『リゾナンターЯ(イア)』 (48回~51回)


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48回目



孤島に「墜落」したリゾナンカー。
よほど頑丈にできているのか、乗員全員はかすり傷一つ負う事も無く。
しかしながら中の機械にはダメージがあったようで、ハッチを開くと完全に動かなくなってしまった。

一人、また一人とリゾナンカーを下りてゆく。
状況を確認し、至近にある開けた場所を目指す。全員がその場に集まると、自然と円陣を組むような形になった。

「まだ動くなら研究所の入り口まで楽に行けたんでしょうけど…」

岸壁に突き刺さったままの楕円形を振り返り、春菜が名残惜しそうに呟く。
ただ、孤島上陸までは作戦通りに進んでいた。

「あたしの記憶が確かなら。作戦会議で話したように研究所にはいくつかの侵入ポイントが存在するはず。まずは正面を突き進み、
主力部隊が迎撃に動いたところで各自離散する。そのタイミングはさゆみん、お願い」
「わかりました」

里沙の言葉を、さゆみが継ぐ。

「きっとこの先には例の主力部隊が待ち受けてるはず。でも、みんなの力なら必ず撃退できるって信じてる。絶対に、れいなを助け
出すよ。さくらちゃんも。みんなで帰るよ、リゾナントに!」
「はいっ!!」

円陣の中心に重ねられた手と、リゾナンターたちの声が重なる。
それを合図に。リゾナンターたちはさらに上の地へと登ってゆく。視界が完全に開けた先にあるのは、白い無骨な建物。


「あれが、研究所」

遥が、身を固くする。
場所も違う。建物の形も違う。けれど、感じる。似ている。
かつて遥や春菜を捕らえていた「教団」の本拠地に。その直感は正しかった。この研究所においても、非人道的な実験は実施されて
たのだから。

「…何かが、近づいてきます!!」

春菜は。遥とは違い過去のトラウマに気を取られている余裕はなかった。
研ぎ澄まされた超聴覚が、嫌でもこちらに忍び寄る不穏な足音を捉えてしまうからだ。

「姿を隠してるけど、1…2…3…4体!!でかい獣が、こっちに来る!!」

春菜の言葉に我に返った遥が、千里眼で敵の正体を探る。
身構えるリゾナンターたち、その言葉通りに獣たちは姿を現した。

布のようなものをびりびりと破く音とともに姿を現したのは。
全身を黒い毛で覆われた、巨大な生き物。渦巻く体毛から覗かせるのは、異常に発達した一対の犬歯、そして真っ赤に染められた目。
その生き物たちが、身の丈2メートルをゆうに超す巨体を震わせ、激しく咆哮した。

「現れたね、『戦獣』」

里沙が、忌々しげにその獣の名前を口にする。
「戦獣」。ダークネスによって開発された生物兵器。強靭な肉体、人間をあっという間に肉の塊に変える攻撃力、そして高い回復力。
まるで、獣人族のような特徴を持つ作られた生き物。


それもそのはず、彼らが開発される過程においては多くの獣人族の命が犠牲になった。つまり、「戦獣」は獣人族の特性を組み込ま
れたクローン生物。その戦闘力の高さから、ダークネスの重要施設への大量配置を期待されたが。

四匹の黒い獣は、低く唸り声を上げながら、ゆっくりとリゾナンターたちに近づいてゆく。口からはぼたぼたと垂らし続けている、
獣臭い涎。赤光を放つ目が、ひたすらに少女たちを見据えていた。理性の無い、ただ得物に噛み付き食い千切り腹を満たすことし
か考えていない、目。

彼らの唯一の弱点。
それは、知性と言うものがほぼ存在しないということ。単純な命令くらいならこなすことはできるが、命令した人間をただの餌と
みなして襲い掛かることも少なくなかった。必然的に、彼らが配備されるのは人のほとんどいない施設。例えば、孤島に浮かぶ研
究所のような。

「こいつらはさゆみとガキさんで食い止める。みんなは目的地を目指して!!」

さゆみが、若きリゾナンターたちに指示を出す。

里保。聖。香音。衣梨奈。
亜佑美。春菜。優樹。遥。

四人ずつ2チームに分かれ、それぞれの場所に向け走り出すメンバーたち。
それを追いかけようとする「戦獣」が2匹、勇ましく飛びかかろうとした黒い獣が空中に固定されたかのようにぴたりと動きを止めた。

一匹は、里沙が。そしてもう一匹は。


「…やるようになったじゃない。生田のくせに」

幾重にも巻き付けられた、ピアノ線。
透明な糸は筋骨逞しい獣の体を捕らえ、ぎりぎりと締め上げ続ける。

「にいがきさぁーん!えり、凄いっちゃろ!!」
「だーかーらー」

自らの手柄を誇示する後輩に苦笑しつつも。
彼女のいいところは自らのテンションに合わせ力を発揮できるところ。ただ、そこに潜む落とし穴については指摘してやらないといけ
ない。

