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[[オリジナル>>http://dqm.s198.xrea.com/patio-s-kontesuto/read.cgi?mode=view2&f=2532&no=18]]  ひひひ…3か月もしたら脳にも女性ホルモンがまわっちまうじゃろ。そしたら本格的に女になるんじゃウッシッシ。ネズミのオスとメスをくっつけて1匹にしてもオスのほうが女性化するのは現代医学じゃジョーシキだもんね。  ↑この手術 わりと カンタン なのです  じっさいに あちこちの研究所でやっています.  ――姉さん、一大事です。僕のジョニーが……何て言うか……その……つまり……すごく…大人しいです…。 「ん~……このスカート、ちっとこ丈さ短いかなあ? シオンちゃん、意外と大胆なんだ」 「ツまり紫苑弐式は無敵鋼人なのデスとイウことデよろシイでアリマスか? 参式でアレば万丈もとイ万全でシタが」 「殿、御自愛を! TPOをわきまえて下さりませ!」  一級魔法少女・神谷ヒカルこと八神あかりとの決闘騒ぎですったもんだしてから二夜が明けた。そして僕と同じく傷ついた身体を癒すあかりとその相棒が、まあ、色々あって我が小汚いワンルームに寝泊まりしているのでありました。  地球は本当に狭い場所なのか? 宇宙の暮らしで窒息しそうな私には、そうは思えない。半端ない密度と男所帯で育った無防備な女子高生が頻発させるヤングコミック誌じみたエロスなハプニングの数々にも……私の愛息は静かなるドンの姿勢を貫いています。正直、不安になってきた。  ……あれから二日。未だに身体が半端に女性化したまま元に戻らず、それが大脳に影響しているのか一つ屋根の下に暮らす女子高生にも邪な欲情を微塵にも感じていない状態なわけで。これは……満24歳の健全な成人男子として正しい姿ではないのです……。  僕の目の前でシオンの私服に着替えるあかりの無警戒な白い肌と白い下着を明鏡止水の境地でぼんやり眺めていると、案の定こけしにべしっと頭をはたかれた。同時に八神ひなのこと聖妖精ファウルイスオーデイーティムアトゥーンイグノーブルヒィナが、その主を僕の視界の外に押しやる。 「貴様と言う下郎は……!」 「今のは不可抗力でしょ! 超自然に脱ぎ出されて俺も不謹慎だけどきれいで焦るよって話っス!」 「まんじりと見ておったぞ!」 「くっ……事実は事実スけど、リアル女子高生の俺に対する好感度を下げる発言は勘弁して下さい」 「……安心せい、貴様は既に数々の地雷発言を繰り返しておるからのう」  自覚はね、あるんですよ。ええ。ニ日前ですよね。例の一件で身動き取れなくなって、あかりに家に送ってもらったんですよ。お姫様抱っこで。彼女も肋骨が折れてるのに……と言うか、明らかに折ったのは僕です。ごめんなさいマイファーザー。  で、しばらく適当な場所に野宿して傷を癒すつもりだという彼女に言っちゃったの。「ゲホッ。前に動物園で見たトラみたいなにおいがするよ」「うう、猛獣のにおい……」的なこと。本当、空気読めてないですよね。感謝の気持ちも台無しならあかりの女心もズタズタですよ。  そんな経緯で、入浴させ、シオンの私服に着替えさせ、一泊させ、翌日あり得ない異臭を放つセーラー服をクリーニングに出させて二泊目に突入し現在に至るというわけだ。その間、先に述べた通りに様々な嬉し恥ずかしサービスシーンに立ち会うも、女性ホルモン(省略)僕は紳士でした。 「……身体の方は、まだ痛むのか?」 「まあ、全く痛くないとは言わないですけどね。大分よくなってますよ、御蔭様で」  細くなった腰に無理矢理ベルトで締めつけたダボダボなズボンの中でずり落ちそうな下着の感触に辟易しつつ、布団を押し入れにぶち込む。治りきっていない身体の節々がずきっと痛み、否が応にも今はこのユニセックスなもやしっ子BODYが自分自身なのだという実感を突きつけた。  いつぞや泥酔した三重野を連れて来た際に詰め込んだ私物の中から安物のサングラスを取り出し、試しに掛けてみるとフレームが大き過ぎてブカブカだ。