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「なんて素敵にロマンチック」
 というのが、下校中にケータイで、例のアイポンの妄想恋愛ブログを読んだ山下美鈴の感想。
 腕の中で、猫のネネコがそれ見ろと言わんばかりに「にゃあ」と鳴いた。
「同窓会に顔を出さないと思ったら、酔い潰れたところに颯爽と現れるなんていいじゃん」
「あり得ないから、そんな偶然。マンガじゃあるまいし」
「道明寺は夢がないなー」
 件のブログを映すケータイの液晶画面から視線を移し、美鈴がその切れ長の瞳で私を見詰める。
 ネネコもまた同じような視線を送り、「にゃあ~」と間延びした声を上げた。
 いつまでも夢見る少女じゃいられないなんて歌もあるけど、彼女達はどこまでも夢見がち。信じらんない。
「白馬の王子っているじゃん、やっぱさ」
「……ああ」
 GW中に出会ったロン毛男のことだ。彼をオッギーに重ねてたのね。あれから二週間になろうと言うのに。
 私は私で、彼について気になることがないでもない。無論、うっとりしている美鈴とは全く違う意味で。
 このブログの話じゃないけど、タイミングが良すぎたのだ。あまりにも。彼と、二級魔法少女マサキは。
「て言うか、そんな夢のない道明寺がさ。何でこういうのにハマってんのよ?」
「う……。何でだろう」

 本来、妖精ネットはそれぞれが戦った敵の情報などを交換し合い、互いに役立てるために設けられたそうだ。
 しかし実際のところ、今は仲良しグループが交流するための場所でしかない。それが現状。
 一級魔法少女である真鶴メイと神谷ヒカル、そして私をやっかむ声もなくはない。逆に、変に持ち上げられるのも気持ち悪い。
「きゃううー! これはまさかの新展開ですわん!」
 そういうわけで現在、パソコンを起動させたネネコが真っ先に覗くのは妖精ネットでなく、アイポンのブログになってる。
 明日、思い切って彼の家に行こうと思う。……というアイポンの書き込みに、ここまではしゃぐのもどうかと思うけど。
 ブログの読者たちによる「応援してます」「明後日は朝帰りか」などのコメントが猛烈な勢いで増殖してる。馬鹿馬鹿しい。
「知ってる? こういうの、ネット用語で“釣り”って言うらしいよ」
「ジュリアんはもう少し年相応に夢を見てもいいと思いますわん……。明日は祭り? いやいや明後日になるかもですの」
「年相応にと言いながら中学生にそういう話を振らない」
 ……とはいえ、同級生にはそこまで進んでる奴がいたんだっけ。
 あの夜に出くわした二級魔法少女マサキについて、何となく引っ掛かってる。それが何なのか、形にはなっていないんだけど。


 妖精ネット。インターネットによって「多勢が一箇所に集まる」という要素を補助し、魔法の力で作り出した仮想空間。
 青い空。森の中の清らかな泉。それを囲む煌びやかな妖精たちと魔法少女たち。
 これらは私の脳に送り込まれている情報に過ぎず、現実世界での私は無意識にキーを叩いてるらしい。ここで喋った通りに。
「毎回思うんだけど、マトリックスみたいね。このシステム」
「多分GHOST IN THE SHELLですわん、成立時期的に」
「……ああ、攻殻機動隊か。兄さんが『劇場版は原作の娯楽性を無視した糞アニメ』って言ってた」
「レイレイはオタクでさえなければ完璧超人ですのに……」
 道明寺レイ。私より六つ年上の兄さん。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能な上に社交的で友達が多く、しかも家族想いという人。
 あれで「理想のタイプは、見た目がスクルドで性格がベルダンディーな子だな」とか言い出さなければ、それは……。
「兄さんはあのままでいいよ。妹の立場がないし」
「ミレイちゃんとかどうですの?」
「逸脱するのは二次元の世界だけにしてもらいたい。美鈴もオタクは嫌いだと思う」
 ……と言って、美鈴が今まさに熱を上げてる相手もビジュアル的にはそんな感じか。ルックスは兄さんの方が断然上だけど。
 そうそう。彼が二級魔法少女マサキに関わりのある人物だとしたら、ここで何か情報が掴めるかもしれない。そう思って接続したんだ。
 ここのところマサキは話題の人だから。それも、かなり悪い意味で。
 泉の前に配置された丸太に腰掛け、水面に手を触れると、いわゆる過去ログが映し出される。
 マサキor真咲というキーワードで検索してみると、やたらとヒット数が多い。彼女がここに顔を出さないだけ悪口も言いやすいんだろうけど。
「あなたも二級魔法少女マサキについて調べているの?」
「うん?」
 聞き覚えのある細い声に顔を上げると、一級魔法少女・真鶴メイ――通称“委員長”が私を見下ろしていた。
 その生真面目そうな顔に垂れ下がる、三つ編みを解いた後のようなソバージュ状の長い赤毛を掻き上げながら、メイが言う。
「珍しいですね。ユーリィさん、そういうのに興味なさそうだったのに」
「彼女を叩く趣味はないけど。……実際に、一度だけ会ったから」
「へえ? その妖精にも?」
「……ん」
 そう言えば、唯一の目撃者であるヒバリとかいう子は、マサキの妖精を見ていなかったんだっけ。
 年齢は十一とか十二とか、そのくらい。緑色の髪、青い瞳、トンボか何かのような透き通った翅……。
 思いつく限りの情報を述べると、メイがどこか納得したような様子で泉に手を触れた。数日前の会話が、そこに映し出される。
「それはひょっとして、こういう人ではありませんでした?」
 水面に呼び出された画像に、私は思わず言葉を失った。
 マサキの妖精そのままの姿を持つ人間の少女にではなく、彼女と向かい合うその男に。


