の雷使いがスーパーサイヤ人よろしく放電しながらこちらを睨んでいる。例の小人がいないためか、いつぞやは終始無言だった女が口を開いた。
「まだ動けるの」
「インファイターなんでね。打たれ強さには定評があるのさ、これがな」
「うっざいなあ。あんた、マジ、ゴキブリ」
「そのセリフは人間の女に言われ慣れている……が」
 違和感。雷使いの女が、二十代半ばだってのは前に述べたよ。そいつの口調ってか喋り方ってのがだ、こう……新約Zにミネバ様が登場したとき中の人がリアル子供のたどたどしい演技になってたときの違和感。
 ――要するに、ヴィジュアルとヴォイスとが全然合っていない。
 cv田中敦子っぽい絵に描いたようなクールレディが、小学生くらいの女の子の声と口調とで喋っている感じだ。少佐が天子様の声で「ねっとはこうだいなのですか? わたしはこうあんきゅうかからでたことがないから」とか言ったら凄絶に変だろ?
「たおれろっ、うざいやつ!」
「君は――」
 本当は、子供なのか? 言い切る前に、雷使いの拳が飛んでくる。火花放電した右手が胸を直撃し、直接心臓に電流を浴びせられ気絶しそうになった――と言うか、危うく心臓が止まってくたばるところだった。
 ――こいつは危険すぎる。強大な力に反して子供の知能しか持たず、加減を知らない敵というのは。


 前回の24歳。僕の名前は荻野正規。NMKの(以下略)三大魔法少女らが追う魔女狩り事件の重要参考人“雷使い”の襲撃に、僕は絶体絶命の危機に陥った。――これは、午後11時から正午の出来事。
 意識が朦朧とする。足がふらつく。選ばれし者であるレイドックの王子と違って、社会的にパンピー以下の僕にはデイン系呪文への耐性がなかったらしい。
 顔を狙う拳を反射的にガードしかけた瞬間、こけしの「避けよ馬鹿者!」という悲鳴のような指示が脳天を揺さぶり咄嗟に身をよじった。確かに電気ショックなんぞを腕で防御したってどうにもならん。
 雷使いの拳が髪をかすめて背後の木を叩き、爆発音とともに焼け焦げた木片を辺りに飛び散らせる。それらがバランスを崩して仰向けに倒れたところに容赦なく降り注いだ。
 魔法的な物質で作られている魔法少女コスチュームはともかく、市販の赤いマフラー(化学繊維)が驚くほど容易に炎上する。あーちーちー、あーちー! 燃えてるんだっろうかあー!?
「ぐわあああああああああああああっ!」
 死ぬ? 死ぬのか? この歪んだ身体のままで……ナニもできぬまま……失い続けたまま……朽ち果てるのか……? ガンダム……ガン……ダムゥゥゥ!
 サーシェスにアッザムリーダー喰らわされた刹那よろしく悶絶し、のたうち回りつつ跳び退る。ちくしょう、幸か不幸か今の火責めプレイで意識が覚醒した。どうする? トリニティもとい魔法少女の誰だかの助けなんて期待できんぞ。
「このまま逃げるのじゃ! 早く!」
「逃げ――」
 意思表示をするでもなく相棒に復唱しただけの言葉が咳でかき消えた。そうなのか? 逃げるべきなのか? で、僕が家に引き籠ってGジェネやってた間に子供たちが進めてた捜査も振り出しに戻すのか?
 並飛行するこけしの青ざめた顔を見やり、燃えるマフラーを脱ぎ棄てつつ走る。ちらっと後ろを振り返ると、雷使いが炎の柱と化した大木を背にバスタードが一番盛り上がっていた頃の雷帝みたくブツブツと呪文らしい言葉を呟いていた。
 ――駄目だ。いい歳こいて子供に尻拭いをさせるのも大概みっともないし、あの女はそのつもりがなくても人を殺してしまう能力を持ってる。あいつは、俺が倒すんだ! 今日、ここで!
