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 But I'm an ordinary guy.And my pockets are empty.Just an ordinary guy.But I'm yours till I die.I..can't give you anything.But my love,but my love.
「ア~~イ、キャンギービュー、ギャ~ッツビー♪ ギャーツビ~、ギャーツビイ~♪」
 と、朝から御機嫌で鼻唄なぞ口ずさみつつ鏡の前で髪をセットしておりますが、僕の愛用している整髪料はunoのホールドキングだったりするという茶番劇です。本当にありがとうございました。
「やけに気合いが入っておるではないか」
「そりゃあもう。今日はSEXYダイナマイツな美女妖精様が遂に人間バージョンで降臨されますからね」
「ティオトリオか……」
 一級魔法少女・真鶴メイの相棒である妖精トトロの豊満な肉体を回想し、見比べてでもいるのか、こけしが「むう」と唸りつつノンブランド商品でおめかし済みのちっこい人間体を見回す。
「……マサキは、ああいう肉感的なおなごが好みなのか?」
「んー……。タイプかどうかはともかく、爆乳を目の前にして何も感じなかったら男じゃないっスね」
「ふうん? 強いて好みじゃと言うわけでもないのか」
「俺、ストライクゾーン広いっスもん。何せモテないんで。飢えた野獣っス」
「……ふうん」
 未だに充電中で正座したまま眠っているシオンの膝の上に座り、こけしがお気に入りの釣り鐘帽子を被っては脱ぎ、被っては脱ぐという動作を繰り返す。どうやら暇を持て余しているらしい。
「年の頃はどこからが恋愛の対象となり得るのじゃ?」
「へ?」
 どうやら本気で暇らしいなと、再び脱いだ帽子をぼんやりと見詰めているこけしの横顔を見下ろしつつ、ワックスでベタつく手を急いで洗った。食器用洗剤で。この油の落ち方はマジパねえっす。
「そうスね、強いて言うなら女子高生くらいからかなあ」
「……ふうん」
「準備オッケーっスよ、行きましょうか」
「うむ」


 荻野正規の自転車が、後部荷台に風妖精を乗せ走る。が、それが本筋ではない。次回、オーバーエイジ オギノハナマサキ。「神谷ヒカルの捜索」オーバーヒート!
「心地よい疲労を胸に、文学青年はベンチで読書体制に移行します。疲れました。マジで」
 姉さん、大濠公園は福岡の中心地である天神とヤフゥ〜ドームとのざっと中間くらいに位置する、周囲がほぼ2kmなのでジョギングやサイクリングにうってつけの名スポットです。
「文学青年か、物は言いようじゃのう」
 自販機で買ったコカコーラ(+150ml缶)を口に含んでから、こけしが缶をその上気した頬に当てる。終始ぐずついた天気だった大阪と違って、福岡はずっと晴れてた。今日も。それもあって、暑い。
「今のところ人形が三に獣が七じゃな。我々と同じ策を用いておる者までは感知できぬが」
 気配を隠し切れていない同朋――のこのこやって来た魔法少女達の相棒をこんな風に表現してから、こけしが「地球温暖化は深刻じゃぞ」などと言いながらベンチに腰掛け、僕をその隣に手招きする。
 彼女とネーネコニャが言うには「妖精本来の姿(魔力MAX)>人形の姿(魔力そこそこ)>動物の姿(魔力一桁)>人間の姿(魔力0)」なんてものらしく、動物の時点で同族の感知は難しいんだとか。
 ――つまり、僕らと同じく“妖精が人間の姿に化けたコンビ”は肉眼でそれらしいのを捜すしかないわけで。そういうわけで、風妖精様を乗せてグルグルグルグル園内をチャリンコで走り回っていたですよ。