 あまりにタイミングが良過ぎてヒいた。彼だ。美鈴を弄んだ男をトランクに押し込め、マサキと入れ替わるように現れた、あのロン毛の。
 メイによると、誰だかのブログに「街で見かけた美少女」というタイトルでアップされていた写真だって。
 偶然それを見かけた魔法少女が「妖精では? 盗撮されたんじゃないの?」とここに貼りつけたらしいけど……。
 しかし、ロン毛さんは相変わらず垢抜けない格好。マサキの妖精によく似た女の子とデートしているところかな。御愁傷様。
「彼女が風の妖精さんだということはわかってます。彼女の知り合いの証言で」
「……考えたわけだ。“風の力でどこにでも出張する子”の相方かもって」
 証言というのが、コッコ(略)タリアというやたら長い名前と、その“貪欲さ”を裏付けるような生い立ち。いかにもって感じ。
 しかし、だからこそ矛盾してる。そんな彼女の相方が、いつまでも昇級しようとしないこと。そして、美鈴と私を助けに来たことと。
「……取り敢えず、マサキの相方だってのは大当たりだと思うけど」
「けど?」
「ん……お人好しって感じだったかな。二人とも。悪い噂とは正反対に」
 マサキに例の“横取り”をされたため、変身を解いたところ迷子と間違われ、人里まで送ってもらったという話をする。
 他人にペラペラ話すような内容じゃないから、意図的に美鈴の存在をぼかして。
「なら、この男の人はマサキのお兄さん?」
「あ……そうね。言われてみれば、パーツの一つ一つは似てると思う」
 なるほど。引っ掛かってたのはこれか。確かに、こうして見るとマサキとロン毛さんは似てる。そっくりとは言わないまでも。
 二人が兄と妹なら、不自然だった色々な話がきれいにまとまるじゃないか。
「お兄さん、マサキが魔法少女ってことは知ってるんですか?」
「さあ? ……何で?」
 どちらかと言えば、メイはマサキ批判に対して否定的だ。その彼女が、こうもマサキにこだわる理由がわからない。
 ……その不信が顔に出てたんだろう。メイが生真面目な顔を更に硬くして、かけてもいない眼鏡を指で直すような仕草を見せる。
「魔法少女を倒すと評価値が大きく上がるという話は聞いてます?」
「システム上、魔法少女協会は魔法少女と魔物を区別できないんだっけ」
「ええ。ユーリィさんにも気をつけて欲しいんだけど、それを利用している人がいるみたいで」
 泉に過去ログを映し出し、メイが薄い唇をきゅっとへの字にした。ここ数日、複数の魔法少女を襲った、同じく魔法少女と思われる存在。
 これを“魔女狩り”と呼称し、正体がマサキではないか、自分もいつ襲われるのかとヒステリックに暴走する会議。
 ほとんど邪推になってる推測の正否を問わず、狙われやすいのも、止められるのも、私たち一級魔法少女だけ――。
「うざっ」
「……ユーリィさんはそう言うと思った」
 メイがもう一度エア眼鏡をかけ直し、「用心だけはしておいて」と耳打ちする。
 やれやれ。面倒なことになった。