「あんたは詰めが甘いの!」

獣を縛り付けているほうとは逆の手から、ピアノ線を放つ。
衣梨奈の糸が「戦獣」からほどけかけるのと、里沙の糸が絡みつくのは、ほぼ同時。

「あっ」
「調子に乗らない。開けた蓋はきちんと閉める。第一、こんなとこで立ち止まってる暇はないでしょ?わかったらさっさと行く!」
「はぁい…」

しょぼくれる衣梨奈を促すように、背中を押す聖。
気の早い香音は既に先に進んでいた。慌てて追いつこうとする衣梨奈に、黒い影が急速に近づく。

「『戦獣』!まだいたの!?」

先に影を発見した聖が、身構えた。
だが里沙とさゆみはその黒い影の危険性にいち早く気づく。


「ダメ、フクちゃん!逃げて!!」
「え?」

ステップを加えながら目に止まらぬ疾さで襲い掛かる影。
それを止めたのは。

「…間に合った」

黒いボンテージスーツ姿の女の一撃を遮ったのは、銀色に光る刃。

「鞘師!!」
「あんた…ひよっこの割りに、やるみたいねえ」

携帯しているペットボトルの栓を開けようとしているのを見て、瞬時に間合いを広げる襲撃者。
その姿を見た里沙とさゆみが険しい顔つきになる。

「『戦獣』は力にしか従わない。あさ美ちゃんが言ってた人は、あなただったんですね」
「…ガキさん?」

突然現れた女 ― 黒の粛清 ― がここに来る事を予期していたかのような、里沙の言葉。
さゆみは、里沙がこの島へ同行すると言った時からわずかながらに感じていた違和感が露になるのを感じていた。

まさかガキさん、「黒の粛清」が目的で…

さゆみはこの時、初めて理解した。
里沙は。初めから、目の前の粛清人との決着をつけにこの地に足を踏み入れたのだ。


「鞘師!ここはいいから!あんたたちは、先に研究所の中を目指して!!」
「はいっ!!」

黒の粛清をマークしながら、後輩たちに先に行くよう促すさゆみ。里保たちは振り返ることなく、先行する香音を追いかける。
その一方で、粛清人は獣を押さえつける里沙に話しかけていた。

「元気にしてた?マメ…あんたにはこの前の借りを返さなきゃって、ずっと思ってたのよ」

標的をロックオンした粛清人が、心底嬉しそうな顔をして言う。
その喜びは、不覚を取った相手への復讐のために。

「実は私もそう思ってたんです。後輩にとって、あなたのような存在を放って置くことはあまりにも危険すぎる」
「言うじゃない。でも、『ワンちゃん』一匹始末できないようじゃ、あたしにそんな口を利くのは100年早いようね」

里沙が手綱のように握るピアノ線の束の先、繋がれた猛獣たちはもがきながらも里沙への殺意をむき出しにしている。ややもすれば、
縛られた先から肉体を切断してしまうほどの鋭い弦。だが、獣の黒い剛毛がそれを阻んでいた。

「それはどうでしょうね」

少しでも手を緩めれば、束縛を解き襲い掛かりそうな勢いの二頭の獣。
里沙は、逆に両手のピアノ線に力を込める。ただし込めるのは力ではなく。

電撃に当てられたかのように、びくっと大きく痙攣した「戦獣」は。
自らの主人であるはずの「黒の粛清」に牙を向けた。
「精神干渉」による、肉体のコントロール。「戦獣」は獣人族の臀力と耐久力を併せ持つ生き物ではあるが、その代わりに知性という
ものは無きに等しい。そういう生き物にこそ、精神干渉は最大限に発揮されるのだった。


喉の奥から唸り声を上げて、獣たちが粛清人をその顎で噛み砕こうとする。
重厚な牙が「黒の粛清」の顔を撫でることができるぎりぎりの位置。温い息が、血を求める生臭い臭いが迫り来る。

しかし。
時が止まったかのように二匹の獣は動かない。
胸の部分には、彼らの体毛より濃い黒い穴があいていた。
強力な念動力が、既に彼らの心臓を貫いていたのだ。。

「組織に逆らう者には粛清を。それは例え知性がない哀れな化け物でも一緒。あんたみたいな裏切り者は、特にね」

両手を構えた「黒の粛清」が、命を奪う行為を楽しむが如く微笑んでみせる。
ダークネスが誇る二人の死神が一人。黒き髑髏が、里沙へと視線を移した。

「あんたじゃあたしには敵わないわよ。この前の奇襲でいい気になってるみたいだけど。さゆみちゃんの手でも借りたほうがいいんじ
ゃない?だってあたしは二重能力者、『ダブル』なんだから」

