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nhoshi

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#018 Martin Hewitt, Investigator / Arthur Morrison
探偵マーティン・ヒューイット / アーサー・モリソン


  1. The Lenton Croft Robberies / レントン館盗難事件
  2. The Loss of Sammy Crockett / サミー・クロケットの失踪
  3. The Case of Mr. Foggatt / フォガット氏の事件
  4. The Case of the Dixon Torpedo / ディクソン魚雷事件
  5. The Quinton Jewel Affair / クィントン宝石事件
  6. The Stanway Cameo Mystery / スタンウェイ・カメオの謎
  7. The Affair of the Tortoise / 亀の事件

『クイーンの定員』(名和立行 訳)の解説をそのまま引用する。

ドイルの同時代の模倣者のうち、歳月に最も長く耐えつづけたのは
(いうなれば、生き延びた重要人物は彼一人なのだが)、
それが、マーティン・ヒューイットである。え?知らない?
えぇまぁ、もう生き延びてはいませんから。

『クイーンの定員』第4章のタイトルは "The Doyle Decade." つまり、「ドイルの10年」であり、この章には1891~1900年の短編集が紹介されている。1900年ということは、思考機械も隅の老人もソーンダイクもルパンも入らないのだ(彼らは1901~1910年の登場。なお、ブラウン神父は1911年)。んー、そのカテゴリでは確かに生き延びたのは少ない。(プリンス・ザレスキーやラッフルズが今でも入手可能だが。)しかし今では、 『世界短編傑作集 1』に1が収録されているだけで、他ではほとんど読むことができない。忘れられた探偵である。

忘れられている理由は簡単で、「地味」だからだ。もっと正確に言えば、マーティン・ヒューイットのことが「語られていない」。たとえば彼自身の風貌についての描写がほとんどない。「レントン館盗難事件」の中で「丸顔」「小ぶとり」という描写があるだけで、服装、趣味はおろか年齢すらもわからないのだ。どんな人かと言われて、「法律と統計に詳しい」ぐらいしか出てこない。これでは長い年月を忘れられずに生き延びることは難しかろう。

しかしクイーンが評価しているだけあって、短編自体は結構面白い。ストーリーもひとひねりあったり、犯人や被害者にはそれなりに印象に残る人物もいるんだよね。

捜査方法としては実地型で、自分の目で現場を見ることの重要性を何度か主張する。あと、さまざまな場所に入り込んで、人々と打ち解けて情報を集めるのが非常に巧み。

マーティン・ヒューイットは 1894年3月、ストランド誌上にシドニー・パジェットの挿絵をつけた「レントン館盗難事件」で登場する。ホームズがライバッハの滝に落ちた「最後の事件」が1893年12月、つまりストランド誌がホームズの穴を埋めるべく担ぎ出した探偵こそが、マーティン・ヒューイットである、と言われます。そしてマーティン・ヒューイットの最後の短編集 "The Red Triangle" が1903年刊行。ホームズの「空き家の冒険」が1903年10月号なので、ホームズ不在の期間にストランド誌上で活躍したかのように言われます。が、実はストランド誌で発表されたのは僅かに7編。1894年9月の「亀の事件」を最後にストランド誌から姿を消したマーティン・ヒューイットは、明けて1895年1月から Windsor誌に活動の場所を移しています。移籍の理由はわかりません。Windsor誌の連載は1896年で終わり、かなり間を開けて1902年にHarmsworthy London誌で再々登場。これが1903年に刊行された"The Red Triangle" です。まぁ、さらに言えば1901年にはストランドでは「バスカヴィル」の連載が始まっているのですがね。というわけで、純粋にホームズの穴埋めだけをやっていたわけではないのですよ。

新本で読めるのは前出の「レントン館盗難事件」in 『世界短編傑作集 1』のみ。他は光文社文庫版『クイーンの定員』に2が、『シャーロック・ホームズのライヴァルたち 1』に4が。いずれも絶版。創元推理文庫から『マーチン・ヒューイットの事件簿』として、この2-7が入った短編集(他に第二短編集から4編)があるのですが、これも絶版。

創元の復刊フェアに出てくるのを待ちましょう。

映画「エンドレス・ラブ」でブルック・シールズの相手役を務めたマーティン・ヒューイットは、何の関係もないと思われます。もちろん。




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