「福岡市……ソウリョウク? ニシシンの商店街にて。あり得ない美少女ぶりに思わず撮影しちゃいました~」
 例の盗撮写真を載せた、問題のブログに添えられたコメントを、妖精ネットでは別行動を取っていたネネコが声に出して読む。
 (福岡市早良区西新と書いてるんだけど、後で調べたらサワラク・ニシジンだったのは余談)
 しかし、ネットで何でも調べられるのはいいけど、こうして私生活を晒される可能性もあるというのは如何なものか。
「西新の商店街と言えばジュリアん。ここってアイポンが働いてる本屋さんがある場所ですわん」
「あ、本当だ。偶然ってあるもんだね」
 そう言えばオッギーもオタクが入ったロン毛男なんだっけ。福岡には行ったことないけど、割とそういう人が多い地域なのかしら。
 美鈴に教えたものかはともかく、画像をフォルダに保存しながら、さっきの妖精ネットでの話を思い返す。
 福岡県民のメイによれば、写真が撮影された場所はわざわざ遠出して出向くような大都市でも観光地でもないそうだ。
 だからこそ、ここがマサキとその兄であるロン毛さんの地元である可能性は低くない……と、彼女は考えているらしい。
「それで、メイちゃんは何と言ってましたの?」
「集団で乗り込もうと暴走してる連中もいるから、ここだけの話にしとけってさ」
「それだけですの? 協力しようとか、『今夜はお前と俺でダブルライダーだからな』とか」
「ん……。少なくとも、私には何も期待してない口振りだったけど」
「ジュリアんは、デレ期に入ったら友達のために一肌も二肌も脱ぐいい子ですのに……」
「デレ期とか言わない」
 なんてことを言ってると、ネネコがヒゲをヒクヒクと動かした。尻尾がくるくる回ってる。
「出撃ですわん! 総員第一戦闘配備ですわん!」

 埃っぽい、長く訪れる人のなかっただろう廃ビルの中に、その敵がいた。
 およそ2メートルほどの、角のない鬼のようなゴリラのような、そういう姿をした生き物が私に向かって突進してくる。
 その脳天を、炎の矢で射抜こうとしたその時、余計な考えが頭をちらついた。
 精霊界からの敵は、獣に近いながら、いかにも怪物という姿をしている。
 だからこそ躊躇わずに、戦い、傷めつけ、殺してしまうことだってできてしまう。
 でも、それが同じ人間相手だったらどうだろうか。私は、全力で相手と戦えるんだろうか……って。
「あ……」
 外した。狭くて避けるスペースがない。やばいな、と他人事のように思考した瞬間、意識が飛んだ。暗転。ネネコの悲鳴に、意識を取り戻す。
 攻撃を受けたようで、気がつくと埃まみれの床に倒れていた。吸った埃に咳きこみながら、手探りでステッキを探す。見つからない。
「ジュリアん!」
「……冗談」
 じゃない、とつなごうとした瞬間、ガラスの割れる音がした。降り注ぐ破片から咄嗟に顔を庇う直前、目にしたのは――。