「コッコさん、やめだ! 逃げんのやめ! とっ捕まえる!」
「たわけが! 一級魔法少女と――」
 同等の力量を持った敵。複数の魔法少女を瞬殺し、僕が気絶している間に真鶴メイと互角に戦ったり妖精ネットを破壊したとかいうチートな化け物。
 そういう女に不意打ちくらって早々に死にかけてる奴が寝言を言うなって話なわけで、こけしもそれを指摘したかったらしい。血の気が引いた白い顔の上で、赤い唇がわなわなと震えている。
 けれども、一級魔法少女クラスというのは先制攻撃で結構ダメージ受けてるのを差し引いても全く勝算がない相手じゃあない。“事故”る奴は…“不運” (ハードラック )と“踊”(ダンス )っちまったんだよ…。
「――たわけが。やるからには、必勝じゃぞ」
「ウス! 生け捕りにして、ヒィヒィ言わせるっス!」


 バスタードは「強力な呪文であるほど詠唱に時間がかかる」というルールが機能していた頃が最も面白かったと思うの。戦闘における駆け引きなんかは特に。今は……まあ……エロ同人にかまけてないで早く本編を描いて下さい。
「距離を取って魔法で戦うのじゃ! 足を止めてはならぬぞ、白兵戦もするな!」
「射撃戦には自信ないんスけどね……ま、それしかないか」
 ――姉さん、魔法少女にあるまじきガチなソーサラー・バトルの開幕です。まともに殴り合ったら余裕で死ねそうなのと、お互いにステッキ一振りでシャランラというわけにはいかないことからこうなってしまいますた。 
 射撃が下手なルナマリアが射撃特化のガナーザクに乗ってるのを見てデスティニープランを提唱する議長は何とも思わなか(中略)戦闘に魔法を使ったことはあるが、これで直接ダメージを与えられたことないぞ。
 そもそも風でダメージを与えるという行為がピンときていなかったりする。
 例えば真空波で敵を切り刻むとかいう王道的な必殺技だが、ぶっちゃけ人体を損傷するほどの気圧差が旋風によって生じることは物理的にあり得ないわけで、その先入観がトンデモ魔法を使える気分にさせてくれない。
 結論としては強風で吹き飛ばして地面なり建造物に叩きつけるとか、自分の肉体を含む物体を吹き飛ばしてぶつけるくらいのもんだろうし、そんなんなら呪文を唱えてイメージを固めるより殴った方が早いんじゃないか。
「鬼丸が風神剣を捨てて魔王剣に走った気持ちが超わかる……」
「足りぬところを知恵で補うてきたのが貴様じゃろうが?」
「あえて言わせてもらおう、おだてのセイラさん行きますよであると!」
 こけしを頭に乗せ、立ち止まったまま呪文を詠唱する雷使いを中心に半径500m程度の円を描く形で雑木林の中を走りつつ、射撃に使えそうな素材を探す。
 先日の決闘騒ぎの際に雷使いが連れていた小人に操られ、倒れている八神あかりに放ちかけた魔法――パワフリャな強風を一点に集中して吹かせる――を自分でも使えるだろうかと脳内でシミュレーションしながら。
「――ケンゲンせよ、サンダーソード!」
 走り回ってる間に雷使いの呪文が完成し、その右手から巨大なビームサーベルとか桑原の霊剣とかをCG再現したような光の柱が伸びる。
 ソードとか言っちゃってるだけに剣なんだろうが、仮にただの電気バチバチな棒であったとしてもリーチが伸びたのは厄介極まりないわけで、これでインファイトに持ち込む気が完全に失せた。
 が、雷使いの方は「上等だ! 接近戦でカタをつけてやらあ!」という心積もりらしく、サンダーソードとやらを右手に猛スピードで駆け出し距離を詰めてくる。
「逃げるなっ、魔法少女! あたしと戦え! リベンジだ!」
「リベンジ……?」
 何のことだと考えかけ、こけしが「敵の妄言に惑わされるな」と叫び髪を引っ張ったために中断された。そりゃそうだ、この状況で文字通りの電波女とマトモに会話する必要はない。


「大地に薫る風! キュアウィンディのSplash☆Starをくらえ!」
 きれいな声してるだろ。ウソみたいだろ。攻撃呪文なんだぜ。それで…たいした内容もないのに、ただ、ちょっとイメージが固まっただけで…もう発動するんだぜ。な。ウソみたいだろ。
 走りながら適当に呪文らしきものを詠唱して魔法のイメージを脳内で構築し、背後から迫ってくる雷使いに拾った小石を魔法少女の人間離れした腕力で投げつけ魔法で加速させる。
 これは「究極の変化球は超速いストレート」という光の小次郎理論を実現せしめただろうと思える豪速球が、R・ドロシーの全力疾走ばりに高速で地を蹴る足を打ち据える……はずだった。
「なめるなっ!」
 という若干舌足らずな怒声とともに、雷使いが両手で握ったサンダーソードを振り抜き野球みたいに打ち返しさえしなければ。
 掬い上げるアッパースイングで打ち返された小石が目にも止まらぬ速度で手近な木を粉砕し、同時にその衝撃で爆散した石の破片が周辺の木にどすどす突き刺さる光景に口から魂出かけたでござるの巻。テユーカ! テユーカ!