「ダブル」という言葉に表情を変えたのはさゆみだ。
二重能力者と称される能力者の強さについては、さゆみもよく知っていた。瞬間移動と読心能力によって鬼神のような強さを誇った、
かつてのリゾナントのリーダー。

「ガキさん?本当なの、それ」
「・・・・・・」

里沙は答えない。
先に「黒の粛清」と戦った時に、強力な念動力とともに彼女が見せた力は。
全身が漆黒の毛に覆われてゆく様は、まるで獣人族が見せる獣化そのもの。その事実は、「黒の粛清」が二重能力者である確たる証
拠となる。


無言のまま、里沙が糸を構えて「黒の粛清」に正対する。

「ホントにあんたって可愛くないわね。あくまでも逆らうつもりなら…惨めに殺してあげようじゃない!!」

甲高い叫び声を上げ、粛清人が一気に距離を縮めた。
自慢の念動力で仕留めようと、両手を広げて里沙を照準に入れる。
なのに。里沙は、身じろぎすらしない。一歩も動かず、ただ立ち尽くしていた。

「あぶないっ!!!!」

さゆみが、思わず声を上げる。
あの「戦獣」を一撃で葬り去ったほどの念動力に対し、無防備な姿を晒すのは自殺行為。
しかし、次に苦みばしった顔をするのは「黒の粛清」のほうだった。

「…あんた、最初から全部知ってて」
「私は。今まであなたのことを信用したことなんて、一度もないですから」

立ち尽くしているだけのはずの里沙の。
両手から伸びている、二本のピアノ線の束。
それが、見えざる敵を捕らえていた。

纏っていた光学迷彩仕様の布を破り捨て、炙りだされたものたちが姿を現す。
「黒の粛清」と同じ黒いボンテージスーツを着た、ショートカットと巻き髪の女。


「あなたは二重能力者なんかじゃない。念動力は。その二人に姿を消させて、指示を出して使わせてたんですよね。あたかも、自らの
能力であるかのように」
「どうしてあたしたちの場所が!!」

表舞台に引きずり出されたショートカットの女が、口惜しげに叫ぶ。
実際に光学迷彩を使役する能力者よりは隠避性能は劣るとは言え。ここまで正確に自分達の姿を捉えることができた理由が解せない。

「獣化能力と、念動力。あなたの性格からして、ダミーにしているのは念動力だと思ったんです。ならば、本当に念動力を使用してい
る能力者が近くにいるはず。私が一歩も動かなかったのは、襲ってくるあなたを避けて攻撃を加える裏方の位置を特定したかったから」

さゆみは、改めて目の前の先輩の洞察力の鋭さに驚かざるを得ない。
長年、ダークネスのスパイという身分を隠しながらもリーダーの愛を支えてきたその能力。それを裏打ちするだけの材料を、見せ付け
られたような気がした。

「ほんっとにあんたって、可愛くない。ダークネスにいた頃から、ずっとそう思ってたわ。けど、あたしの能力の秘密を暴いたからっ
て調子に乗らないことね。あんたは、ようやくあたしと同じ土俵の上に立ったに過ぎないんだから」
「ですよねえ。見せてやりましょうよ、うちらのフォーメーション『v-u-den』を」
「あんたら、楽には死なれへんで?」

ショートカットと巻き髪が、いつの間にか糸の束縛を逃れ、「黒の粛清」の両サイドに立つ。
まだ戦いは、始まったばかりだった。





投稿日:2014/01/15(水) 01:40:16.39 0


49回目



その頃。
ダークネスの本拠地。地下の廃棄物処理所の一角に現れる、小さい影。

…ちっ。田中れいなの奴、思いっきり蹴り飛ばしやがって。

その小さな金髪の女は、忌々しげに近くのごみの山を蹴飛ばす。
黒血の力によって覚醒したれいなの、予想以上の力。最大限の力を防御に割いたつもりだったが、ダメージは容赦なく女を襲っていた。
とは言え、これからやることに支障が出るほどのものでもないが。

絶海の孤島にいるはずの組織幹部「詐術師」。
まだずきずきと痛む右脇腹を摩りつつ、辺りを見回す。人気のないことを確認し、表へと飛び出た。懐に突っ込まれる手、携帯電話。

「…『詐術師』だ」
「無事到着したようですね」

電話の相手は、Dr.マルシェ。「詐術師」が計画を実行するにおいて、拠り所となるべき人物であった。

「あの野郎が容赦なく蹴り飛ばしてくれたおかげで、こっちに来るのに少々手間取っちまった」
「そうなんですか?現地からは『瀕死の重傷』を負ったと聞いてますが」
「馬鹿言うなよ。あれはおいらの渾身の演技。マジでそんなんだったら、これからの計画に支障が出るっちゅうの」