 全身から汗を噴き出してハァハァ言いながらすれ違う女の子をウォッチングしている姿は変質者以外の何者でもない。最悪だ。
「チャラ男ロン毛にアレンジしてなければ(社会的に)即死だった」
「どう取り繕っても、小娘に舐めるような視線を送る怪しさは拭えぬがのう」
「相変わらず手厳しいなあ」
「それにな、やはり妙な臭いじゃぞ、この整髪料」
 隣に座る僕の外ハネさせた横髪を一房つまみ、その手についた油にこけしが顔をしかめる。これで無臭か、せめていい匂いだったら本当に素敵アイテムなんですけどね、ホールドキングN。
「しかし、楽観していたわけでもないスけど見つからないっスね。それらしい子は」
「最強の呼び声高い一級魔法少女・神谷ヒカル、か。これで釣りだったら笑うしかないのう」
 今のところ園内に潜んでいる魔法少女は最低十人。彼女達が神谷ヒカルとの私闘に及ぶことがあれば、それを阻止――できれば先んじてヒカルを発見し隔離しようというのが僕と真鶴メイの目的なんだが。
「で、真鶴メイとティオトリオは何と言うておるのじゃ」
「さっき電車に乗ったらしいスよ、もうしばらくは着かないっスね」


 学生時代に、三重野愛子と接点があったかというとそんなことはないのだけれど。今現在、社会的には世捨て人同然の僕が交流を持てる唯一の同世代人にあたる人物が彼女だってのは紛れもない事実だ。
 彼女がそれなりに美人で(←ここ重要)生涯初のメル友であるだけに、そのまま初カノになっちゃったりするんじゃないかって淡い期待を丸きり抱かなかったと言えば嘘になる。インディアン嘘つかない。
「……大場つぐみの正体がガモウひろしって本当かなあ」
「はあ? おや、本屋のおなごではないか」
 何度でも言うけど、大濠公園は結構利用者が多い地元住民の憩いの場なのね? で、マターリ進行のデートスポットでもあったりして。中央にきれいな池なんかあってさ、弁当でも食べながらダベったりしてさ。
 こんなところを見たくなかったぜ西‥‥。ぶざまだな(僕が)。みじめだな(僕が)‥‥。ええ、おい! ……ああ、できたんだ。新しい恋人。いつか遠回しにフリーだってメールに書いてたけど。へーえ。
 年の頃は僕らと同じくらいだろう。いかにもリア充でモテそうなオーラを全身から漂わせた若い男が、偶然にも僕の眼前に現れた三重野の隣で談笑していた。親しそうに肩を並べて歩いちゃってまあ。
「いい夢を……見させてもらったぜ……。ママ」
「……まあ、その、あれじゃ。人生は長いでな、次があるじゃろう」
 ベンチで文庫本を手に引きつった苦笑いを浮かべる僕の肩を叩き、こけしが慰めの言葉を口にした。ちらっと三重野がこちらを見たような気がしたが、まあ、気のせいだろう。
 余程はしゃいでいるのか早足で池へと向かう三重野とその後を追う恋人の背中を呆然と見送っていると、隣からぺきっという音がした。ぺきっ……。ぺきっ……。
 見やると、こけしがうつむいて両手に握るコーラの赤い缶を少しへこませている。尖った耳や悪目立ちする緑色の髪を隠すための大きな釣り鐘帽子が、その表情をも覆い隠していた。
「マサキ」
「はい?」
「もしも貴様がこの先も春を迎えられぬようなら……その、よい娘を紹介して進ぜるぞ」
「マジすかコッコさん。当てにしちゃいますよ、俺」
「ん……」
 ぺきっ。何度目かの金属音を鳴らしてから、こけしが缶を膝の上に置き、その手を小さな胸に当てる。すーはーと何度か深呼吸をし、風妖精様が妙に上ずった声を上げた。
「四年……。いや、三年じゃ。三年、マサキが待っていてくれるのなら……」
