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*未使用SSの一覧 **未婚ジゴロSS ツインアプリコット クレール@るしにゃん王国 海法よけ藩国の生み出したNW初の魔道兵器である未婚号。 数えるほどしか存在しないその決戦兵器のうち二台が,ここにある。 「いきましょう,S43さん。青が最強である,その証を示しに。」 「そうだね。はじめようか。」  二機のうちの一機が音を立てて稼動を始めた。 未婚号には本来即時攻撃の機能が備えられているが,それは確かに詠唱戦の準備行動だった。 未婚号とシンクロするように詠唱の準備に入る更夜はつぶやく。 「無名世界観では直接効力はないが,木は木気,雷は木気,そして春もまた木気の盛える時だ。  そして,術の寄り代に春に咲く花を使うとなれば。さぞ類似魔術の力は強いだろうな。くっくっく,さすがですね,青にして正義。」 「余裕言ってる暇はないんだけどね。俺一人で始めていいの?」 隣の機体に筒抜けだった。照れ隠しのように笑う更夜。 「ははは,ひどいなぁ正義。もう少し待ってください。」 「はいはい。急いでね。」 副腕と主腕の軌跡で魔法陣を描き終えた更夜は,一度目を瞑り,開いた。 ここからが本当の自分だと語るまなざしを携えて。 「青よ青 偉大なるアラダたる 青にして正義に冀う  あなたの友にして仲間 彼方駆ける風を追う者 あなたを愛する者たる我ら 地べたする幼き青の我は  僭越ながら貴方様の助力を いにしえの契約の履行をお願いもうしあげる。」 オーマのような詠唱を歌っても,彼はまだオーマではないし,青に助力を借りるこもできないだろう。 でも,らしく振舞うことこそが魔術の第一歩である。 いついかなるときもらしく振舞えば,たとえ自分が偽者であっても,いつか本物はあらわれる。だからやることはいつも同じ。 そう教えたのは,青ではなかったか。 「それは悲しみが深ければ深いほど 絶望が濃ければ濃いほど 燦然と輝く一条の光  それは夜が深ければ深いほど 闇が濃ければ濃いほど 天を見上げよと言うときの声」 未婚号にどくどくと注ぎ込まれる力を感じ取りながら,更夜は朗々と詠う。 どこからともなく,梅の枝を取り出した。FEGに旅立つ者へと青にして正義が渡した6本のうちの一枝であった。 そのガンプ・オーマを纏いし武具が,詠唱に応えるように淡く輝く。 「ここにあるは梅の枝 あなたを思う梅の枝 匂い起こし東風にて空舞う一振りの飛び梅」  そう これは冬が凍てつけば凍てつくほど 寒さに凍えれば凍えるほど 暖かに吹き抜ける春の兆 目覚めよと囁く世界の声!」 8つの魔道ユニットが声なき声をあげてフル稼働を始める。更夜の力が青い花びらのように周囲へと放出され,発動を補佐する魔法陣を重ねて編み上げる。 「この世が冬であるならば 我は春に咲く野の花となりて ここにひとときの春風を呼ばん!」 術式が込められた即時攻撃可能なクリスタルが稼動を始め,さらに力が膨らむ。 コクピットには,高い山に登ったかのようにあえぐ更夜。 無理もない。本来は5人で発動させる技を一人で,さらに未婚号の拡張機能を自らの力を注いでフル稼働させているのだ。 (これが…S43さんの見る世界…。なんて酷い世界だ…。) 魂が抜けるような感覚を覚えながら,隣の未婚号が動くのを感じ取った更夜は最後の言葉をつむぐ。 「完成せよっ! 飛び梅の雷撃!!」 **侵入SS ノーマ・リー  まさかこんな時にお鉢が回ってくるとは思わなかった。  数匹の猫と共に走りながら、ノーマ・リーは溜息をついた。別に深刻な顔はしていないが、溜息だけは出る。別に不満も愚痴も出ないのだが、一種の癖のようなものだ。  ああ何で僕こんなとこにいるんだろ、てかいつの間に一人で侵入してんの僕。 「にゃー(今更、怖じ気づいたか)?」 「にゃにゃー(こいつ結構ビビリだしねえ)」 「ほっといて。てかまだビビリでも敵前逃亡してないから。チキンじゃないから」 「にゃうー(あんま変わらないって)」 「変わるよ?! てか五十歩でも百歩でも結構距離あるよ?!」 「「「にゃーにゃー(変わってない変わってない)」」」 『……漫才はそこまでにしてください』  溜息混じりに声を――というか思念を送ってきたのは、同道する猫たちではなく、遠くで話を聞いていたオペレーターの方だった。 『そろそろ作戦区域です』 「……了解」 「「「にゃう(了解)」」」  途端にシリアスになる空気。  ノーマも口当てを引っ張り上げ、改めて武器をチェックする。  目的地まではあと少し。相手は視線が合えば即死。緊張しないと言えば嘘にはなるが、侵入する行為そのものに、彼は一切の危惧を抱いてはいなかった。  なにしろこの男、運だけはいい。その証拠にあれだけ騒いでいたのに敵の包囲網にかすりもしていない。何より死ぬのはそれほど怖くない。  どうせ一度、国と一緒に消えかけた事がある命だから。 「これより、作戦行動に移ります」 『……武運を』 「ありがと」  小さく笑って。  そうして、彼は猫三匹と共に、走り出す。 **医療支援 南無@るしにゃん王国 これで何度目だろうか、見えぬ戦況を思い描き七海は声には出さずに呟いた。 即席で用意された殆ど野ざらしと変わらぬ治療の場。 決して陽気の為などではない汗を拭う事も出来ぬ白衣、あるいはオペ服を纏う者達。 傷ついた兵士。血の香。漏れ聞こえる前線の気配。 コパイロットとして前線に出た事もあるが、戦場というのはそれがどこであっても同様の緊迫感に包まれる。 誰一人手を休める事は出来ず、足を止める事も出来ない、もしここでそれをする者がいればたちまち前線の死者が増えるのだ。 早く平和が来るといい、誰もが戦わず、この様な死との境界近くまで踏み込まず、生きていける世界が。 そんな、誰しも思っているだろうことを今更口にすることはなかったが。 外の景色が入り口を塞ぐ影によって遮られた。 小さな手術用テントの中にいることを思い出す。 今から自分はここに運ばれる重傷者を救わねばならない。 自分にしか出来ないことではない、だが、自分にできることだ。 