『絆(きづな)』



「どぅ~っ!ほいっ!」
「え?だっ!?わっ!?毛虫!!」
「ヘッヘヘヘwww」
「待てやコノヤロー!」

騒がしく山道を駆け出す2人。
その様子を見て談笑しながら、続いて歩く春菜と亜佑美。
今日はこの4人で、少し遠出をしてハイキングにやってきたのだ。

“山ガール”なるものがトレンドになっている昨今、トレッキングウエアも多種多様でお洒落なものが出回り、それを着たいが為に登山を始める女性も少なくない。
そしてこの4人も、そういった女性達の一部である。

「うわ~いい景色~」
「ね、ここでお弁当にしよ?」
「賛成ー!」

今回は、穴場とされるコースの山にやってきた一同。
はしゃいでも、誰の迷惑にもならない。
自然に囲まれた中で、普段の緊張が続く日常から逃れ、開放的な気分になっていた。

「あゆみん…何それ?」
「え?敷き物って言ってたじゃん」
「ブルーシートwしかもでっかいしw」
「これじゃお花見じゃん、会社のw」

他の面々が可愛らしいレジャーシートを持ってくる中、普通のブルーシートを持参した亜佑美。
散々な言われように、次第にむくれていく。

「敷くだけじゃないからね!ほら!こうやってくるまればあったかいし!」
「あ、鳥だ」
「いや、聞いてよ」
「ホントだ、大きな鳥」
「ワシかな?タカかな?」

見ると、空中を飛び回るイヌワシの姿。

「すごーい、野生の初めて見た」

感嘆の声を上げていると、イヌワシの後を追うように何かが飛んできた。

「…何あれ?」
「飛行機…にしては小さいし。ラジコンの飛行機?」

しかしそれが近付くにつれ、その飛行物体の異様さが明らかになってきた。
人が、飛行機の翼を背負ったような形。ハングライダーなどの、レジャーでよくあるものではなく、まるでアニメや特撮に出てくるような強化服に見える。
そしてそれは網を放出し、追っていたイヌワシを捕まえたのだ。

「何あれ!?人!?それかロボット!?」
「ワシ捕まえてったよ!?」
「密猟だよ!密猟!」
「追っかけよう!こらしめてやる!」

4人は、後を追った。


【フライングスーツ】
軍事用に秘密裏に開発が進められている、人間が装着してジェット推進で自在に飛行することが可能な強化服。
これまでに製作された試作品が裏ルートで出回っており、種類によっては武器等の装備を搭載する事も可能。
実用化に向け様々な試験運用が行われており、その1つとして稀少動物等の密猟を行い資金を得ているとの証言も。


フライングスーツが飛び去った方向を辿っていた4人は、あるものを見つけた。

「ねぇ、なんか建物あるよ?」
「…山小屋?みたいだけど」
「地図にないよ、あれ」
「あいつのアジトだよ、きっと!」

確信し、接近を試みたその時。

ドン!!

音とともに、建物からフライングスーツが飛び出した。
そして急降下し、低空飛行で4人へと向かってきた。

「ヤバい!!見つかってた!!」

4人はひとまず逃げようと走り出した。しかし──


ドシュッ

「うっ!」

倒れ込む春菜。
麻酔銃を撃ち込まれたのだ。

「はるなん!」
「はるなん大丈夫!?」

それに気が付き、駆け寄ろうとするあとの3人だったが。

ドシュッ
ドシュッ

「あっ!」
「うぅっ…」

優樹にも、遥にも、麻酔が命中してしまった。

「みんな!」
“来ないで!”
「えっ…?」
“来ちゃダメ!”
“あゆみんだけでも逃げて!”
「でも…」
“逃げて、みんなに知らせて!”
「…うん、わかった!」


その時、こちら目掛けて網が放たれた。
亜佑美は素早く逃れて身を潜める。
3人はそのまま捕らえられ、連れ去られてしまった。

(みんなっ…!)