 こほん、と咳払い。再び深呼吸してから、僕を心の底から愛してくれる美人と添い遂げさせてやるというようなことを早口でまくし立て、こけしはべこべこになった缶を手に席を立つのだった。


 三年、か。ハハハ。この俺が齢二十八にもなってなお、文字通りの国民的スーパースターであるあの山田太郎氏(打撃のネ申)と同じく清い身体でい続けるとでも? ……あり得るなあ、本気で。未来予想図を描いてみたら、何か切なくなってきた。
 本日二本目の缶ジュースを買いに数十メートル離れた自販機へと向かうこけしの後ろ姿をぼんやり見ていると、舌足らずな声で「青春でつねー」と冷やかしながら見知らぬ少女が隣に座った。勝手に。こらこら、親は娘から目を離しちゃダメですよ。
「で? で!? 返事はどうなのでつ? リアリアの気持ちに、応えてあげる気はあるのでつか!?」
「……リアリア?」
 こけしのことらしい。風属性の妖精様コッコクェドゥースイナクシャータリアのことを、そういう風に呼ぶ人物を一人だけ知っていた。いやいや、まさか。マジかよ、何の冗談だこれは。少女の正体に薄々感づいてはいながらも、理性がそれを否定する。
 年齢的には十歳くらいか。麦藁帽子が包む長い黒髪の下に、人間にはあり得ない藍色の髪がちらちら垣間見える。僕の知っている、とあるSEXYな水妖精様と同じ色ですねー。お顔立ちもよく似ていらっしゃる。黒髪はヅラかよ、何の冗談だこれは。
「あー……。まあ、慰めようとしてくれた気持ちだけありがたいなあと」
「はう。度し難い朴念仁でつ! 信じられない鈍さなのでつ!」
「何がよ!? つーか、あんたまさか信じたくないけどやっぱそうなのか!? となりの――」
「そのネタ、しつこいのでつ!」
 少女――お色気ムンムンの美女だったはずのトトロことティオトリオが、ぷうっと顔を膨らせてぽかぽか僕の腕を叩いた。うん、いくら美少女だろうとこれはないな。どんな理屈か知らんが、人間大で迫ってくるはずだった爆乳は何処へ行った。見送られることもなく。
「……これは子供の時にだけあなたに訪れる不思議な出会いって奴ですかティオトリオさん」
「むかー。また言ったのでつ!」
「て言うか何で子供になってんですかあんたは。ガッカリだよ!」
「それはこっちも聞きたいのでつ」
 麦藁帽子と大和撫子仕様のカツラを脱いで、小トトロが細い首をブンブンと振った。その豊かな藍色の髪がふわふわと揺れ、こもっていた熱をむわっと拡散させる。その大きな濃いピンクの瞳が、じとっと僕を見上げ――僕は、犯した過ちを悟ったのだ。
「お兄はティオを知らないはずなのでつ」
「……本当ですね。何だろう。意外とショックだったのかな、三重野のこと」
「それに、リアリアがお兄をマサキと呼んでいたのでつ」
「いつから見てたんですかあんたは……」


「……おかしいとは感じていたんですよ、ずっと」
 クイクイと眼鏡を直しながら、一級魔法少女・真鶴メイであるところの少女がレンズ越しに「絶対零度、ケルヴィンブリザード!」な冷ややかな視線を向けてくる。ううっ、ゾクゾク! ここまで軽蔑されたのは初めてかもしれない。ジュリアの時と違って、騙してたもんなあ。
「テニプリよりCOOLが面白いって言い張るし」
「ちょっと待ってよ。誰が何と言おうとダイナミックなレンタルボディーガードの格好良さは不滅だよ」
「まんまジャンプ黄金時代懐古厨の発言じゃないですか、日頃の言動が」
「……こんな小学生女子はいませんかそうですか」
「まあ、先に勘違いして決めつけたのは私ですし? 言い出しにくかったのはわかりますけど」
