『リゾナンターЯ(イア)』 61回目


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研究所内部に最初に辿り着いたのは、里保たち後発組。
亜佑美たちがダークネスの放った「戦獣」に手間取っている分、早く到着できたようだ。

しかし内部は入り組んでいる上に、複数の研究室に分かれていた。
さくらやれいなが居る場所の見当はつきそうにない。

「こんな時、どぅーがいてくれたら」
「フクちゃん、そんなこと言ってもしょうがないよ。とにかく、探そう」
「やけん、片っ端から漁る!香音ちゃんよろしく!!」
「え?しょうがないな・・・」

里保の言うとおり、とにかく探すしかない。
暗に物質透過を使えと言わんばかりの衣梨奈の物言いに憮然とするも、この状況では自らの能力が生きるのは間違いない。とい
うわけで、まずは香音が近くの壁に向かって突進。

「がっ!?」

しかし香音は、まるで何かのコントのように壁に激突しひっくり返る。

「ちょっと香音ちゃん何遊びようと」
「遊んでない!能力が通じないんだって!!」

ぶつけた額を摩りながら、涙目で訴える香音。
試しに聖が壁に手をやると、何らかの力が壁全体に張り巡らされているのを感じた。


「…もしかして、能力を遮るような何らかの仕掛けがされてるのかも」
「じゃあ、例えくどぅーの能力でも無理だってこと?」

一様に考え込んでしまう四人。
ここは敵陣、不用意に部屋を開けまくって不測の事態に窮するのは避けたい。
つまり、振り出しに戻ってしまったということ。

「仕方ないね。あの大きそうな部屋から調べてみようよ」

聖が、比較的間取りの広そうな部屋のドアを指す。

「わかった。うちが先に行くから、みんなは後に続いて」

四人の中で一番戦闘力の高い里保が先導し、衣梨奈、香音、聖と続く。
慎重にドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。異常は無い。一気に踏み込んでも問題ないようだ。里保は正面を見据えたまま、
後ろ手で仲間たちに突入OKのサインを出した。
ドアを開け放ち、部屋に四人がなだれ込む。

「動くな!抵抗しなければ危害は加えない!!」

言いながら叫んだ里保だったが、見渡す限りの大きな空間には人はいない。
ただ、複雑そうな機械と、彼女たちの背丈をゆうに超える硝子の培養ポッドが並んでいるだけの部屋。恐らくこの部屋で何ら
かの実験がされていたのだろう。


「はずれっちゃね。次、行くと」
「待ってえりぽん…」

別の部屋に移動しようとする衣梨奈を、聖が遮る。
指差す方向には、件の硝子ポッドが。
自然に三人の視線は、そこに集まる。

薄緑色の培養液に浸されたそれ。
思わず、全員が小さく叫び声を漏らす。

「そんな…これって」
「もしかして、『戦獣』」

聖が絶句しながら、口に手をやる。
彼女たちが見たものは、「戦獣」の失敗作。
人間に無理やり獣人族の擬似遺伝子を組み込んだ末の、成れの果てだった。

御丁寧にも体の崩れた人と獣の融合体は、奥に行くに従って融合段階が若いものになっていた。それはあの恐ろしいバケモノ
が元は人だったという、何よりの証拠。


「…ひどい」
「これを、この人たちをうちらが」

非人道的な実験内容もさることながら。
彼女たちの心に暗く陰を射すのは、元は人だった存在を斬り捨て、葬ったという事実だった。

絶海の孤島に突入する前の事。
八人の若きリゾナンターたちは、島についてのあらゆる情報を里沙から叩き込まれていた。
「戦獣」についても、能力や習性について教えられていた。その中で彼女が強調したのは。

― ”彼ら”に出会ったら、躊躇わず殺しなさい ―

ということだった。
里沙の前のリーダーだった高橋愛から、徹底的に叩き込まれた「不殺」とは真逆の言葉。



「どうしてですか!!」

飛行船「アルマカミニート」の作戦会議室に大きな声が響く。
里沙の放った「殺す」という言葉に真っ先に反応した、聖の叫びだった。

「だって…だって高橋さんは言ったじゃないですか!うちらは人殺しの道具じゃないって!その教えに、反しろって言うんで
すか!?」

普段物静かなほうである聖の、豹変とも言える態度。
だが他のメンバーたちも、里沙の言葉には疑問を抱いていた。

「違うよフクちゃん。私たちが『不殺』を、愛ちゃんの志を護っていかなきゃならないのは変わらないよ。けど」
「何がけどなんですか!!」
「ちょっと聖!新垣さんは先輩やろ、先輩に対して何言いよう!?」

