『リゾナンターЯ(イア)』番外編「赤いフリージア」


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2014/02/23(日) 更新分



その圧倒的な戦闘力から、政府御用達の特殊部隊として発足した「アサ・ヤン」。
さらに中核グループである「M」を中心とした大組織「HELLO」として発展を遂げ、その名は国内外の闇社会に轟きはじめる。

目覚しいまでの組織の成長、これを面白く思わない勢力もあった。
例えば。「アサ・ヤン」、さらには「HELLO」の戦力増強に寄与してきた警察組織の向こうを張る、自衛隊。
特に陸上自衛隊はその性質から、一歩兵として強力な戦闘能力を有する能力者に勝るとも劣らない戦力を生産する宿命を負うことと
なった。

その一つが、陸上自衛隊特殊機械化部隊。
体の一部、もしくは全身を生体改造した兵士いわゆる『バイオニック・ソルジャー』の集団。
従来の認識番号を捨て新たに別人として生まれ変わった彼女たちは、こう呼ばれた。

Member of Lost Original Numbers
Me-LON、通称メロンと。

だが、度重なる陸自の内部抗争の果てに、メロンは「HELLO」の預かりとなる。
対抗すべき相手に吸収されるという、皮肉な結末。このことによって「HELLO」は磐石の体制を築くこととなった。

時は流れる。
突如として本来殲滅すべき闇社会の頂点に君臨した「HELLO」は、組織名を闇そのもの、「ダークネス」へと変えた。その際に、
かつてない大粛清の嵐が組織内を吹き荒れる。



「なあ圭織、じゃなかった。『不戦の守護者』、聞いたかよ。今度の『ダンデライオン』のメンバー。いくら『ダンデライオン』の
設立概念が能力者・非能力者問わず優秀な人材を集め戦力とすること、って言ったってさぁ。ありゃないわ。あれだったらまだおい
らや圭織がメンバーに残ってたほうがよかったっつーの。なあ、聞いてる?」

絶海の孤島から移設されたばかりの、ダークネスの本拠地。
その一角にある、「不戦の守護者」のために作られた朱塗りの拝殿。そこで、幹部である「詐術師」は纏わりつく蝿のように、せわ
しく動き不平を捲くし立てていた。

「そりゃ加護のやつがメンバーから抜けたのは痛手だったけどさ。つーかそもそも紗耶香ぶっ殺しといて無事で済むなんて思ってな
かったけど。でも、だからってあんな連中集めて何の意味があるんだ?それこそおいらや圭織が守ってきた『ダンデライオン』の名
が泣くね。リーダーが屁タレの石川ってのはまだ置くとして、旧式のサイボーグとひよっこ二人!しかもそのうちの一人が戦闘経験
もない無能力者って!!ありえねえ、ありえねえったら。ちょっと圭織、いや『不戦の守護者』さん。おいらの話聞いてんの?また
電波でも更新してんじゃねえの?」
「うるさいわね。そんなに小虫みたいに喚かなくても聞こえてるわよ」
「む、虫!!」

絶句する「詐術師」のことなどお構いなく、「不戦の守護者」は自らの苛立ちを抑えることができずにいた。

実際。
「詐術師」の言葉は一つ一つ、「不戦の守護者」の耳に届いていた。
だが、それ以上に彼女の憤怒は凄まじかった。

「ダンデライオン」は彼女が提言し、そして発足させた部隊。
故にその思い入れは絶大。今回のようなメンバー構成は過去一度もなかっただけに、「不戦の守護者」の怒りも比例し膨れ上がっていた。


「あ」

そんな中。突然、「不戦の守護者」の中に稲妻が走る。
頭の中に展開するイメージ。「予言」が下りたのだ。

「なんだよ、急に」
「…心配することはないわ。問題はじき、解決する」
「もしかして、未来が視えたのか?」
「ええ。存在自体は消滅するけど、名前は残る。惨めに生き長らえて名前を汚すより、よっぽどましじゃない」

