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 何て言うか、その……ゴニョゴニョするタイミングがちょっと違うだけで、結びつく精子と卵子の組み合わせが変わり、生まれてくる子供も違ってくるのは自然な話だろうと思う。あくまでも下ネタとかじゃなくて生物学的に。あくまでも。あくまをころしてもへいきなの?
 ……まあ、あれだ。僕は生まれてこれなかった姉さんの存在を知っていたから、彼女が生まれていたら僕と弟は生まれていないんだよな……というのが人生観に少なからず影響を与えていた部分がある。だから、過去に「○○してれば」とかいう妄想だけはしちゃダメだって思ってた。
 そしたら、その姉さんが生まれていた平行世界では、彼女は世紀末救世主になってると言うんだからもう笑うしかないじゃないか!
「……エクスカリバーからアロンダイトって名前的にはランクダウンしてますよね、ハハハ」
 おーし! 今日の魔物の柔らかいところ、突き刺してやるか! へい、シオンちゃん、お願いします! よーし! じゃあシオンちゃんはどんな武器が出せるんだ!? お役に立とうとして、巨大な刀をサモニングしちゃったロボット少女がいたんですよぉ~。なぁ~にぃ!?
「『殺っちまったなあ!』って感触がこの手にダイレクトに伝わるよ! 刃物、マジぱねぇ!!」
「はイ? 何か問題でモ?」
「オレは骨とか内臓とかがグシャッって言う感触にもビビって無駄に頑丈なブーツに頼っちゃうチキンなんです! 何この大人の階段!? すべての意味をみつけて、君は戦士に育つよってことですか!?」
 姉さん、ショッキングです。俺があんたの存在を肩代わりしているとか言うトンデモ話より、シオンが超科学(仮)の力で召喚してくれた刀をデッカイ亀の頭に突き刺した生々しい感触の方が。今の俺は、初めて人を斬ったルーク・フォン・ファブレ(レプリカ)と一緒なんでしょうね。
「亀の頭の“の”の字を省略したら何となく下品だろ? ティッシュ一枚がゴキブリを握り潰せるか否かの明暗を分けることだってあるだろ?」
「ティッシュ一枚は普通にハードルが高いじゃろう。なお、下ネタの方は総スルーじゃ」
「紫苑は人間でハありマせん、ただの兵器デす。……心情的な話は正シク汲み取レまセん」
 しゅん、とかわいい顔を曇らせ肩を落とすシオンに、僕は「言いがかりをつけてしまったな」と反省しつつ、「何だこの萌えロボッツはあああああ!」と若干いけないというかもう人間失格いやしかし合体して「気持ちいい……!(武器を使った感想)うわ何をするやめろ。
 取り敢えず謝ると「ヤっパり御主人サマは優シいのデす!」と抱きつかれて「うひょおおおお!?」と心の声で叫んで――金属のごつっという硬い感触にあっさり我に返ってブルーな気分になったりしてると、不意に耳元でシオンが叫んだ。大きな大きな声で。
「天使の反応なのデす! 危険ナのでス!」
「うぐわっ!?  こ、鼓膜が……」
「わらわも感じた! 敵じゃ、近いぞ! ……貴様達も近づき過ぎじゃ痴れ者どもが!」
 こけしにぺしっと頭をはたかれ、「ラブシーンはお預けだ!」とか言いながらシオンから離れて……離れて……二人がその場所を特定するのを待ってました、耳がキーンてなってて何もわかりませんよチクショウが。
 そして、見た。シオンが、こけしが、指さす先を。そこには――。
「綾波……?」


 青い風が今、胸のドアを叩いた。女子中学生といったところだろう。風に揺れるウルフカットの青い髪、虚ろにこちらを見据える赤い瞳。胸は平坦だがそれもシンちゃん育成計画設定だと思えば(中略)どうでもいいけど一人目って何であんなに口も性格も悪かったんだろうか。
「レイ……!?」
 うわあああああああああああああああああああああああああやなみああああああああああああああああああああああああああああやなみああああああああああああああああああむろふりむかないでああああああああああああやなみあああああああああああああああああああ!!!!
