『リゾナンターЯ(イア)』 60回目


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雨が、降っていた。土砂降りの雨が。
消える間際に「黒翼の悪魔」が放った「空間裂開」により、れいなが落とされた場所は。

闇のように黒い雲と、降り注ぐ雨と、天を支える摩天楼の世界。
超のつく高層ビルが林立している姿は、どこかの異国の首都のようでもあったが、濡れた路地には人一人すら見当たらない。

そう言えば。

れいなは思い出す。
ダークネスの放った刺客「ベリーズ」「キュート」のうち、キュートと対峙することになった若きリゾナンターたちが、突如現れた栗色の髪の女
によって変な場所に飛ばされたという話を。
よくよく考えれば、その時見せたという強さの片鱗。そして、使役する能力。いずれも、「黒翼の悪魔」のそれにぴったりと合致する。

「つまりここは…」
「そう。ごとーの作った『異世界』ってわけ。でももう『返しちゃった』から、あんまりもたないけどねー」

濡れ鼠になったれいなを見下ろすかのように、背中の黒翼をはためかせている悪魔。

「あんた!れいなをこんなとこに連れてって、どういうつもりと!!」
「決まってるじゃん。誰にも邪魔されずに、戦うためだよ」

音すら立てず、ゆっくりと「黒翼の悪魔」が降りてくる。
れいなは知らない。彼女が使役していた、仮初の「空間裂開」を持ち主に返却したことを。
そして、自らの本来の力を取り戻したことを。


けれど、本能的に感じていた。
こいつ…さっきとは、違う。

雨が激しさを増してゆく。
路面に作った大きな水たまりの上に、悪魔は降り立った。
摩天楼を彩るネオンに照らされ、鏡のように彼女の姿を映し出している。

「お待たせ。ここから、最終ラウンドのはじまりだよ」

悪魔は器用に翼を折りたたみ、そして、その切っ先で自らの手のひらを掠めた。
真一文字に刻まれた傷、そこからあふれ出す黒い血。
その血が、まるで生きているかのように形を変えてゆく。象られたのは、一振りの刀だった。

「ナノマシンの技術、恐るべしだよねえ。この刀の名前は【蓮華】。あらゆるものを切り裂く、魔性の刀」
「それがあんたが見せたい言うとった『いいもの』? 御託はいい。とっととかかって来い」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

【蓮華】を握り締めた「黒翼の悪魔」が円を描くように、斬撃を飛ばす。
一瞬の判断。それは正しかった。
跳躍したれいなの下を通過した衝撃波が、文字通りのあらゆるものを切り裂き、なぎ倒す。

「…あんた、ルパンに出てくる石川なんちゃら?」

驚愕を通り越して、呆れてすらいた。
悪魔が放った斬撃は、周囲の高層ビルを根元から切断していたからだ。
刀は、その刀身を大きく超える物体を切断することはできない。そんな当たり前の話が、あっさり無視される。


「ま、ここはごとーの世界だからね。何でもありってことで」

そんな事を言いつつ、悪魔は【蓮華】の刃先をれいなに向けた。
それを合図に。信じられないことが起こる。
切り落とされた高層ビルが。
地面を転がりながら、れいな目がけ飛んできたのだ。

巨大建造物とも言うべき物体が、回転しながら襲ってくる。
重量に耐え切れず、窓を、壁を崩壊させながら、それでもれいなのいる場所へと吸い寄せられるように。

「いくらなんでも、何でもありすぎっちゃろ!!」

もともとが、ありえない世界。
なら、その流れに乗るしかない。
腹を括ったれいなが、まっすぐに高層ビルだったものに向かって走り出す。
跳躍し、ビルの壁に飛び乗り、そこからさらに走り続ける。
目指す場所はただひとつ、「黒翼の悪魔」のいる場所へ。

「おーすごいすごい。ハリウッド映画みたいだよ」
「あんたが…言うな!!」

大きく飛び上がり、地表に立つ悪魔の懐に飛び込んだ。
落下する勢いのままに、体を捻っての回転回し蹴りが悪魔の肩に打ち込まれる。
黒血を活性化されたれいなの蹴りの威力は凄まじく、「黒翼の悪魔」は転がってくる後続の高層ビルに窓から突っ込んでいった。


「逃がすか!!」

その軌跡を追い、れいな自身もビルの中に突入する。
建物内部で磔にでもされたかのように、壁か床かもわからないコンクリートにめり込んだ、「黒翼の悪魔」。その姿を認めるとさ
らに追撃を与えるべく、れいなは床から柱に飛び移り悪魔に近づく。

二人の距離が至近まで近づいた時。
笑っていた。黒い翼を持つ悪魔は確かに、笑っていた。

「いいね。いいよ、さすがはごとーが見込んだだけのことはある。じゃあこっちも、本気で…いくよ!!!!!」

激しく、空気が震える。
その瞬間、激しいエネルギーが「黒翼の悪魔」の外へと放出された。
衝撃にも似たそれは忽ちのうちに建物の内外を破壊する。
外部を覆うコンクリートが弾け飛び、鉄骨の骨組みだけになった建造物。
すっかり脆くなってしまったのか、回転のエネルギーも加わり、ばらばらになってゆく鉄骨たち。