意味深な言葉を残し、瞑想に入る「不戦の守護者」。
ったく。相変わらず電波な発言しやがって。「詐術師」が捨て台詞のように吐いた言葉など、最早耳には届かなかった。



本拠地の中に設けられた、修練場。
それまで構成員にとって恐怖の対象だった準幹部の二人が、ある事件により牢獄に幽閉される。以来、恐怖に縛られ、理不尽な暴力
に晒されることはなくなっていた。
それでも、訓練自体は険しく。

「どうしたの?もう終わり?」

無様に倒れる二人の少女を、赤い皮のジャケットを羽織った女性が見下ろす。
無表情。まるで、機械のような。

「す、すみません」
「少し手加減をしていただけませんか。こういう分野は苦手なもので」

自らの不甲斐なさに謝るのは、前髪を上げて二つ縛りにした少女。
対照的に、おかっぱの少女が不服そうに頬を河豚のように膨らませる。

「あんたたちが戦闘向きじゃないのは分かってる。でもガキさん。あんたの能力は、格闘能力を上げることでさらに生かされる。紺
ちゃんも頭ばっか使って体も動かさないと、いざという時にひどい目に遭うんだから」
「はい…」

項垂れる二人を見て、そこで初めて女性は表情を表に出す。
目を細め、微笑を湛えながら二つの頭に手をやる。

「うちらは確かに名を馳せた先代たちに比べたら、心もとない存在かもしれない。けど、四人で力を合わせれば。きっといつかは周
りも認めてくれる」
「柴田さん」
「特にガキさんは、戦闘も精神干渉も同時にできるいいお師匠さんがいるんだから。もっといいところを吸収して、頑張んないとね」


柴田あゆみ。
陸上自衛隊特殊機械化部隊メロンの、最後の生き残り。
何の思惑が働いたのかはわからないが、新生「ダンデライオン」の一員として選ばれた。だが、彼女にとってそれは、一つのチャンス
でもあった。

ダークネスにおける、大粛清。
それは「HELLO」が「ダークネス」へと変遷する際に実施された、大規模な内部殺戮劇。
組織の方針に逆らうもの。これを機に政府方へと駆け寄ろうとするもの。台頭著しい内部勢力。それらが全て、粛清の名のもとに一掃
される。当然のように、あゆみの所属していたメロンも巻き込まれた。

しかし、ことメロンにおいては事情が違う。
彼女たちは先の反逆者たちとは違う。組織の命令にいつだって忠実に動いてきた。にもかかわらず、あゆみを除いた三人のメンバーは
悉く惨殺されていったのだ。
それだけに、メンバーの参謀だった村田めぐみが残した最期の一言は決定的だった。

― 柴田くん。我々は…組織の利のために…殺さ…れ… ―

つまり、組織に利を齎そうとした誰かに殺されたということ。
あゆみにとって、その時点から復讐への道のりは始まったも同然だった。

そんな折、「ダンデライオン」入隊の誘いは彼女にとって行幸とも言えた。
組織内の小部隊に過ぎないメロンに在籍するよりも、より組織の中枢に近い「ダンデライオン」にいたほうが虐殺犯の正体を掴み易い。
その点で日頃から親しくしていた石川梨華の存在は非常に有効に働いた。


「柴ちゃんが来てくれたら助かっちゃう。ほら、新人二人だけだと不安だし」

先に「ダンデライオン」のメンバーとして活躍していた梨華は、快くあゆみのことを迎えてくれた。それだけに、本来の目的を隠しての
潜入は少々心が苦しくもある。

とにかく。
「ダンデライオン」としての活動を続けつつ、自らが姉のように慕ったメロンのメンバーたちを無慈悲に葬った相手を探さなければなら
ない。もちろん、組織の利に従って任務を遂行した人間を討つというのは反逆行為に当たる。しかし、あゆみはそれで一向に構わない。
仇討ちを成した後ならば、いかように扱われてもいい、そんな覚悟すらあった。



「サブリーダーぶりも、ずいぶん様になってきたじゃない」

あゆみが再び新兵二人に稽古をつけ始めていたところに。
現れた、黒のボンテージに身を包んだ女性。
「ダンデライオン」の現リーダー、石川梨華だった。

「い、石川さん!!」
「今日は外での任務と聞いていましたが」
「予定より早く終わっちゃって。だって全然歯ごたえないんだもの。あっという間にぐずぐずのミンチにしてやったわ」