まあ、これは偏に女性化云々より本来の僕の顔がデカいだけか。アイツはアイツは顔でかーい。はちまきまけないとどかなーい。 「――やっぱり弥彦は強すぎだと思うなあ。見取り稽古も大事ではあるけど」 「真っ当な学校教育を受けておらぬフェニックスの兄上15歳の博識ぶりに比べればマシじゃと思うぞ」 「『燕翼いずくんぞ鴻鵠の志を知らんとはまさにこのことだ』」 「『億か兆か…いや…京の距離をもこえてとべば充分だろう…』『きみは、はるか那由他の位までにげたつもりがたったこれだけの距離にすぎなかったということだ』じゃな」 「なゆ……た……。それはきっと……普通の女子高生にはわからないトリビアのはずだよね……」 「……遠い目をするな。あれか? ゆとり教育の弊害なのか?」  賢いんだか頭悪いんだかわからない会話を続けるこけしとあかりを横目に、和室とキッチンとを塞ぐ形になっていた押し入れの襖を閉める。……先生、僕も那由他わかりません。ゆとり教育世代よりは上のはずなんですが。兆の次が京で……京で……京で……燃えたろ? 「はう……待って! わかってるんだよ! ボクも習った記憶はあるの! 可哀想な人を見る目で見ないで!」 「そちは脳までも筋肉でできておるなぞとは誰も言うておらぬぞ」 「すごいこと言った! ひどいよ、悪魔だよ! ……一番大きいのは……えっと……無限大数?」 「……殿。無量大数にございまするぞ。そこから降順に、不可思議、那由他と相成りまする」  と、キッチンにいたヒィナがさり気ない教養で――知らされたのは昨日だが――妖精界の王族という肩書を彷彿とさせつつ、朝食の載ったお盆を両手に畳を踏んだ。味噌の香りが鼻腔をくすぐる。充電を終えたシオンが一昨夜から炊事を担当しているのだが、これがまた――。 「笑えるほど実家の味なんだよな、この味噌汁……」 「紫苑にハ、お嬢様に料理ヲ学んダ壱式の魂が宿っテいマスからイツでもお嫁にイケるのデス!」  えへんと平坦な胸を張るシオンの本気とも冗談ともつかぬセリフに曖昧な表情を浮かべ、こけしが「お嬢様とやらは、おふくろの味というのに忠実じゃよな」と返した。お嬢様とはつまり、シオンの故郷である平行世界に生まれた僕の姉さん(世紀末救世主)なわけだが。  鍋で炊いた米飯を茶碗によそうシオンの横を通り抜け、バスルームの鏡に顔を映す。小顔の細い輪郭の上に載った、全体的に小作りではあるが僕本来のそれの特徴を残すパーツの一つ一つに、件の姉さんはこんな顔をしているのかと想像を膨らませてみたが……不毛だ。実に。  こけしが発した「おふくろの味」という響きに、思うところがあるのかなと折り畳み式の食卓を囲む少女達を見やる。幼い頃に母を亡くし、男手一つで年の離れた長兄を母親代わりに育った八神あかり。家出同然に実家を飛び出した聖妖精ヒィナ。そして――僕の相棒の風妖精。  彼女は彼女で、僕が気絶していた短い時間にも色々あったらしい。寝たきりでやり過ごした――僕と同じく怪我人のはずのあかりは、シオンの案内でヒィナと共にあちこち歩き回っていたのだが――昨日の一日で、全てを語ってくれたわけではないんだろうが。 「……わらわも調理の手習いなぞしてみようかのう」  シオンが作った甘い卵焼きを箸で一口大に刻みながら、こけしがぼそっと呟く。状況からしてシオンにお願いしてるんだなと聞き流すと、どうやら僕に向けての発言だったらしく緑の瞳が不機嫌そうにこちらを見据えていた。 「あー……ま、いいんじゃないですか? シオンちゃんさえよければ」 「紫苑ハOKデスよ」 「うむ。よろしくお願いするのじゃ」  こけしが人間大の身体になってるのは僕が重傷でへたばってるとき限定だ。寝たきりの僕に付き添い家に引き籠っているのも暇だったろうし、シオンが教えるというなら丁度いいと言えば丁度いい申し出ではあった。 「シオンちゃんのレシピ、荻野家の味をリアルに再現しすぎて若干独特なとこありますけどね」 「貴様は己が身を育んだ家庭の料理を好まぬのか?」 「んなこたないス」 「なら結構じゃ、マサキに食べてもらう料理じゃからの。……いや、そのな、シオンがの、物を食わぬ体質だから、じゃぞ。その、あれじゃ。味を見てもらって、感想をもらわぬと、じょ、上達せぬものじゃろう?」 