れいなは。
その破壊の嵐の中で、「黒翼の悪魔」だけを見据えていた。
吹き飛ばされて転がる巨大な鉄骨の上に乗った、悪魔。地面に突き刺さり、斜めになった瞬間にれいなはその坂を駆け昇る。
吹き付ける雨を弾き、まっすぐに。

「れいなは、ずっと!本気やけん!!」

全力で走り来るれいなを、黒血の刀を構えて待ち受ける悪魔。


「だから。熱くなると隙が出来る。戦いはクールに徹しろって」
「うっさい!!」

斜めに構えた【蓮華】を、れいなに向けて振り降ろす。
瞬間、手に伝わる硬い衝撃。

「黒い血と黒い血やったら…互角なはずっちゃろ?」
「確かにね」

れいなが翳した腕の先から、大きく湾曲した黒い刃が伸びていた。
激しく火花を散らす刃と刃。そこからさらに、れいなはもう片方の腕を伸ばす。そこにも、黒い刃。
「黒翼の悪魔」は先の一刀を受け流し、二刀目をさらに刃の背で受け止める。

「二刀流、か。考えたね」
「れいなには、このスタイルが合うけんね」

「黒翼の悪魔」は。
自らの【蓮華】を見せた時に、れいなもまた刀のようなものを作ってみせると思っていた。
しかし、あてが外れる。れいなは、「黒血の先輩」を模倣することなく、自らの戦闘スタイルに合った変化をさせてみせた。
面白い。久しぶりに、全力で戦えそう。
意識せず、ふっ、と鼻で笑う。

「何笑いようと」
「癖なんだよね。うれしい時のさ!」


言いながら、「黒翼の悪魔」の渾身の前蹴り。
れいなとの間合いを無理やり広げた悪魔は、天に手を翳す。
背後から二人を追うように転がってきた高層ビルが、手前で大きく跳ねた。

「全力を出せる。お互いに、ね」

宙を舞う、巨大なコンクリートの塊。
それが、悪魔とれいなの頭上で、大きく爆ぜた。
必然的に雨に交じり、瓦礫や破断された鉄骨やらが地上に降り注ぐこととなる。

悪魔が、空の闇に溶け込むかのような真っ黒な翼を広げた。
翼は大きくはためき、そして飛び立つ。
落ちてくる破材を器用に避け、高く、天高く昇ってゆく。まるでれいなを誘うかのように。

天かける悪魔を追うように、れいなも空を目指す。
飛来する瓦礫に飛び乗り、そこからさらに頭上の落ちてくる鉄骨に跳躍した。
驚異の身体能力が、重力の世界を凌駕する。
駆け昇り、飛び移り、さらに駆け昇る。

そしてついに、辿り着いた。
悪魔の舞う虚空へ。腕の刃を双剣のように構えて、空を切り裂き一気に迫る。

右を、左を刀の背で弾き勢いのままに袈裟懸けに太刀筋を走らせる「黒翼の悪魔」。
しかしれいなもまた両刃を器用に交差させて防御する。
二人は、絡み合いもつれ合いながら空を降下していった。
黒き刃を交えながら、悪魔が話しかける。


「ねえ。あんたはさ。何のためにここまで来たの? あの小さな女の子のため? 自分自身のため? それとも、正義とかい
う曖昧なもののため? 正義なんて言葉はかの大国のために作られた胡散臭い階念だよ。そんなものに振り回されてたらこの
世界は何世紀ももたないよ。この宇宙に人類ってイカした生物がいたって証拠はお月様の上に立ってる星条旗だけになるだろ
うね。そんなもののために、動いてるの?」
「うっさい!れいなにはそんな小難しいことはわからん!!ただあんたをこの場で叩きのめす!」

自らの言葉に、力を。
そう願うかのように、れいなは右の刃を斜に思い切り叩き付ける。
唸る刀身、切り裂かれる雨粒。
迅い。「黒翼の悪魔」は認識するかしないかぎりぎりのところで、何とか【蓮華】を正面に構えてそれを凌ぐ。が、勢いまで
は殺ぐことができず。原型を留めている高層ビルの壁に猛スピードで叩きつけられた。

「そうこなくちゃね。正義とか。未来も過去も光も闇も支配とかも、どうでもいい。そんな縛りは邪魔なだけ。だよね?」

瞬間。
めり込んだ壁面から、槍のような形に変えた両翼が飛び出す。
いち早く気づいたれいなは、近くを落下していた大きな瓦礫を蹴り飛ばした。それを発砲ロールが如く、楽々と突き抜ける槍翼。

「一応。『鋼翼の悪魔』って異名もあるんだよね」
「そんなん、ポッキーみたいにバラバラにしてやるけん」

つまり、今の彼女は二刀流を超える、三刀流。
黒の血を受けた二人の戦いは、最終章へと突入していった。





投稿日:2014/03/01(土) 20:24:14.83 0