舌を出しおどけてみせる「詐術師」。
その二つ名は伊達ではない。


「それより。最後に念押しするけど、本当に大丈夫なんだろうな?」
「問題ありません。あなたは首領の部屋に入り、なすべきことをなすだけですから」
「そうか…」

少しの沈黙。

「らしくないですね。『首領』と共に歩んだ道でも振り返ってるんですか?」
「…まさか。おいらにとっては、必要のない過去だ」

その言葉を最後に、「詐術師」は通信を切る。
自らの立場を忘れてはいけない。自分は、「首領」にいつ断罪されてもおかしくない存在。ならば、やられる前にやるまで。

― なあ矢口。これからも、私について来てくれるか? ―

あれはいつの日だったか。
「首領」に呼び出された「詐術師」は、唐突にそんなことを聞かれた。
「アサ・ヤン」が「HELLO」と名を変え、やがて「ダークネス」へと堕ちていった、長い長い道のりの中で。

…これじゃマルシェの言う通りじゃんか。アホくさ。

最早思い出せないくらいの、闇に塗れ消えていった過去。
どう答えたのかすら、忘れてしまった。それでいい。

「詐術師」は小さな体を大きく伸ばし、それから散乱するゴミを踏み潰しながらゆっくりと歩いていった。



スマイレージのサブメンバーたちによって強固な結界が張られた、内側の領域。
和田彩花の能力により見るも無残に破壊されてしまった高層ビルは、崩れた瓦礫の集積による新たな形を成していた。ピラミッドのよう
に三角の形に積み重なったコンクリート片の頂上に、くの字に曲がった鉄骨が天を指し示していた。

その瓦礫の一角が、弾ける。
舞い上がる土煙の中から現れる、赤き死神。

「あーあ、派手にやってくれたじゃない」

賞賛か、それとも呆れか。
黒のコートに付着した埃を払いながら、景色の変わった空を仰ぎ見る。
ゆっくりと、パラシュートでもつけているかのように。
四人の少女が、ふわふわと瓦礫の塔に降りてゆく。

一方、「赤の粛清」を見下ろす形となった四人の少女は。

「やっぱね。この程度じゃムリかー」
「別に彩、これでいけるとは思ってなかったし」
「うっそ!さっさと終わらして焼肉食べに行こうと思ったのに!」
「サキチィ、上への報告が先だよ?」

標的が無傷であったことなど、気にも留めていない様子。
彼女たちが地上に降り立つまで、ゆっくりとした時が流れる。


「さて。始めるとしますか。精々わたしを楽しませてね」

粛清人が、再び大鎌を手にする。
それを見届けたかのように、四人の姿が掻き消えていく。

「光学迷彩か。厄介な能力だね」

言葉とは裏腹に、口調は軽口そのもの。
”何もない場所”から、何かが飛んできても。

「で、そっちは何?もしかして加速度操作ってやつ?」

透明化した彩花が、投げつけた小石。
「加速度操作(アクセラレーション)」。触れた物体はもちろんのこと、自らが指定した特定の物体にかかる加速度を文字通り自在に操
る能力。それによりたかが小石が戦車砲クラスの威力と化す。軽く投げつけたはずの小石は、急速なスピードを得て粛清人の背後の瓦礫
を深く穿っていた。

だが、それはあくまでも戦いの前触れに過ぎない。
常軌を逸した速度で飛んで来る石が、次から次へと粛清人を追い込む。
狙いが外れた石は結界に阻まれ、外に出ることなく消えていった。

「逃げてばっかり。つまんない」
「そう?」

姿を消しているはずの彩花。
その位置をまるで知っているかのように、「赤の粛清」が一気に間合いを詰める。
大鎌を投げつけつつ、避けようとして上に飛んだ彩花の動きを読んだ二段蹴り。


しかし。
「赤の粛清」が飛びあがった時に異変は起きた。
それは、飛んだというよりも。極限まで減速させられた体が、まるで宙に浮いているかのような感覚を与える。
そんな間抜けな格好の標的に。

「この感じは。さっきの色黒の子かな?」

何かが来る。
「赤の粛清」はそれが、小川紗季が振るうジャックナイフであることを感覚で知っていた。
最初に自らの前に姿を現した時、紗季だけが武器を装備していた。腰に装着したジャックナイフ、拳にはナックル。おそらくは肉体に作
用するタイプの能力を持っている。ならば近接攻撃を仕掛けているのは彼女以外に考えられない。鼻をつく刃物の匂いが、その推論を補
強していた。