畏まる少女たちを尻目に、あゆみへと近づく梨華。
ついこの間まで、気弱そうな内面を隠せずにいた人物とは思えない。
これも、「幹部」の地位ゆえの変化か。そんなことをあゆみが考えていると、

「ねえ柴ちゃん。久しぶりに…手合せしてみない?」

と言ってきた。
まるで、獲物を前にした獣のような目つきで。
もしかしたら、先の任務では消化不良だったのかもしれない。


「じゃ、やろっか。そこの二人も勉強になるだろうし」

あゆみが、一歩前に出た。
言った通り、梨華ほどの実力者と手合せすることで、新兵二人への教育効果もある。
だがそれ以上に。
自らの力がどこまで通用するか、確かめてみたい。

メロンの三人を死に追いやった人間。
あゆみは四人の中でも最強の実力者ではあったが、他の三人もかなりの強さを誇っていた。
怪力を誇った、斉藤瞳。スピードと強烈な蹴りで相手を圧倒する大谷雅恵。そして、知力で敵を攪乱する村田めぐみ。
その三人を、倒すほどの能力。ならば、こちらもそれ相応の戦いをしなければならない。

その意味で、梨華は格好の仮想敵と言えた。

「見せてもらうわよ。『赤香雪蘭』の実力」
「こちらこそ。幹部に昇格した腕前をね」

手合せと呼ぶには激しい戦いが今、始まろうとしていた。





2014/02/23(日) 02:20:22.67 0


2014/02/24(月) 更新分



修練場に、緊張が走る。
各々が自らのトレーニングをしていた構成員たちは、一斉に手を休め、梨華とあゆみの手合わせに注目し始めた。

それもそのはず、片や組織の幹部に昇格した新進気鋭の能力者。そして片やメロン最後の生き残りにして「赤香雪蘭」の異名を持つ戦士。
一体どちらの実力が上なのか。興味を惹かないはずがないカードだった。

愛用の鞭を腰から外し、床に向かって波打たせる梨華。
それを見たあゆみは、自らの表情を消してゆく。それは、戦闘開始の合図でもあった。

先に、あゆみが仕掛けた。
梨華に向かって駆けながら、両手に発火性の紅い粉を纏わせる。
「紅那恒緋(こなこうひ)」。自らの拳を紅蓮に変える、サイボーグであるあゆみならではの技。この機能により、拳に少しでも触れた
相手を炎で焼き尽くしてしまう。彼女が赤いフリージア、つまり「赤香雪蘭」と呼ばれる由縁だ。

しかし不用意に相手を近づける梨華ではない。
自慢の鞭を右へ左へ飛ばし、あゆみを寄せ付けない。岩をも砕く、その威力。まともに喰らえばいかに装甲されたボディと言えど、多大
な損傷を受けてしまうだろう。


付かず、離れずの一進一退の攻防。
それを見ていた二人の後輩。

「前々から思ってたんだけど。やっぱ柴田さんの身のこなしはキレイだよねー」

おでこ丸出しの髪型の少女。新垣里沙が思わずそんなことを言う。
特殊部隊にて鍛え上げられた戦闘スタイルはまさに近接格闘の教科書。彼女のスタイルを見よう見真似で再現しようとする構成員は後を立
たない。

「…ガキさん。どっちが勝つと思う?」

その横で、冷静に二人の戦いを見つめているおかっぱの少女、紺野あさ美が友人に問う。

「石川さんも確かに強いんだけど。あの人、どうしても頭に血が昇りやすいじゃん」
「確かに。少々冷静さに欠けるところがあるね」

見た目の華奢な印象と違い、梨華は熱くなりやすい性格の持ち主であることは二人のみならず構成員の多くが知るところであった。

「柴ちゃんどうしたの?!そんなにあたしの鞭が怖い?!」

その通りに、梨華はこれが手合わせであることを忘れ、戦闘にのめり込んでいた。
対するあゆみはあくまでも、冷静。


「逃げてばかりいるなら…こっちから行くよ!!」

激しく、鞭が振るわれる。
衝撃で床が抉り取られ、そして大小の礫となってあゆみに降り注いだ。しかし、この程度の飛来物など強化された肉体にとっては微小た
るもの。飛び交う石を払い、あくまでも流麗な身のこなしで梨華へと近づいてゆく。