「剣じゃないのかよ! 英語が不自由な人なのか!?」
「うるさい! いちいちウザい!」
 戦略崩壊。遠距離から狙撃すれば安全神話が完全に崩壊。迂闊な攻撃は余裕で倍返しされるのがわかった時点で「逃げ回りゃ、死にはしない」戦法から軌道修正せざるを得ない。どんな技か見切れんのかと王子に叱られるレベルだこれ。
 早くも前言撤回して退散したい衝動に駆られながら、ひたすら全力疾走を続けつつテンパりかけてる脳味噌をフル回転させる。どうする? どっちにしろハイリスクならインファイトに切り替えるか?
「もう通用しないんだ! ヒキョーな技は、もう二度とだ! 逃げるな、魔法少女っ!」
「攻防一体の魔法でこちらの手札を封じた気にでもなっておるのか、毒婦めが」
 たれ蔵の頭上でリードするチュウ兵衛親分よろしく僕のアニメ髪をぐいぐい引っ張りながら、こけしが「挑発に乗るな」と念を押す。頭が薄い人が多い家系なんで強く引っ張っちゃらめえええええっ!
 ――冷静に状況を整理すれば、こけしの主張通り遠距離戦は若干こちらに分がありそうではある。雷使いのピッチャー返しの精度は高くないようだし、ひとまずこっちの「狙い撃つぜ」は目標に向かってまっすぐ飛んでるし。
 結局のところ、雷使いがこちらの“弾丸”を打ち返し損ねてダメージを喰らうか、打ち返された“弾丸”がたまたま僕にクリーンヒットするかで戦況が変わるまで、牽制を兼ねてひたすら小刻みに狙撃していれば持久戦なら勝てそうだってことだ。確率論で。
 どう考えても正義のヒロインが立てるような戦術じゃないんだが、敵の電気ショック攻撃は一撃で心臓が止まる恐れがあるので仕方がない。大事なのは間合い、そして退かぬ心。
「――痛っ!」
 傍から見れば相当グダグダな命懸けの戦闘を繰り広げているうちに、何個目かの小石が打ち返され猛スピードで僕の腰をかすめ至近距離にある岩石を粉砕した。焼け焦げた破片が僅かな時間差でマシンガンみたく振りかかり、露出しているナマ足を焼く。
 わかってはいたが所詮は確率論での有利だよな、と辛抱たまらんインファイターの血が騒いだ。こけしが、きゅっと髪を引っ張る。


「ならぬぞマサキ! こらえるのじゃ!」
「……わかってますよ」
 わかトゥース! みなさん、本物の荻野ですよ。よくよく考えたら勢いで仕事辞めちゃうキモオタが地道にコツコツがんばれる方が不思議な気がしてきた。なんか最近のカイジ(賭博堕天録)を読んでて息切れがしてきたし重症かもしれない。
 お‥‥おちつけ正規! こ、この目もくらむ焦り。全身の血が逆流する焦りに。しかし、ながされるなっ。ビュフォード・タンネンと荒野の用心棒オマージュで対決したときのマーティ・マクフライであれ! 炎の気迫と水の冷静‥‥。
 すなわち‥‥マーティがタンネンの腰抜けという挑発に耐えてポンチョの下に鉄板をしこんだ兵法のように、敵中にバカ正直にとびこみ予測しがたい危険をおかす愚をさけるのだ!