「頼まれなくても食べますよ、どうせ食材は俺の金で買うんスから」  光妖精ナナルリエ。例の一件で知り合った――野次馬の一人だと聞いた――二級魔法少女・茅ヶ崎まゆらこと千秋早苗の相棒の顔を思い出そうとし、こけしの赤らんだ顔を見詰める。母親違いの姉妹とかいう微妙にショッキングなプロフィールからすれば、少しは似ているんだろうが。  ――まあ、昨日こけしが僕に打ち明けた話ってのがこれだ。彼女も異母妹ナナルリエに聞かされるまで知らなかったという複雑な家庭事情。要約すると、死んだと思っていた父親が実は生きていて、こいつがまた方々で若い女を孕ませまくっているヤリチンの風来坊らしい。  単純に「お父上様が生きておられるのならお会いしたいのじゃ!」と想いを募らせるには超ビミョ~な父親像に、本人もこれをどう受け止めていいのかわからず行き場のない感情がもやもやしているようで、ここ数日の彼女はぼんやり物想いに耽りがちだった。  そういう時は、何でもいいから行動に移るのが一番なのだというのが数ヶ月を無為に過ごした僕の経験則。何もすることがない状況ってのは、人を否が応にも哲学者にしてクヨクヨ考えても仕方ないことばかり頭の中でループさせるんだ、これが。自然と発想もネガティブになるし。  だから、こけしにやりたいことができたのはいいことだ。いいじゃあないか………。すごく……ベリッシモ(とても)……いい展開だ。ついでに僕の身体が早急に完治するなら、もっと君は最高にディ・モールト(非常に)いいんだがなああ。 「ふフん、紫苑弐式の修行ハ厳しイですヨ。鬼教師風に言い直セば『びびんなよ、妖精さん!』とイウことでアリマス。――――ついて来れるか」 「望むところだと言わせてもらおう」  不思議な盛り上がりを見せる二人に苦笑し、あかりが「ごちそうさま」と言いつつ米飯をかっこむ矛盾したパフォーマンスを披露する。ヒィナがやけに複雑な表情を浮かべ、一拍の間を置いてから「然様にございますな」と返した。 「……それもまた、絆にございますれば」  ――父方の祖母が作る鶏の唐揚げとコロッケが大好物。お嬢様こと荻野真咲の気持ち悪いくらい僕と共通するプロフィールを指折り挙げては「御主人様もデスか?」と尋ねるシオンに、苦笑を浮かべ「イエス!アマゾネス!!」と頷く問答が続く。アタシたち にてる みたいな。  育ってきた環境が同じだから好き嫌いはイナメナイ。夏がだめだったりソフトクリーム(イチゴ味)が好きだったりするのね。料理好きな父の蔵書であるクッキングパパと美味しんぼが愛読書というのも共通項だが、姉さん……それって27歳の女子としてどうなのよ? 「……まあ、つくづく高カロリーな食い物が好きなのね、お互いに」 「お嬢様ハ食べテも太らナイ体質ダと豪語シていたモのでアリマス」 「ああ、そこんとこは違うんだ。……俺はそろそろ中年太りが気になってるからなあ」  ウィッシュ、ウィッシュ、ウィッシュ! 欲張りに、世界中のフライド・チキン食べてもいいけど。自分……超太りやすい体質ですから。森の中で闘った時、奴の足元を見たカ? かなり陥没してただろウ。あんなナリでハンパじゃない体重をしてるって事ダ。気をつけロ。  バスルームの前に置いた体重計に乗ると、デジタル表示の赤い文字が67kgを示す。食っちゃ寝で二日を過ごしただけで3kg増というごらんの有様だよ! 剣菱悠理とかの少女マンガのキャラみたいなチート設定の姉さんに引き換え、どんだけ栄養の吸収効率がいい体質なんだ僕は。 「つまるところ、同じオギノマサキでも光一と剛くらいに差があるわけですよ。主に、体脂肪率的な意味で」 「どちらに転んでもおこがましい喩えを持ち出しおった!」 「俺も剛君みたく初恋の人はリン・ミンメイって言える程度にオープンな性格だったら暗い青春を過ごさずに済んだと思うの……」 「それはそれでどうかと思うがのう」 「ですよねー」  僕たちは あの真っ赤な夕陽が大好きだ! 体育の時やグループわけの時の微妙な疎外感が大好きだ!! 話し相手もいなくてもてあます休み時間が大好きだ!!! そんな自分が大好きだ!!! 8月3日 5日はハミ子の日! 