言いづらいこと


ペチャンコのカエルよけて、独り缶でサッカー。工場から漏れる煙、おじさんにコンチハ。
ここにいたら負け犬、フンだらけの履歴書。そんなのは嫌でしょ? みんな外で暮らしたい。
そんな思いは家に対しても変わらない。ただいま、ドアを開けて広がる景色は、
まるでゴミに群がるドブネズミの住処のようだけど、受け入れるしかない­。
父さんは酒飲み、仕事なんかしてない。母さんが苦労するのは当たり前。
姉ちゃんを最後に見たのは二年前。今時の馬鹿な奴とバカな暮らし始めたって、
父さんがキレてた。母­さんはあきれた。僕は電話してみたけれど電話代が切れてた。
犬のポチと川辺走り、燃える夕日眺めた。家に帰り、部屋にこもり、そっと耳を澄ませた。
酒はまだか、酒はまだか­、またまた始まった。金はないし、笑顔ないし、つもる不幸、底なし。
窓を開けて空を見た。ザッと雨が降り出した。親友のタケシに愚痴をこぼす毎日。
奴が死んで、骨になって­、はたから見れば独り言。風呂の掃除、靴磨き、丁寧にゴシゴシと。
こっちをジロリ、ムスリ、酒のにおいプンプン。父さんが酔った時は口を開けちゃならない。
「我慢がならな­い」 ツバを飛ばし、怒鳴った。僕はそっとつま先立て、部屋の方へのぼった。
象のような足音、町中に響いた。父さんはドアを開けて、僕の襟を掴んだ。
左頬を殴った。横腹も蹴られ­た。うずく体、やけに痛い。父さんは止まらない。
しゃべる言葉、ギコちない。憎しみも感じない。ここで首をはねられ、死んでしまいたい。


なぜ、近くにいながら、分からない、お互いの気持ち。
誰がこんな僕たちを一つ屋根の下に放り込んだんだ。
なぜ、近くにいながら、分からない、お互いの気持ち。
誰がこんな僕たちを一つ屋根の下に放り込んだんだ。


ある爽やかな夏の日に、いつもは静かな母さんが嘆いた。あなたと結婚して、人生が終わった。ゴングが鳴り響いた。戦争が始まった。
でもそれは僕の早とちりだった。仕事のな­い父さんは静かに謝った。これからやりなおす、酒も、仕事も、心配いらない。
今八月、あの時の宣言から二年経つ。全く変わらない。母さんの人生も終わらない。シワは増え続­け、近くもよく見えない。
帰り道、寄り道してみた。落ちていた石を拾い、投げ捨てた。運悪いことに人にあたった。知らない振りして、早歩きで逃げた。
家帰り、掃除、殴られ­る日々から、逃げ切れない。可哀想な母さんを置いてけない。酔っぱらった父さんを見捨てたら、天国のタケシが許さない。
奴は分かってる。何年も耐え続けて来たけど、今しか­ない、新鮮な気持ちで現実と向き合うしかない。
僕は父さんを起こすと怒鳴った、働いて、もし母さんが死んだら父さんのせいだ。そしたら僕は父さんを恨みながら、憎みながら、母さんを追って旅立つよ。
父さんはいつも威張­っているけど、甘えてる、自分の弱さにも強さにも。僕は父さんが本当は誰よりも強いって知ってるよ。


なぜ、近くにいながら、分からない、お互いの気持ち。
誰がこんな僕たちを一つ屋根の下に放り込んだんだ。
なぜ、近くにいながら、分からない、お互いの気持ち。
誰がこんな僕たちを一つ屋根の下に放り込んだんだ。


風がフワリとカーテンをなでる、とても気持ちいい時。
誰かが僕を拳で殴る、とても言いづらいこと。
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