「不用意に近づき過ぎよっ!!!!」

焦る梨華が、大振りに鞭を横に薙ぐ。
それはあゆみにとって、大きな隙と映った。飛翔しくるりと宙を描いた勢いからの、紅き炎を纏いし両の手刀が襲い掛かる。

たまらず防御に回った梨華が突き出した鞭。
手刀を受けた部分がぶすぶすと焼け焦げ、据えた臭いを放っていた。

「相変わらず見事だわ。それは確か…『牙遮稟(がちゃぴん)』の型よね?」

その時。
ぱん、ぱんと緩慢な拍手をしつつ、いかめしい顔をした女性が姿を現した。
釣りあがった目にはまるで、猛獣のようなぎらつき。

「や、保田さん!!」
「ちょっと石川。公の場では二つ名で呼ぶように言ったはずでしょ」
「すみません!『永遠殺し』さん!!」

畏まった梨華は急速に戦意を喪失。
あゆみもまた、大幹部の登場に戦闘を切り上げていた。


「極北の地に棲むとされる、翡翠色の龍『牙遮稟』。伝説に謳われし龍の動きを模写し戦闘に取り入れた動き、見せてもらったわよ」
「そんな。恐縮です」

「アサ・ヤン」の時代より幹部の座に君臨する「永遠殺し」からのお褒めの言葉。
あゆみはただただ頭を垂れるばかりだ。

「それに引き替え石川。今回はあんたの悪い癖が出たわね。戦闘はいつでもクールに、よ?」
「はい…」
「まあ、そこが逆に利点に働くこともあるでしょうけど」

梨華の直接の師匠格に当たる「永遠殺し」。
叱咤とともにフォローを入れることも忘れない。曲者揃いの幹部たちの中で、人格者として名が知れている彼女らしい対応だ。

「ところで柴田。あんたに直々の指令が下りたわよ」

そんな中。
「永遠殺し」があゆみの耳に口元を寄せる。
そこで囁かれた言葉は。
あゆみの表情が、変わった。

「わかりました。すぐに、支度をします」

それだけ言うと、振り返らずに足早に修練場を後にする。
周りのオーディエンスたちも、一大対決が終着したのを見届けると、再び自らの修練に戻っていった。


「さっすが『永遠殺し』。眼力だけであの修羅場を収めちゃったよ」
「ところでガキさん、さっきの戦い。どう思った?」

大多数の群集と同じように、あゆみと梨華の戦いを見ていた二人。
大先輩の見事な立ち回りに感心する里沙を余所に、あさ美が先ほどの手合せの総括を求めた。
実に研究者らしい、物の考え。

「どうって。柴田さんの圧勝でしょーが」
「本当にそうかな。まあ、いろいろな見方はあると思うんだけどね…」

あさ美は少しだけ考え、そして。

「やっぱり限界があるなあ。陸自の技術だと」
「え?何のこと?」
「いや、こっちの話だよ」

それだけ言うと、床に置いておいた白衣を拾い上げ、身に纏った。



「永遠殺し」からあゆみに下されたのは、とある裏切り者の始末。
その名を聞いたあゆみは、驚愕する。
彼女は、メロンの三人を屠ったと思しき最重要人物だと見ていたからだ。

ダニ=ルル。
「HELLO」の下部組織だった、「ココナッツ」と「T&C」。「ダークネス」に変遷する際に反逆を企て、取り潰された集団だった。
その中のメンバーだった「ココナッツ」のダニエルと、「T&C」のルル。その二人が、人体実験の果てに掛け合わされた存在。それが、
ダニ=ルル。

獣人族のダニエルの獣化能力と、ルルの技巧に長けた格闘センス。
この両立を見込んで掛け合わされたものの、結果は知性のない化け物を産んだだけ。腕のみを獣化させ敵味方問わず引き裂く狂暴性には、
彼女を産んだ科学部門の研究所ですら手を焼いていた。

やつが…やつがむらっちたちを…!!

