『リゾナンターЯ(イア)』 (44回~47回)


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44回目




飛ぶ要塞、と言っても大げさではない飛行船「アルマカミニート」。
元は対ダークネス戦の切り札として作られた代物だけに、内部の施設もまた充実していた。

船内中部に設けられた、演武場。
特殊な材質でコーティングされた床は激しい運動をしても衝撃が体にいかないような構造になっている。つまりは、通常の稽古以上の
動きが可能となる。

里保と亜佑美。もらったばかりの「戦闘服」に身を包み、対峙する。
窓から差し込む夕陽が、二人を照らし長い影を作り出していた。

その太陽が、雲に隠れ演武場が薄暗くなる瞬間。
亜佑美が動いた。持ち前の「高速移動」で一気に里保との距離を縮める。
図らずも接近戦の様相を呈す戦い。
手が舞い、足が踊る。攻守を何度も入れ替えつつの組み手。

決戦前の肩慣らしとしての模擬戦を持ちかけたのは里保のほうだが、負けん気の強い亜佑美によって実戦さながらの激しさへと変化し
ていった。


「鞘師さん!!この程度ですか!!!?」

疾風が如くの高速移動を繰り返す亜佑美が、里保を挑発する。
青き獅子が齎すという身のこなし、さしもの里保も目で追うのがやっとの状態。

「亜佑美ちゃん、調子がいいね。じゃあこっちも…行かせてもらうよ!」

手にしたペットボトルの栓を回し、水を撒く。
その瞬間から、里保の水の領域が展開し始めた。

次々と打ち出される水弾。
強力な圧力によって打ち出された弾は、たとえ防御力の高い戦闘服があるとは言えまともに食らえば立っていられないほどの威力を誇
る。もちろんそんな恐ろしい攻撃を亜佑美が黙って受けるはずもない。軽やかなステップで水の弾丸は狙いを外し、床に飛び散ってゆく。


「…カムオン!リオン!!」

ただ、避けているだけではじり貧になってしまう。
亜佑美は新たな攻撃の手段となった相棒を喚び出した。

幻獣 ― イリュージョナルビースト ― 
能力者の歴史において、亜佑美の使役するリオンのような獣の形を取るエネルギー体に対してそのような名前で呼ぶという。思えば、
彼女が東北の研究施設に研究対象として見いだされたのもその特質を見抜いてのことだったのかもしれない。

「リオン…ゴー!!」

主人の命令で、里保に飛びかかるリオン。
咄嗟に愛刀「驟雨環奔」を抜き、眼前の牙を刀身で受け止める。

「甘いね、亜佑美ちゃん」
「えっ?」
「リオンを出したら、亜佑美ちゃんは高速移動できるの?」

刀を構えたままの里保が、意識を亜佑美に向けた。
床に飛び散り水たまりと化していた水が、無防備の亜佑美に絡みつく。
水本来のしなやかさと、錬成された金属のような強さを併せ持つ水の鎖。身動きの取れなくなった亜佑美は、両手を上げて降参のポ
ーズを取らざるを得なかった。


主人の白旗を受け、リオンもまた亜佑美の中へと戻ってゆく。
雲に遮られていた赤い夕陽は、いつのまにか再び姿を現していた。

「ま、参りました…」
「どういたしまして。でも亜佑美ちゃんもいい線行ってたよ?」

水の束縛を解きながら、自信たっぷりに微笑む里保。

亜佑美はリゾナンターに加入した直後、目の前の少女に勝ちたくて何かと張り合っていた。今から考えれば無謀な話だったと思い直す。
何せ相手は数百年の歴史を誇る「水軍流」の伝承者なのだから。