「ちったあ利口に、立ち回れってことでしょ」
 やたら怖い声で怒鳴る必死な相棒をなだめようと、左手を頭部に伸ばしたところでオジサン不意に閃いた。うなるほど小石を拾って一斉射撃したら打ち返せなくね? 本島西海岸一帯は敵銃弾の為、森の色が見えない! 弾が七分に、森が三分! 想像しただけで、み・な・ぎ・るぅぅぅ!!
 ……それ実行すんのにどんだけ弾を拾えばいいんだよ。牽制もせずにもたもた減速し続けて無防備なケツをアッーいやいや待て待て発想は悪くないはずだ。何とはなしに頭をぺちぺち叩いた左手に、これで何代目なのか数えるのも虚しくなった風防ゴーグルのバンドが当たる。
 ん? これ、レンズを砕いて尖った破片を高速で撃ち出すと予想外に凶悪な武器になるんじゃないのか……? 打撃ではなく斬撃、銃弾ではなく榴弾として。尖った破片が重要な器官なり太い血管なりを切り裂こうもんなら絶命レベルだ。こいつは強力すぎる……!
 つーか駄目だろ。生け捕りにして情報を吐かせるのが目的だろ。テンパりながら後方の雷使いを見やると距離が縮まっていた。やばいな、単純な走りっこだと普通に追いつかれる。下手な攻撃はアウト、何もしないのもアウトとはどこまでアドリブ能力が試されているのだッ。
「輝く光が地の果て照らし奇跡を呼ぶSPELL!」
「まだ悪あがきをするつもりか!」
 雷使いが足を止め、例のサンダーソードを振りかぶる。ヤケクソで左手の手袋をぶん投げながら、直感的に思った。――この女は、瞬時に正しい状況判断ができないアホの子なんじゃないのか? 大して威力もなさそうなゴム手袋なんぞはスルーして距離を詰めた方が有利だろう。
 ゴム手袋から雷使いに伸びる直線を描いた右手を咄嗟に下ろし、雷使いが立つ地点――僕とその後を追う雷使いとが高速移動で踏み荒らしたその足下に照準を合わせた。踏ん張った跡がぎゃりっと刻まれている柔らかな腐葉土に。
「――高くはばたけ!」
 モンローのスカートを吹き上げるように、上向きの強風で雷使いの足元から腐葉土を吹き上げププッピドゥ! 赤い手袋が土の絨毯と化した風に打ち上げられ、予期せぬ嫌がらせにまごついたのかコートが煽られてバランスを崩したのか雷使いのフルスイングが一拍遅れて横一文字に土を薙ぎ払った。
 その一閃に魔法で発生させた風そのものを消滅させられたらしく、吹き上げられていた腐葉土が一斉に浮力を失い雷使いに降り注ぐ。怒声を上げながら振った頭に、ぺちっと赤い手袋が落下した。土にまみれた黒い顔が突き刺さるような視線をこちらに向ける。
「こいつ……こいつ……マジうざい! 何度も何度もあたしをバカにしてえっ!」
「貴様が愚かな故である! 毒婦が賢しらに吠えるな!」
 怒り心頭といった感じの雷使いを挑発しつつ、こけしがくいっと髪を引っ張った。心理的に揺さぶれということらしい。水島野球みたいな駆け引きになってるこの状況では有効な手段なんだろうが……やだなあ、俺達悪者になってない?