 軽く溜め息をつき、メイが池のほとりでじゃれ合っているこけしと小トトロ(こけしが一方的にからかわれているようだが)を見やる。トトロが僕と同じく「見た目は子供、頭脳は大人」な特異体質だからこそ、同じ臭いを嗅ぎつけていたのかなという気はしないでもない。
 ちなみにこのコンビ、例の妖精ネットとやらでは超が軽く三つはつく有名人らしいのだがお互いに魔法少女とアダルト妖精の姿しか知られてないそうな。トトロはあの有様で、メイはメイで変身ビフォーアフターの落差が「劇的!」な子なんだよな、と隣に腰掛けている少女を見詰めた。
 お約束のデコメガネとお下げのコンボに加え、本日はダサいイモジャージ装備という無敵の必殺連携です。これが髪を下ろして眼鏡を外すだけで結構かわいくなるのにな、MOTTAINAI。……ま、良くも悪くも素の状態が絶好の変装になってるのはお互い様だが。
「つーか、何で彼女ちっこくなってんの? クラン・クラン大尉じゃあるまいし」
「本人にもわかんないそうですけど。て言うか、お兄さんこそ何で女の子に変身しちゃうんですか」
「そこを突っ込まれると弱いな」
 結局、僕らは色んな事を「魔法の世界のことだから」と深く考えないようになってしまっているんだなあと思う。そう言えば彼女と出会ったばかりの頃は目にするもの全てにツッコミを入れずにはいられなかったもんなあ、と何故か顔を真っ赤にしているこけしを見やった。
 ハハハ、まるで週刊少年ジャンプのノリだな。最終的にはどんなマンガもただのバトルマンガになっちゃう感じ。序盤と中盤以降でノリが違い過ぎてるんじゃないか、みたいな。……そうだ。ここまで、関わり合いになろうとは思ってなかったんだ、最初は。
「友情、努力、勝利……か」
「はい?」
「……いや、何でもないよ」
 モヤモヤしていた。いくら陳腐でレトロな概念だろうと、魔法少女――正義の味方は友情で結ばれ共に強大な悪に立ち向かうくらいの方がいい。今こうして、魔法少女同士の争いに神経を尖らせているよりは、ずっと。


「――って感じでしたね。……何ですかそのビミョーな表情」
「いや……その……『俺は神の存在を信じるぜ、カクリコンの仇は取らせてもらう』的な?」
 真鶴メイに聞いた、神谷ヒカルの人物像をここに挙げる。年齢は十代の前半といったところ。二昔前のお嬢様みたいなオカッパの長いストレートヘアー(市松人形のあれだ)に大きな瞳が特徴(銀色の髪に赤い瞳らしいが、まあ普段は黒いんだろう)の美少女で、男の子みたいな喋り方。
 言ってしまえば、二次元の世界にしか存在しないはずの“かわいい”ボクっ娘だということらしい。神谷ヒカルと同じ髪型かつ妖精には珍しい黒髪だったというその相棒は相棒で、侍みたいなござる口調で喋るかなり濃ゆい子なんだとか。これはもはや濃すぎ十郎太ですよ。
 (※本文に、現実世界に満ち溢れているボクっ娘ないしオレっ娘には不細工か痛い子かその両方を兼ね備えた可哀想な子しかいないなどと根拠のない誹謗中傷を為す意図は全く御座いません。ザプレはマイノリティーな方々を応援しています)
 ……やべェー、心当たりがチョーありまくりんぐ。年齢以外は全て当てはまるコンビに出くわしてるんだよな、昨夜。ご丁寧にこの大濠公園まで道案内もして。ハハハハハ、もしこれが「ズバリそうでしょう」って話だったらどんなマヌケなんだ僕は。
「一人称がボクの美少女なんていう天然記念物を、生きてこの目で拝める日が到来すること自体が奇跡だよね」
「……一度、鏡の前で喋ってみるのマジでオヌヌメですよ。変身してから」
