『冬のエトランジェ』


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「明日は今シーズン最強の寒波が南下し、首都圏にも積雪が予想されます。交通への影響も…」

天気予報を伝えるニュース番組。
それを見ながら、棚の中から何かを取り出す1人の女。

「明日はこれを試してみようかな」

そう呟きながら、女は微かに笑った。


翌日。
予報の通り、街は大雪に見舞われた。
交通の乱れや路上の積雪に苦慮する者もいれば、滅多にない状況を楽しむ者も。
その一つとして、ネット上には多種多様な雪だるまの姿が溢れた。

リゾナンター達も例外ではない。
はりきって大型の雪だるまを作る者。
予定より小ぶりの雪だるまになってしまった者。
外に出たもののあまりの寒さに雪だるまどころではなくなった者。
雪だるまだけに飽きたらずかまくらも作った者。
そんな様子をお互いに送り合ったりして、普段と違う穏やかな日常を楽しんでいた。


「…次はニュースフラッシュです。今日午後、都内の温泉施設で、女風呂に侵入したとして男が逮捕されました。現場にいた人の証言によると、
 男は露天風呂の浴槽に突然落下してきたとの事です。男は『覚えていない』と容疑を否認しています。続いてのニュース…」

「覚えてないって、そんなことないじゃん」
「いやらしい人がいるもんですねっ」

呆れ顔でニュースを見るさゆみと春菜。
大雪のせいか昼以降客は全くおらず、2人は暇をもて余していた。

「もう閉めちゃおっか、この分だともう来ないでしょ」
「そうですね、この雪ですもの」

すっかり日も暮れた中、扉の札を裏返し、店外の照明を落とす。
雪はまだ降り続いていた。
それから、程無くした頃──

カランコローン

扉の開く音。

「すいませーん、もう今日は…」

カウンター奥にいた春菜が、入り口の方に向かいながら声をかけようとする。


「!?」

そこにいたのは、人間の背丈とそう変わらない大きな雪だるま。
しかもそれが、動いている。

「何?なに?ナニ?」

意味がわからず、立ち尽くす春菜。
そこに雪だるまが覆い被さろうとする。

「ファッ!?」

春菜のただ事ではない声に、さゆみがその状況に気付く。
動いている雪だるま。
春菜のピンチ。
状況を理解する前に、咄嗟に鍋で沸かしていたお湯を雪だるまに向かってぶちまけた。

バシャーン!!

溶け落ちる雪だるま。
そしてその中から、1人の人間が姿を現した。

「小田ちゃん!!??」

雪だるまの中から出てきたのは、さくらだった。
雪が完全に溶けるとともに、さくらは倒れ込んだ。
その顔色は悪く、唇もラベンダー色になっていた。
そしてその側に、ごく小さな機械らしきものが転がっているのに気付いた。


「そこからは、何も覚えてないのね?」
「はい、気付いたらここにいました…」

ストーブの側で、毛布にくるまりながらさゆみの質問に答えるさくら。
外出していた途中から記憶がないというが、その中で挙げられた地名にさゆみはピンときた。

「ねぇ飯窪、さっきのニュースさぁ」
「お風呂に男の人が入ってきたやつですか?」
「そう。あの温泉ってさ、○○にあるよね?」
「あ!確かそのはずです」
「きっとあの人も、これで雪だるまになってたんじゃないかな」

テーブルに置かれた、先ほど拾い上げた小さな機械。
雪だるまっぽいと言えなくもないその形状。
仕組みは分からないが、この機械が人間に取りつき雪だるまをなったとみて間違いないだろう。

しかし、何の目的で?
そこで思い当たる、一人の人物。
彼女なら、こんな機械を作り上げ、こんなふざけた事を考えるかもしれない。
単なる戯れのつもりか、それとも本気か──


ガタタタタッ

その時、鍵をかけていた入り口の扉が激しく揺さぶられた。
驚いてそちらを見ると、外にはいくつもの雪だるまが。

“ヤバい!!!”

先ほどは一体だけだったので沸かしていたお湯で切り抜けられたが、何体も、
しかも、中にいるのは一般人かもしれないので迂闊に攻撃はできない。

「どうしましょう!?このままじゃお店壊されちゃいますよ!」

とにかく、まずはこの場から引き離した方がいい。
裏口から外に出て、3人は雪だるま達を引き付け、店から遠ざける。
しかしそれでは何の解決にもならない。
雪だるま達を溶かして元に戻さなければならない。

どうすればいいの…?

街を走る3人と雪だるま達。
その時、ある看板がさゆみの目に止まった。


“これだ!”

春菜とさくらに手早く思い付いた次第を伝える。
さくらは脇道に逸れ、さゆみと春菜が引き続き雪だるま達を引き付ける。
そして、とあるマンションの中へ誘い込み、階段を上る。

「小田ちゃん、そっちはOK?」
『はい、大丈夫です』

電話でさくらと確認を取り合い、作戦を実行に移す。

「えいっ」

時間を止めるさくら。
そこは、スイミングスクール。
屋根が開閉する温水プールがある。
先ほどさゆみが見たのは、ここの看板だ。

「屋根のスイッチは…これだ!」

寒空の下、屋根が開いてゆく。
それを確認すると、さくらは足早にその場から逃げ、時間を元に戻す。

「え?何?何で?」
「ちょっと!寒い!」

利用客が戸惑うその頭上では、もう1つの作戦が進行していた。


「やーい!ここまでおいでー!」

スイミングスクールに隣接する、マンションの屋上。
雪だるま達を1人で挑発するさゆみ。
挑発に乗せられた雪だるま達がその元へ向かってゆく、が──

ヒューーーーン…

雪だるま達が次々と眼下へ消えてゆく。
そして間もなく、多数の水音が聞こえてきた。

ザボーン ザボーン

春菜によって視覚を操作され、さゆみの姿と屋上の床を空中に見せられた雪だるま達は、隣の温水プール目掛けて落とされたのであった。

「よし、逃げよう!」
「はいっ!」



翌朝、新聞やテレビを賑わせた真冬の珍事。

「なるほど~、上手くやったねぇ」

そのニュースを見ながら、女は微笑んだ。





2014/02/24(月) 22:48:31.37 0