♪ぴんぽんぱんぽーん

突如艦内に響き渡る間の抜けたメロディー。
続いて、おほん、とかごほんと言う小さな声のあとに。

「みんな、もうすぐ研究所の島に着くから。さっきの艦橋から階段で降りた格納庫に集まってね」

さゆみの声だった。
時計を見るともう四時を回っている。時間的に言えば孤島に着いてもおかしくない時間だ。


演武場を出る、里保と亜佑美。
レクリエーションルームで漫画を読んでいた春菜、ヘッドホンを装着して体を揺らしていた衣梨奈。
ティールームにいた聖、キッチンでシェフに作らせた料理を堪能していた香音。
探検と称して艦内のあちらこちらを走り回っていた遥と優樹。
全員が合流し、下層階の格納庫に集う。

そこにはさゆみと里沙、愛佳。
そしてつんくの前には、銀色の楕円形の謎の物体。
大きさはちょうどワゴン車くらい。何なんだこれはと全員が訝っているうちに。

「もうすぐ目的地、と道重は言うとったけど。実はここからは俺と光井は同行でけへんねん」
「どういうことですか?」
「ここから『紺碧の研究所』のある孤島までは十数キロ。俺らの見送りはここまでっちゅうことや」

つんくの話によると。
ここから先は研究所に装備されている多数のミサイル、その射程圏内となっているという。
巨大な船体では、ミサイルを回避できずに最悪撃墜されてしまう恐れがある。というわけでここから先は、小回りの利く手段で孤
島まで一気に向かうというものだった。


「で、そこで活躍するのがこの『リゾナンカー』や」
「『リゾナンカー』?」

首を傾げる8人の若きリゾナンター。
さゆみや里沙、愛佳も同じように怪訝な顔つきをしているが、それはきっとネーミングセンスについての感想だろう。

「『アルマカミニート』同様のステルス機能、高い飛行能力。多少の銃撃を受け流す強靭なボディ。そしてお前らの異能力を機体の攻撃
機能に変換するシステム。これぞまさしく未来の戦闘カーや!!」

拳を握り熱く語るつんくを余所に、優樹はさっそくリゾナンカーに向かって突撃。
どこでどう覚えたか知らないが、車体のハッチを開け中に上がりこむ。見かねた遥が優樹を連れ戻そうと車内に乗り込むが。

「まーちゃん勝手なことすんなよ!」
「ねーねーどぅーこれおもしろーい!!」
「え?マジで?ちょ、ハルにもやらせろよ!」
「だめー!これはまさがやるの!」
「はぁ?いいじゃん別に」
「ダメったらダメ!!」


ミイラ取りがミイラの典型。
仕方がないので、つんくは残ったメンバーたちに「リゾナンカー」についての説明を始める。

「アルマカミニート」同様「PECT」の移動手段として開発された、車輪を使用しない特殊な車両。それをつんくが引取り、能力者用
の車両として再生させたのだという。特色は能力者の精神力をエネルギー弾として使用する、転換ユニット。特許出願中やで、などと実
しやかに話すつんくの胡散臭さはさておき、非常に有用なものであることはメンバー全員が理解する。

「新垣にはある程度は使い方を教えてる。ただ、車体の操作に関しては道重がやったほうがええやろな。リーダーやし」

車すら運転したことないさゆみ。
しかし里沙を除けば自分しか適任はいないことに気づき、観念する。
それでも自らの運転技術に一抹の不安を覚えてしまう。

「つんくさん、私、車とか運転したことないんですけど」
「んなもん、あれや。やっちゃえ、まずやっちゃえ。イェイ!」

絶対面白がってる。
このお気楽おじさんにその意図を問い詰めたいところではあるが、そんなことをしている暇があったら動いたほうがいい。
さゆみが率先して「リゾナンカー」に乗り込むと、他のメンバーたちも後に続いた。
車内にはちょうど10の座席、最後に里沙が乗り込むとすべての座席が埋まる。


「ほな、車体ハッチを閉めたら格納滑走路を下方に下げます。道重さんは、機体に向かっていつものように『治癒の力』を使うてく
ださい。それが『リゾナンカー』の動力になりますから」
「わかった。ありがとう、愛佳」