「……家庭科の授業で初めて作ったの、確かカレーだったと思うんスよね。米も鍋で炊いて。はじめチョロチョロ中パッパってさ」 「無難デすネ」  今にして思えばよく考えられてたカリキュラムだったんだなあって感じだ。日本の食の基盤である米飯の炊き方から、包丁の取り扱いに焼く煮る調理と幅広く基本を押さえてて。風属性の妖精様のファーストステップとしても妥当なチョイスなんじゃなかろうかと思うわけです。 「異論はないが……家庭科の授業を受けたのか? 貴様が? おのこじゃのに??」 「は?」 「リア殿の疑問は至極尤も。拙者も男子は技術、女子は家庭科が人間界の学校教育であると聞き及んでおりまする」 「……えーと……情報古くない? 妙な事には詳しい割に」  COOKO.184 簡単でうまいっ 我が家のカレー第2弾 荻野流スープっぽいカレー  家族のためにとうちゃんが作ってくれてボクもさびしくなると何度も作ってみたカレーなんだ。ショウユとウスターソースとケチャップで煮こむから、汁っぽくても具に味が染みてておいしいよっ!!  ①材料 牛サイコロ肉(安い肉を柔らかく煮るとよい) ※ニンジン ジャガイモ タマネギ etc…… 米 ニンニク 市販のカレールウ ショウユ ウスターソース ケチャップ  要するにテキトーに何でもぶち込めばよろし ②米を炊いておく ③野菜を大ざっぱに切る ④肉・野菜を入れる ⑤ショウユ・ウスターソース・ケチャップを加える ⑥鍋を火にかけ煮物を作る要領で2時間煮込む ⑦カレールウを入れて30分ほど煮込み ⑧ごはんにかけてできあがり  うまいぞっ!! 肉は豚やトリにかえても、またはハムやソーセージに替えてもよし。ちまちまやらずに大胆に作ろうぜっ。※カラくちのカレーが少なくなったとおなげきの貴兄に!! 他の鍋に小分けしてトンガラシ2 3本も輪切りにして投げこめば、大人用カラくちカレーのできあがり。 「お嬢様ノお母様ト妹様が、さっぱりシた汁っポいカレーがお好きナのデスよネ」 「……妹とかいんの、シオンちゃんの側の荻野家は」  和室で着替えるこけしを待ちがてら、押し入れの襖により閉鎖されたキッチンで二人、僕らは例の平行世界ネタで語り合ったのだった――と文章に起こしてみたら電波すぎて死にたくなった。今宵、我欲するは我自身の命。見逃すな…これが地獄の百景巡り。百連我殺しだぁ。  妖精と魔法少女が魔物を退治しちゃうとかいうファンタジック話も大概アレだが、僕らの世代が一度は夢中になった1999年のクライシスをSFチックに迎えた平行世界からロボット美少女がやってきたのも本当にどうかしてる。XとMADARAはいつになったら完結するんですか。  これがフィクションなら寺田氏(みんな大好き僕らのテラさん)に「ぼくならこの原稿から五つのまんがをつくるな、君のは詰め込みすぎだよ。テーマを通すことだよ、もう一度やってごらん」って絶対つっこまれてるし、ラノベだったらラブコメ度が足りないって編集に怒られてるね。  そも萌え枠筆頭のシオンこと紫苑弐式からして裸体が00に出てくる細っこいフォルムのモビルスーツみたいなバリバリ機械の身体だったりする体たらく。さすがに僕は「Vガンダムこそ至高のロリ巨乳だろハァハァ」とかいう領域には一生到達できないと思うのです。 「上かラ順に長女ガお嬢様、長男、次女ナのでアリマス」 「うちは長男と次男の二人兄弟だよ。何かあれだね、弟つーか肉親がさ、生まれてない世界もあるって想像すんのは結構ぞっとするもんだな」 「フフフ、お嬢様も同じコトを仰っテいましタ」  大阪で買った熊のアップリケつき手袋に黒光りする金属製の指を納め、首から下の肌を徹底的に覆う六月という時節柄あり得ない厚着をしつつシオンが微笑む。銀髪にオッドアイなんていう夢小説の主人公みたいな容姿も含め、今後ますます悪目立ちするんだろうなこの娘は。  光妖精ナナルリエ曰くこけしが町中で盗撮されその画像がネットに流出したこともあり――僕らのホーム特定にもつながったわけで「姉様の未熟さがこの事態を招いたのだわ」とか結構怒られた――なんか年頃の娘に寄り付く悪い虫を警戒する父親の気分って言うか。 