粛清人は斬撃をかわそうと体を逸らす。
だがここでもまた、彩花の「加速度操作」。速度を落とされ緩慢な動きになった粛清人、その肌を凶刃が衣服ごと切り裂く。

「痛っ」

傷は浅いが広範囲に切り裂かれた。軽く歪む、表情。
屈みこむ「赤の粛清」を見て好機と捉えた紗季が、さらなる攻撃を加えようとナイフを振りかざしたその時だった。

空間が、爆ぜる。
一点が白く焦がされ、その場所を中心とした爆発。
姿を消していようが、その威力はおかまいなしに紗季を襲う。

「っぎゃああああっ!!!!!!!!!」

瞬時に衝撃波が体を突き抜けた。吹き飛ばされた後も高熱に耐え切れず、ごろごろと転げまわる。
何もないはずの場所で、弾かれた瓦礫がころころ転がる様はあまりにシュール。


「まずは一人目」

さらに、「赤の粛清」は自らの爆発能力を披露する。
翳した手から、空中から、そして瓦礫から。至るところからの爆発。
闇雲にも見える攻撃。当然のことながら、爆発の力を保有していることを知られた後では三人の少女たちには避けられてしまう。

「姿が見えなくても数撃ちゃ当たるって?ちょっとうちらのこと舐めすぎ」
「そうかもね。ただ、目的は達成したよ」
「はぁ?」

言葉の意味を図れず、明らかに苛立つ花音。

「かにょん、怒ってる顔ぶっさいくー」
「あやちょうるさい…え?」

そしていつもの彩花の脱線した会話に手で払うような仕草をする。が。
おかしい。何故彩花は自分の表情を見ることができるのか。そして花音は気づく。

「ちょっと!光学迷彩が解けてる!!」
「あっはは、かにょん丸見えー」
「あやちょもだよ!!憂佳、ちゃんと迷彩かけてよ!!」
「やってるけど…消えないの!!」

迷彩の衣を剥がされた、その理由。

「憂佳ちゃんの光学迷彩ってさ、光の能力でしょ?だったら、空中に粉塵を舞わせることで防げるんじゃないかなって。大当たり、って
感じ?」

瓦礫に横たわる紗季。爆発で吹き飛ばされたのか、体の左半分を欠いたまま気を失っているようだった。仲間を一人倒され、身を守る光
学迷彩も無効化された。


「これであなたたちの安全圏はなくなりました。どうする?」

どうする、と聞いておきながら「赤の粛清」のすることは変わらない。
自らに牙を剥いたものには、粛清の刃を。

「じゃあ次はあたしの出番か」

花音が、ポケットから携帯を取り出して通話を始める。
相手は結界の外にいる、後輩。

「なんすか、福田さん」
「悪いんだけどタケ。2、3人『適当な』のをこっちに寄越してくんない?」

結界の外。
偉大な先輩から指令を受けた朱莉が、肩を竦めながら結界を張っているはるか向こうの香菜のほうを見る。

「かななーん!!」
「なにー?」
「ちょっと結界の中に放り込むものがあるから、スペース開けといてー!!!!」

雑な伝言を残し、動く朱莉。
標的は手持ち無沙汰に持ち場をうろついている、自衛官たち。

「ちょっと失礼」
「え?はっ?えっ?」

わけもわからず、片手で持ち上げられ、宙に放り投げられる男たち。
その小さな体からは考えられない、果てしない力。さらに。


「くらえええ、たけうちぃぃぃ…ホームラン!!!!」

朱莉は、落下してきた男たちを次々に手にしたバット状の何かで振り抜く。
的確なバッティングで結界の中へと飛んでゆく様は、まさにホームラン。

一方、理不尽な技で結果内に放り込まれた男たちは。
間髪いれずに花音の「隷属革命」の餌食となる。あっという間に肉人形と化した自衛官たちが、手にした携帯小銃を「赤の粛清」に向けた。

「えげつないわぁ。どっちが正義の味方かわかんないね」
「…あたしたちに決まってるじゃん」

花音の言葉とともに、男たちが一斉に発砲する。
鋭く迫る、複数の弾丸。粛清人は弾除けのための爆破を起動するが。

「…なるほど。爆破の速度も遅く出来るんだ」

ゆっくりと爆ぜてゆく力に、弾丸を退ける力はない。
二発。まともに銃弾を喰らう「赤の粛清」。その代わりに、操られている男たちを躊躇いもなく破裂させた。

「うっわー。その人たち一般人だよー。かわいそうに」
「操ってたのはあんたのほうじゃん」

悲しげな顔を作って「赤の粛清」を非難する花音。
顔を。胴体を。爆破された男たちはそれでも本懐を遂げようと黒コートの粛清人に近づくが、あと一歩のところで力尽きた。三体の死体に
よって、血と肉片の沼が広がる。