銀色の楕円形のカバーが、ゆっくりと降りてゆく。
そして完全に閉じてしまうと、さゆみたちの姿はまったく見えなくなってしまった。

ごうん、という大きな仕掛けが動く音。
リゾナンカーが停車していた場所、その床が、縦長の形を伴い徐々に降下。斜め下に降ろされた床は、リゾナンカーの滑走路兼発射
台となる。
そして、床の動きが完全に止まった時。

銀色の楕円形は、爆音をあげて滑走路を滑り落ちる。
その様は「発射」と表現してもおかしくないくらいに。

「…行ってもうた」
「何や光井、やっぱ一緒に行きたかったんか」

名残惜しそうに消えてゆく機体を見送る愛佳に、からかうような口調でつんくが訊ねる。
少しの間があり、ゆっくりと微笑んだかつての未来視は。

「もう前に出て戦うんは、うちの役目と違います。今は、あの子たちを後方から支えてあげること。それが、うちに与えられた仕事
やと思ってますから」

愛佳が見つめる、空の彼方。
未来は見えなくとも、希望は見えている。
そんな眼差しを、注ぎながら。





投稿日:2013/12/31(火) 13:26:10.12 0


45回目



「続いてのニュースをお伝えいたします。先日、高層ビル街にて発見されました旧日本軍の不発弾の撤去作業が今日の朝より行われ
ております。付近は多数のオフィスや商店の集まる場所となっており、慎重な作業が要求されています…現場のレポーターと中継が
繋がっているようです。現場の、間賀さーん?」




都内にある、高層ビル街。
落ちてゆく夕日がビル街の窓ガラスをオレンジ色に染めている。
そんな幻想的な光景とは裏腹に、地上を埋め尽くす濃紺と迷彩。
街の一角を占める建造物を中心にして、多数の警官と自衛隊らしき兵隊たちが配置されていた。
表向きは不発弾の撤去、ということで現地に集められた国の防衛の象徴たちだ。

「お邪魔しまーす」

一帯に張られたバリケードを潜り抜け、髪の短い少女が先に進もうとしていた。
白いパーカーに、太ももが露わになったショートパンツ。
近くでサッカー遊びをしていて、ちょっとボールが入っちゃいました。そう説明されても不自然じゃないほどの状況。
しばし呆気に取られていた警官だが、事の重大さに気づいて慌てて止めに入る。

「ちょ、ちょっとちょっと!何をやってるんだ君は!不発弾発見のニュースを知らないのか、まったく何でこんなところに子供が」
「しょうがないなあ…ほい」

慣れっこだとばかりに、無造作に取り出される黒手帳。
中身は、警官服に身を包んだ少女の姿。丸顔だが、凛々しく、少年と言われても不思議ではない。


「え?ええっ?これ本物?」
「本物だってば。おじさん朱莉のこと疑ってんの?」

目の前の健康優良児が警察関係者であることが頭に入らない、警官。
そこへ同じような年代の少女がさらに三人も入ってくるものだから、彼の頭はますます混乱する。

「とにかく、現場のトップを連れて来てください」
「『スマイレージ』って言ってくれれば通じると思うんで」
「て言うか何でそんなに焦ってるんですかぁ?ばくわら」

矢継ぎ早に言葉を投げかけられ、警官は泣きそうな顔で無線を取り出した。



「これは、大変失礼いたしました…」

いかにも私は偉いです、といった風体の中年男性が深々と頭を下げる。
背後にずらり並ぶ警官隊。その代表として彼はわざわざここまでやってきて、頭を下げているのだ。

それも、たった四人の少女に。ありえない屈辱。

「ちょっと、おっさん頭禿げてる。夕日が反射して眩しいんですけど。ばくわら」

気の弱そうな顔とは裏腹の、一人の少女が毒舌を披露する。
ひらひらの多いシャツと、プリーツスカート。どこにでもいるような、中学生にしか見えない。
そこへ、髪を二つ結びにした少女が、

「ちょっとりなぷーやめなよ。このおじさんだって禿げたくて禿げたわけじゃないんだから」

とフォローになってないフォローをする。
言いながら笑顔に覗かせる八重歯、彼女もまた男を小馬鹿にしているのは明白だ。
頭を下げ続ける男の地肌が、うっすらと赤くなっていった。


くそ、なんて一日だ。こんな小娘たちに、二度も頭を下げるようなことになるとは!!