「ああ……ロリっ娘に化けるようなオッサンにはろくな奴がいないよね……。聖魔導士ダンバとか」
 限りなく透明に近いブルー。もとい、限りなく黒に近いグレー。偶然に偶然が重なり過ぎているのが気に食わないが、そう考える方が自然なのかもしれない。八神あかりと八神ひなの。彼女達が、一級魔法少女・神谷ヒカルとその相棒なのだと。そして、きっと――。
「同じタイプの、魔法少女」
 背後から、聞き覚えのある声。どこか愉快そうな響きさえ持つ。君と響きあうRPG。つか冗談みたいにジャストタイミングで、どう考えても今まで盗み聞きしていたとしか思えないよトニー。できればこんな三流推理小説以下の伏線モドキなんぞを成立させてほしくなかったのに。
「かもしれないですね、あなたとボク……」
 ダンボール箱を装備しているな。ダンボール箱は敵の目を欺く最高の偽装と言える。潜入任務スニーキングミッションの必需品だ。ダンボール箱に命を救われたという工作員は古来より数知れない。ダンボール箱をいかに使いこなすかが任務の成否を決定するといっても過言ではないだろう。
 ただし、いかにダンボール箱といえど素材は紙だ。手荒い扱いをするとすぐ駄目になるぞ。とにかくダンボール箱は大事に使え。丁寧に扱えばダンボール箱もきっとお前に応えてくれる。真心をこめて使うんだ。必要なのはダンボール箱に対する愛情。粗略な扱いは許さんぞ。いいな。
 ……何て言うかその、振り返ると、いた。いたんだ、彼女が。僕とメイが腰掛けるベンチの後ろで、ホームレ――もとい、ええと、“道々の輩(ともがら)”の方々よろしくダンボール箱にくるまって、天然記念物様であらせられる……かなり見覚えのある“かわいいボクっ娘”が。
「荻野正規と八神あかり。そして、荻ノ花真咲と神谷ヒカルは」
「……まあ、肉体年齢が下がるという点ではね」
 半ば呆れたような心持ちで、身に纏っていたダンボール箱を畳みながら歩いてくる少女――八神あかりを凝視した。昨夜からずっとこうして潜んでいたらしく長い黒髪が汗でベタついてはいるものの、相変わらずの美少女さんですな。ま、隣のメイちゃんは明らかにドン引きしておりますが。
「お昼にしません? ……ボクたち、昨日から何も食べてなくって」


 Famima!!(はやらせたい挨拶)西洋人は海苔の香りが嫌いなので、あなたとコンビにファミリーマートのアメリカ一号店では海苔の代わりにシロップで米をコーティングしようなどと恐ろしい計画を立てていたらしいですね。お米の国の名がすたる嘆かわしいお話でございます。
「これは美味にござるな」
 真鶴メイが持参したおにぎりを齧り齧り、池のほとりに敷いたダンボール箱の上で正座している八神ひなの――本名:ファウルイスオーデイーティムアトゥーンイグノーブルヒィナが「真鶴殿はよき細君になられるであろう」などと前時代的なセリフを吐く。
「はっはっは、やはり日本人は白い米にござる」
「……つっこまぬぞ。わらわは断固としてつっこまぬからな」
「はいはい、ワロスワロスなのでつ」
 ウズラウズラ~。幼い僕に、オニギリには人類を救う力があるとヤティマが教えてくれた日もありました。日本一熱い少年漫画誌って謳い文句が懐かし過ぎて泣けてきます。仲良くおにぎりをつまむ“三大妖精”というフレーズに、女の子のためのガンガンを思い出して泣けてきます。
 ……ものっそ視線が集まってた。キモオタの僕と垢抜けないいなかっぺ委員長はさて置き、八神あかりと妖精三人組(成績順にひなの、こけし、トトロ)は悪目立ちしまくってたわけで。なんだこの赤松健のラブコメみたいな美少女Harlem Beat状態。……これって死亡フラグか?
