『リゾナンターЯ(イア)』 65回目


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闇の摩天楼を落下してゆくれいな。
それを狙い済ますかのように、黒い二本の槍。
「黒翼の悪魔」が自らの翼を変化させたものだ。

「チィッ!!」

襲い掛かる黒槍を腕の両刃で弾き返すも、今度は槍の持ち主が闇より黒い日本刀を携えて飛んできた。刀を下段に構え、斜めに切り上げよ
うと空気を唸らせる。

「いいよ、田中れいな。でも、まだ足りない。もっと、黒血の力を使うんだよ」
「黙れ!あんたなんかに指図されん!!」

刃と刃の噛みあう音。
右腕を構えて悪魔の太刀筋を遮ったれいな。
そこへまたしても翼が形を変えた槍が刺し狙う。片方の突きは左腕で受け流したものの、ノーマークとなったもう片方の切っ先がれいなの
腿を突き刺した。

脳に弾ける、痛みの信号。
けれどその伝達のままに声を上げている暇はない。
突き刺されたまま落下してゆくのを利用して、先に落下し続けている大きなコンクリートの塊に両腕の黒刃を食い込ませる。
衝撃により、突き刺さっていた槍は「黒翼の悪魔」ごとれいなより先に落ちていった。

だが、それで終わりではない。
この空間は、まやかしの空間。はるか下方に見える地面ですら、本当に地面なのかすら定かではない。つまり、落下点までに決着をつけた
ところでそこが本当の落下点なのか、わからないということだった。


それでもやるしかない。
空間は虚構のものでも。降り注ぐ雨や瓦礫や鉄骨、そしてこの突き刺された腿の傷口は真実だ。どくどくと流れてゆく黒い血が、雨と混ざ
り複雑な模様を描いてゆく。その模様と呼応するような天を一瞬仰ぎ見、それかられいなは「黒翼の悪魔」を倒すため、下方へと勢いをつ
けて落下する。

「うおおおおおっ!!!!」

喉が裂けんばかりの大声を上げ、悪魔目がけ落ちてゆくれいな。
両腕を交差させ、ぎりぎりまで力を引き絞る。十字の形に標的を斬る。そんな強い意志を携え。
れいなを上に見つつ、「黒翼の悪魔」が【蓮華】を上段に構えて迎え撃つ。

再び、強烈な鍔迫り合い。
黒血によって生成された物質同士が擦れる衝撃が、互いの腕を伝わった。
落下しながら互いに上になり、下になりと体勢を目まぐるしく変えてゆく二人。

「じゃあ、じゃああんたは!何のためにここまで来たと!何のために戦うと!!」
「こんな状況でごとーにそんなこと聞く?」
「うっさい、さっきあんたも聞いたっちゃろ!!」

日々、ダークネスと戦ってきたれいな。
中には自らの戦う目的を御丁寧にも教えてくれる輩もいた。

能力者たちによる、理想社会の建設。

最終的には、皆そこに行き着いた。
弱者を虐げて何が理想社会だ、と当然のことながられいなは憤る。
ただ。目の前の女には、そのような高慢な姿勢は見られない。
ならば、なぜ彼女はダークネスという組織に属し、戦うのか。
当然の疑問、とれいなは思っていた。


「ごとーは…そうだなあ」

刀をれいなのほうに押しつつ、涼しげな顔で「黒翼の悪魔」は思案する。
そして。

「ずっと、さ」
「?」
「ずっとごとーは、戦ってたいんだよね。それがごとーの生まれてきた運命だと、思ってるから」

答えとともに繰り出された、蹴り。
刀に集中しすぎてしまいそれをまともに喰らったれいなが、吹き飛ぶ。
近くを落ちてきていた建材にまともに突っ込み、全身に耐え難い衝撃を受けてしまった。
何とかさらに下方の鉄骨に飛び移るも、かなりのダメージを追ったのは明白だった。