怒り心頭となりながらも、つい10数分前に経験した出来事を思い出し、背筋を寒くする。
一回目の謝罪も、別の四人組の少女たちに対するもの。目の前の少女たちよりは少しだけ年上に見えたが、年長の者を敬わない姿勢
は同じだった。

「まあとにかく。これから先輩たちが『悪者』を狩るんで、うちらはそのバックアップをせないかんのですよ」

やや関西イントネーションの入った、見ただけで幸福が訪れそうな顔をした少女が要点を説明する。先輩たち、という言葉で男はは
っきりと理解する。こいつらも、「能力者」なのか、と。

「わかりました。ただ、我々はあくまでも『不発弾の処理』という名目でこちらに来ております。万一のことがあっても、我々には
どうすることもできない…」
「悪いけど」

ショートカットの少女が、一歩前に出た。
パーカーのポケットに両手を突っ込みながら、仰ぎ見るように男を睨む。


「おじさんたちの力なんて、これっぽっちもアテにしてないから」

瞬間、男の身が縮みあがる。
はっきりと頭に浮かんだのだ。最初の謝罪の時に、色黒の細身の少女が戯れに行ったことを。
握り拳大の石を、パトカーの1台に向けて放り投げた。投げつけたのではない。ひょいっという擬音が出そうなくらい、軽く。いや、
装甲が施されていないとはいえ、パトカーが原型を留めないほど破壊されることなど。

男が目の前の少女に感じた恐怖は、まさにその時のものとよく似ていた。
固まる男を尻目に、目的である「不発弾が埋まっている高層ビル」へと歩いてゆく四人。

勝田里奈。
田村芽実。
中西香菜。
竹内朱莉。

「スマイレージ」のサブメンバーとして選ばれ、高層ビルに「不発弾を処理しに行った」先輩メンバーたちのサポートをするという任
務を請け負った四人。先に行った四人と同様、彼女たちのことについても速やかに現場の警察官・自衛官たちに伝えられた。


今回の「不発弾処理」に関わることになった、能力者と呼ばれる少女たち。

彼女たちが先に進むごとに、奇異の目が向けられる。
四人の中に心を読む能力者がいたならさぞかしえげつない悪口が聞けたことだろう。
聞いたところで、彼女たちにはゴミの囁きにしか聞こえないだろうけども。

ともかく、ビルの入り口にたどり着いた。
先輩である正規メンバーたちは屋上にいる今回の標的「赤の粛清」のもとへ向かっているのであろう。

「それじゃ、はじめますか」

二つ結びの少女・田村芽実が、静かに目を閉じた。
すると、芽実の体が残像処理されたかのように二重、三重にぶれてゆく。
やがてそれは、完全に分離された四人の人影に。

「て言うかいつも思うんやけど」
「何?かななん」
「何で分裂するのにみんな違う格好してるん?」

眉を下げて困った顔をしながら、香菜が指摘する。
四人に分裂した芽実が、みなそれぞれ違う格好をしていた。


「しょーがないじゃん。めいの能力は『劇団田村』なんだから」

サラリーマンのようなスーツを着た芽実。ランドセルを背負った小学生風の芽実。そしてなぜか、極長のリーゼントヘアーの特攻服芽実。

芽実が言うには、いつもの自分とは違う自分を思い描かないと能力を使役することができないのだという。それにしても。里奈の無遠
慮な視線は、劇団田村のメンバーたちに容赦なく降り注ぐ。

