「ねえシュワ、どうして、この機体だけ色が違うのですか?」
 夕日の差し込む格納庫で、松井が塗装が乾いたばかりの赤い機体を眺めていた。
 小柄で、パイロット用のバトルメード服ですらない白と黒の飾り気のない服、トレードマークの箒型銃さえ持っていないこの人物が、わんわん帝国のメード長であることはおそらく誰も気づかないだろう。
「そりゃだって貴方、赤オーマじゃないですか、あと私はシュワじゃなくて、主和ですよ」
 答えたのはフェザーワルツの設計者シュワの愛弟子の主和、どこか自信ありげな様子なのは語るまでもない、彼が師の意志を継ぎそして昇華させた証明が、ここにある。
「あ…そういえば、そうね」
 今思い出したかのようにつぶやく、ぽりぽりと頭を掻いた。ひっつめた髪に編み込まれ、風にたなびくリボンだけが赤い。

「貴方のお師匠さんとは、長いつきあいです。ゲームをしたり、お酒を飲んだり、ビルを爆破したり」
「爆破…?」
 困惑気味の主和。
「何でもありません。記憶障害です。私記憶喪失なので」
 ワンブレスで言った。
 そのまま肩によじ登り、赤い塗装面をつるりと撫でる。
「良い機体ですね」
「ええそりゃあもう、フェザーワルツの性能は、白兵・装甲・砲撃どれをとっても優秀な機体であると言えたんですけど初動の遅さ(AR)、飛行能力(航空機設定)の欠如が問題点として挙げられたんですよ。
 初動の遅さと言っても、他国のI=Dと比較しての事であり、歩兵との同時行動などの戦術的運用方法で十分に補えるものではあったんですが、その火力を最大限に生かすためには戦場でのイニシアチブを先に握る事の重要性が多くの戦場で得られた教訓でしてね。
 また、今後の戦局を鑑みると宇宙での戦闘を重視せざるを得なくなり、機動性のみを追求するのではなく総合的な能力向上も課題として挙げられ、それらに対する回答として弟子であり技術者である私が再開発を行ったのがAフェザーなんですよ。」

「なるほど、まさに改良型ですね」
 うんうんと頷く松井。興が乗ってきたのか主和はフェザーによじのぼり更に続ける。

「Aフェザーの最も特徴的なシルエットを司る背部の標準的なバックパックユニット、通称「ウィングユニット」です。このウィングユニットこそがAフェザーをAフェザーたらしめる要素なんですよ。 Aフェザー開発経緯の最も大きな課題である機動性の確保のために新規に製造されたものであり、I=Dとしては重量級に分類されるフェザーに高い機動力を与えるべく、僕が出した答えです。
 通常の判断であれば軽量化により機動性の確保を行うところではあるが、そこは土場という国のお国柄、フェザーというI=Dは重量級である事を重視して、あえて莫大な推力により機動力を得るという方法を選択したんです。

 このウィングユニットは宇宙での運用を重視して開発されたために、四肢の運動エネルギーによる姿勢制御のほかにも推力のみで姿勢制御を行う事も可能になっていて。
 センサー類は地上と比較して広大な範囲での活動を求められる事が想定されるために、フェザーワルツとは比較にならない程の性能が与えられているんです。
 また、設計段階では軽量型コンテナとして開発された部位には通常は宇宙での行動を見越してシーカー(独立行動型観測機)が搭載されており、その活動を支えています。

 ウィングユニットは片側当たり、3機のスラスター(推進装置)と5枚の推進制御翼で構成され、フェザーワルツと同じエンジンが搭載されており、これ自体が一機のI=Dとしても扱えるほどの性能が与えられています。
 重量級として分類されるフェザーに機動力を与える「翼」として開発されたものであるが、その操作は操縦者に負担をかける事が懸念されたので。
 しかし、初期段階で単座型として開発されたが、実戦直前になり副座として改修されたフェザーワルツに対して、Aフェザーは開発当初から副座として運用する事を計画された機体であったんですよ。
 その為、操縦系統はフェザーワルツよりも整備されており、二人のパイロット、コパイロットの連携により無理なく実用化する事に成功したんです。

 ウィングユニットはその形状から、帝國に伝わるおとぎ話に出てくる「黄金の翼」と呼ばれる事もあるんですよ。」

 目をぐるぐるさせて、スパナを振り回し熱弁する主和。ついには一人称が「僕」になっている。
「そ、そうなのですか…」
 松井、ちょっと引き気味だ。

「ほかにもいろいろあるんですよ、女性が乗ると、絶技「黄金の翼」が使用可能、 始動キーはメガネ、 デザインの元は、人に炎と知恵をもたらした焔の女神の婚礼衣装で、誇りの剣という特殊武器をメード長機には装備、Aフェザーのファイナルウェポンはレーザー砲って事になってるけど、実はNEPじゃないかとか言う噂があるとかないとか…ああ、ちなみに操縦の基本は一応、操縦用の機器はあるけど、ナノマシンによる神経接続とかそのナノマシンは普段は神経接続以外の機能は封印されてるけど封印が解かれると機体を再構築したり自動修復したりとかメード長(ACE)はそのナノマシンによって複製された体とか」
「ゆ…夢いっぱいの、機体ですね」

「私からは…ごめんなさい、折角の良い機体なのに、なんだか良い言葉が思いつきません」
 「前」の体はフェザーに乗って死んだ。だから、この子とも、何処まで行けそうな気がする。
 今日は風か強い、押し流された分厚い雲が西の空へと吸い込まれていく。
 嵐の予感。
 頬をくすぐる風に心地よく目を細める。まぶたの裏に明日の戦地を思い描きながら、彼女は相棒の肩で一眠りすることにした。