復讐の炎は、あゆみの脚を早める。
「永遠殺し」の情報によると、本拠地からさほど離れていない森の中にダニ=ルルは潜伏しているという。
草原を抜け、森を駆け、木々をかき分ける。太陽はまだ高い。ダニ=ルルほどの巨体なら、見つけることはそう難しくないはずだ。

瞳。めぐみ。雅恵。
彼女たち三人の亡骸には、大きな爪痕があった。そして何かを抉り取ったような傷。
腕を獣化させたダニ=ルルならばそんな芸当も可能だろう。

そしてついに。
あゆみはダニ=ルルの大きな背中を捉える。


「待て、ダニ=ルル!!」

大声に反応し、くせのある金髪と黒髪の交じった長い髪を靡かせて逃亡者が振り向いた。
二つの貌が不完全に混じり合った、醜悪な顔。
背丈は、あゆみのそれを遥かに超えていた。

「ナン…だ、おマエ」
「ダニ=ルル。組織の重要機密を盗み出した罪、貴様の命をもって償わせてやる」
「フ…フザケるな!こレは…it's mine!! fuck! ヒャックマンエン!ヒャックマンエン!!」

恐らく意識も完全には統一されていないのだろう。
異なる二つの人格が、入れ代わり立ち代わり現れる狂気。
この狂気が、めぐみたちを死に追いやったのか。

「貴様には色々聞きたいこともあるんでな。覚悟してもらうぞ」
「ノォォォォオォォォ!!!!!!!」

ダニ=ルルが、狂気をむき出しにして突進してくる。
腕は既に、獣のそれに変化していた。

鉄骨のような太い腕、そして鋭い爪。
あゆみの体を捉えたかと思うと、それを一気に握りつぶした。
と思いきや、手の中にはへし折られた木々の枝。

「ウ、上?」
「残念。下からだっ!!」


空を見上げるダニ=ルルに対し、態勢を低くしたあゆみが急襲する。
がら空きの体に、炎を纏った拳を叩き込む。
乱れた髪に火が燃え移り、ボディへのダメージと炎の熱さでたまらず転げまわる異形の怪人。

「ノォォォ、burning,身体熱!幇助幇助…タスケテェ!!」

先程梨華と一戦交えたせいだろうか。
あまりにも、弱い。
こんな奴に、精鋭部隊メロンが三人も倒されたというのか。

「ダニ=ルル。貴様に聞きたいことがある。貴様は、かつて上官の命を受けてメロンのメンバーを手にかけたのか?」

体を激しく地面にこすり付けて炎を消すダニ=ルルに投げかける問い。
そこで、彼女の動きが止まった。

「メロン…おマエ、メロンのメンバーか。オマエ以外、全員ミナゴロシに」
「やはり、貴様」
「チ、違ウ!アイツラをkillしたのはmeジャナイ!!アイツラを殺しタのは」

黒の粛清。

「黒の、粛清?」
「アア、ソウダ。最近、カンブにclass changeシタってイウ…」

聞いたことのない、名前。
しかし。
あゆみは、気づいてしまった。
その可能性に。いや、真相はまだわからない。

焼け焦げたダニ=ルルを捨て置き、あゆみは来た道を再び駆け抜ける。
最早任務など、どうでもいい。
頭に抱いたある疑念を、振り払いつつ。





2014/02/24(月) 01:52:03.45 0



2014/02/27(木) 更新分



真夜中。
港の脇にある倉庫街を、梨華は一人で歩いていた。
黒のボンテージは闇に溶け込み、上層部から与えられた仕事をこなすのに丁度良い。
建物の隙間を縫うように吹く、生ぬるい潮風。だが、その流れが急に変わる。

「梨華ちゃん」

梨華が振り向くと、そこには見慣れた顔があった。

「どうしたの柴ちゃん。悪いけど、今は仕事中だから」
「梨華ちゃんに、聞きたいことがある」

しかしその顔に、いつもの愛嬌はない。
冷たく醒めた、サイボーグの表情。

「なに、藪から棒に」
「梨華ちゃんの持ってる能力って、何?」

今度は梨華の表情が変わる番だ。
咄嗟に出した笑みも、どこかぎこちない。

「え?何でそんなこと聞くの?」
「答えて」
「柴ちゃんは知らないかもしれないけど、幹部同士でさえお互いの能力は秘密にするようにって。ほら、この前の市井さんの一件もあったし」
「いいから。答えてよ」