この手に培った技術が有り難い。 以前戦場に出たときよりも、医療技術は向上している。 額を束縛する頭冠が、精神の集中を助けてくれた。 高位森国人、と自分が提唱した未知の知識、精神と言うべきか、それの発見によって、 今るしにゃん王国民は各々の分野での成果を高めることに成功していた。 何事もおこらない暢気な風土の中ではそれはまるで無敵の技術のようであったが、戦場に出ると必ずしもそうではないのを痛感する。 ぴっちりとした手袋をはめ、メスを手渡される。蒸した空気の中、患者の止まらぬ血液に塗れた肉を切り裂き、内から蝕む異物を除去する。 血管を繋ぐ。肉を繋ぐ。折れた骨を接ぐ。 これで何人目か、主な治療が終わると直ぐに次が来る。テント外に運ばれ、見えなくなった患者は生きているのか、 常ならば予測もつこうものだが、今は判断が出来ない。 (違う、思い出せる。まだ5人だ……もう5人か) 医者は自分だけではない。誰もが今手を尽くしている。息絶えようとする人々を救っている。自分が処置した数などたかが知れていた。 5人目の傷を塞ぐ。処置は衛生が徹底しきれないし、道具も少ない、だが縫い目は恐ろしく細かい。 この、今は意識のない人は恐らくまた戦場へ向かってしまうのだ、だからせめて強く、動きに少しでも馴染むように、正確に傷口を塞ぐ。 (落ち着け。必要とされている今、全力を尽くせなくてどうする) 一瞬乱れかけた集中力は直ぐに取り戻された。頭冠はこの人々の熱気を受けてなお、冷たい。 この力は誰の為のものだ、七海は自問する。既に今日幾度も自分に問いかけた言葉だ。 目前に意識のない男の身体が運ばれる。そうだ、今この瞬間からこの力の全ては彼の為のものだ。この処置が終わるそのときまで。 「手術開始します」 必要最低限の言葉を紡ぐ。スタッフが痺れる手を動かす。自分もまた消毒されたばかりの器具を手に取った。 夜明けは、訪れただろうか。 過る思考はたちまちの内に霧散する。 自身の戦場に再び没頭し始めた七海の耳に、外からの声はもう聞こえなかった。 **指揮官ちゃき支援 ちゃき@るしにゃん王国 いつものことだった。 戦争の前には、ちゃきは部隊を見て回る。 さしもの新しくて一番でかいものに目がいく。 …これが、今回からはじめて使う未婚号… ちゃきは、その大きな機体をしげしげと眺めた。 魔道兵器としても使えるこの機体を見上げ、口元を緩める。 ついで、新しく導入された弓兵部隊 今回の目玉とも言える部隊であった。 未知数とは言え、サブ火力としては一級だと見ていた。 自らが率いる風の中心を探すもの達… 決戦は近い、部隊を見終わったちゃきは 満足した顔でそれらを見つめると部隊が見える小高い場所に立って部隊を見渡した。 ここに森国最強の布陣が出来たぞ この地上でもっとも戦車らしい戦車それは未婚号だった。 設計者の意図などどうでもよかった。 ちゃきは、その性能だけ見ていた。 詠唱技能によるその攻撃と防御は最強クラスだった。 さらに、そいつを二人でやるのだから燃費もよかった。 唯一の気がかりは、敵の特殊能力である根源力制限による死だった。 それは、世界解析でつぶしてしまおうと思っていた。 歩兵としての風の中心を探すものの露払いに 絶対的な火力と装甲の未婚号 まさに、戦車のコンセプトそのものだ。 さらに、サブ火力の弓兵… ちゃきは、持っていた杖で魔方陣を描く 青い燐光が体をつつむとまるで敵を捉えた様な目になる。 そして、全軍を見渡して 「さあ、見せてやりますか戦争って奴を。今までにないくらい見事にやれそうです。」 (…蹂躙、露払いに皆殺しか まったく戦争だな。いやだいやだ) クレール「どうしました?顔にやついてますよ」 ちゃき「いや、なんでもないですよ」 さあ行こうか、我らの力を見せ付けに…まもなく弓兵の許可される。予定どおりならば その時、一人の猫士が駆け込み静寂を切り裂く。 「で、伝令ですにゃ!」 「どうした?」 「弓兵の申請が延期となりましたにゃ」 「ばっ…分かった」 これが、人が伝令なら確実にぶん殴って司令官解任だ。まったくありがたい気遣いだ。多分、正義がつかわしだろう。天領に出向いて交渉までした結果がこれだというのに… 正義の心労はどれほどだろうか いや、考えるまい あるもので戦うだけだ。 それが、報いるということだ。 敵さんには悪いが、発散させてもらおう **声。 スゥ・アンコ@るしにゃん王国 「皆、兎に角何処でもいいから隠れて……ッ!」 敵の攻撃が間近に迫る中、誰かの声が聞こえた。 それが誰の声かを判断する余裕もなく、クレールは木の影になる位置へと隠れた。 すぐ傍の岩に誰かの影が見えるが、それを確認する余裕も、やはり現在は残されていない。 長い髪が敵の攻撃に揺れる。 ぴ。 攻撃による跳ね返りなのか、小さな小石がクレールの頬に当たり、小さな痛みに顔を顰める。 (ここで――……ここで、死ぬ訳にはいきません。) 愛しい人の姿を、心の中に描き出す。 彼に会うまでは、そう、絶対に死ぬ訳にはいかないのだ。 折角小笠原で掴んで手がかりを、己がここで倒れる事によって失う訳にはいかない。 「アイヤー。こんなの反則アルよ。どうしろって言うアルかーッ!!」 逃げ惑う誰かの声に、クレールは唇を開く。 「一刻も早く、遮蔽物に隠れてください! 敵の攻撃は強力、かつ、無慈悲です!…明日の為に、皆で生きのびるんです!!」 魔法使いの印でもある杖を強く握り締めて、敵の攻撃を耐え抜くべく、麗しき女性は、その声を部隊へと響かせた。 明日の皆の笑顔を勝ち取る為にも。 **るしにゃんナイン はやて@るしにゃん王国 戦場独特の緊張感が、周囲を包んでいる。 後方配置の迎撃部隊とはいえ、敵が空から妨害を受けることなくやってくる可能性は高い。 そして空の敵の行動力は、歩兵のそれと比べれば大幅に高く、少なくともまず一撃は攻撃をくらう覚悟が必要だった。 なんとかこの戦場に送り込むことのできた弓兵アイドレスを身に着けた国民は、7名。 それに射撃目標の特定や距離の測定、その他知識面のサポートとして加えられた魔法使い2名を加えた9名が、I=Dの使えないこの戦場で頼るべき対空戦闘力だ。 