「肝心の爆発の力を抑えられた、か。なかなかやるんじゃない?」
「まだ、そんな余裕ぶってるんだ」

ふと、粛清人が少女たちの表情を見る。
花音が、彩花が微笑んでいる。まるで勝利を確信しているかのようだ。その意味を、すぐに「赤の粛清」は知る事となる。

死体の山から、手が生えてきた。
そのように、「赤の粛清」には映った。
手にはジャックナイフが握られ、刃が深々と彼女の体に突き刺さっている。
傷口から、手に向かってゆるりと流れ落ちる赤い筋。

「紗季の存在…忘れないでよねぇ」

爆撃により半身を失った紗季。
飛ばされた肉片はどこへ消えていたのか。
つまり。花音が呼びだした自衛官たちは、ダミーだった。
派手にまき散らした肉の塊は、紗季の肉片をカムフラージュするのにちょうどいい存在に。
あとは、気づかれないように手の組織の再編を行うだけだった。

ナイフが、一気に引き抜かれる。
噴き出す鮮血。勝利の美酒を浴びた「手」は、引き寄せられるように紗季の本体に戻る。
超再生。血管は張り巡らされ筋肉や骨が再構築される。皮膚が再生されたのを確認すると、紗季はゆっくりと立ち上がった。
まるで、何もなかったかのように。

「今の一刺し、致命傷だったでしょ?」
「…そうでもないかな」

「赤の粛清」の言葉は、最早負け惜しみにしか聞こえない。
力を振り絞り、彩花へと向かっていった黒コートを。

彩花の投げる超加速の小石が貫いた。






投稿日:2014/01/17(金) 01:29:24.75 0


50回目



研究所の入り口へ、ひたすらに走り続ける春菜たちのグループ。
しかし、その背後から荒い息を吐きながら追ってくる獣の足音が。

「戦獣!?」
「さっきのやつ以外にもいたんだ!」

3匹の猛獣が、少女たちを牙にかけようと懸命に走る。
このままでは振り切ることも叶わない。そこで春菜は一つの決断をする。

「…迎撃するよ!」
「え!はるなんマジかよ!!」
「だってこんなやつら如きに勝てないんじゃ、田中さんたちは助けられない!!」

驚く遥に、春菜が返す。
それは4人の中の最年長の、そして聖とともにさゆみを支える立ち位置にいる彼女の、不退転の決意。

「だったらあたしが!!」

急ブレーキをかけて追っ手に向き直る亜佑美、小さな体を震わせて大きく叫ぶ。

「リオン!!」

亜佑美の内より出でし、青き幻獣。
リオンは主と同様の軽やかなステップで猛獣たちの動きを攪乱する。


「あゆみん、あいつらの弱点は首だ!首の部分だけ、装甲が薄い!!」

そして遥が千里眼で相手のウィークポイントをピックアップ。
弾けるような跳躍で、リオンの顎が戦獣の1匹の喉に食らいつき、瞬く間に噛みちぎる。

「っしゃあ!!いいぞあゆみん、その調子でどんどんやっつけろ!!」

勢いに乗る遥だが、亜佑美の表情は冴えない。
その理由に気付いたのは、意外にも優樹だった。

「ライオンさん、追い詰められちゃった…」
「あっ!!」

知能がないに等しい、人を食らうだけの戦獣。
しかし、獲物を追い込むだけの知恵はある。
リオンはいつの間にか、断崖絶壁の淵にて挟み撃ちに。
島の外郭が潜入ルートに入っている時点で想定すべきことだった。

この状態ではリオンの俊敏さを生かすことができない。
となると純粋に力と力の勝負を強いられてしまうことになる。
通常の生物ではありえない筋力を持つ獣に対抗できるほど、リオンはパワー型ではない。

「どうしよう…どうすれば…」

リオンを帰還させることは簡単だ。
しかしそうすると、戦獣の視線はこちらに向いてしまう。
優樹や春菜の能力では単純な力に抗うのは困難だろう。


そんな時、亜佑美は出発前の里保との稽古を思い出す。

― リオンを出したら、亜佑美ちゃんは高速移動できるの? ―

何気ない里保の一言。
もちろん答えはノー。リオンを自らの体から分離させたら最後、自分自身は丸裸と言っても過言ではない状況に陥る。単純
な言葉ではあったが、亜佑美の現時点の弱点を的確に突いた一言でもあった。

リオンはスピード型だから、単純な力と正面切って争うのは不利。

そこで、亜佑美の思考に劇的な転換が訪れる。

じゃあ、もしリオンがパワー型だったら?