「だ、だからサンダーソードっていうのか。魔法を斬る……」
 なるほど…魔法そのものを切断するからソードか…まったく恐ろしいやつだ…こいつがバカでなければ負けていたぜ。  雷使い その③  フ~~~。あぶなかった、サンダーソードか………。かなりグレートで恐ろしい「ソード」だぜこいつのは~~~。
 実際、魔法そのものを断ち切る巨大な剣というのはかなり凶悪な技だ。よくよく観察すると刀身が木々に触れているにも関わらず何ら損傷させていないように、効果を及ぼす対象は任意で選べるらしい。狭いところでは使えないとか小回りが利かないとかいう長物のデメリットは全くないわけだ。
 何よりもやばいのが、魔法少女の肉体が魔法で構成されているって事実。斬られたら変身が解除されるのか速攻でずんばらりんされるのか実験してみる気にもならないが、最初の不意打ちでこれを喰らっていたらと思うとぞっとする。
「だからさ。リベンジというのは対策もしてきてるし、あたしは魔法少女の断罪役なんだよ、バルサバとかバラバとかっての!」
 平行世界関係の電波なニックネームがまた増えやがった! あれか? 僕の姉さんとかいう女は赤い彗星か何かで四つ目の名前がクワトロだったりするのか? ただの電波発言だと思って聞き流していたリベンジ云々の話も姉さん絡みじゃないのかって気がしてきたが――。
「魔法少女というシステムを、あたしが裁く! あんたを倒して! その間違いを、キューダンするんだ!」
「……借り物の言葉で唄っておるようじゃがの」
 あの小人あたりに何か吹き込まれているんだろうが、魔法少女を恨んでいるのは間違いないと思える。元々“魔女狩り”事件の真相を究明するのが僕らの目的なわけで、何か聞き出せそうな雰囲気にこけしが髪を軽く引っ張り無言で「足は止めるな」と注意しつつ雷使いに応じた。
「魔法少女を目の敵にする理由は何じゃ? 貴様に裁く資格が? 何を以て裁くというのか、申せ! それが貴様の言葉であるのならば!」
「……っ! 間違ってるから間違ってるんだ! 魔法少女が、あたしから、とったんだ! 大切なものを、魔法少女が!」
「魔法少女が何を奪ったと申す! それが動機か!? それが断罪に足る動機であるのか!?」
「るっさいよ、カトンボ!」
 挑発を兼ねたこけしの詰問に逆上し、後方で雷使いが右手のサンダーソードの制御を僅かに狂わせる。ぐにゃっと歪んだ刀身が火花を放ち、走りざまに周辺の木々を焼いていった。うへっ、心理戦では優位に立ってきたけど生命の危機って状況には変化が見られないぞ。
「穴が開いてるんだ……あたしの心に、大きな穴が開いてるのに! 大切な何か、あったはずなのに! それが何なのかもわからない……! 魔法少女が奪ったから!」
「こやつは――」
「コッコさん!」
 思わず立ち止まり、相棒を呼んでいた。頭の中で、断片的な記憶の数々がジグソーパズルのピースのように結合していく。
 雷使いの子供のような口調。“魔女狩り”の存在が囁かれるようになった発端の事件――ある魔法少女が、別の魔法少女の攻撃から何かを庇おうとして犠牲になった。雷使いの正体に心当たりがあると言いつつ口を濁した千秋早苗。再起不能のダメージを受けた魔法少女は、関連する記憶を抹消した上で蘇生される――。
「魔法少女……なのか……?」


 魔法少女……なのは……? リリカル(叙情詩的)に深刻な顔してうっかり立ち止まった間抜け野郎に、火花を放つ電光の刃が袈裟懸けに振り下ろされたのでした。そして訪れる結末の、別れの時。だけど、ひとつの終わりが新しい何かの始まり。次回、魔法少女シニカルまさき。最終回「おいしゃをよんで」リリカルマジカル、また逢えるよね。
「っ! なんで!?」
「……答える必要はない」
 キレテナ~イ。俺は生きている……生きているんだっ! ……危なかった。今のは本気でビビった。一か八か自前のゴム手袋をはめた右手でサンダーソードを受け止めたところ、魔法で作られていないものだからか斬られずに済んだんだが、もう心臓が刻むぜ波紋のビートでブッ壊すほどシュートな状態。マジで吐きそう。
 右手が斬れない事情は左手の手袋を投げつけられた時点でわかりそうなもんだが、雷使いの頭に血が上っているのと所詮は子供の判断力しかないらしいことが幸いした。前の職場で頑丈な作業用ゴム手袋をつける習慣がついてた御蔭様々である。どうだい最強だろ? オレの悪運は―――。
「くっくっ…てめェのてもとをよく見てみなッッ! これはゴムの手袋ッ!! ゴムは電気を通さねぇんだよッ!!」
「魔法少女がバカにしてえっ……!」
「とっとと降参しろ! 君の技は全て見切っている!」
 さぞこっちが優勢みたいにハッタリかましてみた――せやけど、それはただの夢や。ゴムが異臭を放ちながらブスブス焼ける、開いた小さな穴からソードがチクチク掌を突き刺す。電流には強かったみたいやけど――…電気の発する高熱には弱かったようやね……! チクチク痛い! チクチクよせよ!