その中で、いつ敵がくるか分からず、ただ待ち続けるという緊張感に飽きたのか、猫耳尻尾の少年がたん、と地面を踏み鳴らす。 「あーもう……待ってるだけじゃイライラすんなっ、前に出て先にヤツらに一撃ぶつけてやるとかできねーのかよっ?」 そんなはやての傍らで、黙って弓の点検を繰り返していたかみんは努めて気軽な声で肩を竦めた。 「まあまあ、焦らなくても敵は来るさー。万が一ここまで来たときのために僕らがいるんだし」 「そうアルよー、もっと余裕を持って構えるアル。戦場では焦りを見せた者からゴミのように斃れていく………って正義が言ってたアルよー?」 さらにその後ろから、お気楽そうな声でモノマネまでしながら話しかけてきたのはスゥ・アンコ。何故か腕組みを崩さないその姿勢が、胸元を隠すためだとは今のところ誰も気づいていない。 「お前それ絶対余計なコト付け加えてるだろ……? 大体別に焦ってなんか……」 はやてがそのモノマネの似てなさっぷりに脱力してからアンコに食ってかかろうとしたとき、その後ろから魔法使いの女性の声が響き渡る。 「敵、来ますっ!!それぞれ攻撃に備えてくださいっ、相手からの攻撃を避けきってから反撃に入りますから!」 全員が空を見上げる。そこからやってくる敵の姿。直後、間髪を入れずに来る攻撃。 それと同時に展開される、理力による障壁と魔法使いたちによる回避の"おまじない"。 一斉に散開する、世界忍者としての能力も備えた弓兵たち。 それは攻撃のみではなく、防御においてもその能力を存分に発揮しはじめる。 「誰もやらせませんよ……みんな、生きて帰ります!」 「来たアルねっ、弓兵のチカラ、とくと見せてやるアルっ!」 「おうよっ!! …そんなヘボ攻撃……食らってたまるかよぉっ!!!」 るしにゃん王国弓兵部隊、9名の戦いがはじまった。 **防御SS 【雷鳴の陣】 魔法使いにも,医師にも,世界忍者にも装甲はない。 でも,生き延びなくては。生きて,もう一度あの人に会うのだ。 勝ち目などなくても,6人の目には生きる意志がたぎっていた。 Chessは敵の威力を殺そうと,手持ちの手裏剣を全て飛ばし,刀を抜き払い受け流す体勢を整える。 手裏剣は数多に散り,お互いにぶつかり,また壁,床,天井に弾かれ八方から敵に迫り威嚇する。 ぷーとらは何も武器はないけれどせめてもとS43より託された梅の枝の一振りを取り出し,迫り来る敵に向かって投げつける。 梅の枝から,送り主が込めた青い加護の光が溢れる。 その二人の行動にテルが合わせた。 「鉄は徹に通じ撤に通ず。梅は埋めに通ず。 ことのはのことわりよ,敵の刃を塞げ!」 その詠唱に呼応して,手裏剣の軌跡に沿って四方がせりあがり道を塞ぎ,梅の枝はその四肢を伸ばして網目の木壁を作り出した。 その後ろでクレールは,魔法で杖を弓に変えていた。 「? なんで弓アルか?」 「弦打という守護の術があるんですよ。」 「中華四千年の歴史アルね!」 「まぁ,そうですね。」 そう答え,表情を消して,渦巻く思いをひとところに集める。 敵に弓を向け,弦を手にとった。しかし矢はつがえていない。元から矢は持ってきていなかった。 「…この音は,異を封ず。」 ひどく重苦しい何かを吐き出すかのようにそっと言葉をつむぎ,弦をはじく。 殺しても足りないほど憎いリンオーマの技だけど,その祝詞を唱えたところで絶技が使えるわけではないけれど,魔術にできるから。 生きて帰りたいという必死の思いが言霊を信じ,自然と口からその言葉がつむがせる。 「この音は路を封ず この音は破を封ず この音は二を封ず この音は歩を封ず この音は経を封ず」 幾度も幾度も弾かれる弦。いろはの弓のように矢は飛ばないが,音の壁が魔術の力を得て敵をふさぐように立ちはだかる。 もともとが戦向きでないるしにゃん王国の,彼らの,運命に抗おうとする,必死の姿であった。 **詠唱SS1 【東風吹かば】 クレール@るしにゃん王国 ノックする音。 進入を許す声。 静かに入る女。 そこは,帰還した青にして正義の書斎であった。 桃色に染めた一部の前髪を愛しく撫でながら,女が来訪の理由を語る。 「梅を,植えませんか? 季節外れではありますが。」 机に手を組む男が,答えた。 「逸話にご執心のようですね。」 「一つ,思うところがありまして。」 「……どうぞ。」 女は自らの考えを語った。 なぜ,詠唱絶技の名に飛び梅と雷の名があるのか? (彼らの主観から見れば)千年以上前に生きていた一人の貴族にその両方の由来を見つけられることはけして偶然ではないはず。 きっと,その者には青にして正義の名と非常に深く関わっていたに違いない。 アイドレスの知を司る星見司の者が「青にして正義」として選ばれたことからも,今見れば彼との縁を見ることができる。 大胆ではあるけれど… 「朝廷から九州に送られたあの人が,私の前世である,と?」 男の質問に,女はそれが私の仮説です。と答え,それに…と続けた。 「私,帰還のお祝いを,していなかったから。遅くなりましたけど,何かプレゼントしたくって。」 途切れ途切れに答えた声に,男が微笑む。 「プレゼントだったら,普通こういう形で私に聞かないのでは?」 「・・・・・・あっ。」 時が,止まった。 次の日,梅の木が植えられた。青にして正義の書斎の近く,窓から見えるところである。 もともとは苗木にしようという話であったが,男はあえて成木を植えてくれと言った。 何か,思うところができたらしい。 その真意は,やがて分かることだった。 **詠唱SS2 【特別レッスン】 静かな湖畔の森の影から……いや,その辺りは全く静かではなかった。 「いくアルよ,中華四千年大極的大熊猫ビーームっ!」 白と黒の閃光が辺りを包む。 「はぁぁっ! デッドリィ・ニードル・レイン!」 紫の光が広がる。 元の色に森が戻った後には,白黒のまだら模様になった木に,指先ほどの大きさの針が一本だけ刺さり,しなだれていた。 その光景を見て唖然とする二人。近づいて木をぺちぺち叩くが,なんともない。あ,手に白黒模様が移った。 「なんでアルかー! ワタシの魔法は木を一刀両断するはずなのにー!」 「針が…一本だけ…。 がーん・・・。」 