「弟想いナのデスね、御主人様は」 「どうだかねえ。……弟が生まれつき心臓病でさ。ああ、手術して治りはしたんだけど。ずっと甘やかしてきたから、あいつが俺のライフワークになってんだろうな」 「お嬢様も心臓に病を抱エる妹様ヲ大事に想っテおられタのデス。妹様も外科手術で完治ハされたのデスけど……」 「女の子だと胸に残る手術痕とか、うちの弟以上にトラウマだろうな」  そうですねと頷き、シオンが「お嬢様が頑なに胸元ノ開いた衣装を着用されナかっタのも、妹様を気遣っテいたのデショウ」と言いつつ自分の服装を指す。彼女が冷蔵庫の上に置いた手鏡に、つくづく似た者同士なのだと苦笑する僕の女みたいな顔が映っていた。  コッコクェドゥースイナクシャータリア11歳。母親はなく父親はしがない没落貴族のヤリチン風来坊。この朝…なんのとくぎもない、この小さな少女の胸の中に一羽の情熱の火の鳥が目を覚ました。そして、それは目を覚ましただけでなく、リアの胸の中で大きくはばたきはじめたのである。 「げーんかーいなーだーのー、しーおかーあぜにー♪」  気がついて? 真澄さん、小野寺さん。あの子、普段は日本語が片言なのよ。それなのに福岡“ダイエー”ホークスの応援歌を一言一句みごとにまちがえずにオフィシャルCDのこまかな音程とアクセントまで完全再現してしまっているのよ。紫苑弐式…おそろしい子!  姉さん。そっちではどうなのか知りませんが、僕らの世界のダイエー原店(家から徒歩五分)は数年前に潰れて原サティになりました。ホークスもスポンサーがソフトバンクに変わってしまいましたが、店内にはいつもホークス応援歌が流れているところは何ら変わりありません。 「最後のダイエーとソフトバンクの差し替えガ、未だニ慣れナイのでアリマス」 「そもそも歌うなという話じゃがな」  原サティ1F。店内に流れるBGMを口ずさみ周囲の注目を浴びまくっていたシオンの隣で、こけしが釣り鐘帽子の下から赤らんだ顔を見せる。先頭の二人に続き化粧品売り場の横を抜け食料品売り場に向かっていたところ、ヒィナが後ろから僕の肩を叩いた。  敷地内のクリーニング屋に預けていたあかりのセーラー服を受け取りたいので案内して欲しいと申し出てから、コホンと咳払いし神妙な顔で「妖精の姫としてお頼み申し上げます、人間のオギノマサキ殿」と言葉を重ねる。潜めた声が、内緒話がしたいのですよと付け加えた。  彼女が前を行く二人――と言うよりこけしの視線を気にするので、こちらも何となく小さな声で応じてしまいますよ。急に普段のゴザル口調が素に戻ったのにもたまげたし。そんなこんなで二手に分かれ、食品売り場に向かうシオンとこけしが視界から消えたところでヒィナが切り出す。 「リア殿について、お話しすることがございます」 「うん」 「我々とあなた方の契約関係が、恒久でないことは御存知なのでしょうか?」 「ああ……そうなんだろうなとは思ってたよ」  こけしが直接その話をしたことはないが、道明寺ジュリアと火妖精ネーネコニャの関係から薄々と気づいてはいた。ネーネコニャがジュリアの人見知りを案じてあれこれ世話を焼くのは、いつまでも自分が一緒にいてあげられるわけではないからってのもあるんだろうなって。 「我々が原則として清らな乙女とのみ契約を結ぶということは?」 「それは聞いてるよ。コンビ結成当時は貧乏クジを引いたのなんのとボロクソに言われたし」 「ああ……悪気があったのではないと存じます。我々は、清らな乙女の下でこそ真の力を引き出せる存在ですから」 「彼女が実力を発揮できてないってのはわかる気がするな」  だって俺……魔法少女に付き物のマジックアイテムとか持ってないし……。まあ、それはあかりも同じだよな――と後ろからついてくる彼女に同意を求めると、何故か顔を真っ赤にして「セクハラだと……思うんですよね……」ともごもご呟く。 「その……つまり、八百万の神と、巫女ですから。ヒナちゃん達と、ボクらって」  クリーニング屋を前にして、僕らはかき氷を買ってしまった。ブルーハワイは柑橘系の香料だからソーダ味になるようでならなかった。その売り場に、空いたテーブルを見つけて居座っちゃったの!! ガラガラなのは平日なんだから当然でしょうね。