「戦うのやめちゃったらさ、ずっと家でモンハンばっかやってるような生活になっちゃう」
「そんなん知らん!みんなを巻き込むな!!」

苦しそうに喘ぎながら叫ぶれいなを他所に、悪魔がれいなと同じ鉄骨に降り立つ。
間合いを計り、【蓮華】を引きつつ構えの姿勢。一歩踏み込めば、すぐさま両断できるのではないかと思わせるほどの気迫がれいなを襲っ
た。

その勢いは肌を刺し、焦がすほどに。
れいなは能力者として、これほどまでに強烈な敵と会いまみえたことがなかった。確かに「銀翼の天使」は恐ろしい敵だった。しかし、
そこには軸となるものが感じられなかった。空虚な穴が、ただただすべてのものを吸い込み尽くすのに似ていた。
「黒翼の悪魔」は違う。自らを支える、大きな意志の柱を持っている。それが逆に、恐ろしい。

現に、こうして刃を向け睨み合っているだけでも汗がじんわりと滲んでくる。
まるでれいなが一歩踏み出した先の出来事、あの禍々しい黒い刀にばっさりと斬られてしまう。そういう未来を絶えず見せつけられている
かのような。それはれいなの、幾多の戦闘経験が生み出す予測でもあった。


「来ないの?じゃあこちらから…」
「させるかっ!!」

足場の鉄骨を踏み割る勢いの、れいなの一歩。
あのころのれいなではない。思いつつも、どこかでかつての敗北を心に残していた。
その時に刻み込まれた、怒り、悔しさ。
憧れ。
いつまでも獅子の背中を追いかけているわけにはいかない。
牙を剥き、爪を研ぎ澄ませた猫は、やがて新たな獅子へと姿を変える。

「今日!!れいなは!!あんたを、超える!!!!」
「頼もしいねえ」

体勢を低くし、下段からの斬撃。
に見せかけて、れいなは前のめりに鉄骨に両手をつく。
上から斬り降ろしにかかった悪魔の目論見は外れ、不穏な刃は空を切った。

「フェイントか」
「まだまだこれからっちゃよ!!」

手をついた場所を支点にハンドスプリングのように飛び上がり、弧を描いて「黒翼の悪魔」の目の前に迫る。
咄嗟に【蓮華】を寝かせ正面に構えるも、がら空きの胴が薙がれた。

「遅い!!」

いくつかの筋を断つ感触。
傷口から漆黒の闇にも似た血が噴き出す。
孤高の悪魔は、笑っていた。


その状態から、悪魔が反撃に出る。
【蓮華】を下に降ろしてからの、袈裟切り。
防御の取れないれいなはその太刀をまともに受けてしまう。
いや、あえて防御を選ばなかった。

斬り合い。
ボクシングで言うところの、ノーガードの打ち合い。
左の肩を斬られれば、右の肩を斬り返す。
右の腿を突かれれば、左の腿を突き返す。
落下してゆく鉄骨が大量の黒血をあたりにまき散らしていた。

息が荒い。雨が目に入る。
最早、雨と黒血が入り混じった何か別のものだった。
それでもれいなは瞳をそらさない。悪魔を見据え、貫き、刃を走らせる。
防御に回る余力があるなら、その分を攻撃に回す。
れいなが悪魔に呑み込まれたのか、悪魔がれいなの力に引きずられたのか。
それはもう、当人自身にすらわからない。

肉を斬り、刃同士が噛み、また肉を斬る。
いつ終わるともしれない、狂気の沙汰。だが、わずかに。

「ぐふぁっ!!」

脇腹の骨を刃に引っかけられ、れいなが怒涛の勢いで倒される。
強制的に伏せられたれいなを支えていた鉄骨が、ついに真っ二つに斬り降ろされた。
重力の支えどころを失ったれいなは再び、不安定に落下してゆく。