 僕達の世代にとって綾波レイはもはや伝説だと思いますし、リナ・インバースからの林原コンボで「14歳は特別」という価値観を植えつけた作品だとは思います。でも僕はエヴァをリアルタイムで見てませんしガンダムXのスッキリした物語とティファの方がよっぽど好きでした。まる。
 とにかくシュールな光景だった。ゴシックロリータに身を固めたまんま綾波レイな美少女が、能面のような無表情のまま、その手に巨大な鎌を抱えてこちらに化け物じみた速度で駆けてくるのは。
「逸脱するのは二次元だけにしとけ!?」
「……」
 文字通りの“あっと言う間”に間合いを詰められ、無言で横薙ぎの鋭い斬撃を浴びせられる。……その軌跡がスローモーションで見えたと思った瞬間、僕は無意識に後ろに飛び退っていた。足に着地の衝撃が伝わると同時にチキンハートが激しく自己主張を始める。この鎌、本物じゃねーか!
「御主人サマ!」
「っ!?」
 背後に、いた。シオンが天使と呼ぶもの、こけしが敵と呼ぶもの――そして僕のような“彼女いない歴は生まれてずっとですorz”なモテない男子の大敵である金髪碧眼の美少年さんが。そいつが笑った、と知覚した刹那、衝撃。背中に何かを叩きつけられ、バランスを崩す。
「ふうん……? 見た目よりタフだな、偽者君」
 人を見下した、馬鹿にした響き。漏れる笑み。光る白い歯。こいつは敵だ。間違いなく敵だ。この世の男女の比率は一対一が大原則、こいつみたいな性格の悪いイケメンが女を虜にする数だけイケてない男があぶれるという事実が僕をこうも燃えあがらせる。燃えあがれ俺の小宇宙(コスモ)!!
「……の野郎が!」
「僕の愛しいマティアの代役だ、そうでなくてはな?」
 こちらの拳を腕組みしたまま華麗なフットワークでかわし、イケメン(いけ好かない野郎の略)が僕の後ろに目配せをした。ぞくっと背中に冷たいものが走り反射的に風の力で跳んだその下を、綾波の鎌が物凄い速さで通り過ぎる。そしてぶわっと冷や汗が吹き出した。ぶわーって。
「ははは、上手いぞ偽者君。その勘の良さは彼女に似ている」
「……ひぐらしのなく頃はもっと先だろ猟奇な青少年」
 滞空したまま間合いを外し、少年の“目に見えない何らかの攻撃”で吹き飛ばされたシオンの元へと急行する。そのずしりと重い身体を抱き止め、運動エネルギーに流されつつこけしを回収し、空中で右腕を伸ばした。風による射撃。その射線上に、少女――見慣れぬ妖精が割って入る。
「撃ってはダメですの!」


 視線で着弾点をイメージし、伸ばした腕でそれを補正して一点に収束させたマジカル☆パウアーを爆発させる。そういうやり方で魔法を使っている以上、腕から放射するものではないにせよ、視界に入られ集中を阻害されれば射撃は断念せざるを得なかった。不本意です不本意です不本意です!