 やばい、今にも俺のこの手が真っ赤に燃えて勝利を掴めと轟き叫びそうだ。熱いし痛いし耳の中でドリルが脳味噌へと突き進んでるカイジみたいに切羽詰まってる。いっそ一気に懐に飛び込んでやろうかとも思ったが、サンダーソードのリーチがやたら長くて雷使いまでの距離は2メートル強。こちらの短い手足が届く前にズンバラリン必至だ。
 かといって逃げると「聖闘士には一度みた拳は二度とは通用しないのだ」というハッタリが無に帰し雷使いを調子づかせる。小細工と言葉の鞭でセコセコ積み上げたここまでの心理的優位を棒に振りかねないが……まあ、しゃあないか。上手く立ち回るしかない。
 物凄い圧力を加えてくるサンダーソードから右手を離し、正面の雷使いへと全力で駆けて見せてから弧状に左方へと方向転換し間合いを外す。右掌の損傷が思ったより酷いらしく一気に血が噴き出してから、止まった。溶けた熱々のゴムが傷口に流れ込んで。いまのはいたかった…いたかったぞ―――――――――っ!!!!!
「鬼さんこちらだ、遊んでやるぞガキんちょ! キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン!」
「ふざけるなあっ!」
 怒声とともに、再びサンダーソードがぐにゃっと歪む。――元魔法少女だったらしいと思われる雷使いの弱点その1だ。実年齢が低いから、幼稚で不自然な挑発にころっと煽られる。だから必死に挑発する僕の顔が引きつっていたり声が震えていたりすることにも気づかず、終始翻弄されっぱなしな気分で魔法の制御を失いかけるんだ。
「その剣がオレに通じないのはわかっただろ? 無駄な努力をするより、もっと凄い技はないのかお嬢ちゃん」
「……うるさい! うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!」
 光の剣が更に歪み、大蛇が暴れるように波打った。弱点その2。魔法少女時代に魔法のステッキに頼りっぱなしだったせいで、呪文の詠唱だけで魔力を集中させることが不得手。先程サンダーソードを発動させたとき、こちらを追うでもなく仁王立ちで呪文を詠唱していたのは多分そのせいだ。
 僕だって八神あかりのように格闘しながら魔法を構成するなんて芸当ができるわけじゃないが、走行中にどうにか風を吹かすくらいはできる。それが雷使いにはできない――つまり、彼女はこの状況で他の魔法を唱えることができないし立ち止まって呪文を詠唱する時間は僕が与えない。付け入る隙は、いくらでもある。
「魔物知識判定に成功した大人の怖さを教えてやるよ、駄々っ子!」


 どういう経緯でこうなったのかを考えるのは後からでいい。一級魔法少女の連中と同等の能力を持ちながら、普通の魔法少女だった頃の戦い方から上手くシフトできていない子供だということさえわかれば十分すぎる。魔法少女の弱点は知り尽くしているし、存在しないカードを警戒する必要がなくなった分だけ余裕ができた。
 ルカさん……妖精――身分を問わず人身売買まがいの真似までして集められ、戦闘指揮の訓練を受けてきた才女――に指示された安全な位置からステッキ一振りでシャランラしてきたってのは……そいつが齢が幼いって事だからです。一人で戦ってないと言ってるんですよ………3つ目は言わせないでくださいよ。
「――片割れがおらぬでは真っ当な判断も何一つ下せぬのであろうが!」
 というのが弱点その3。真鶴メイと互角にやり合ったってときには、その懐にあの偉そうな小人がいて的確な指示を出していたんだろうが今は違う。こけしがありとあらゆるアプローチで挑発してその判断力を更に低下させてくれているわけで、顔を真っ赤にした○学生を心理戦で打ち負かすのは赤子の手をひねるようなものだ。