普通に考えれば、無理難題。
100メートル走の陸上選手に明日から重量挙げに転向してくれと言っているようなものだ。

しかし。
亜佑美は祈る。自らの内に、願う。
パワー型の、新たな存在を。

変化は突然起こった。
それまで身を低くして主人の命令を待っていたリオンの、体つきが変わって行く。それは変化というよりも、むしろ変形。


肉食獣のしなやかな体つきが、直線的なものとなり、そしてその体躯を大きくしてゆく。
青い毛並みは互いを溶かし癒着したかのように、一枚の青い金属へと変わる。例えるならば、西洋の甲冑のような。

リオンだった「それ」が、二本の強靭な足で大地に立つ。
全身を単純な板金の組み合わせで作られた鎧に覆われた、青いブリキの巨人。その大きさは、戦獣たちが思わず見上げてし
まうほど。

「…ク…バル…ク?」

亜佑美はまるでその巨人のことを昔から知っているかのように、呼びかける。
意図的に呼んだのではない。魂に刻み込まれている名を、そのまま呼んだのだ。

「バルク…ゴー!!」

意を決した亜佑美が、叫ぶ。
命令を受けたバルクと呼ばれた巨人は、神殿の石柱のような大きな両腕を振り上げた。
自らの身に何をされるのかを理解した戦獣たちは、死に物狂いでバルクの両足に被りつく。が、金属の硬さを持つバルクの
表面には傷一つつかない。

戦獣たちの目の前が、暗くなる。
無慈悲に降ろされた巨人の腕が、哀れな獣たちを一撃のもとに叩き潰した。

「や、やった…」

さすがに巨人を操るのは骨が折れたと見えて、亜佑美はその場にへたり込む。
とともに、青き巨人もまた霧のように四散し主人のもとへと吸い込まれていった。
なぜ自分があのようなものを呼び出すことができたのか。そんな基本的なことを考える余裕もないほどに、消耗していた。


「すごい!あゆみんいつの間にあんなすごい巨人を!!」
「ったく次から次へと新技開発かよ!!」

大仕事を果たした仲間を労う、春菜と遥。
しかしその背後を狙う、新たな気配。

「え!まだいたの!?」

春菜が驚き後ずさる。
光学迷彩の布を破り現れた、新手の戦獣。

「ちっくしょう、こうなったらハルがやってやる!」

遥が近くに落ちていた大振りの木の枝を拾い上げるも、その姿はあまりに弱弱しい。
万事休すと思われたその時。

「もー!変なワンちゃん、あっちいけ!!」

優樹の大声とともに現れる、白い大きな手が二つ。
UFOキャッチャーが如く戦獣を捕まえると、断崖絶壁の海の彼方へと放り投げてしまった。

「あぶなかったねー、イヒヒヒ」
「…さ、先に進むか」

いとも簡単に窮地を脱してしまった優樹の切り札。
もっと早くそれ出しとけよ。遥は心の底からそう言いたかったが、先に進むことを優先する。隣の春菜もまた、同じ意見だった。




投稿日:2014/01/17(金) 11:48:15.23 0


51回目


廃棄物処理所から首領の部屋までの、もっとも目撃されにくいルート。
「詐術師」はそれを、まるで最寄の駅から自宅までの帰り道のように熟知していた。気に入らない構成員を秘密裏に抹殺す
る時のための移動経路が、まさかこんな時に役立つとは。運命の皮肉というものを、彼女はこれほどまでに感じたことは無
かった。

幹部クラスの能力者が本拠地を留守にすることで、逆に建物内のセキュリティレベルは最高ランクに引き上げられていた。
が、幹部自身がセキュリティエリアの中に侵入することは想定外。携帯しているIDカードでセキュリティを解除、再び
かけてしまえば何の問題もない。

何重にもかけられたセキュリティをすり抜け、ついに「首領」の部屋があるエリアにたどり着く。あとはまっすぐに伸び
る廊下を渡りきれば、ドア一枚に隔てられた最終目的地が待っている。

「…『詐術師』?」

不意に、背後から声をかけられる。聞いたことのある声。
「詐術師」は、間に合わせの笑顔を作り振り向いた。

「何だ、ソニンかよ」

鋭い目つきと、相反するような柔和な唇。
何よりも、迷彩服に包まれてもわかる、鍛えあげられた逞しい肉体。彼女を一言で表すならば、「ソルジャー」。


ソニンと呼ばれた女は、「詐術師」とは旧知の仲だった。
また彼女自身も優秀な能力者であったが、組んだパートナーを間違えた。組織の中で色々な意味で名を馳せていた彼の
「不祥事」により、相棒だった彼女もまた左遷の憂き目にあう。それ以来滅多に会話を交わすことも無かったゆえ、久し
ぶりの再会ということになる。