「だあっ!」
 シオンの重さに引きずられる身体に減速をかけ、態勢を立て直していると、例の邪魔をしてくれた妖精さんが鮮やかな赤い髪と揚羽蝶のような翅を振り振り飛んできた。年齢は人間でいえば女子高生くらいか。清楚なお嬢様系の美少女で、こんな妖精さんとの同棲生活なら(省略)。
「……! 感謝いたしますの、マサキちゃん!」
「フン、先走るな我が朋輩よ。今のは間を外されただけで、そちを信用しての制止ではない」
「伝心のオーバースキル!?」
 そりゃ確かにあの状況で咄嗟に状況判断したわけじゃないけど、毎度毎度美人さんの好感度を下げる発言しちゃいやん。彼女は相棒として僕の事をよく理解してくれているけど、女性に少しでも良く思われただけで舞い上がるモテない男子の心理はわかってくれないな。
「『お子様とはいえ女性を悲しませるなんてことはできないんだよな』と渋く決める予定が……」
「……貴様は今、自分がどういう姿をしているのか自覚せい」
 シオンの肩の上からシベリアに吹くブリザード並の冷たい視線をこちらに向け、こけしが僕の左手に乗った赤毛のフロイラインに向き直り「あれがそちの相棒というわけか?」と迫り来る綾波サイズ(●次回から始まる新連載「キモオタ綾波サイズ」に乞うご期待!!)を指さした。
「そうですの。……私はネーネコニャ、彼女は一級魔法少女ユーリィですわん」
「“魔女狩り”の正体見たりというところか? 真鶴メイは白じゃろうと言うておったがな」
 光の翼をはためかせて上昇するシオンの肩で、こけしがネーネコニャを冷ややかに見下ろす。凍てつく空気を切り裂いて、彼女に遅れず飛んで見せるとネーネコニャが上目遣いに僕の顔を覗き込んだ。その必死な瞳が僕に訴える。
「ジュリアんは……ユーリィは、違うんですの! あの男の子に操られて……!」
「……ああ」
 そういう話か、って感じだ。僕だって一連の流れで、あのイケメンがシオンの言う天使――あちらの人類の大敵で、彼女と同じ場所から来た異邦人だってことは把握してる。おそらくマティアというのが、例の“荻野正規とは共存し得ない姉さん”荻野真咲なのだ。
「お願いですの、信じて! 不器用で、誤解されやすいけど、本当は優しい子なんですのよ!」
「信じますよ。……ねえ?」
 左手の上で泣き出しそうなネーネコニャをシオンに託しながら、こけしの憮然とした顔に同意を求めた。まだシオンのいた平行世界について理解しきれてはいない。だが、あの天使坊やがこうして子供の、それも本当は心優しい子供の手を汚させるような真似をする奴なら――。
「その正体がどうとかいう以前に……あのガキはオレを怒らせた!」


 幼少期の僕は肥満児で、変に大人びていたからよくいじめられていた。二つ年下の弟が同じ小学校に入ることが決まった時、弟の前では強いお兄ちゃんでいたくて、いじめっ子を殴った。泣いても殴るのをやめなかった。以後いじめられることはなくなったが、同級生との溝は深まった。
 別にそれでいい。人間は一人で生きていけるし、世の中には自分を傷つけようとする他人とそうでない他人がいるだけのことだって。……そんな風に一匹狼を気取って生きてきて、不意に後悔する瞬間が訪れた。そして、人を傷つけることしかしてこなかった自分に絶望した。
「だからさ、思い出したくもない思い出なんか、作らないならそれに越したこたないんだ」
「……」
「オレは君にとってのヤマダさんやニコルのポジションに行く気はないからね」
 無言で振り下ろされる鎌を避け、一気に少女との間合いを詰めた。初めてその顔を間近で拝むことになり、ようやく正体に気づく。数週間前に偶然出会い、昼間にも偶然の再会を果たした金髪のハーフっぽい女の子。怯えている友達を庇っていた、彼女だ。確かに、いい子だったからこそ。
「殺されてはやれんよ!」