天が、見えた。
闇と雲に覆われた、空。
そこから降り注ぐ雨とともに、「黒翼の悪魔」が【蓮華】を携えて急降下してくる。

れいなの体は動かない。
先程の斬り合いで既に限界を迎えてしまったらしい。
腕に神経をやっても、毛ほども動かなかった。このままでは、あの黒い刃に断ち切られてしまう。

落下していきながらの戦闘。
ぼんやりと、ベリーズと名乗る7人の少女たちとの戦いを思い出していた。
あの時は、さゆみがいた。けれど今は一人だ。
もちろん後悔はしていない。こんな個人的な戦いに彼女を巻き込みたくはなかった。

そうしているうちに、ぐんぐんと黒い影は近づいてゆく。
二つの影が重なった時に、全てが終わる。

あーあ、れいな、結局口だけだったやん。

「黒翼の悪魔」を超える、などと言っておきながら結局は超えられなかった。
口だけ番長、れいなの一番嫌いなタイプだ。だがれいな自身が今、その口だけ番長になりつつある。
その不名誉な称号を抱えたまま死んでゆく。仕方のないことだと思った。

唐突に、後輩たちの顔が浮かんでくる。
勝手に一人で行動して、こんな結果を迎えてしまう。まさしく、合わす顔がない。
なぜか最後は、優樹が「たなさたーん!!」と顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫ぶ顔だった。
こんな状況にも関わらず、思わず苦笑してしまう。

そして、最後にずっと戦ってきた同期の顔。
さきほどの甘ったれた後輩は彼女に託すしかない。
そして、リゾナンターの未来も。


― そんなの、勝手に決めないでよ ―

さゆみの顔は、そう言いたげに怒っていた。
それもそうか。勝手な話っちゃもんね。言いかけたれいなの言葉が、止まる。
そうじゃない。勝手に決めてたのは。
この勝負の、結末。

「うおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」

一瞬だけ。ほんの、一瞬だけ。
腕に、力が甦った。そんな気がした。まるでさゆみが側にいて、治癒の力で腕を治してくれたかのように。
そうだ、終わりじゃない。帰るんだ、リゾナントに。

れいなが渾身の力で腕の刃を振るった時。
「黒翼の悪魔」は既にれいなの目の前にまで接近していた。
【蓮華】を上段に構え、そのまま一刀両断する射程圏内にまで。

火花が飛び散りそうな、鋭い音。
れいなが差し出した右の腕の刃が、【蓮華】の斬撃を止める。
そんなれいなを背後から襲うものがあった。悪魔の翼が変化した、黒い槍。

れいなは。
まるでダンスでも踊るかのように、悪魔の刃を上に跳ね上げながらくるりと回転した。
向かってくる二本の槍を、斬り伏せながら。
そして再び悪魔に正対した時に、円を描いて彼女の胴を斬った。
手から、【蓮華】がこぼれ落ちる。

「ごとーの…負け、か」

口から大量の黒血を吐きながら、落下してゆく「黒翼の悪魔」。
鮮やかな金髪はれいなの足もとを通り過ぎ、やがてはるか下方へと消えていった。


そんな姿を目にしてなお、自分が勝ったなどとは思えない。
孤高の獅子が立っていた場所に、自らも立つ。それはあくまでも彼女の背に追いついただけの話で、超えたなどとはれいなの口からはとて
もではないが言えないものだった。

言うなれば、勝ったというよりも、終わった。

そんなれいなの心情を反映するかのように。
闇に覆われた空に、光が挿す。
黒いインクが溶けてゆくように、その場所からじわじわと光が広がり、世界が壊れてゆく。

黒を基調に描かれていた、暗く沈み込む町並み。
光の白が、それらを最初からなかったもののようにしていった。

雨は上がり、空間は避け、聳え立つ摩天楼は砂糖菓子のように消えてゆく。
上も、下も。天も地もない終わりゆく世界の中で。

帰ろう。リゾナントに。

れいなはそのことだけを、考えていた。




投稿日:2014/03/15(土) 00:19:12.22 0