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一級魔法少女★第二十六~三十幕」(2010/08/12 (木) 08:52:03) の最新版変更点

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[[オリジナル>>http://dqm.s198.xrea.com/patio-s-kontesuto/read.cgi?mode=view2&f=2532&no=10]] 「パパンがパン。あっそーれ。だーれが殺したクックロービン♪ あっそーれ。だーれが殺したクックロービン♪」  歌詞を忘れたのだろう。荻野真咲の口ずさむ曲が延々とこのフレーズを繰り返し、無人の女子トイレに虚しく響く。  例によって“不可解な臨時休校”を迎えたその夕暮れに、再び怪談騒ぎの後始末に付き合わされたのは吉と出るか凶と出るか……。  一連の騒動に深く関わり過ぎた私の記憶をいじると脳に悪影響が出るって理屈はともかく、体の良いパシリにされた気はする。 「……コードギアスだっけ? 日曜の夕方やってるガンダム」 「ロボットアニメを何でもガンダムって呼ぶの、マニアに反発されますよ」 「こないだテレビつけたら偶然やってて。ギアス能力って言うの? あれ、バンコラン少佐の眼力みたいね」 「知りませんよ」  掃除にも同じ歌詞を延々とループさせるのにも飽きたらしく、真咲が瓦礫の山に腰掛けて、苦笑混じりにこちらを見上げた。  どういう原理なのか、前回はこういった破片から壁と窓を元通りに修理したのだから得体の知れない人ではある。  まあ、人体模型と同じく今回の骨格標本も「細かいものは修理できない」のクチなんだろうけど。  ……私が言うのも何だけど、なんてインチキ臭い技能なの? 魔法よりよっぽど応用が利くんだからふざけてる。 「魔女先生ってのは上手いことを言いましたよね、あの子」 「ああ……山下さんとあなたを助けたの、二度目なんですって?」  自分と同名の女を討つと“ユーリィ”に宣言した荻野真咲の真意がわからない以上、二級魔法少女マサキのことは秘密にしていた。  ……していたのだが、事情を知らない美鈴が興奮してペラペラ喋ってしまったからには、連休中の一件を話す羽目になったわけで。 「仲が良いのね、あなた達。フフ、大切なことよ、友達がいるのって」 「それって問題児への指導ですか?」 「わかる?」 「……先生が、熱心に先生をやってるのはわかりますから」  私が今のところイジメは受けてないにせよ、同級生に敬遠されてるのは事実だ。それとなく注意するように言われてるんだろう。  面倒臭いなという顔をして見せると、真咲が苦笑を浮かべて立ち上がり、こちらに背を向け瓦礫に相対した。 「先生だからって言うか……似てるのよねえ、あなたって。昔の私に」  例の赤い手袋をはめながら、自称27歳の大人が、その背中が、懐かしいような、寂しいような声で私を打つ。 「……私ね、生まれつき何でもできる子だったのよ。勉強も運動もね。自分で言っちゃうのも何だけど、そこそこ美人だし実家もお金持ちで、恵まれてたと思う」 「自慢に聞こえますよ、それ」 「フフ、そう聞こえるわよねえ? ……努力して、結果が出て、褒められるのが嬉しいからこそ、自分よりできる人や恵まれている人に嫉妬することもあるっていうの。理解、できなかったから」  例の「コールうんたら」という呪文を唱えて拳を瓦礫に叩きこむと、瓦礫の山が淡い光を放ちながら空中に舞い上がる。 「だから、人付き合いだけは苦手だった。どうして疎まれるのか理解できなくて、面倒だから避けてたのよね。だから余計に敬遠されて、どんどん一人でいるのが好きになって……」  耳に痛い話をしながら修復した壁をコツンと叩き、真咲がこちらを振り返った。人好きのする笑顔で。 