 無機質な視線を受けながら黒いゴスロリに包まれた胴体をブーツの裏で押すように蹴り上げ、空中で支えを失ったその小さな身体を風で、見えなくなるまで吹き飛ばした。……彼女が同じ魔法少女である以上、大した怪我はしてないと思うが。
「ふうん……? これで一対一になったというわけかい、偽者君」
 くすくすと笑い、天使(仮)が芝居がかった仕草で右手をこちらに向けた。またも目に見えない“何か”が僕の胴を打ち据える。鈍い痛みに、上体がふらついた。態勢を立て直すことに気を取られた瞬間、天使(仮)がいつの間にか眼前に立っている。
「女の子の姿をしてはいるが、AH13は僕達を狩るための兵器だよ? 道具なんだぜ、使えよ」
「……ロボット少女との恋物語にときめくお年頃なんだ。マリアはおキヌちゃんの次に好きさ」
「フェミニストを気取るのかい? マティアなら痺れるほどクールに攻めてくるのだけどね、“青年”」
 実は、単に彼女と肩を並べて戦ったところで呼吸が合わず互いに邪魔し合うだろうなと思っただけの話なんだが。何せ川藤幸一ばりにチームプレーって奴が苦手なんですよ僕は。それはさて置き、「青年と呼んだかい」と天使(仮)の言葉尻を拾い、乾く唇を舐める。
「何でも知っているって顔してるな、少年」
「そういう君は、御退場いただいた役者が戻ってくる前に全てを聞き出したいという感じだね」
 がっつくなよと呟いて、少年がそのきれいすぎる顔にアルカイックスマイル(口の両端をかるく引き上げる微笑の形式。テストに出るからね!)を浮かべた。
「詳細に変更があろうと脚本の大筋は変わらないのさ。偽の預言者が、この世界に現れることは必然だ」
「……あん?」
「知っているかい? 世界は、物語に支配されていることを」


「我思う、故に我あり。世界はその存在を認識されて、初めて世界たり得る――」
「ヤックデカルチャーな二元論には興味ないな」
「……無遠慮に話の腰を折るところは、彼女によく似ているよ。嫌になるほどにね」
 まあ聞けよと続け、金髪碧眼の美少年がグリリバみたいなアニメ声で「僕は君と話がしたいのさ」と肩をすくめる。何この俺様体質。イケメンだからって調子こいてんじゃねえぞこの野郎と思うわけですよ僕は。ぼくトシちゃん、もうすぐ25歳。孤独な男。
「エロビデのドラマパート級にどうでもいい話で時間を稼ぐつもりなら、君がッ、泣くまで、殴るのをやめないッ!」
「フフ、彼女にも似たようなことを言われたよ」
「人にゆっくり話を聞いてもらう態度じゃないんだよ、お前は。態度Lなんじゃないの? 態度L!!」
「……オーケイ。道明寺ジュリアには眠っていてもらおう」
 一級魔法少女ユーリィを指すらしい名前を口にして、天使(仮)がパチンと指を鳴らした。ちなみに僕が同じアクションを試みても気の抜けた音しかしませんよ。そういうところもモテる男とそうでない男の違いですかそうですか。
「もっとも、僕は彼女の眠れる因子を解き放っただけさ。あれは道明寺ジュリアが、自ら背負おうとしている業なんだ。無意識にね」
 腕組みして木にもたれかかり、そいつが言う。世界は物語に支配されている。大衆が建国の王を讃える英雄譚に酔いしれ、その統治を善しとするように。人が物語を望む。人の意志ゆえに存在するからこそ、世界は物語を紡ぐ。人の描いた脚本を、演じる役者を産み落とす。
「山下美鈴はこの世界における殺戮の天使だった。人の世に絶望し、道明寺ジュリアを憎み、暗黒に堕ちる魔女……。彼女は君にさえ出会わなければ殺戮の天使でいられた」
「相手にわかる言葉で話す気ナッシングかい!」
「ボタンを一つかけ違えるだけで、いるはずのない役者が乱入しただけで、脚本は破綻した。物語は役者に即興の演技を求めながら、脱線したその軌道を修正しようとする」
「……オタクが職場で必ず怒られるのは、回りくどい表現でグダグダ物を言うことなんだな、これが」