驚嘆、驚嘆。 「八百万の神そのものと定義いたしますと語弊がございます。その霊性の一部が、時を経て異国のそれと融合したものとでも申しましょうか」  歴史の浅い一族ではありますがと前置きしてから、ヒィナが「八百万の神とも呼ばれた人ならざる存在に源を求めればこそ、我々の特質もまた旧き伝統に因るのです」と先程のあかりの発言をフォローする。 「古来より、人ならざるものの力を行使するのは清らな乙女にございます。故に我々は、乙女との契約を前提に女達を送り出すのです」 「それが男じゃ駄目なんだ?」 「同性なればこそ、別れの覚悟ができましょう。異性であれば、恋に落ちることもございます。共に歩む未来を夢見てしまいます」 「うちの相棒に限ってそれはないな、俺もロリコンじゃないし」  あかりとヒィナが顔を――「駄目だこいつ…早くなんとかしないと…」と言わんばかりに引きつった顔を見合わせ、揃って軽く溜め息をつく。何その反応!? お願いしますよ信じて下さい。ナンミョウホーレンソ~、オガンダム~。ナムアミアーメン、オガンダムゥ~。 「……ひとまず、一つ屋根の下に暮らしていて何もなさっておられぬわけですからね」 「常識的に考えて小学六年生とかの子供にそういうアプローチしないから! つーか何でそこだけ確信してんの!?」  辞書でいやらしい単語調べてて発見したんだが…。「ろりろり」とは恐怖や心配事で落ち着かない事を表すらしい。「幼い女の子」って意味じゃねえ!! びっくりだぜ!! まあ「興奮する」って部分は類似してっけどな!! わかんだろ? 「粘膜で異性を知るという行為は、肉の生を実感させると共に著しく霊性を消失させるものでございます。貴殿がリア殿の力を行使し得る以上、身の潔白は承知しておりますので」 「えーと……つまるところ、魔法で少女なアレに必要最低限な条件ってそれ? あかりちゃんがセクハラだっつったのもそういうこと?? そもそも関係者全員に俺が清い身体なのバレバレだってことかい!」 「然様に存じます。我が主と貴殿の霊性に欠落が見られるのは、年齢に起因しているものかと。特に貴殿は男性ですから、契約に必要な霊性を保持するには相応の純潔性を要することでしょう」 「知りたくなかった事実に死にたくなる……」  ろりろり――――!!!(恐怖や心配事で落ち着かない事を表す)現時点で二級魔法少女・荻ノ花真咲の正体を知ってるペアは四組。光妖精ナナルリエと千秋早苗には24歳女子で通したものの、他の一級魔法少女ペア三組には個人情報ダダ漏れだよう!  特にSEXY妖精ティオトリオが生真面目な相棒にあれこれ吹きこんでる光景なんかはものっそ容易に想像できる。こんな理由で正体バレを恐れる変身ヒーロー(笑)なんて僕くらいだろ……これはなんというナイトメア・オブ・ナナリー。ろりめくッ!(動詞) 「――そろそろ本題に移りましょう」  スプーン状にカットされたストローで半ば溶けてしまったかき氷をシャリシャリかき混ぜながら、ヒィナがコホンと咳払いをする。ごめんね、ユニコーンに対するへっぽこーずみたいなリアクションとっちゃって。 「リア殿と、彼女が置かれている状況について申し上げます」  バイストン・ウェルの物語を覚えているものは幸いである。心豊かであろうから……。姉さん。あんたの住んでる宗教色のディープなSF世界も大概アレですが、僕を取り巻く魔法少女な和製ファンタジー設定も酷いもんです。  …ぷぷ! でもよくあるんだよネー。「ギャグなら何でもあり」と勘違いして、ひとりよがりのつまらぬギャグを「シュール」とか熱ふいてたり。「ファンタジーなら何でもあり」と勘違いして、読者も覚えられない無駄な設定をたれ流してたり。 「――なんか安土桃山時代末期とか江戸時代初期とかって感じだね」  大きな戦もなくそれなりに平和で、武から政への転換期を迎えた封建社会。要約するに、ヒィナによれば今現在の妖精界ってのはそういうところらしい。十二国記みたいな“よくできた設定”も特になかったし要約で十分すぎるだろこれ。  元来、神は祟るものである。その側面が顕在化したものが魔物であり、これが一つの生命として人間に定義されてしまえば神々のなれの果ては神秘を失い物質へと変化を遂げるとか何とか。