 若い、女の人だと思った。たなびく黒い長髪。マントのようにはためく、黒いロングコート。もうすぐ六月だと言うのに。季節外れな。
「コール」
 低い、女の声。衝撃。地響き。天井から埃が降り、床のそれもまた舞い散った。ケホケホと咳きこみながら、目を開ける。
「第十一特種プログラム、月光……」
 コートの下の、桃色の着物が薄闇の中で目を引いた。赤い手袋に包まれた、左手が怪物を殴り飛ばし、壁に叩きつける。そして右手が青白い光を放った。
 たんっ! 床を蹴り、態勢を立て直そうとする怪物に女が飛び込む。光り輝く右の拳を、その頭部に――。
「ファンクション!」
 叩きつけると同時に、物質界からの消滅を意味する閃光。反射的に目をつむり、開けると、その女がいつの間にか近づいて、私の顔を覗き込んでいた。
 ていうか近っ。超至近距離。思わず仰け反ると、彼女が苦笑を浮かべ、何やら小さな道具を取り出して明かりをつける。
 高校生とか、そのくらいの年齢だろうか。サラサラの黒いストレートが印象的な美人で、大きな瞳の上、前髪の下に見え隠れする太い眉が、頑固そうな感じ。
 桃色の着物に赤い手袋、白いランニングシューズ、黒いコートというかなり珍妙な取り合わせが、どこか粋に見えるのだから不思議だ。
「……マサキ?」
 無意識に、その名が口をついた。そうだ。似ている。マサキが大きくなって、お兄さんと同じ髪型にしたら、まさにこんな感じだろう。
 女がぴくりと反応し、太い眉を潜め、その黒い瞳を細めた。空気が張りつめる。ぞくっと背筋に冷たいものが走った。
「私に似た、真咲を名乗る女を知っているの?」
「……!」
 この粟立つような感触を殺気と言うんだろうか。やばい。声が出ない。身体が動かない。……怖い。
「ジュリアん!」
「!」
 ネネコの声に、我に返った。飛び退り、女との距離を置きつつ、明るくなった御蔭で位置を確認できたステッキを拾う。
「あなた……誰?」
「名乗ったところで、信じられたものかしら?」
 肩をすくめ、女が苦笑いを浮かべた。「怖がらせてしまったみたいね」と呟き、コートのポケットに例の小さな照明を仕舞う。
 視界が黒く塗り潰された。突然の暗闇の中で、その低く落ち着いた声がささやきかける。
「荻野真咲。……昭和56年1月21日、ここではない、近くて遠い場所に生まれた女よ」
「……え?」
 何を言われたのか、何が信じられない衝撃の事実なのか、理解できなかった。と言うか反応に困る。ツッコミどころ多過ぎ。整理しきれない。
 状況の掴めない私とネネコを置き去りにしたまま、荻野真咲を名乗る彼女が続ける。彼女、ちょっと思い込みが激しいタイプみたい。美鈴とおんなじだ。
「あなたの知る彼女に伝えてちょうだい。真に咲き誇る荻の花が、偽りの救世主を黄泉に還すと」
 再びガラスの割れる音がした。理解できたのは、私の目が闇に慣れる前に、彼女が立ち去ったということだけ。何これ。意味が分からない。
 ……不愉快だ。


 昼休みを図書室で過ごす頻度が減ったのは、美鈴とのお喋りがそれなりに楽しいからだと思う。
 四時間目に返却された漢字の小テストの答案を見ながら、そのペナルティである課題を再確認し、美鈴が軽く唸った。
「あんたって、金髪で、しかも道明寺なのに国語は得意なのね……」
「何それ。金髪はともかく道明寺の癖にってのは」
「花より男子見てないの? 今度ファイナルやるんだよ」
「ドラマ、あんま見ないから。うちは昔から金曜は映画の日」
 マツジュン演じる道明寺司というのが、頭が弱くて日本語を正しく使えないアホボンだという説明をしながら、美鈴が答案を鞄に仕舞う。
 説明を聞いて、ようやく思い出した。ああ、知ってる、その話。
「キムタクの声優デビュー作品ね」
「は……? ハウルでしょ、キムタクが声優やったのは」
「CDドラマで小栗旬の役をやってたって。星矢とドラクエのミュージカルに次ぐ黒歴史と兄さんが」
「……花沢類ね。てかドラクエって」
「中居君が勇者でキムタクが魔王だったらしいけど」
「変なことにばっかり詳しいんだから……」
 それは兄さんのせいだと言い掛け、兄さんなら昨夜の“昭和56年1月21日生まれ”について、何か特別な意味を知ってるのかなと思いつく。
 放課後にメールで聞いてみようと考えながら、ガラスの破片で切った傷が残る右腕を制服の上から撫でた。
 荻野真咲が命の恩人ではあるだけに、文句が言えないのが不愉快。「言いたいことがあっても言わせない」というのが、彼女という存在の象徴だと思う。
 荻(招ぎ)。風になびく姿が、霊魂を招き寄せるように見える花。あれからネットで調べたそれっぽい語源を反芻しつつ、五時間目の数学の準備をする。
 始業のチャイムが鳴る前にトイレに行こうと、廊下を見やって数秒後、思わず手にしていた教科書をぼとりと床に落とした。
「なん……で……」
「道明寺?」
 美鈴が呼ぶ声に反応するのも忘れ、廊下を凝視する。開け放った窓の向こうに、女がいた。
 淡い桃色のカーディガンに垂れかかる、サラサラの黒いストレート。小柄で童顔なのに、どこか凛とした空気を漂わせる物腰。
 始業のチャイムが鳴った。担任の松永先生に連れられ、ざわつく教室に入り、彼女が教壇に立つ。
「怪我をされて、しばらくお休みすることになった鈴木先生の代理を務めることになりました」
 そのしっとりとした、低く落ち着いた声が止み、背を向けた。かっかっと黒板に白いチョークで名前を書き、改めてこちらに向き直る。
「荻野真咲です」
 よろしくねと続け、にっこりと笑う彼女に、男子が歓声を上げた。あまりの事態に硬直していると、その荻野“先生”がこちらに向かってくる。
 思わず身構え、腰を浮かしかけると、彼女が人懐っこい笑みを見せた。
「教科書、落としてるわよ?」
「……どうも」