少し離れたところで,岩に腰かけた青い衣装に身を包む男が二人の様子を見ている。 「二人とも,こっちにおいで。」 とたとたと男に近づく二人。どことなく彼の持つ杖を気にしている。 「魔法とは,無闇やたらに使うものではないんだよ。」 「「でも,練習見てくれるって!」」 「いや,そうじゃなくてだね。その力を手に入れて何をしたいのか,何をなすべきかを考えなさいと言っているんだ。」 「…。」 静かに諭される二人。なんとなくしょげて,彼の次の言葉を待つ。 「いいかい。魔法とは,世の理を捻じ曲げる大変な力なんだ。  いつも使っていたら世界が壊れてしまう。  だから,世界を壊そうとするものに対して,使うべきものなんだよ。  もしくは…」 「もしくは?」 「一度だけだ。どうしてもしなくてはいけないとき。誰かに手を差し伸べるとき,  どうしても,なさねばならないことがあるときに,一度だけ,使いなさい。  そしてその一度に,全てを注ぎ込むんだ。」 その言葉には,魔法を使う者としての心得だけではなく,敵の攻撃を受ければひとたまりもない彼らに無事にこの戦いを生き延びて欲しいという願いが込められていた。 それを知ってかしらずか,一字一句間違えずに暗記しようと真面目な面持ちで聞く二人。それを見て微笑む男。 「よし,それじゃぁ一つとっておきを教えてあげよう。君達にも仕える魔法だ。  …もう少し開けた場所がいいな。ついてきなさい,スゥ,南無。」 「「はい,正義!」」 **詠唱SS3 【儀式魔術】 クレール@るしにゃん王国 それは,旅立ちの前のこと。 「この,梅の枝をお持ちください。」 S43―青にして正義の名を持つ男―はそういって,6振りの枝をFEGに行こうとする一行に差し出した。 「どうしてアルか?」 スゥ・アンコが口を挟む。 「あなた方とは共にいけないから,せめて私の代わりにその枝を持っていってほしいのですよ。」 「…菅原公とは,まったく反対ですね。」 南無が,そう感想を述べると,S43は笑った。 「ははは,そうですね。 でもきっと,思いは届きますよ。」 今がそのときだ! 次々と梅の枝が地面に刺さる。その数は5つ。それを軸に描かれる複雑な魔法陣。 4人がその陣の4方を護るように立ち,きっと討つべき敵を睨む。 そして,4色の音で祝詞が上がる。一糸の乱れも無く,その声は調和していた。 「青よ青 偉大なるアラダたる 青にして正義に冀う  あなたの友にして仲間 彼方駆ける風を追う者 あなたを愛する者たる我ら地べたする幼き青の我らは  僭越ながら貴方様の助力を 万古の契約の履行をお願いもうしあげる。」 同じ頃,S43はFEGより遠き森の国の中で,天に手を差し伸べ,詩を読んだ。何かを待つように,そして祈るように。 「おもへども みをしわけねば めにみえぬ こころをきみに たぐへてぞやる」 そして目を閉じ,地下をゆく彼らに心を飛ばした。 陣から,光が沸く。青い,青い光が。何かを守るように。 Chessは,その輝きに故郷の日差しを見た。 「ここにあるは梅の枝 あなたを思う梅の枝 匂い起こし東風にて空舞う一振りの飛び梅!」 風が吹く。何か優しい気持ちを思い起こすように柔らかく,鼻をくすぐるような香りを乗せて。 ぷーとらは,その風に何故かるしにゃん王国の春を思い浮かべた。 「それは 夜が暗ければ暗いほど 闇が深ければ深いほど 燦然と輝く一条の光  心が痛めば痛むほど 悲しみが深ければ深きほど 煌々と照らす一筋の灯  そう それは 冬が寒ければ寒いほどに 暖かに吹き抜ける春の兆 目覚めよと告げる神々の声  この世が冬であるのなら 我ら春に咲く野の花となりて ここにひとときの春風を呼ばん!」 青い光が陣の中央に集まる。今や梅の枝の姿は見えず,その光はあたかも梅の木のようにたちのぼり,綺麗な花を咲かせていた。 光の花に,魔法使い達の杖に,更なる光が集まる。正義を為し,不義を憎む光が。そう,それは敵を滅ぼす光! 「完成せよ! 飛び梅の雷戟!」 **詠唱攻撃SS 合作:はやて@るしにゃん王国 スゥ・アンコ@るしにゃん王国 南無@るしにゃん王国 今や敵は目前、こちらは装甲値も7という圧倒的無力、そもそもこの分隊、作成された時点で詠唱一撃勝負で行こうぜ!ってことだった、のはいいのだが。例によってタイトスカートなど着込んだ少年は軽い不安に呻いた。忍者一筋十と云年、今この手にある杖に自然の理に反するこの力を集束させる術はまだ不慣れなもので 「うう、無理ですようこんなの倒すとか!やっぱり回避できないでしょうか 」参謀モード、軽く臆病らしい。杖と魔術教本を抱え込んで涙目で後退った。 その傍にいる娘は、目の前にある圧倒的な戦力を前にしたにも関わらず、酷く呑気であった。いや、どんな時でもこの女性がペースを崩す、だなんて余程の事が無い限り、無いと断言して良いのだけど。くるくる、と軽やかに、明らかに本来の使用用途とは違う動きで、杖を回転させながら、比較的最近得た魔法の力を集中させていく。 「無理なんて事ないアルよー。ワタシの少林寺拳法的魔術で、あんなヤツら一発粉砕アル。」 色々と矛盾を感じてならない技の名前を口走りながら、臆病な――少女、のような少年に向かって、朗らかに笑った。全く、戦場に似合わない笑みだった。 2人とは少し離れた場所。敵との彼我の距離は未だ手の届く場所にはあらず。術を唱えることのできぬドレスを着用している身には、自分が何もできないのが歯がゆい。いらだつように地面を踏み鳴らせば、それに同調するように猫の尾がばたばたと激しく動いていた。目を細めて敵の様子を伺えば、普段より悪い目つきがなおいっそうのこと険悪さを持ち、余裕が少なさげに見えるのは少年くらいの年齢であれば仕方のないことだろう。気持ちを整えるようにふぅ、っと息をつくと、軽く瞳を細めて意識を飛ばす。森国人特有の、瞑想通信 「(………南無っ、アンコっ!あんなやつら、一撃でブチのめせよっ!手加減なんかすんじゃねーぞっ!!)」 「そんなこと言って、アンコちゃん私と大して力変わらないじゃないー、って、ま、待って、私も攻撃しますー」 半泣きで覚えたばかりの詠唱を…そこはそれ、忍者出身なので単純に物覚えは良かった…小さく唱えだす。