それを見て立ち上がる衣梨奈に、里沙はゆっくり首を横に振る。
聖は、肩を震わせながら下を向いたままだ。

「フクちゃんの言いたい事もわかる。でも、『戦獣』は。あの子たちは、私たちが終わらせてあげなきゃいけないんだよ」
「つまりそれって、亀井さんや久住さん、ジュンジュンさんリンリンさんがいた時のリゾナンターに戻るってことですか?」

冷静に意見を投げかけたのは香音だ。


愛が「不殺」を説く以前の時代。リゾナンターはダークネスという巨大な組織と戦うために、止むを得ず向かってくる者の命
を奪うことがあった。相手に手加減できないほどの厳しい戦いが続いていたし、彼女たちの力もまた加減の効くものではなか
った。仕方ない、では済まされないが、結果としていくつかの命をその手で消してきたことは紛れもない事実だった。

「確かに。うちらは今まで誰の命も奪うことなくリゾナンターとして活動してきました。だけど、それはたまたま幸運なだけ
だったのかもしれない。いつか、その時が来たら。『不殺』なんてことは言ってられないのかもしれない」
「りほりほ…」

後輩の逞しさ、そして覚悟を目の当たりにして思わず涙ぐむさゆみ。
それでも、言わなければならない。あの時代を生きたリゾナンターとして。そして、今のリゾナンターのリーダーとして。

「あなたたちは今まで、本当の厳しい戦いを経験したことがない。それでも、さゆみたちはまだその手を失われた命の血で汚
されてないみんなに、敢えてそれをさせたくない。それだけはわかって。けど、『戦獣』は違う。あの子たちは、苦しんでる」
「苦しんでる?」
「そう。『戦獣』は、悪魔のような実験の果てに生み出された、人としてはもう生きられない生き物。人だった頃の人格に関
係なく、殺戮を繰り返すだけの存在。もう、元には戻らない」

さゆみは少しの間沈黙し、それから、卓に着く若きリゾナンターたちを見た。
それは指令と言うより、懇願に近いものがあったのかもしれない。

「だから、お願い。『戦獣』に遭ったら。あの子たちを助けてあげて。その歪められた命を、終わらせることで」



歪められた命。
それは培養ポッドの中に浮かぶ「彼ら」の姿を見れば、一目瞭然。
生物の本来あるべき形に手を加えられ、さらに「戦獣」として扱われることすら叶わず、今もこの薄緑色の液体の中に漬かっ
ている。

さゆみは、不運な命を救ってくれと言った。
ならば、今、何をするべきなのか。

突然、三人の耳が鋭い音を捉える。
音のしたほうを見ると、そこには培養ポッドに手を突っ込んだ香音がいた。
物質透過で硝子の中に手を突き入れ、途中で解除したことにより硝子自体が破壊されたのだ。もちろん、彼女自身の手もただ
では済まない。溶液に漬かった手からは、ゆらゆらと赤い糸のように血が漂っていた。

「香音ちゃん!!」
「かのたちは、こうするしかないんだよ。こうするしか」

言いながら、再び手を引き抜く。
穴の開いたポッドから、勢いよく培養液が流れ出した。それは、中にいる生命の終わりを意味していた。

「…そうだね。救える力があるなら、うちらは使わなきゃいけない」


里保は。それだけ言うと。
全速力で培養ポッドの並ぶ場所を駆け抜けた。
光の筋のように、走る切断面。
失われた時が戻ってゆくかのように、硝子の容器は斜に切られ、そしてずり落ち砕け散る。

聖は、両の拳をぐっと握り締める。
わかっていても、辛いものは辛い。それでも、歩いて行かなければならない。
なぜなら、それがリゾナンターと言う存在なのだから。
その気持ちを汲むが如く、後ろからそっと衣梨奈が寄り添った。

「さくらちゃんも。元を辿れば高橋さんも。きっとこういう実験から生まれたっちゃろね。やけん、高橋さんが救われたよう
に。さくらちゃんも必ず救い出せる。この子たちみたいには、させんとよ」

さくらが一体どのようなことをされるのか。彼女たちはまだ知らない。
だからこそ、急ぐ。取り返しが付かなくなってしまう前に。





投稿日:2014/03/04(火) 23:51:00.07 0