 エヴァンゲリオン以降、一つ一つの不可解な発言を勝手に深読みする楽しみ方がはやってるのはオタクの間だけです。思いこまないでください! 相手に物事を伝えるためには、その内容が誤解なく伝わる簡潔な表現を心がけることが最重要事項だと知ろうか。なあ、クラリス。
「君は詩的な表現というのが好きな人種だと思ってたけどな? それに君は彼女の代役だ。クールな一匹狼だと思っていたが、イメージと若干ズレがあるな」
「数年前ならいざ知らず、一応オレも大人なんでね。そうそうステレオタイプにコミュニケーション不全なままじゃいられんよ」
「馴れ合い、平均値に歩み寄ることが大人になるということなのかい?」
「それを語るほど年を取ってもいないが、昔に比べれば少しはマシになったと思ってる。でなけりゃ、大人になる意味がないだろう……!」


 いわゆる“キャラが立っている”という状況が現実でも許されるのは中学までだろうな、って思う。高校大学では「IQ200の天才と九九も暗唱できないアホの子が同級生」なんてシチュエーションは滅多にないし、自然と似たような価値観を持つ奴が集まるもんだ。
 そして社会に出たら、尖鋭的に超個性的であり続けることってのは相当難しい。特に協調性がないタイプで「仕事さえできてれば文句はないでしょ?」って持論を固辞し続ける奴は相当空気を読めてないし、実は仕事の方も自分で思ってるほど満足にこなせないのが普通だろう。
「鏡の前で笑顔の練習をしろ。顔にやる気がない。空気を読め。できる営業マンとモテる男の条件は同じだ」
「それは何だい?」
「オレが上司や大工のオッサンに毎日叱られてた頃の頻出ワード」
 私のこと、叱ってくれたの、忘れないよ。……さすがに僕も「建材をジャスト・イン・タイムで現場にお届けします」=「物流部が間に合わない時は営業が飛んで行きますんで」な中小企業とガチンコ体育会系な工事現場で「これは僕の個性ですから」とは言えなかったし。
「普通に大人をやってりゃ“平凡なサラリーマン”像に近づくんだよ。子供が言う“つまらない大人”ってやつにな」
「フフ、そうだね。確かに君は、物語の登場人物としては半端な存在のようだ」
 天使(仮)がくすくすと笑って「君はそれで満足なのかい?」と続ける。
「誰しも自分を特別な存在だと夢想するのは愉快なものなのだろう? それをやめてしまうのが大人なのかな」
「それはそれでつまらんだろう。大人だって目を開けて夢を見る」
「不可解な事を言うね」
「現実はフィクションと違って極論じゃ回らないんだよ」
 黒と白の間に広がる無限の灰色から、『お前に相応しいソイルは決まった!』と子供の時より適切な配合を選べるようになるのが大人なんじゃないかと僕は思う。……どうにもいい言葉が浮かばん! ジオン軍人は詩人!
「とにかく、現実世界で人様を記号的に定義すんなってことだ」
「ハハ、さすがにマティアと魂を共有する者だ。彼女にも言われたよ、化け物風情が人をわかりやすい型にあてはめて理解した気になるな糞野郎ってね」
「……きっつい女やなあ」
「そこが好きなんだ、たまらなく愛おしいね」
 うっとりしているという表現がここまでしっくりくる表情を見たのは生まれて初めてかもしれない。ぶっちゃけた話、僕にコイバナを打ち明ける友達なんてのはいなかったから。……もう一人の自分とも姉さんともつかない存在に同性が懸想している光景は中々にシュールだ。
「荻野真咲の話をしよう」


「発端は彼女と君の父方の祖父だ」
「オレ?」
 そう言えば、そうか。荻野真咲である“彼女”と荻野正規である僕が「アンタ、あの娘の何なのさ!」って微妙な関係なのはともかく、両親や祖父母といった親類関係は同じなわけだ。八年前に死んだ祖父さんに、いわくつきのエピソードがあるのも。
「その葬儀を終えるまで、公安に監視されていたことは知っているだろう?」
「……マッカーサーを暗殺しようとして母方の祖父さんに止められたって話は、後から聞いたよ」