まだ腰は引けているのだが。つい、位置もアンコの斜め後ろあたりまで移動してしまうのは臆病者の性だった。力を構築する過程でふっと割り込んできた、比較的親しい人の声がする。集中している為詳しく意味を捉えるまではできなかったが、それでも気持ちだけ、伝わったのか僅かに肩の力が抜けた。 「大丈夫、正義にたくさん教わったんだもの、わ、私負けるわけにはいかないですからー」 ほとんど、自分に言い聞かせる、類の物言いだった。 種族特有の手段で伝わってくる、少年の言葉に、ハン、と鼻で笑うように唇に笑みを浮かべる。手加減、だなんて単語こそ、己に似合わないものだと。 「任せておくアル。とっておきのをサービスしてやるアル。 ――南無とワタシじゃ、人としての器が違うアルよ。」 確かに、着ている職業も、アイドレスも一緒。根源力に若干の差はあれど、力に差は無い筈だ。正義――、この国にいる、オーマの名を聞けば、笑みはより深く唇に刻まれ。 「…あの、青いのを越える一発、くれてやる…、アル!」 杖を媒介にして、己の力が光となっていく。光を向けるのは、ただ、一つ。そう、目の前の敵に向かって 。 器レベルで言われて自分の人間性に欠片も自信のない少年は見事に落ち込んだのだが、逆に自分の立ち位置が明確になってほっとした風でもあった。所詮、下僕の属性、補佐と思い込んだ方がよっぽど力が出せる 「そうだよね!さすがアンコちゃん!よし、私もお手伝いするね…!」 急に前向きな、根っこは極端に後ろ向きな明るい声でそうのたまった。それが別働隊のはやてにまで届けばいい。多分届くだろう、俯き加減がなおったので。晴れやかな笑顔で思う。見ててください正義、私の晴れ舞台、待っててください王様、我等の帰りを、まあ死体かもしれないけど。集まりの悪かった魔力が杖先に一点に凝縮されて行く。 「私は、負けない。この力はその為に、得たのだから…」 ちょっと、声が低くなった。あるべき姿に戻ったのかもしれない 「欠片も残さぬよう、殲滅します!」基本、ろくでもない種類の方へ。 そして魔力の光が、弾ける。 「……あーっ、俺もハデな忍術とか使えりゃ……っ!!」 火炎とか、水流とか。くしゃくしゃと髪をかき混ぜると、額に巻きつけたバンダナがずり落ちかけ、慌てて位置を整える。と、返事の代わりか、魔法使いたちの詠唱が幽かに耳に入ってきた。聞きなれた仲間たちの声ではあるが、紡ぎだす呪文の響きは敵を前に普段より真剣に聞こえた気がした。ぎゅっと拳を握りしめ、瞳を見開いたその瞬間、自分たちの横合いを抜け、幾条ものまばゆい光が一直線に伸びてゆき、一つに束ねられて敵を射抜きかかる! 「っし、行けぇぇぇっ!!!!!」 **オペレーターSS ノーマ・リー@るしにゃん王国 「……司令部、通信繋がりません」 報告のアナウンスをしながら、ノーマ・リーは頭を掻いた。 まあいつものことだとはいえ、戦闘には異常事態ばかり起こる。ろくでもない。本当にろくでもない。というか攻撃受けたんだろーか。 (そういえば、前にソーニャさんがナンタラノープルがどうこう言ってたっけ) 同国人――既に二人とも故郷を離れて久しいから、元同国人というべきか――が、少し前に話してくれたことを思い出して頭を掻く。 かなり昔の戦争の話だ。小回りの利く部隊に一挙に攻め入られて壊滅したやつ。分かり易くビジュアルで言うとクマと戦闘するより、虫の大群に襲われる方がヤバいみたいな、そういう話だった。 年貢の納め時。 そんな言葉が頭に思い浮かんで、首を振る。いかんいかん。それはよくない。精神衛生上めちゃよくない。 「―――どうしましょ?」 インカムを押えながら振り返ってみる。 そこには、現在の滞在国・るしにゃん王国の、それと知られた戦上手が集まっていた。やがて、中の一人――眼鏡も凛々しい今回の指揮官、ちゃきが肩を竦める。 「どうもこうもないな。既に敵はいるし、押し付けられそうな味方はいない」 「闘うしかない、ですか」 「そうなると思うよ」 「了解。――じゃあ、出来るだけのデータを集めます」 「そうしてくれ」 ここまで来たからには腹をくくるしかない。 既にここは戦場だ。味方もいて、敵もいて、戦端はいつ開かれるかも判らない。 なら、オペレーターはオペレーターの仕事をしよう――― **TAGAMISS クレール@るしにゃん王国 永遠の時間を渡ってきても,なすことはいつも同じ。 愛する夫たる完全なる青を追うこと,そして戦うこと。 これからの一瞬もそう,慣れ親しむ世界,息をするもひとしいこと。 彼女は,心で静かに絶技を詠唱する。 (…橙の橙 誕生と接続を司る婚姻のアラダにお願いもうしあげる。) (愛しき青を追いかける我は,これより絶技を使用する。) その前には,見比べるだけでは余りにも婦人が立ち向かうには多い敵。 だが彼女にはその愛を追うための助けたる,全てを貫く聖銃がその腕にあった。 (完成せよ,水蛇零式) 銃口が青く輝き,そこから迸る光は無数の細長い光となって敵に突撃する。その軌跡には粉雪が舞い,上下左右に揺れ動く様はあたかも蛇のよう。 無数の凍てつく蛇が敵の装甲に牙を立てるが,その小さな突起で食い破ることは適わない。 もちろん,それでいいのだ。 次々と凍てつく蛇が装甲に牙を立てようとし,失敗して悔しそうに敵の体の表面を這い回る。 水蛇の軌跡には粉雪が舞う。その零下の軌跡が敵を凍てつかせるのだ。 突然の寒波にこごえいてつく敵。その動きが鈍ったその瞬間をついて,Tagamiは敵陣に突撃した。 (完成せよ,雷虎零式) 銃口が紫に輝く。いくつもの雷球が鮮やかな二重螺旋を描きながら吐き出され,そしてそのそれぞれが意思を持って敵を狙う。 蛇の牙より巨大な虎の牙が敵の装甲を打ち破り,凍てつく身体を砕き,抉り,焦がす。 その破壊力は進撃するTagamiを中心に不可侵領域が生まれたかのようで,周囲の敵は次々と雷虎に食い破られその動きを止めていく。 二重螺旋を描いて射出される雷球は今やTagamiを護る結界のようにその周囲を舞っていた。 しかし,水蛇の凍結を逃れ,雷虎の破壊を免れた敵が同胞の復讐をせんと一瞬の隙を突いてTagamiにその刃を突きつける。 