学校の先生が意味ありげに自分は昭和56年1月21日生まれだと言ってたんだけど意味が分からない

 まずはシャレのわかる先生だと言っておこうかな^^。昔、ジュリが本当に小さかった頃、1999年7月に世界が滅びるって予言がブームになってたのは知ってるね?それには1981年1月21日に生まれた救世主が人類を導くって続きがあって、オカルト番組なんかで実際にその日に生まれた子供を未来の救世主って名目で出演させたりもしてたらしい。ほら、昔のマンガって1999年に丁度18歳になる設定の主人公が多いっしょ。兄ちゃんにはちょっとピンと来ないけど、二十代とか三十代の人たちにはいい笑い話なんじゃないの?

 ともかく、ジュリが学校の話をしてくれるようになったのが兄ちゃんは嬉しい。君は学校が嫌いな子だったから。

 ちなみに1999年と言えば兄ちゃん的に9月9日零時9分9秒が外せない。雪野弥生がプロメシュームだってオチに興醒め感があるのはともかく、娘のエメラルダスとメーテル――特にエメラルダスはまゆと昇太を産んでいるわけで、それでも永遠の美貌を保っ

「……あれって冗談に聞こえた?」
 ベッドの上に寝っ転がり、兄さんのメールに目を通しながら、ネネコに問いかける。“荻野先生”はともかく、昨夜の荻野真咲は本気だったと思うけど。
 普通の人間にはあり得ない速度でじわじわと傷が治っていく両腕が、その馬鹿げた仮説を後押しした。
「魔法少女と妖精がいて、選ばれた救世主がいないって理屈もないけど」
「それこそ悪い冗談ですわん」
「だよね……」
 でも、あの荻野真咲が魔物を倒したのは紛れもない事実だ。それも、ネネコが言うには魔法とは別系統の力を行使して。
 自分に似た同名の女を捜しているらしいけど、それは二級魔法少女マサキになるんだろうか。やっぱり。偶然だと片づけるには条件が揃い過ぎてる。
 まさか私に近づくため学校に潜り込んだわけでもないだろうけど、再会してしまった以上は何らかのアプローチがある……かもしれない。
「……ま、出たとこ勝負ってことで」
「ここに来て『行くぞフォーメーション“C”だ』……ですの?」
「あれこれ考えたところで、一人で勝手に振り回されてるだけでしょ」
 放課後に「あの人に似ている」と言い出した(それはそうだ)美鈴に連れられ、わざわざ職員室まで押しかけもしたんだ。
 独身。福岡出身。家族構成は父、母、弟、妹の五人。教員免許は持っているが普段はフリーター。
 ……という情報を聞き出すところまで居合わせておいて、何を言うでもなかったのだから私のことは眼中にないんじゃないだろうか。
「そもそも、素で一度会ってることに気づいてないんだと思うけど」
「根拠は?」
「お互いに顔はよく見てないし、私は髪と目の色、違ったから」
「それはそうですけど……」
「じゃあ、明日から校庭にでも待機しててくれる? もしもの時は呼ぶから」
「わかりましたの。まさに見つめるCat’s eyeですわん」
「兄さんみたいなこと言わない」