無表情ながらも、勢いを感じさせる瞳。
その勢いに押されたのか、ついに梨華は口を割った。


「柴ちゃんは親友だから…特別だよ。あたしの力は、肉体強化。何度か手合せしたことがあるからわかるでしょ?ほら、今日だって」
「そっか。そうなんだ」

納得したように、瞳を閉じるあゆみ。
その瞬間。

梨華に向かって、フルパワーの「紅那恒緋」。
放出された大量の赤い燃焼物質は梨華の体に纏わりつき、一気に炎上した。

激しく燃焼する、黒のボンテージスーツ。
いかに強化された服とは言え、この業火の中では原型を留めることができない。
炙った飴細工のように糸を引き、垂れ下がり、融けてゆく。

「ひどいじゃない。いきなりこんなことするなんて」
「ごめんね。でも、強化服ですら焼き尽くす炎の中、あなたはどうやって生き延びたの?」

梨華は。
まるで闇に生きる獣のような。
首から下を剛毛に覆われた姿は、獣人族のものと酷似していた。

「あんた、最初からあたしに当たりをつけてたんだ。親友だと思ってたのに、ひどい」

悲痛な表情を作り、涙さえ浮かべ、訴えかけるような目をする梨華。
その表情に、自分自身が彼女と重ね合わせてきた年月を思い出す。


「できれば…信じたかった。けど。梨華ちゃんしか。梨華ちゃんしかいないのよ。メロンの三人を、事もなく葬り去ることのできる人物は」

メロンのメンバーたちがその体に刻みつけられていたのは、まさしく獣の爪。
犯人が獣人族の力を持つものであることは疑いようがなかった。
ただでさえ絶滅が危惧される獣人族の力を持つものなど、組織ではたかが知れている。ゆえに、ダニ=ルルが浮上したわけだが、彼女はメロン
の手練れたちを倒すにはあまりにも力が足りなかった。

「何の根拠があって…仮にあたしがメロンの三人を殺してなかったら、どうするつもりだったのよ!」
「ダニ=ルルが言ってたわ。実行犯は『黒の粛清』を名乗る幹部だって」
「嘘、それだけの理由で!?あんた、脱走した裏切り者の言うことを鵜呑みに…」
「それだけじゃない!!」

あゆみの叫び声が、はっきりと梨華を拒絶した。

「もし。梨華ちゃんが獣人族の力を持っているのだとしたら。色んなことが説明つくの。あなたの俊敏な動き、そして剛毅な鞭の振るい方。ど
こか、ちぐはぐな気がしてた。でも、あなたが獣人族の力を使うとしたら…」
「ようやくそこまでたどり着いたのね」

そこで、梨華は、いや、「黒の粛清」は泣き真似をやめてにやりと嗤う。
今までの芝居が、退屈だったとばかりに。

「わざとよ。わざと、ヒントを残してあげたの。あんたがあたしに疑いを持つようにね」
「…どういう、こと?」
「確かに。あんたのお仲間を葬ったのはこのあたし。しょうがないじゃない。そういう命令が下ったんだもん。仕事は意外と簡単だったわよ?
でも、あんたの場合は、ちょっと面倒なプロセスを組まざるを得なかったんだよね」