 走りながら呪文を詠唱しつつ、左手を向ける。雷使いが警戒して立ち止まり、サンダーソードを構える。「へへっ、嘘だよバ~カ!」とか言いつつ距離を稼ぎ石を拾う。激昂して追ってきたところに射撃、反応が遅れ命中。――以後、本気の攻撃かフェイントかで混乱し続け雷使いが色んな意味で消耗していく一方的な流れが延々と続く。
 こんなやり取りを………………そのまま自慢げに書き記して何になる。そして傍目には密・リターンズ!のバトル編より退屈でグダグダなはずだ。何度も読ませるって事は無駄なんだ……無駄だから嫌いなんだ。無駄無駄……。つまりこのおはなしは「人は一人では生きられない」ということをおしえてくれているのです。
「――コッコさん」
「ん」
「ぼちぼちケリをつけます」
 と、頭上のこけしにグロンチョな状態の右掌を見せてから小声で宣言した。既に右手の感覚がほとんどない。サンダーソードの「魔法で構成されたものをZAN☆SATSUする」という効果が傷口からじわじわ広がりはじめたらしく、雷使いに気取られないよう強気に振る舞ってきたものの限界が近づいていた。
 限界が近いのは雷使いも同様で、右手のサンダーソードが包丁程度に縮み光も弱々しくなっている。八神あかりが「互いの肉体を物質界から切り離す」「リーンの翼」「お前がもし銃だとすれば――俺は弾丸だ」と効果が持続する魔法を同時に3つ展開して一気にMP切れを起こしたように、この手の魔法は有限の魔力を大量に消費するらしい。
「星の彼方の闇の中!」
 雷使いが反射的に減速してから、僅かな逡巡の後に加速し直してこちらを追ってくる。MPが切れる前に決着をつけたいらしいが、こういう中途半端な反応は焦っていますとわざわざ教えてくれているようなもんだ。大方、肉を切らせて骨を断つつもりでいるんだろう。
「万古に続く戦いを、目指して飛んだ運命(さだめ)の矢!」
 こちらを目指して全力疾走する雷使いの正面に、その視界を塞ぐよう腐葉土を吹き上げた。案の定、避けない。左手を顔にかざし、吹き上がる土の中を突進してくる。多少のダメージを覚悟した身には視界を塞ぐだけの攻撃など何の障害にもならない――なーんて了見なんだろうが、甘い。狙い通り。
 雷使いが半ば自ら視覚を捨てた瞬間が、この戦いの天王山だった。わざと武器を落としたキートンの罠にはまる悪役みたいな女の胴に、すかさず飛び蹴りを叩きこむ。土が全身を打つ音に聴覚までも奪われていたらしくマトモに入った。雷使いが吹き飛び、後方の木に頭から叩きつけられて崩れ落ちる。それと同時にサンダーソードが完全に消失した。
「……やりすぎた、かな」
 腐葉土の上で微動だにせず倒れ伏している雷使いを注視しつつ、そろそろと歩み寄る。頭を木にぶつけていたのがちょっと予想外の事態で、まさか死んでないだろうなと内心ビクビクしまくっていた。本当に駄目だ俺……うっかり子供を殺したとか深刻な後遺症が残る傷を負わせたとかって展開になったら一生立ち直れない自信がある……。
 そんなこんなでじりじり距離を詰めていくと、雷使いの身体から蛍のような光が無数に立ち昇って渦を巻くように彼女を包みこみ、やがて消えた。雷使いがいたはずの場所には、せいぜい小学校中学年くらいの少女が横たわっている。……これが本体なんだろうなあ。駆け寄り呼吸を確認していると、唐突に背後から男の声が聞こえた。
「片道キップの熱狂ライブだ! ノレる奴だけついてきな!!」


 M・Oさんは現在福岡県に住む二級魔法少女である。彼は沢山の不思議な体験をしている。この男の話もそのひとつである。彼が無職の頃、背後に「目を覚ましやがれぇぇっ!!」という怪人が来ると鳥肌が立った。この謎の怪人は、パンタロンにチューリップ帽という70年代のファッションに身を包み現れる。「できるかな」で人気のあったノッポさんを若くしたような風貌で、深夜ふらりと、無断で間合いに入ってくる。