「今北産業」「魔物 人知れず 葬る」みたいな。  魔法少女に魔物を人目に触れる前にSATSUGAIさせることは彼らの世界を維持する上で重要な営みであり、今やその成果が権力に結びつく構造ができあがり、才能ある身分の低い娘を養女という形で売買する歪みを生じる。  時代の変化に没落する貴族がいれば台頭する平民もいる下剋上アリアリな時世であり、前者がこけしの父親コッコクェドゥースイナクシャータ某で後者がこけしの後見人プッティゼファレオニスだってのが一つの要点だ。 「うちの相方は、あれで律儀なんだよな……」  完全に溶けた青い液体を一口すすり、こけしとの出会いから今に至るまでを思い返す。結果を出そうと焦っていたのは、おそらく後見人への恩義に報いるためだ。だから彼女はきっと、そいつの望むままに生きようとする。  魔法少女の相棒として妖精界の維持に大きく貢献し、お家を再興すればレオニスとかって爺さんは有力貴族の後見人として更なる権力を得るというわけだ。成り上がりの発想としては政略結婚に行き着くし、こけしはそれに応えるだろう。  あんな年頃で、自分を夢も希望もない人生設計で縛ってどうするよ。子供は子供らしくしてりゃいいんだ。くそ。ささくれ立つ感情を温いブルーハワイと一緒に飲み干し、空になった紙コップをくしゃっと握り潰す。本当、ヤな感じ。 「……これも老婆心ってやつなんかねえ」  ああ、そうか。イラつく理由がわかった。いつからか、僕はあの小さな風属性の妖精の少女を妹とか娘とかみたいに想っていたらしい。だから癇に障るんだ。彼女の幸福を望む気持ちと、独占欲とが入り混じって。 「余計な世話を焼きたくなるお年頃なんだ、俺。その爺さんなり放蕩親父なりに、ガツンと一言物申してやりたいな」 「では、何と申されますおつもりで?」 「俺のパートナーを不幸にしたら許さんって感じで。アドリブ弱いからさ、気の利いた言い回しを考えとくよ」 「それは結構」  瞳を細め、ヒィナがお姫様らしい気品のある微笑を浮かべる。そのあまりの愛らしさに思わずエロオヤジみたいな表情で蕩けていると、べしっと頭をはたかれた。買い物を終えた風妖精が、ふくれっつらで こちらを みている! 「貴様という男は油断も隙もない……!」 「……油断と隙しかないんで忍び足で近寄るのは勘弁して下さい」  結局シオンの案内で制服を受け取りにいった八神主従と別れ、不貞腐れる風属性の妖精様と二人きり。二杯目のかき氷(イチゴ味)をつつき、赤い山を崩す。納涼フローズンおかわりっ! Berry’s flavor syrup! 「――ここのところ萌え四コマが濫造されてる感があるのは、設定がテンプレ化しすぎてるせいじゃないかとかですね」 「嘘じゃ! 一聞にそんな会話ではなかったぞ!」 「ロリとお嬢様とツンデレとレズと外見が幼女の大人(規制回避)が氾濫するこんな世の中じゃPOISON」 「汚い嘘や言葉で操られたくないPOISONとでも返せばよいのか?」 「いや、まあ、あんたらの故郷について色々聞いてたんですよ」 「……ふうん」  歯切れの悪い返事に、話が彼女のプライベートな部分に及んでいた事を察したらしい。こけしが気のない相槌を打って氷を口に運び、不等号で作る顔文字みたいな渋面を見せた。 「キーンてなったら、器で頭冷やすといいスよ。混乱している神経系統に正しい刺激を……要するに科学の勝利だ!」 「ん。まことに……貴様という男は敏いのか鈍いのか……」  額に紙コップをあててから、何やらモゴモゴ呟きうつむく。顔を覆い隠す釣り鐘帽子の下で、紙コップを持つ左手が頬のあたりに動いていた。頭痛のメカニズム的に、顔を冷やしても効果ないだろうに。  ……それにしても、一向に戻ってくる気配のない三人娘は制服を受け取るだけなのに何やってんだか。Ease my mind.Reasons for me to find you.Peace of mind.What can I do to get me to you.――女心とガニメデの空ってやつか。 