「警備に回されてんのか?」
「まあね。こんな状況だ、仕方ない」
「じゃ、頑張れよ。また今度ゆっくりな」

足早に去ろうとする「詐術師」。
しかし、それを呼び止めるソニン。

「待て」
「何だよ。おいらは忙しいんだ。立ち話ならまたに…」
「何で、あんたがここにいる」

嘘の笑顔が、歪む。
舌打ちをしながら「詐術師」は思い出す。
そうだ、こいつは前から妙に鋭いところがあった…まずいな。
思考を走らせながらも、言葉の魔術師は次々と言葉を紡いでゆく。

「何でって、幹部のおいらがここを歩いちゃいけないのか?」
「通常ならな。だが、今は非常時だ」
「なるほど、ソニンさんの言うとおりだ。でも、悪いけど急用なんだよね」
「組織から賜った任務を投げ出してでも果たさなきゃいけない用事とは?」


「詐術師」からは、笑顔が消えていた。
場の空気が、俄かに濃くなってゆく。

「私は。一度ドロップアウトした人間だ。チャンスを掴み損なった」

当時。
組織の中で活躍したソニンは、幹部の座を狙ってすらいた。
そしてその夢が果たされる一歩手前で、夢は夢のままに終わってしまった。

「そういう人間がもう一度這い上がるためには、どうすればいいと思う?」
「さあね」
「クーデターを企てる馬鹿を阻止。とかどうかな」

こいつ。誰からそんなことを。

一瞬過ぎる思考を遮る。今はそんなことを考えている場合じゃない。
どうして、ではなく、どうするか。一瞬の逡巡が、命を落とす。

「今なら、旧友のよしみで」

ソニンが、急に押し黙る。
目を見開き、一点を見据えて。額に、不自然な形の黒子を刻まれて。

「詐術師」は躊躇うことなく、銃を抜いていた。
下手に問答を繰り返すのは、時間のロス。また、相手は近接攻撃を得意としている。殺るなら、相手が戦闘態勢に入る前。


一瞬で額を打ち抜かれたソニンが、ゆっくりと床に崩れ落ちる。
それを何の感慨もなく見ていた「詐術師」が、先に進もうとした時。

不意に震える、携帯電話。
忌々しげに、通話ボタンを押した。
億劫そうに受話器を耳に押し付けながら、歩きはじめる。

「こんな時に何の用だよ」
「暗殺者に相応しい見事な手際でした」

名前を尋ねなくても分かる。
まるで目の前で起こった出来事を一緒に見ていたかのように語り、そしてそれを楽しむ。それだけで、十分すぎるヒント。

「お前の差し金かよ、マルシェ。随分なことするじゃねえか」
「いや、あなたの覚悟を試したかっただけですよ。例の元相棒の不祥事を垂れ込んだのがあなただと教えてあげたら、目
の色を変えて話に乗ってきたんでね」

紺野の言うとおり。
ソニンが失脚した直接の原因となったパートナーの不祥事を上層部に密告したのは、他ならぬ「詐術師」だった。当時お
手持ちの縄張りが隣接していたソニンを疎ましく思っての行動。結果、彼女は莫大な利益を手にすることとなった。

「アホくさ。これから組織の頭ハジこうって人間が、旧友の情なんかに流されっかよ」
「それもそうですね。まあ、ちょっとした予行演習と取っていただければ。それでは、健闘をお祈りしてますよ」


紺野との通話が終わるのと、首領の部屋の扉の前に着いたのは、同時。
「詐術師」はあくまでも自然に、扉をノックする。

「『首領』。『詐術師』です」
「…入り」

短い許諾の言葉を受け、ゆっくりとドアノブを回す。
その時に過ぎる、一瞬の記憶。

それは、ダークネスの前身組織である「アサ・ヤン」。そしてそこから発展した「HELLO」及び特務組織「M。」。そ
して、「ダークネス」。
右も左も分からない、能力すら満足に使いこなせない「詐術師」を待ち受けていたのは、先に組織で活躍していた先輩たち
の、過酷とも言える訓練だった。そしてその指導の先頭に立っていたのが現在の「首領」だった。

訓練という生温い言葉では表しきれない、地獄の日々。
泣き叫び、殺意を抱き、時には自らの命すら絶ちたくなるような環境。
そんな荒涼とした関係においても、次第に仲間意識というものが生まれてくる。厳しいながらも、時に折れてしまいそうな
「詐術師」の心を奮い立たせたのは「首領」の言葉だった。

意識を深く潜らせれば、いくらでもそんな思い出が出てくる。
けれど、「詐術師」は敢えて自らの心を断ち切る。皮肉にも最後に聞こえてきた「首領」の思い出の言葉は。

― 所詮、世の中は弱肉強食や。なあ、矢口。―

まったくその通りだよ、”裕ちゃん”。

ドアを押し開けながら、「詐術師」は懐から銃を取り出し引金を引く。
命を絶つ音が、打ち鳴らされた。





投稿日:2014/01/18(土) 13:25:51.60 0