「でも、あなたは友達を作れる子だから。大丈夫なんだろうなって、安心した」  意を決して愛を告白しようと想い人の家に向かったら、彼は外国人の美少女(小学生?)と同棲していた――。  予想外の展開に「これだからオタは(ry」「ぁたしはいい人なんだって信じてるお(σ*^3^)σ」と“祭り”になってから四日。  アイポンのブログは特に進展してないけれど、妖精ネットの方は空前の大騒ぎになっていた。 「――いち早く零級魔法少女に昇級した者には竜殺しの剣を授ける」  突如として魔法少女協会が打ち出した新制度を復唱し、「これがどういうことだかわかります?」と真鶴メイが続ける。  今まで最上位だった一級の上を行く新たな称号。旧制度のそれとは意味合いが完全に違ってくるのは、私にもわかった。 「……足の引っ張り合いが始まんのよね。誰かが先に昇り詰めたら終わりだから。ま、私は興味ないけど」 「何を他人事みたいに……」  クイクイとエア眼鏡を直し、メイが白い頬を紅潮させる。そうだ。わかってる。……とんでもなく面倒なことになったって。 「その零級まで最短距離にいる私達が例の“魔女狩り”に速攻で狙われるってことでしょ? 本気でウザイけど」 「ええ。魔法少女協会は、それで犯人をあぶり出すつもりなんでしょうけど……」  歯切れの悪い返答。クイクイと眉間を指で押しながら、メイが声を潜めた。 「逆に、それが新たな“魔女狩り”を生むんじゃないかと――」  数拍の間を置いて、言いにくそうに続ける。 「――二級魔法少女・荻ノ花真咲は考えているそうです」  一級魔法少女・真鶴メイが二級魔法少女・荻ノ花真咲(私はフルネームを初めて知った)と接触していたこと。  メイの情報(私の学校で起きた幽霊騒ぎだ。誰だネットに流したの)を受け、マサキは学校にも行かず東京に出向いたこと。  そして、例の新制度導入の通知から数十分後、マサキからメイに警戒を促す旨のメールが届いたこと――。  誰にも言うなと前置きした上でこれらの情報を語り終え、メイが軽く溜め息をつく。 「……これを意図していたわけじゃないけど。どうやらマサキの異常な戦果は、彼女が不登校だということも関係あるようで」 「ネトゲで言うところの『廃人乙』と」 「より多くの戦果を上げるためにそこまでできるという意味では、“魔女狩り”の可能性も捨て切れないんですけど」 「ん……」  結局、誰も信じられないってことか。そりゃそうだって話ではあるけど。私達は、お友達じゃないんだから。  この妖精ネットでしか面識がない相手を全面的に信頼できるはずがないし、私もメイもお互いに相手をそういう目で見てる。  私は彼女を完全に信用しきれてないから、マサキと再会したこと、そして荻野真咲というイレギュラーの存在を口にしない。  同様に、メイはメイで私に全てを打ち明けているわけでもないんだろう。……やだな、この状況。本気でウザイ。 「……ですが私は、“魔女狩り”はほぼ確実にマサキではないと思っています」  お互いに相手の腹を探り合うのにも飽きたらしい。メイが、一歩踏み込んできた。 「彼女の妖精が、特別な存在であることがわかりましたから」  コッコクェドゥースイナクシャータリアは、代々、勇者に仕えた家系の末裔である。  その特殊な血が精霊界以外の外敵をも感知させ、魔法少女協会に、本来あるはずのない戦果を計上させていた――。  確かにネネコは人体模型や骨格標本を感知できなかったし、敵と味方を区別できない協会なら魔物も妖怪も同様だろう。 「……つまり、魔法少女を襲うまでもないチート技能があるわけね」 「彼女の『人間みたいに動く骨格標本を破壊した』という話に嘘偽りがないことが前提ではありますが」 「ああ……」  話すべきだろうか。その現場に私もいたのだと。私の身許が特定されるリスクを負ってまで。  ……さすがに、真鶴メイが私の身を案じてくれていることまでも、演技だと疑うのもどうかとは思うけど。  