 それは、何も祖父さんが特別だったわけじゃない。日本中のどこにでも転がっている、ありふれた話だ。多分、当人が孫にはそれを知られたくなくて、孫の前では好々爺でいたくて、親族に堅く口止めしていたことも含めて。
「葬式の間も見張られてたってのは初耳だけどな」
「見られていたのさ。そして、彼女は君と違って美しく聡明だった」
「ああ、そうですかとしかコメントしようがないんだが……」
「物語の主役に美を求めるのは現実もフィクションも同じでね。彼女はその時、この極東の島国を統べる政府に目をつけられたんだ」
 NEWSの山下君並に鬱陶しい前髪を超キザったらしくて鼻につく仕草で掻き上げ、天使(仮)が空中で妖精たちと待機しているシオンを指さす。
「対天使用機動兵器AH13の主として世界を救うヒロイン、アイドル……十三人目の使徒マティアとしてさ」
「十三人目の使徒、ねえ……」
 エヴァンゲリオンやBASTARD!!が直球ストライクだった世代のオタクは無駄に聖書を読みこんでたりするもんだが僕はあくまでもそういう理由じゃなくて高校がミッションスクールだったから(省略)よーく知ってるよ、ニュー・テスタメントの事なら。
「いつの間にかフェードアウトした影の薄い十二使徒」
「御名答」
「今日からマのつく聖職者ってか。オレならキリスト教のヒーローなんぞは御免こうむるな、無神論者なんだ」
「ここは日本だ、お前達の国じゃない……か。つくづく君は彼女と同じ言葉を口にする」
 そういう君は好きになれそうだと微笑む天使(仮)に「オレはお前のような奴は嫌いだな」と答えたら、そう言うだろうと思ったよと呟く美貌の笑みに苦いものが混じった。
「彼女は僕達の存在そのものを否定していたからね」


 別に人の信仰についてどうこう言う気はないのだけれど、総じてユダヤ系列の宗教には大なり小なり土着の神様を悪魔呼ばわりした挙句「邪教徒は全て滅ぼしてネ申に捧げるのが俺のジャスティス!」って言っちゃう独善的な部分があることは事実だろう。
 歴史という“物語”を持たない故に、いつも自ら書き上げた“物語”に国民総出で盛り上がっているあの国が、「テロリズムとの戦い」という安直な“物語”に突き動かされていた時期を思えば、やっぱりそういう宗教で成り立っているからなんだなって。
「僕らは人の祈りが生み出したものなんだ。勝利の上に更なる勝利を。地上に戦乱を。全ての選別を。剣と飢饉と死をもって、人の子らに滅びを」
「……最後に敬虔なキリスト教徒のみが復活の奇跡という祝福を受けるってオチじゃないだろうな」
「フフ、そうだね。僕らを生んだ“物語”の根柢にそれの影響はあるな、確かに」
「うわ……。MMRじゃあるまいし、ヨハネの黙示録なんかリスペクトすんなよ……」
 ヨハネの黙示録はキリスト教の新約聖書巻末に載ってる「由緒正しいお話」なわけだが、僕なりに要約すると「邪教徒が蔓延るこの大地に僕らのネ申がぶちギレ金剛!! 破壊による再生がはじまる――」という壮大なスペクタル(苦笑)だ。
 そんなもんを下敷きにして起きた事件なんてのは、シオンの「天使ハ人類の敵なノでありマす! 紫苑と御主人サマが倒スベき敵なノデす!」という発言と照らし合わせれば何となくその内容がわかる気がしないでもない。
「僕達に生き残るべき人間とそうでない人間の選別と粛清を命じたのもまた人間さ。犯罪者と異教徒を滅ぼせとね」
「それで、人を殺したのか。……大体、世界にはキリスト教徒じゃない人間の方が多いだろ」
「彼ら……僕達を従える軍人たちにとっての“世界”は決して広くないがね。……それに、僕は殺してない」
 彼女への愛に誓うよと付け加え、天使(仮)が星の見えない夜空を見上げた。その瞳が明らかに僕ではないどこか遠くを見詰め、自分の世界に突入してしまったことを如実に物語る。目は口ほどに物を言うって本当だな。