目の前にいる梨華が、最早梨華ではないように感じられた。
今の彼女はもう、ダークネスの冷徹な幹部。「黒の粛清」なのだ。

「悔しいでしょ?親友に裏切られて。ここに来るのも色々葛藤したんでしょ?だったらぶつけてみなさいよ、その感情をぜーんぶ、あたしにね
!!」

すっかり闇に豹変した「黒の粛清」があゆみを嘲笑う。
そこに見出したのは、倒れていった友たちの、最後の表情。

「許さない。あなたは絶対に…許さない!!」

全身に「紅那恒緋」を纏い、赤いフリージアが走る。
真っ赤な軌跡を描きながら、一直線に「黒の粛清」のもとへ。

「言っとくけど。あんたの炎なんて効かないわよ。あたしの獣毛は、そんなやわな炎じゃびくともしないんだから」
「うおおおおっ!!!!」

あゆみの鋼鉄の拳が、粛清人のボディを穿つ。
一撃では終わらない。二発、三発。さらに連撃が続く。

「ねえ人の話聞いてる?そんななまくらパンチ何発放っても…」

後ろに大きく跳び、間合いを取ったあゆみが、両手を合わせ”狼の牙”を作る。
そこからの、急襲。赤い燃焼物質は魔狼の形を描いて「黒の粛清」を焼き刻んだ。


乱羅魔天狼(みだらまてんろう)。
機械化された五指を狼の牙に見立て、握力と噴出する炎によって相手を切り刻むあゆみの必殺技。これを受けて立ち上がったものなど、今まで
いない。はずだったが。

「さすが陸自の特殊部隊仕込の格闘術、あたしの自慢のボディに傷がついたわ。でもね」
「ぐっ!!!!」

剛毛を毟り取り、皮下にまでダメージを与えたはずの狼の牙だったが。
代償として、あゆみの両の指がずたずたに引き裂かれていた。

「もうさっきの技は使えないわよね?さあ、どうする?『あれ』使っちゃいなよ」

粛清人の言葉を聞き、表情を変えるあゆみ。
まさか、そのことを知ってるなんて。驚愕を禁じえない。
それは、あゆみにとって最後の切り札だからだ。

「誰から…それを?」
「この際だから言っちゃうけど、あたしの最終目的ってそれのことなんだよね。元々メロン処刑の目的自体が『陸自の人間兵器からの、技術回
収』なわけだけど」

「黒の粛清」の慈悲のない目が、細くなる。
無念にも倒れていった友たちの。瞳の、めぐみの、雅恵の顔が浮かんでは消える。全て、全ては、目の前の相手が。

「ねえ、梨華ちゃん」
「何?命乞いなら無駄よ?」

あゆみは。
一縷の望みを託し、かつて友だと思っていた女に呼びかける。


「あたしに近づいたのも、その『技術回収』のため?」
「え…」

沈黙。
瞳を閉じた「黒の粛清」は額に手をやり、髪をかき上げ。
そして、嗤っていた。

「そんなこと、どうでもいいじゃない。あんたはどの道、他のメロンたちの後を追うんだから」

もう、迷いはなかった。
あゆみは、最後の切り札を起動させる。
駆け巡る機械の電流、強烈な過負荷。引き換えに手に入れるのは、戦車部隊すら圧倒する、驚異の戦闘力。

粛清人があゆみに意識を向ける間もなく。
吹き飛ばされていた。胸の中央が、べっこりと陥没する。
剛毛の鎧を突き抜ける掌底、陥没した部分からは勢いよく火の手が上がっていた。

「な、な、な?」
「せめて、後悔する暇もなくあの世に送ってあげる」

全身から赤い燃焼物質と蒸気を噴出させ、あゆみはとどめの一撃を見舞うべく構えをとる。
これが彼女の最後の切り札、A-MAX。
全身に過大な負荷を与えることで、通常の10倍の力を行使することができるシステム。その代わり、10秒が限界活動時間。だが、あゆみの10倍
の力を受けて立っている生物など理論上は存在しないも同然だ。