ただ、内緒話機能を用いてはいるものの、魔法少女協会のシステムには何かしら穴がありそうな気はする。 「……事実だよ。その骨格標本、私の学校の備品だから」  委員長を信じてみよう。それで情報が漏れて、襲われたら“魔女狩り”をしばき倒して一件落着。めでたしめでたし。  慎重路線でウダウダしてるなんて、私のキャラじゃない。両手ぶらり戦法でいいや、もう。 「……ユーリィさんのプライベートな話を聞いたのは初めてです。東京の人なんですね」 「んー……」  そう言えば、そんなことも口にしたことがなかったのか。“魔女狩り”騒動以前は特に意識してなかったはずだけど。  自覚してなかったけど、どうやら私が自ら壁を作ってるところがあるらしい。……荻野真咲の少女時代のように。  そして、メイが何事かを言い掛けたのと同時に、内緒話機能が強制的に解除される。  ズズゥゥゥンと地響きを立て、広場(に見える空間)に、巨大な、文字通りの“掲示板”が突如として突き刺さった。 「……XYZは危険なカクテルって感じ」 「妖精ネットに李大人はいませんよ」 「へ?」 「……何でもないです、スルーしてください」  真っ赤になってるメイから視線を移し、シティーハンターに出てくるような、レトロなデザインの掲示板を見上げる。  RECODE   1.一級魔法少女 神谷ヒカル    352897pts   2.二級魔法少女 荻ノ花真咲    348751pts   3.一級魔法少女 真鶴メイ     334908pts   4.一級魔法少女 ユーリィ     310035pts   5.二級魔法少女 有栖川たまき   247842pts                   ・                   ・                   ・ 「……何の冗談だ、これ」  魔法少女達の成績を示す掲示板に、空気が一変した。殺気立ったというか、何か、イヤ~な感じ。気持ち悪い。  私とメイに視線が集中し、そして神谷ヒカルと荻ノ花真咲の名を呼ぶ声があちこちから聞こえ始める。  ……ふざけてる。魔法少女協会は、一気に膿を絞り出そうとしてるんだ。  ぞくっと背筋に冷たいものが走る感触に、新たな“魔女狩り”が生まれるという言葉が思い起こされた。  たまたま、偶然このタイミングでネネコが魔物を感知しなくても、妖精ネットから退出していたと思う。  掲示板に集まった魔法少女と妖精たちが醸し出す、あの異様な雰囲気に我慢できなくて。 「……神谷ヒカルと荻ノ花真咲がツートップ、か」 「皮肉な話ですけど、ジュリアんが上位三名に差をつけられているのは僥倖ですの」  肩の上で、妖精のネネコが軽く息を吐き出す。その蝶のような翅が、力なくぺたんと垂れていた。 「こうなると魔物の元へと案内するのも気遅れしますわん……」 「目をつけられるのは嫌だけど。だからって、逃げるのはもっと嫌だよ、私は」  魔法少女は正義の味方。……と自分で言うとむず痒いけど、それが大前提だと思う。  それだけのシンプルな話なのに、何で味方同士で駆け引きするような状況になってるんだか……。 「……真っ先に狙われるのは神谷ヒカルか荻ノ花真咲だろうって。……私じゃないんだって」  魔物の元へと向かう私を、そのもやもやした気分を映したような曇り空が見下ろしていた。 「少し、ほっとした自分に……腹が立ってる!」 「自分も御主人サマのオ役に立つのデス! 紫苑は御主人サマのタメに武器ヲ召喚でキルのデス!」 「聞きましたかコッコさん。オレ達は今、クラークの三法則を具現化した超展開に立ち会っている!」 「わらわが武器を出し損ねたのを見計らったように……。何じゃこの冒険百連発なトンデモ娘は!」  荻ノ花真咲が昼間に現れたことを思えば、それは不思議でも何でもないことだったんだ。  奥多摩の山中に駆けつけた時、既に彼女が先回りしていたこと自体は。 