「八神さん。……そろそろ、聞かせてもらいますけど」
 あっという間に空になった弁当箱を黒い鞄に詰め、苦虫を噛み潰したような表情でメイが切り出す。ちなみに作った本人が食べ損なったりしているわけだが、この子が不機嫌な理由はそういうことではない。……わかる気はするけど。なんか、肩すかしを受けてるって言うか。
「やだなあメイちゃん、あかりでいいってば」
「……八神さん」
 来た! 灯里さんのでっかいお世話来た! これで勝つる! ……声低っ。委員長は明らかに苛立っております。のんきに海苔が付着した指をぺろぺろ舐めるあかりを、メイがどんな顔して見ているのか怖くて確認できません。やべえ。女同士の戦い、マジでシャレならん。超居心地悪い。
「目的は何なんですか? ネットで煽るだけ煽って、ただ遊びに来たってこともないでしょ」
「ただ遊びに来たって答えたら怒る?」
「本気で殴ります」
「泣かすのでつ」
「あはは、怖いなあ」
 微塵にも怖がっているとは感じさせない様子でへらへら笑い、あかりが両の手を池に入れちゃぷちゃぷと波を立てる。ああ、指についた海苔が取れなかったのか。つくづくマイペースな子だなと思ってその姿を見ていると、見返すあかりと目が合った。その笑顔に、何か不敵な気配が混じる。
「荻ノ花真咲との決闘ですよ。ボクの、目的は」


 まあ、人生いろいろってところかな。心残り? 無いって言ったら、そんなの嘘になるって決まってる。私もまだまだ若いし、買い物だってしてみたいし。おいしいものだって、もっとたくさんいろんなもの食べたいじゃない?
 そりゃあね。そりゃあ、素敵な恋だって。そういうのできれば、本当、最高なんだけど。そう。本当、最高。だけどなんだかね。本当、あーあって感じ。本当……あーあ。
 気になる人? いた。過去形。今更伝えておけば良かったなんて、考えてる自分にちょっと自己嫌悪。もうどうしようもないのにね……。もし、また今度生まれてくることができたら、今度はもっと器用な人間に生まれてきたいな。もう、どうしようもないのにね。……何だか、自己嫌悪。
 もし、この戦いが終わっても生きて良いって言われたら、小さな鏡を一つ買って、微笑む練習をしてみよう。何度も何度も練習しよう。もう一度会うために。もし、誰も傷つけずに生きていいと言われたら、風にそよぐ髪を束ね、大きな一歩を踏みしめて、胸を張って会いに行こう。
 生きていたい……。ありがとうを言うために。生きていたい……。たくさんの気持ちを送るために。生きていたい……! 気づかなきゃよかったのに……こんな気持ち!
「無理無理無理無理無理! あり得ないから! 死ぬだろ!? それは死ぬだろ!!」
「ボク、魔法の武器とか持ってないんですよ」
「そんなん俺だって持ってないよ! 殺る気出し過ぎだろ!」
 姉さん、最近の少年犯罪は増加、凶悪化しつつあり、常軌を逸しています。八神主従が手にしていた、布製のカバーに包まれた長い棒がそのヴェールを脱いでしまいました。長さはおよそ1m、直径5cmほどの黒光りする鉄棒(スロウ効果)です。魔法少女の怪力で殴られたら確実に死ねます。
「試行錯誤を重ねた結果、撲殺が一番、神谷ヒカルを上手く使えるんだって結論に達しました」
「……実践に裏打ちされた自信が生々しいのでつ」
 へへっ、こいつはとんでもない撲殺天使だぜ……! しかしまあ、この子がいくら暴走しようと、最強の魔法少女だろうと、僕とメイの二人がかりなら取り押さえられるはずだ。最初からその予定だったものなとメイを見やると、ふいっと視線を逸らされる。……すごい嫌な予感がした。
「別にいいんじゃないですか? 当たらなければどうということはないって赤い人も言ってますし」
「この小娘は……! 他人事だと思うて無責任じゃぞ!」