その様子を、今はただ見つめることしか亜佑美はできない。
アジトとみられる建物に3人が入っていったのを見届け、携帯の電波が届く場所まで走った。


リゾナントの仲間とも連絡が取れ、なるべく早く向かうとの言葉に、亜佑美は一安心していた。
しかし、やはり3人の事は気掛かりだ。
とりあえず、荷物を置きっぱなしにしている、弁当を食べようとしていた場所に向かった。

(大丈夫かな…ひどい目にあってないかな…)

思案しながら、山道を歩く。
すると、頭上を飛び交う小さな気配を感じた。

「ん?鳥?」

木々の中を、目を凝らす。
亜佑美の目は、1つの影を捉えた。

「ムササビ…!」

イヌワシと同様、野生のものを見るのは初めてだ。
貴重な自然と、それを脅かす人間の存在。

「大丈夫、怖くないよ。私達が守ってあげる」

まるでその言葉を理解したかのように、ムササビは留まっていた木からまた飛び始めた。
そして亜佑美も再び山道を歩き出し、目的地へ到着した。

「…っ!」

見晴らしの良いその場所。
そこを見張るように上空を旋回しているフライングスーツ。
明らかに目的は自分であると気付いた亜佑美は、迂闊に物陰からは出られない。
ただこのまま、仲間の到着を待つしかないのか…?
しばらく、息の詰まる時間が続いた。

十数分後、ようやくフライングスーツは建物の方向へと引き返していった。

「ふぅ…」

一息つき、ビニールシートにへたり込む亜佑美。
だがこの間にも、3人はどうしているのか、心配はつきない。
その時、空を横切る影が視界に入った。
一瞬身構えるが、それはイヌワシだった。

キャッキャッキャッキャーン キャッキャッキャッキャーン

イヌワシの名の通り、小犬のように甲高い声で鳴く。
その声は、どこかもの悲しげに聞こえる。

きっと、あの捕まったイヌワシとつがいなんだ。
心配なんだね。私も同じだよ。

すると、それまでゆっくり飛び回っていたイヌワシが、突然速攻で降下した。
再び飛び上がってきたその口元には、何かをくわえていた。
エサを見つけ、一発で仕留めたようだ。

心配事を抱えていても、生きる為に大事なことも忘れない。
自分も、できる限りの事をしなければ──

そういえば、あいつはなぜ引き返していったのだろう?
あきらめた?それだけとは思えないが…。
それに、動力はどうなっているのだろう?
あの、わりとスマートな装甲の中に多くの動力や燃料を持てるとも思えない。
おそらくの、弱点は目星がついた。
ただ、空を飛ぶ相手にどうやって…?

飛ぶ…!。
亜佑美が思い出したのは、山道で出会ったムササビ。
翼を持たないのに、空中を舞うことができる。
そういえば、忍○ま乱○郎とか、忍者にムササビの術ってあったよね…。

「…これだ!」

自分が今敷いている、ブルーシート。
おぼろげな記憶を頼りに、ムササビの術の装備をブルーシートでこしらえる。


ドドドドド…

「来た!」

自然の静寂を打ち破る飛行音。
あいつがまたやってきた。

「みんな…待ってて!」

相手も亜佑美の姿を認識したらしく、まっすぐこちらへ向かってくる。
チャンスは一度きり。
ブルーシートを握る手に力を込め、亜佑美は地を蹴り、宙に舞った。

予想外の行動に、フライングスーツは一瞬怯んだ素振りを見せた。
しかし、本来翼を持たぬ人間は空中では自在に身動きはとれない。絶好の的である。
麻酔銃を装備した右腕の、狙いを亜佑美に定めた。

“今だっ!!”

亜佑美は、高速移動で空中を駆けた──

「おりゃああああああああああ!!!!!!」


ドガッ!!!!


亜佑美の体当たりで動力部を損傷したフライングスーツは、コントロールを失い落下してゆく。

「やった…!」

亜佑美は無事地上に降り立った。
そこに丁度、駆け付けた仲間達が合流した。

「あ、亜佑美ちゃん!」
「何?そのブルーシート」
「ブルーシートじゃないですよ、これはムササビですよ」
「へっ?」

会話もそこそこに、まだ残されている3人や鳥たちを助けに、亜佑美達はアジトの建物へと向かっていった。




投稿日:2014/03/11(火) 18:15:06.67 0




















最終更新:2014年03月18日 14:53