「……童の如きにしつこく詮索するつもりはないのじゃがの」 「遠慮するこたないでしょ、あんた子供なんだから」 「子供扱いするなと言うておるに」  ことん。うつむいたまま、こけしが紙コップをテーブルに置く。右手のストローがシャリシャリと氷をかき混ぜ、ただの赤いジュースっぽいものへと変質させていった。わたしの生きる天は、この赤い河のほとり。そしてこの赤い大地!! 「あの……あれじゃ。わらわの話を、しておったじゃろ?」 「そうスね」 「いや、その、聞こえておったでな。マサキが、物申すと……わらわのために、言ってくれたのは……」  釣り鐘帽子の下で、左手が紙コップを再び頬にあてたらしい。空いた右手がテーブルの上でしばらく泳ぎ、帽子を軽く持ち上げ小さな顔を覗かせる。交互に冷やした両頬が、ほんのり赤くなっていた。  アル。私の親友、アル。早いもので、あたしがあなたのいるコロニーを去ってから、既に三か月近く経ってしまいました。あなたは元気? 戦争も終わり、あなたも間もなく進級だと思います。  さて、何から話せばいいのかしら……。いつもは言いたいこと伝えたいことがいっぱいあるのに、いざこうしてキーを叩くとなかなか言葉が出てこないものね? (バアーニィイイーーー!                   ハロッ) 「――わらわがレオニス翁に拾われたのは、物心つくかつかぬかという頃での。父上のことなぞ記憶にないし、母上との思い出も朧げじゃ」  奥歯にニラでも挟まったような顔でしばらくアウアウ言ってたこけしが、何度も咳払いをしてからようやく身の上話を始める。そう言えば、彼女の家庭事情に踏み込んだ話をするのはこれが初めてなんじゃないだろうか。 「ああ、そうじゃ。レオニス翁には父上の旧臣という縁があったでな。野心こそあれ、身寄りのないわらわに良くしてくれた。優しくはなかったが、貴族の姫として遇し、何不自由なく育ててくれた」  やんごとなき身分の淑女としての、魔法少女を支える戦士としての英才教育を指折り挙げて、こけしがストローを咥える。氷混じりの赤い液体が吸い込まれ、カラフルに着色された紙コップを空にした。  ま、十分な愛情を受けられない教育環境が、優しくはなかったという表現から容易に想像できるわけで。そうなんだ、ピップ。わしがおまえを紳士にしたんだ! おまえを紳士にしたのはこのわしだ! 「感謝はしておるのじゃぞ。受けた恩には、報いねばならぬと思う」 「……道理っスね」  正しいことを言ってる。正し過ぎて、口出ししようがない。自分の力だけで生きてるみたいな顔して、我が身の不幸を嘆き身勝手な我儘を言うのが普通な年頃のくせに。  こけしの後見人が悪意だけで彼女を育てたなら、こうも真っ直ぐ育ちはしないだろうな、とは思う。平民から上流階級に成り上がる大人物というのが、安手のフィクションに出てくる政治家のような小賢しいだけの策士ってこともなかろう。  かつての主が行きずりの女に産ませた娘を、政治の道具として利用する悪党であり、限りない誠意を以て育てる善人でもある。清濁を丸ごと併せ呑んで、人間的な魅力を放つ大人物。こけしの後見人は、多分そう言う種類の人間、もとい、妖精なのだ。 「じゃからの……つまり、恩がある故にの。甘えられる相手ではなかったし、直接わらわを教育した家臣達も然りじゃったな」 「はい」 「じゃから、その、誰かに甘えられるというのが、新鮮での。マサキに巡り合えたことは、わらわにとって、その、つまりじゃな……家族なのじゃ。わらわにとって、初めての」 「ああ、俺もあんたが妹みたいにかわいくて仕方ないですよ」 「……恥ずかしいセリフ禁止、じゃぞ」  ことん。空の紙コップがテーブルに置かれ、その両手が正面から釣り鐘帽子をずり下げ顔を隠す。短い沈黙を経て、こけしの「それが良いのかもな」という呟きが帽子の下から漏れ聞こえた。  24歳、無職。ついでに彼女いない歴24年のキモオタ。  寂しがり屋の二人が出会って、孤独を埋め合って、少女が初めて作ったカレーの中の不揃いな野菜みたいに一つになる――なーんて、上手いこと言ったつもり、みたいな。

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