「じゃあ、せっかくだからオレはグレートソードを選ぶぜ!!」 「御意ナのデス!」  おや、と思ったのは、マサキが片言の日本語を喋る見慣れぬ少女を連れていたことだ。  暗くて姿がよく見えないと思った瞬間、「コール」という声と同時にその背中から……翼が、生えた。  紫色の光で構成された、鳥のような翼。それが主を照らし、その天使じみた姿を顕わにする。  ……銀髪の長いストレートに青い和風のドレス。このぶっ飛んだ存在感はまるで――。 「該当プログラム検索終了……行きマス、御主人サマ!」 「どんと来い! 超常現象」  荻野真咲みたいだ。奇妙な既視感そのままに、謎の少女が唱える。あの不可解な呪文を。 「コール。召喚プログラム、アメノハバキリ!」  天使少女が両手を前方に伸ばし、その掌からバチバチと火花を散らせた。  空間が歪んでいるとでもいうような奇妙な感覚。荻野の真咲が、壁なんかを修復した時のような――。 「ファンクション!」  ああ、やっぱり。本当に剣が出てくるのね、みたいな。  今更その程度で驚きはしないし、何かこう……慣れていくのね、自分でもわかる。  ざっと2メートルほどの巨大な刀を、その半分しかない身長の子が手にしているのは妙な光景だけど。 「……なんて素敵にジャパネスク。グレソを指定して筋力24クラスの日本刀がくるとは予想外だ」 「いよいよ貴様はわらわの魔法少女像からかけ離れていくのう」  妖精コッコ(省略)の呆れ声に相槌を打ち、マサキが巨大な亀のような魔物に向かって突進した。  いつものように、魔物を狙撃するには両者の距離が近すぎる。  うっかりマサキに攻撃してしまえば、私が“魔女狩り”なわけだし。 「……彼女、必要ないんじゃないの? 竜殺しの剣とか」 「ジュリアんは欲しいですの?」 「別に。インファイトは私のスタイルじゃないし――」  魔法少女に変身している時に、強化されるのは筋力だけじゃない。  聴覚を含む五感も研ぎ澄まされるから、離れた位置にいる三人の会話を聞き取れるわけ。  だから、気づかないはずはなかったんだ。その存在に。 「……踏み込むのは怖い」  細い男の声。誰もいるはずのない、いてはいけない、背後から。  意表を突かれた。びくっと身体が反応し、集中が途切れ、炎の矢が消失する。  振り向こうとした瞬間には、“そいつ”は音もなく私の隣に――現れた、というのが正しいと思う。  陳腐な表現だけど、線の細い美少年ってやつ。金髪に碧眼の。女子にキャーキャー言われる感じ。  兄さんがそういうタイプだからか、私にはこの手のタイプにうっとりする属性はないけど。 「――だろう? 君は常に、他者と一定の距離を置きたがる性質を持っている」  流暢な日本語。揶揄の響き。全てを見透かしているような。上から目線な。……本気で癇に障る。  その端整な横顔がマサキを一心に見詰めていて、こちらを全く見ようとしないことも含めて。 「魔法と科学、ロストテクノロジーとオーバーテクノロジー……。その差異はあれど、行使する力が主の本質を映すことに変わりはない」  わかるようなわからないような話。こちらに理解させるでもなく、かと言って独白でもなく。  無言で身構える私とネネコを意にも介さず、その少年がくすくすと笑う。  ……この置いてきぼり感。同じだ。荻野真咲と。ぞくっと寒気がする感じを除けば。 「はは、滑稽じゃないか。主役を失い闇に葬られた脚本の役者が、書き直された脚本に介入して機械仕掛けの神を気取るなんて」  癇に障る笑い声。そいつが初めて私を見詰め、きれいな顔に薄気味の悪い笑みを浮かべて見せた。 「そうだろう? この世界の語り手、ストーリーテラー」  ――平成20年5月30日。そこで一度、私の意識は途絶えている。

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