微動だにせぬTagami,差し迫るその攻撃。命中するかと思われた次の刹那。 Tagamiは敵に貫かれた場所より掻き消え,瞬く間に別の場所から自らを狙う敵に銃口を向けていた。 もちろん,その身に微塵の傷も刻まれていない。 (完成せよ,炎鳳零式) まるで命の危機がなかったかのように落ち着いた様子で聖銃を切り替える。銃口が赤く輝き,蛇よりも虎よりも大きい鳳凰が生まれる。 翼を広げたその炎は,周囲に火の粉を撒き散らしながら空を舞い,Tagamiを狙った不幸な敵に着弾。周囲を巻き込むように炎の竜巻が敵を貫く。 その内に巻き起こる爆発が敵を砕き,その欠片を焼き払い,浄化された黒い炭を撒き散らしていく。 切り替えぬままにTagamiは銃弾を放つ。地上より水平に飛ぶ鳳は残された敵を貫くべく直進し,切り裂いていく。 僅かに届かぬ敵には,後から来る熱波がそれを焼き尽くした。 炎鳳の熱量のせいかゆらめく空気。そのなかに静かに佇むTagami。 口を開かぬその女は無表情にその陽炎の先にある情景を認識し,少し息を吐き出す。 (さぁ,次はどなたですか?)
*未使用SSの一覧 **侵入SS ノーマ・リー  まさかこんな時にお鉢が回ってくるとは思わなかった。  数匹の猫と共に走りながら、ノーマ・リーは溜息をついた。別に深刻な顔はしていないが、溜息だけは出る。別に不満も愚痴も出ないのだが、一種の癖のようなものだ。  ああ何で僕こんなとこにいるんだろ、てかいつの間に一人で侵入してんの僕。 「にゃー(今更、怖じ気づいたか)?」 「にゃにゃー(こいつ結構ビビリだしねえ)」 「ほっといて。てかまだビビリでも敵前逃亡してないから。チキンじゃないから」 「にゃうー(あんま変わらないって)」 「変わるよ?! てか五十歩でも百歩でも結構距離あるよ?!」 「「「にゃーにゃー(変わってない変わってない)」」」 『……漫才はそこまでにしてください』  溜息混じりに声を――というか思念を送ってきたのは、同道する猫たちではなく、遠くで話を聞いていたオペレーターの方だった。 『そろそろ作戦区域です』 「……了解」 「「「にゃう(了解)」」」  途端にシリアスになる空気。  ノーマも口当てを引っ張り上げ、改めて武器をチェックする。  目的地まではあと少し。相手は視線が合えば即死。緊張しないと言えば嘘にはなるが、侵入する行為そのものに、彼は一切の危惧を抱いてはいなかった。  なにしろこの男、運だけはいい。その証拠にあれだけ騒いでいたのに敵の包囲網にかすりもしていない。何より死ぬのはそれほど怖くない。  どうせ一度、国と一緒に消えかけた事がある命だから。 「これより、作戦行動に移ります」 『……武運を』 「ありがと」  小さく笑って。  そうして、彼は猫三匹と共に、走り出す。 **医療支援 南無@るしにゃん王国 これで何度目だろうか、見えぬ戦況を思い描き七海は声には出さずに呟いた。 即席で用意された殆ど野ざらしと変わらぬ治療の場。 決して陽気の為などではない汗を拭う事も出来ぬ白衣、あるいはオペ服を纏う者達。 傷ついた兵士。血の香。漏れ聞こえる前線の気配。 コパイロットとして前線に出た事もあるが、戦場というのはそれがどこであっても同様の緊迫感に包まれる。 誰一人手を休める事は出来ず、足を止める事も出来ない、もしここでそれをする者がいればたちまち前線の死者が増えるのだ。 早く平和が来るといい、誰もが戦わず、この様な死との境界近くまで踏み込まず、生きていける世界が。 そんな、誰しも思っているだろうことを今更口にすることはなかったが。 外の景色が入り口を塞ぐ影によって遮られた。 小さな手術用テントの中にいることを思い出す。 今から自分はここに運ばれる重傷者を救わねばならない。 自分にしか出来ないことではない、だが、自分にできることだ。 この手に培った技術が有り難い。 以前戦場に出たときよりも、医療技術は向上している。 額を束縛する頭冠が、精神の集中を助けてくれた。 高位森国人、と自分が提唱した未知の知識、精神と言うべきか、それの発見によって、 今るしにゃん王国民は各々の分野での成果を高めることに成功していた。 何事もおこらない暢気な風土の中ではそれはまるで無敵の技術のようであったが、戦場に出ると必ずしもそうではないのを痛感する。 ぴっちりとした手袋をはめ、メスを手渡される。蒸した空気の中、患者の止まらぬ血液に塗れた肉を切り裂き、内から蝕む異物を除去する。 血管を繋ぐ。肉を繋ぐ。折れた骨を接ぐ。 これで何人目か、主な治療が終わると直ぐに次が来る。テント外に運ばれ、見えなくなった患者は生きているのか、 常ならば予測もつこうものだが、今は判断が出来ない。 (違う、思い出せる。まだ5人だ……もう5人か) 医者は自分だけではない。誰もが今手を尽くしている。息絶えようとする人々を救っている。自分が処置した数などたかが知れていた。 5人目の傷を塞ぐ。処置は衛生が徹底しきれないし、道具も少ない、だが縫い目は恐ろしく細かい。 この、今は意識のない人は恐らくまた戦場へ向かってしまうのだ、だからせめて強く、動きに少しでも馴染むように、正確に傷口を塞ぐ。 (落ち着け。必要とされている今、全力を尽くせなくてどうする) 一瞬乱れかけた集中力は直ぐに取り戻された。頭冠はこの人々の熱気を受けてなお、冷たい。 この力は誰の為のものだ、七海は自問する。既に今日幾度も自分に問いかけた言葉だ。 目前に意識のない男の身体が運ばれる。そうだ、今この瞬間からこの力の全ては彼の為のものだ。この処置が終わるそのときまで。 「手術開始します」 必要最低限の言葉を紡ぐ。スタッフが痺れる手を動かす。自分もまた消毒されたばかりの器具を手に取った。 夜明けは、訪れただろうか。 過る思考はたちまちの内に霧散する。 自身の戦場に再び没頭し始めた七海の耳に、外からの声はもう聞こえなかった。 **指揮官ちゃき支援 ちゃき@るしにゃん王国 いつものことだった。 戦争の前には、ちゃきは部隊を見て回る。 さしもの新しくて一番でかいものに目がいく。 …これが、今回からはじめて使う未婚号… ちゃきは、その大きな機体をしげしげと眺めた。 魔道兵器としても使えるこの機体を見上げ、口元を緩める。 ついで、新しく導入された弓兵部隊 今回の目玉とも言える部隊であった。 未知数とは言え、サブ火力としては一級だと見ていた。 自らが率いる風の中心を探すもの達… 決戦は近い、部隊を見終わったちゃきは 満足した顔でそれらを見つめると部隊が見える小高い場所に立って部隊を見渡した。 ここに森国最強の布陣が出来たぞ この地上でもっとも戦車らしい戦車それは未婚号だった。 設計者の意図などどうでもよかった。 ちゃきは、その性能だけ見ていた。 詠唱技能によるその攻撃と防御は最強クラスだった。 さらに、そいつを二人でやるのだから燃費もよかった。 唯一の気がかりは、敵の特殊能力である根源力制限による死だった。 それは、世界解析でつぶしてしまおうと思っていた。 歩兵としての風の中心を探すものの露払いに 絶対的な火力と装甲の未婚号 まさに、戦車のコンセプトそのものだ。 さらに、サブ火力の弓兵… ちゃきは、持っていた杖で魔方陣を描く 青い燐光が体をつつむとまるで敵を捉えた様な目になる。 そして、全軍を見渡して 「さあ、見せてやりますか戦争って奴を。今までにないくらい見事にやれそうです。」 (…蹂躙、露払いに皆殺しか まったく戦争だな。いやだいやだ) クレール「どうしました?顔にやついてますよ」 ちゃき「いや、なんでもないですよ」 さあ行こうか、我らの力を見せ付けに…まもなく弓兵の許可される。予定どおりならば その時、一人の猫士が駆け込み静寂を切り裂く。 「で、伝令ですにゃ!」 「どうした?」 「弓兵の申請が延期となりましたにゃ」 「ばっ…分かった」 これが、人が伝令なら確実にぶん殴って司令官解任だ。まったくありがたい気遣いだ。多分、正義がつかわしだろう。天領に出向いて交渉までした結果がこれだというのに… 正義の心労はどれほどだろうか いや、考えるまい あるもので戦うだけだ。 それが、報いるということだ。 敵さんには悪いが、発散させてもらおう **声。 スゥ・アンコ@るしにゃん王国 「皆、兎に角何処でもいいから隠れて……ッ!」 敵の攻撃が間近に迫る中、誰かの声が聞こえた。 それが誰の声かを判断する余裕もなく、クレールは木の影になる位置へと隠れた。 すぐ傍の岩に誰かの影が見えるが、それを確認する余裕も、やはり現在は残されていない。 長い髪が敵の攻撃に揺れる。 ぴ。 攻撃による跳ね返りなのか、小さな小石がクレールの頬に当たり、小さな痛みに顔を顰める。 (ここで――……ここで、死ぬ訳にはいきません。) 愛しい人の姿を、心の中に描き出す。 彼に会うまでは、そう、絶対に死ぬ訳にはいかないのだ。 折角小笠原で掴んで手がかりを、己がここで倒れる事によって失う訳にはいかない。 「アイヤー。こんなの反則アルよ。どうしろって言うアルかーッ!!」 逃げ惑う誰かの声に、クレールは唇を開く。 「一刻も早く、遮蔽物に隠れてください! 敵の攻撃は強力、かつ、無慈悲です!…明日の為に、皆で生きのびるんです!!」 魔法使いの印でもある杖を強く握り締めて、敵の攻撃を耐え抜くべく、麗しき女性は、その声を部隊へと響かせた。 明日の皆の笑顔を勝ち取る為にも。 **るしにゃんナイン はやて@るしにゃん王国 戦場独特の緊張感が、周囲を包んでいる。 後方配置の迎撃部隊とはいえ、敵が空から妨害を受けることなくやってくる可能性は高い。 そして空の敵の行動力は、歩兵のそれと比べれば大幅に高く、少なくともまず一撃は攻撃をくらう覚悟が必要だった。 なんとかこの戦場に送り込むことのできた弓兵アイドレスを身に着けた国民は、7名。 それに射撃目標の特定や距離の測定、その他知識面のサポートとして加えられた魔法使い2名を加えた9名が、I=Dの使えないこの戦場で頼るべき対空戦闘力だ。 その中で、いつ敵がくるか分からず、ただ待ち続けるという緊張感に飽きたのか、猫耳尻尾の少年がたん、と地面を踏み鳴らす。 「あーもう……待ってるだけじゃイライラすんなっ、前に出て先にヤツらに一撃ぶつけてやるとかできねーのかよっ?」 そんなはやての傍らで、黙って弓の点検を繰り返していたかみんは努めて気軽な声で肩を竦めた。 「まあまあ、焦らなくても敵は来るさー。万が一ここまで来たときのために僕らがいるんだし」 「そうアルよー、もっと余裕を持って構えるアル。戦場では焦りを見せた者からゴミのように斃れていく………って正義が言ってたアルよー?」 さらにその後ろから、お気楽そうな声でモノマネまでしながら話しかけてきたのはスゥ・アンコ。何故か腕組みを崩さないその姿勢が、胸元を隠すためだとは今のところ誰も気づいていない。 「お前それ絶対余計なコト付け加えてるだろ……? 大体別に焦ってなんか……」 はやてがそのモノマネの似てなさっぷりに脱力してからアンコに食ってかかろうとしたとき、その後ろから魔法使いの女性の声が響き渡る。 「敵、来ますっ!!それぞれ攻撃に備えてくださいっ、相手からの攻撃を避けきってから反撃に入りますから!」 全員が空を見上げる。そこからやってくる敵の姿。直後、間髪を入れずに来る攻撃。 それと同時に展開される、理力による障壁と魔法使いたちによる回避の"おまじない"。 一斉に散開する、世界忍者としての能力も備えた弓兵たち。 それは攻撃のみではなく、防御においてもその能力を存分に発揮しはじめる。 「誰もやらせませんよ……みんな、生きて帰ります!」 「来たアルねっ、弓兵のチカラ、とくと見せてやるアルっ!」 「おうよっ!! …そんなヘボ攻撃……食らってたまるかよぉっ!!!」 るしにゃん王国弓兵部隊、9名の戦いがはじまった。 **詠唱攻撃SS 合作:はやて@るしにゃん王国 スゥ・アンコ@るしにゃん王国 南無@るしにゃん王国 今や敵は目前、こちらは装甲値も7という圧倒的無力、そもそもこの分隊、作成された時点で詠唱一撃勝負で行こうぜ!ってことだった、のはいいのだが。例によってタイトスカートなど着込んだ少年は軽い不安に呻いた。忍者一筋十と云年、今この手にある杖に自然の理に反するこの力を集束させる術はまだ不慣れなもので 「うう、無理ですようこんなの倒すとか!