 相手は最強の魔法少女よ。くれぐれも私がくるまで手を出さないで。いくら最強であろうと、私たち二人が力を合わせれば引けを取らないはずだから。(by真鶴メイ)……正体がオッサンだとばれる前はあんなに優しかったのに、この落差は何だい。「勝手に死ねば?」と言わんばかりだよ。
 重量感に満ち溢れた鉄棒を笑顔で軽々と振り回すSAMURAI GIRL(全米のティーンが燃えた)あかりを横目に、メイが軽く肩をすくめ「渡りに船って展開ではあるでしょう?」と言葉を重ねる。わからない話じゃない。確かに、例の“魔女狩り”をおびき出すには絶好の餌なんだろうが。
「お兄さんと八神さんのどちらにせよ、勝った方が他の魔法少女の手の届かない高みに到達しますよね」
 魔法少女の成績には、妖精たちの利権が絡んでいるそうだ。“魔女狩り”が魔法少女を襲う目的がそこにあるとすれば、そのツートップである僕らが雌雄を決する局面をスルーできるはずがない。決着の如何を問わず、消耗しきったところを襲ってくるはずなのだ。……この場にいるなら、だが。
「強い人と戦ってみたいボクと、不心得者を成敗したいメイちゃん」
「利害は一致しているものと存じますれば、悪い話ではございますまい」
「……それってどう転んでも俺は光郷ヘブンどこまでも行こうって感じだよね」


 “泳ぐ鳥”よ。お前は女に出会う。お前は女に狙われる。そして……死ぬ。(中略)お前は女を甘く見ておる。ワカン・タンカの恵みあれ。ひゅんひゅんひゅんと風を切る音。例の糞重たい鉄棒を両手に一本ずつ握り、さながら竹刀のように軽々と素振りをする女子高生がここにいます。
「あなたと仕合ってみたかったんです、ずっと前から」
「……君はどこの戦闘民族なんだい」
 総合武術家である父の後継者として、不甲斐ない三人の兄に代わり武の道を究める。そんなマンガみたいな進路希望をおにぎり食べながらマジ語りした、八神あかりという美少女(これもマンガっぽい)について一つわかったことがある。この子、魔法少女に変身しなくてもメチャメチャ強いのね。
 ジュリアが異例の三級デビューを果たし、僕が二級デビューでその記録を塗り替えたりしてすったもんだしていた頃、あかりと言えば「初陣にて、殿は魔法少女に変身することなく魔物を討ち取られたのでござる」だってさ。へーえ。……あれ、なんか話の次元が違くね? エッスカフローネの第一話??
「やべえ、ラディッツ兄さん級のインパクトだこれ」
「……ちと分が悪いやもしれぬな」
 俺が悟空であいつがピッコロで。右手の人差し指と中指を額に当てて魔貫光殺砲のポーズを取り「お兄さんの犠牲は無駄にしないよう努力しますよ?」などとほざいて下さった真鶴メイを横目に、こけしがぽんぽんと僕の背中を叩いた。見上げる顔に浮かんだその表情は、多分、初めて目にしたのだと思う。
「小娘どもに付き合う義務はないのじゃぞ?」
「そりゃそうっスけどね」
「……下手したら死ぬぞ」
「真顔で言わんといてください」
 僕があかりに勝てる見込みは絶望的。ボッコボコにされたところを“魔女狩り”や“行き過ぎた自治厨”――“魔女狩り”の最有力候補である荻ノ花真咲を叩く気満々らしい――に襲われれば、メイが取り押さえるとは宣言しているものの絶対の保証はないし、その間に上手く逃げ切れるかどうか。
 ……はあ。気が滅入る。荻ノ花マサキの憂鬱。ただの人間には興味ありません。この中に、魔法少女、魔法少女、魔法少女、魔法少女がいたら、あたしのところに来なさい。以上。来ないと死刑だから! MASAKI.O>またハローワークに_
「マジでくたばる5秒前(杉田のアドリブ)じゃからな」
「無理はせんスよ。俺にはM(Masohism。Meganeではない)属性ないし」
「……どうだかのう」
