『リゾナンターЯ(イア)』 62回目


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悪夢だ。
でなければ、何かの冗談だ。
福田花音には、そうとしか思えなかった。

圧倒的優位に立っていたはずの自分達が、今やまともに動けるのは花音一人。
彩花は、紗季は。そして憂佳は。生きているのか、死んでいるのか。あれだけの爆発をまともに受けてしまえば、死んでしま
うのが当たり前。そうでなくても、もう手遅れなのではないだろうか。
いや、人のことを考えている余裕などない。
赤き死は、確実に自分にも手を伸ばしているのだから。

「あんた一人だけになっちゃったねえ」

夕陽を背に、「赤の粛清」が語りかける。
ぼろぼろになった外套を靡かせ、にっこりと微笑む姿。
彼女は、アイドル「松浦亜弥」として、テレビに出ない日はないというくらいの活動をしていた。ある意味、見慣れた顔。だ
からこそ、怖い。彼女の漂わす、非日常の「死」が。

「さて、どうする? 超加速の子も、不死を謳った子も。切り札を隠してた光を扱う子も、みーんな死んじゃったよ? 残った
のは、自分では決して動かなかったあんただけ」

粛清人は、いつの間にか手にした大鎌を花音の首元に突きつける。
命を刈り取る、まさに死神のそれだ。


「外にいるお仲間さんに助けを求める?それともお得意の洗脳で何ものをも恐れない狂戦士にしちゃうとか。にゃはは」

本人が玩具として扱っていた鎌で、弄ばれている。
「エッグ」のエリートとしてのプライドがずたぼろにされる瞬間。ただ、目の前の死に対して誇りなど何の意味も持たない。

「あたしを…舐めるな」
「この期に及んでまだそんなことを言えますか。ごりっぱですな」

今に見ていろ。
花音は不遜な態度を取っている粛清人を、腹の底で嘲笑う。
こいつはあたしの本当の力を知らない。その気になれば、半径数十メートルに存在する全ての人間を洗脳し操ることだってで
きる。勝算などどうでもいい。そう、あたしが逃げる事のできる時間さえ稼げれば。

密かに生まれた希望。
それはすぐに。いとも簡単にひっくり返せる程度のものしかない。

「もしかして他所の誰かをけしかけて、あたしの足止めに使うつもりだったりする?」
「さあね」
「そう。ところであんた。その首が胴体からさよならしちゃっても、能力が使えるの?」

だから、途端に青ざめた。
こいつ!最初からそのつもりで!!
歯軋りをするも、どうにもならない。


「いいねいいね。そういう表情、好きよ?どっかのクロンボさんが恐怖を司る死神だとしたら、あたしは。絶望を司る、
死神。どんなに強かろうが、どんなに頭が回ろうが。最後にはみんな、絶望の表情を浮かべながら死んでゆく」

裁きの刃が、ゆっくりと引かれる。
勢いをつけて、首を刎ねる。そのための動作。
やがてその動きは花音の首筋を捉えて。

「ふ、福田さんっ!!」

甲高い声が聞こえる。
これは。

「…タケ?」

まさか、結界を解いて助けに来たのか。
横目で「赤の粛清」を見ると、鎌を止めたまま声のしたほうをじっと見ている。
その隙に場を離脱し、花音は結果内に入ってきた朱莉のほうへと駆け寄った。

「タケ駄目じゃん結界を解いたら」
「違うんです福田さん」

朱莉は、顔を引きつらせ首を振った。
様子がおかしい。
それに「赤の粛清」も。こちら側ではなく、その少し先に視線が注がれている。


「待たせたやよ」
「遅かったから、ちょっと遊んでた。待ちぼうけは嫌いだから」

少し変なイントネーション。
軽くウエーブのかかった、栗色の髪。
間違いない。花音はその人物を見て、苦悔を顔に滲ませる。

リゾナンターの元リーダーにして、警察が対能力者戦の切り札として絶大な信頼を寄せる女性。
その名は、高橋愛。

「何しに来たんですか。花音たち、これから反撃しようと」

悔し紛れに言いかけた言葉が遮られる。
軽くて、それでいて強い音。
焼け付く熱さが、後から追いかけてきた。
花音は愛に頬を、叩かれていた。

「な…!?」
「あんたさっき、悪いこと考えてたやろ。これは、その分」


愛は読心術を使ったわけではない。その能力は既に失われてしまっている。
それでも、強い意志を感じることはできた。先ほど花音が考えていた、多くの人を犠牲にしようとする心。それが、どうして
も許せなかったのだ。

「仲間連れて、帰れ。あいつは、あんたの力が通用するような相手じゃない」
「……!!」

侮辱。いや、聞きたくない真実。
どちらにしても、耳を塞ぎたくなるような言葉。
花音は朱莉に指示し、倒れていた彩花と憂佳を担ぎ出しその場を離れる。紗季については、跡形すら見当たらないので諦めざ
るを得なかった。

彩花を背負い、愛とすれ違う。
その際。

「あたしは、あんたに借りができたなんて…思ってないから」
「それならそれで、ええよ」

悔し紛れに吐いた言葉すら、相手にしてもらえない。
それがさらに花音を苛立たせた。
けれど、今は撤退することしかできない。恐らく、この女でないとあの赤い死神を倒すことはできないだろうから。
諦めにも似た感情を抱きながら。





投稿日:2014/03/08(土) 00:23:36.55 0