「9・・・8、7、6!!」

自らカウントダウンを呟きながら、さらに「黒の粛清」に攻撃を仕掛ける。
赤熱した蹴りが、吹き付ける豪雨のようにヒットし、肉を抉り骨を破壊してゆく。

「そん…な…こんなの…聞いてな」
「5、4、3!!!」

喋る隙さえ与えない。
A-MAXの後に転がるのは破壊しつくされた肉の塊りだ。
防戦一方で辛うじてガードするその隙を、あゆみの10倍化した拳が、蹴りが、炎が襲う。

「2」

粛清人の喉元に、あゆみの掌が押し付けられた。
首の骨を押し潰し、一気に命を奪う。

「1…さよなら。『梨華ちゃん』」

ぼきり。
太い何かが、へし折れる音。
だがそれは「黒の粛清」の首の骨ではなかった。


バランスを崩し、倒れるあゆみ。
0。A-MAXは完全に終了する。あゆみの鋼鉄の足の、膝から下が完全に折れていた。

「これは…」
「残念でしたポンコツさん。今度サイボーグに生まれ変わる時は、きちんと痛覚機能をつけてもらうことね」

膝の関節に自然と目がいく。
石。石が、詰められていた。これが膝を破壊し脚部の断裂に繋がった原因。
しかしそんなもの、いつ。

あの、手合わせの時か。

修練場での、「黒の粛清」との手合わせ。
闇雲に振るわれていた鞭から、飛ばされた床の瓦礫。
その本命が、膝の間接にこれを挟み込むこと。

あゆみの側に、「黒の粛清」がしゃがみ込む。
その目は、A-MAXを発動させる機関を探していた。

「たぶん、ここだと思うのよね。親友のよしみで、後悔する暇もなくあの世に送ってあげる。さよなら、『柴ちゃん』」

指先の爪が、あゆみの胸を抉る。
心臓に伝わる、ひんやりとした金属のような感触。
生命を感じない冷たさを感じつつ。

あゆみの視線が、空を彷徨う。

ごめん、みんな…

わずかに口をそう動かしたかと思うと、あゆみの瞳から急速に光が失われる。
サイボーグである柴田あゆみは、完全に機能を停止した。



物言わぬあゆみの亡骸。
既に金属と肉の塊になったそれを、「黒の粛清」は眺めていた。

「首尾は上々、といったところですか。一度内蔵されているパワーを全て出し切ってからでないと、『それ』の摘出は難しい。柴田さんのフル
パワーを凌ぎ切った戦い方は実に見事でしたよ」

背後から現れる人影。
確かめるまでもない。

「紺野じゃない。驚かせないでよ」
「別に驚かせに来たわけじゃありませんよ」

白衣を纏った少女は、肩を竦めつつ視線で何かを催促する。

「あんたの目的は『これ』でしょ?」

言いながら、何かを弧を描き投げる「黒の粛清」。
それは紺野を慌てさせることもなく、すっぽりと彼女の掌に納まった。

「私はこういう形での摘出は反対だったんですが。上司の命令とあらば仕方ありません」
「ああ。あんたね。最後まで柴ちゃんの始末に反対したのは」
「そうですね。絶大な効果を使用者に与える『A-MAX』の高機能性に対し、使用者となる柴田さんの肉体はあまりに脆い。使いこなせないのな
ら壊して取り出せ、がうちの上役たちの総意ではあったんですが」

薄暗い倉庫街に、光が射す。
雲に隠れた月が姿を現したせいだった。
紺野の眼鏡が、光を乱反射させる。


「あたしは専門外なんで、よくわからないんだけど。そんなポンコツを無理くり使うより、新たな被検体に投入したほうが理に適ってるんじゃな
い?」
「確かに。しかし、そういう困難な状況においていかに事態を打開するか。そこに科学の本質があるのだと、私は思ってます。まあ、単純に柴田
さんが亡くすには惜しい人格者だったということもありますね。誰かよりはよっぽど」
「そういう冗談は時と場所を選んだほうがいいわ。この状況なら、死体がもう一つ増えようがあたしは一向に構わないし」

強烈な殺意を向けられ、紺野は肩を竦めるしかない。

「それでは、確かに『A-MAX』は受け取りましたから」
「ねえ。それ、一体誰に移植するつもり?」
「『A-MAX』は人間の血流に甚大な効果を発揮する機械機構です。柴田さんは自らの血液を燃焼物質とすることでその機能を使役していました。
新たな使い手には、やはり血液に特殊な性質を持つ人がいいでしょうね」

踵を返し、闇の中へと消えてゆく紺野。

「そうだ。曲がりなりにも、柴田さんはあなたの親友でしたよね。どうです?任務で親友を殺めた感想は」
「聞いて、なんになるの」
「いえ、ただの好奇心です。科学者としての本能なのかもしれません」

「黒の粛清」は少し考えて。
こう、言った。

「知ってる?あたしの心臓は、鉄でできてるのよ?」





投稿日:2014/02/27(木) 17:11:10.81 0