 貴様はええかっこしいじゃからなと呟き、こけしが釣り鐘帽子を脱いだ。顕わになった緑色の髪が、振られた首に追随してふわっと揺れ、周囲の視線を集める。数多い視線の主の中には、魔法少女とその相棒たる妖精もいるんだろう。それが僕らに敵意を持つ者なのか、ただの野次馬なのかはさて置いて。
 宣戦布告。八神あかりとファウルイスオーデイーティムアトゥーンイグノーブルヒィナ、そして僕らに悪意を抱く全ての魔法少女たちへの。いつもの強気な表情を取り戻し、こけしが八神主従――最強の魔法少女・神谷ヒカルとその相棒を見詰めたまま、拳で僕の胸をぽすっと叩いた。
「では戦るか」


「う~~、トイレトイレ」
 今、トイレを求めて全力疾走している僕はハローワークに通うごく一般的な男の子。強いて違うところをあげるとすれば少女に変身するってとこかナ……。名前は荻野正規。そんなわけで北門脇にある公園のトイレにやって来たのだ。ふと見ると便器に一人の若い男が向かっていた。ウホッ! いい男…。
 そう思っていると突然その男は僕の見ている目の前でズボンのチャックをおろしはじめたのだ…! 「やらないか」……ってわけでもなく、便所で済ますべき用を足しているだけのことなんだが。おいおい人がいるのかよと思いながら、大便用の個室に入って鍵を閉めた。胸の前で、両腕を交差させる。
「男は度胸のクロスチェンジ!」
 魔法という頭の悪い未知のパウアーを用いるには音声を媒介にして摩訶不思議な領域に干渉する必要があるとか何とか。ま、どんなシチュエーションだろうと気合が入った掛け声なしには変身できんってこってすわ。壁一枚隔てた隣に先客がいやがろうと大声で叫ぶしかなかったんだよドちくしょうが!
 ともあれ人の目に触れないところで変身するという目的は達した。ネクストミッションは速攻で男子便所を後にして最強の魔法少女との決闘に臨むことだ。諸君の健闘を祈る。……はあ。小さくなった手でドアノブを握り、一気に扉を開けた。例のイケメンが手洗い場の前で「うわっ」と悲鳴を上げる。
「しーましェーン!!」
 ――と、こんなわけで(中略)すまんな兄ちゃん、面喰っただろうが不可抗力だ。心の中で申し訳程度に手を合わせながら「こどもだからわかりません」という顔でその脇を通り過ぎ――さっき三重野とデートしてた奴だと気づいてもやっとしたのだが、それは余談――男子便所の外に出た。
 鞄から新調した風防ゴーグルといつもの赤いマフラーと手袋とを取り出し、装着しながら待つ。隣の女子便所で本来の姿に戻っただろうこけしとひなの、そして一級魔法少女・神谷ヒカルを。はじめに、小妖精に戻ったこけしが飛んできた。その後ろに続く、あかりと思われる銀髪の少女が吹き出す。
「あはははは! 本当に女の子になってる! 超ウケる!」
「出オチになっておるのはお互い様じゃこの小娘!」
 おどろいた…魔法少女になったオレとそっくりだ………。具体的には外見年齢とかが。見た感じ、僕と同じく10歳前後ってところだろう。17歳という実年齢からここまで下がれば、ほとんど別人だ。……これはさすがにストライクゾーン外だな。オタクが皆ロリコンだと思ったら大間違いだ・ゼ。
「あかりちゃん。ぶん殴られる前に一つ聞いておきたいんだけど」
「はい?」
「君、妖精ネットとかいうのに顔出してないんだろ?」
「……ああ。その割には他の魔法少女について詳し過ぎるってことですか」
「時にはドン引きするほどにのう」
 ランチタイム(僕とメイは何も食わずじまいだったが)に話を聞いた限り、この子は真鶴メイが福岡県民であることや、僕の活動地域が西日本中心だということを知っていた。その上で、福岡の有名なスポットなら少なくとも真鶴メイには会えるだろうと、この大濠公園を指定したと言うのである。
「魔法少女の誰かが作ったんでしょうね。外部にまとめサイトがあるんですよ。荻ノ花真咲情報の」
「……何その2chのイタいコテハンみたいな扱い」