やっぱり回避できないでしょうか 」参謀モード、軽く臆病らしい。杖と魔術教本を抱え込んで涙目で後退った。 その傍にいる娘は、目の前にある圧倒的な戦力を前にしたにも関わらず、酷く呑気であった。いや、どんな時でもこの女性がペースを崩す、だなんて余程の事が無い限り、無いと断言して良いのだけど。くるくる、と軽やかに、明らかに本来の使用用途とは違う動きで、杖を回転させながら、比較的最近得た魔法の力を集中させていく。 「無理なんて事ないアルよー。ワタシの少林寺拳法的魔術で、あんなヤツら一発粉砕アル。」 色々と矛盾を感じてならない技の名前を口走りながら、臆病な――少女、のような少年に向かって、朗らかに笑った。全く、戦場に似合わない笑みだった。 2人とは少し離れた場所。敵との彼我の距離は未だ手の届く場所にはあらず。術を唱えることのできぬドレスを着用している身には、自分が何もできないのが歯がゆい。いらだつように地面を踏み鳴らせば、それに同調するように猫の尾がばたばたと激しく動いていた。目を細めて敵の様子を伺えば、普段より悪い目つきがなおいっそうのこと険悪さを持ち、余裕が少なさげに見えるのは少年くらいの年齢であれば仕方のないことだろう。気持ちを整えるようにふぅ、っと息をつくと、軽く瞳を細めて意識を飛ばす。森国人特有の、瞑想通信 「(………南無っ、アンコっ!あんなやつら、一撃でブチのめせよっ!手加減なんかすんじゃねーぞっ!!)」 「そんなこと言って、アンコちゃん私と大して力変わらないじゃないー、って、ま、待って、私も攻撃しますー」 半泣きで覚えたばかりの詠唱を…そこはそれ、忍者出身なので単純に物覚えは良かった…小さく唱えだす。まだ腰は引けているのだが。つい、位置もアンコの斜め後ろあたりまで移動してしまうのは臆病者の性だった。力を構築する過程でふっと割り込んできた、比較的親しい人の声がする。集中している為詳しく意味を捉えるまではできなかったが、それでも気持ちだけ、伝わったのか僅かに肩の力が抜けた。 「大丈夫、正義にたくさん教わったんだもの、わ、私負けるわけにはいかないですからー」 ほとんど、自分に言い聞かせる、類の物言いだった。 種族特有の手段で伝わってくる、少年の言葉に、ハン、と鼻で笑うように唇に笑みを浮かべる。手加減、だなんて単語こそ、己に似合わないものだと。 「任せておくアル。とっておきのをサービスしてやるアル。 ――南無とワタシじゃ、人としての器が違うアルよ。」 確かに、着ている職業も、アイドレスも一緒。根源力に若干の差はあれど、力に差は無い筈だ。正義――、この国にいる、オーマの名を聞けば、笑みはより深く唇に刻まれ。 「…あの、青いのを越える一発、くれてやる…、アル!」 杖を媒介にして、己の力が光となっていく。光を向けるのは、ただ、一つ。そう、目の前の敵に向かって 。 器レベルで言われて自分の人間性に欠片も自信のない少年は見事に落ち込んだのだが、逆に自分の立ち位置が明確になってほっとした風でもあった。所詮、下僕の属性、補佐と思い込んだ方がよっぽど力が出せる 「そうだよね!さすがアンコちゃん!よし、私もお手伝いするね…!」 急に前向きな、根っこは極端に後ろ向きな明るい声でそうのたまった。それが別働隊のはやてにまで届けばいい。多分届くだろう、俯き加減がなおったので。晴れやかな笑顔で思う。見ててください正義、私の晴れ舞台、待っててください王様、我等の帰りを、まあ死体かもしれないけど。集まりの悪かった魔力が杖先に一点に凝縮されて行く。 「私は、負けない。この力はその為に、得たのだから…」 ちょっと、声が低くなった。あるべき姿に戻ったのかもしれない 「欠片も残さぬよう、殲滅します!」基本、ろくでもない種類の方へ。 そして魔力の光が、弾ける。 「……あーっ、俺もハデな忍術とか使えりゃ……っ!!」 火炎とか、水流とか。くしゃくしゃと髪をかき混ぜると、額に巻きつけたバンダナがずり落ちかけ、慌てて位置を整える。と、返事の代わりか、魔法使いたちの詠唱が幽かに耳に入ってきた。聞きなれた仲間たちの声ではあるが、紡ぎだす呪文の響きは敵を前に普段より真剣に聞こえた気がした。ぎゅっと拳を握りしめ、瞳を見開いたその瞬間、自分たちの横合いを抜け、幾条ものまばゆい光が一直線に伸びてゆき、一つに束ねられて敵を射抜きかかる! 「っし、行けぇぇぇっ!!!!!」 **オペレーターSS ノーマ・リー@るしにゃん王国 「……司令部、通信繋がりません」 報告のアナウンスをしながら、ノーマ・リーは頭を掻いた。 まあいつものことだとはいえ、戦闘には異常事態ばかり起こる。ろくでもない。本当にろくでもない。というか攻撃受けたんだろーか。 (そういえば、前にソーニャさんがナンタラノープルがどうこう言ってたっけ) 同国人――既に二人とも故郷を離れて久しいから、元同国人というべきか――が、少し前に話してくれたことを思い出して頭を掻く。 かなり昔の戦争の話だ。小回りの利く部隊に一挙に攻め入られて壊滅したやつ。分かり易くビジュアルで言うとクマと戦闘するより、虫の大群に襲われる方がヤバいみたいな、そういう話だった。 年貢の納め時。 そんな言葉が頭に思い浮かんで、首を振る。いかんいかん。それはよくない。精神衛生上めちゃよくない。 「―――どうしましょ?」 インカムを押えながら振り返ってみる。 そこには、現在の滞在国・るしにゃん王国の、それと知られた戦上手が集まっていた。やがて、中の一人――眼鏡も凛々しい今回の指揮官、ちゃきが肩を竦める。 「どうもこうもないな。既に敵はいるし、押し付けられそうな味方はいない」 「闘うしかない、ですか」 「そうなると思うよ」 「了解。――じゃあ、出来るだけのデータを集めます」 「そうしてくれ」 ここまで来たからには腹をくくるしかない。 既にここは戦場だ。味方もいて、敵もいて、戦端はいつ開かれるかも判らない。 なら、オペレーターはオペレーターの仕事をしよう―――

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