「フランスを中心に、天使による粛清が始まった。やがてヨーロッパは彼らの目指す理想郷となった」
「……理想郷、ねえ」
「ナザレのイエスを崇める者だけの“世界”さ。そして近隣諸国で天使たちの粛清が始まった時、世界は激動した」
「むしろそこに至るまでは大騒ぎしなかったっぽい語り口に全オレが引いた」
「EUの内乱に過ぎないと言えばそれまでのことだからね。……例えば、中国におけるチベット仏教徒への弾圧に君は何を思った?」
 と言われればぐうの音も出ない。そりゃそうだ、日本人が不思議と白人至上主義に染まってる辺りを差し引いてもそんなもんだろう。事態がこちらに飛び火する可能性が生じたところで「キリスト教を国教と定めればいい」と安易な解答に逃げるかもしれない。
「実際、そう言う議論は起きたよ。そしてEUでも、異教徒を殺さず改宗させ正しき道に導くことを善しとする勢力が台頭した」
 そのエージェントが十二使徒だと続け、少年が再び視線を僕に向けた。


「そこに派遣されたのが彼女だった。日本政府からの人道的見地に基づく支援という名目でね」
「死んだ祖父さんは昭和天皇の写真を額に入れて飾ってた生粋の右翼だぞ?」
 よりにもよってその孫娘を選ぶなよと考えたところで、僕がプロテスタントの高校に入学することが決まった時に、祖父さんが孫のために改宗するのしないので大騒ぎした事をふと思い出した。ああ、そうだ。僕らを育んだ環境ならそう育つんだ、きっと。
「いや、オレと同類なら家族を守ることが全てなんだよな……。親しい友人も恋人もいなけりゃ尚更だ」
「僕は彼女について多くを知らないからね。彼女と魂を共有する君がそう思うのなら、多分それが答なんだろうさ」
「よく知りもしない癖に愛しているって?」
 だからこそ君を通じて彼女を知りたいのさと微笑み、天使(仮)が「ん……!」と“少女の声で”エロく喘ぐ。思わずドキッとして、自分の、その……あるべき反応のないイチモツ(花の慶次的表現)に目をやると不意に後ろから抱き締められた。
「僕は女として君に抱かれることもできるけれど――」
 おいおいおいおいおいおいおいおい! 耳に息が、そしてグリリバ→こおろぎなロリ声が。背中に胸がポーニョポーニョポニョ(省略)女の子!? ……まあ、こっちの脳味噌もおにゃのこになってるせいなのか今一つドキドキしないんですがね。
「君は僕を拒むだろうな。きっと、僕が彼女に嫌われているのと同じ理由でね」
「こいつ元々は男だったよなって思うだけで普通はヒくわ! そりゃ両さんだってマリアとゴールインできんさ!」
「……そうじゃなくて。もっと真っ当な理由はないのかい?」
「相手の気持ちに立って物を考えてないとこだろ」
 僕が女だとして、絶世の美少年であった(過去形)こいつを徹底的に嫌う理由があるとしたら多分そこなのだ。荻野家はそこそこ裕福なだけに良くも悪くもお人好しな坊ちゃん嬢ちゃん揃いなわけで、それ故に――。
「温室育ちだからかもな。人の心を、それも子供を弄ぶような奴には死ぬほどの嫌悪感を覚えるんだよ」
「そうかい。……彼女と、こうして話ができていたら少しは違ったのかなあ」
「相手に好かれるための努力をしないなら、結果は変わらないだろ」
「……努力、か。彼女に、愛される僕に変わるための……」
 やはり君のことは好きになれそうだと耳元で囁き、天使spec美少女が白い手で僕の頬を撫でる。明らかにマトモな生物じゃないそいつの手は、柔らかくて温かかった。……頬に触れた唇の感触は、一瞬過ぎてよくわからなかった。
「また会いにくるよ。……“マサキ”」

 24歳、無職。ついでに彼女いない歴24年のキモオタ。

 例の“物語”とやらが少女達の成長劇であるとすれば、そこに僕の居場所はないのだろう。そして事件の全容が見えるどころか余計にややこしい事態に陥った挙句、中学二年生の女の子から「学校に行きなさい」とメールで説教された僕っていったい――。