「心を開けよ、お前! 目が覚めるようなご機嫌なナンバーを歌ってやるぜ!」
 と、気が緩みまくっていたところにファッション70’sな兄ちゃんがわけのわからんセリフをほざきながらラジカセ(CDを入れるところもない文字通りの)片手に悠々と歩いてくる光景を想像してみてほしい。……どう反応していいかわからなくて一瞬フリーズしても仕方なくないかこれ。  
「呆けるな! 敵じゃ、あれは!」
「このタイミングで……!」
 背中に冷たいものが走る。HPをごっそり削られ利き腕もダメになっているこの状況で、力量を測れないというか色んな意味で関わり合いになりたくないタイプの敵が出た出た敵が出た(ヨイヨイ)。――今は雷使いを確保して逃げるしかないか、と背にした少女をチラ見すると、どういうわけだか僕と相対していたはずの男がそこに身を屈めている。
「まず――」
「鳴らすぜ!! 生命のゴングを!!」
 かちっとラジカセのボタンを押す音が聞こえた。震動する大気が背後から僕の全身を打ち、空中へと舞い上がらせる。同時に激しい頭痛と眩暈に襲われ、受け身を取り損ねてゴム毬のように腐葉土の上を転がった。脳がぁぁ~! 脳が痛えぇぇ~!! 混濁する意識の中で、低い女の声が妙に鮮明に響く。――世界が、私を拒むのか。
 呼ぶな。私を贋物と呼ぶな。私を贋物と呼ぶな。私は偽の預言者じゃない。失敗作じゃない。私は失敗作なんかじゃない。私が証だ。お前達の罪の証だ。お前達の罪から始まった道の果てが私だ。憎むぞ。私はお前達を憎む。憎む。憎む。憎む。憎む。許さない。絶対に許さない。断罪する。断罪する。断罪する。断罪する。断罪する。断罪する。断罪する。断罪する。
「なんっ……だ、この……どういう……」
「お前の心の壁を俺の歌でこじ開けてやるぜっ!!」
 男の右手が後ろから僕の首根っこを掴み、顔を地面にグリグリ押しつける。土の味。らめええっ、入ってくるううう! ……呪文が詠唱できない。できたところで魔力を集中させられるのかってくらい脳内がグチャグチャだ。精神に直接ダメージを与える系統の能力なのか、聞いてるだけで気が滅入る呪詛の言葉がリフレインしまくって思考を拡散させていく。
 ……首を掴まれている? 頭に乗っかってたこけしはどうなったんだ? しっかりしろ。やられっぱなしで終われるか。左手に力をこめる。立て。立て。立て。立て。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。
「これがロックって奴だ! それじゃあファイナルステージ、いくぜーっ!」
 後頭部に金属が押し当てられる感触。ラジオのチューニングでもしているかのように雑音と複数の声とが交互に入り混じり、敵意――もはや誰に向けているのかもわからなくなってきているその衝動に塗り潰された脳を更に揺さぶった。声。あの女の声。――ああ、そうか。この世界も私を拒むのか。マイコ。アリアロッタ。私は。私は。私は――。
「――馬鹿が、どこまで侵食されている」
 その突き放したような声は、脳内に直接響くそれではないと思った。誰かが、そこにいる? 無意識に顔を上げ、声の主を捜した。……捜した? 顔を上げて? 頭を押さえつけていた男は――と考えかけた瞬間、ごとっと目の前にその生首が落ちる。思わず「うおっ」と声を上げて仰け反ると、巨大な日本刀を手にした女が首のない死体を無造作に蹴り倒していた。
 ――ああ、道明寺ジュリアの先生か。あの化け物じみた霊能教師の。おかしいな……見覚えのあるフォルムが、なんか今になって別の意味でものっそ見覚えがある。どういうわけだか初対面の時は気づかなかったし考えもしなかった。彼女の顔が、誰に似ているのかなんて。

 24歳、無職。ついでに彼女いない歴24年のキモオタ。

 そんな自分が、酷く惨めに思えるほどの――。