「あんたの能力は『劇団田村』じゃなくて『分裂(スプリット)』じゃん。て言うかそのヤンキー、ださ」
「何見てんだよコラ!!」
「さっきからくちゃくちゃ、マジでばくわらなんですけど」
「チョーシくれてんじゃねえぞ!ガムうめえんだよ、ブドウ味なんだよ!!」

ヤンキー風芽実を見て、鼻で笑う里奈。
それが面白くないのか、ヤンキーの芽実が首を突き出し睨み付けた。
威嚇のためなのか、ずっと噛み続けているガムの音がくちゃくちゃと静寂によく通る。

「まあまあ。とにかく、結界張るから。みんなめいめいたちと一緒に四方に散って」
「りょーかい」

香菜の言葉に、他の三人がそれぞれの方向に向け歩き出す。
朱莉と里奈に、分裂した芽実たちがついて行った。


香菜の能力は「結界(スピリチュアルバリア)」。
特定の領域において結界を張り、外からの物理的干渉から領域を守る能力。しかし今回はその逆で、領域内の出来事が外に影響を与え
ないように結界を張る。もちろん「赤の粛清」を逃がさないという目的もあるが、それはあくまでも副次的なもの。スマイレージの正
規メンバー四人と「赤の粛清」が正面衝突することによる衝撃から外の世界を守ることに比べたら、重要なファクターではない。

それが故の、芽実の「分裂」。
分裂した芽実を他のメンバーたちの補助につけることで、他人の力を借りて張る結界はさらに強度を増す。
よほどのことがない限り、結界が破れることはないだろう。

さて…和田さんたちはうまいこと「赤の粛清」に遭遇したんかいな。

はるか頭上の最上階を見上げる香菜。
彼女は確信に近い予想をつけていた。いずれその場所が、地獄と化すことを。





投稿日:2014/01/06(月) 21:47:21.40 0


46回目



ついに研究室にたどり着いたれいな。
部屋のあちこちに張り巡らされた配線、配管。
複数の水槽を上から下に、左から右に流れる妙な色の液体、備え付けられた機械のランプが動きに応じて明滅する。研究室と言うよりは、工場と表現
したほうがしっくり来る。

そこで見たものは。

瞳を閉じて、眠りについているさくら。
その表情はあくまで穏やか。れいなは喫茶店での彼女との日々を思い返す。その時のことを象徴するかのような安らかな寝顔だ。ただし。

さくらの全身と機械が、複数の妙な管に繋がれていた。
拘束とも違う、異様な光景。機械には大小様々の計器が取り付けられ、常にその数値を上下させている。さくらから繋がれた管は、絶えず何か光のよ
うなものを機械に送り続けていた。

わからんっちゃけど、このままにしておけん!!

れいなは本能的に、さくらのこの状況をよしとはしなかった。
一刻も早く解放してあげないと、取り返しのつかないことになってしまう。
彼女の勘は正しかった。
その証明として、管を剥ぎ取ろうとしたれいなを止めるものがいたからだ。


「いきなりそれはルール違反だよー」

管を掴みにかかるれいなの手首を、握る誰かの手。
見なくても、わかる。相手の存在、息遣い。全てがれいなの血を煮えたぎらせる。

「あんたは…!!」

掴まれた手を振り解き、大きく間合いを取る。
そこでれいなは初めて、相手の顔を確認した。金色に靡く髪、眠そうな顔、泰然自若とした立ち姿、最早見間違えようがない。

「逢いたかったよ、れいな」

ついに姿を現した、「黒翼の悪魔」。
にへら、とただでさえ気の抜けたその顔がさらに緩む。
なのに、れいなは自分の構えを解く事ができない。

「…れいなも会いたかった。ボロ負けしたあの時から、ずっと!!」
「なるほどねえ。遠き昔の惨敗のリベンジのためにここまで来た、か。でもさぁ、それだけじゃないでしょ?例えば、れいなの体に起こってる異変とかね」
「血を分け与えたあんた自身なら、知っとうやろ?」

体を低く構えながら、れいなが問う。
最初から簡単に答えを出してもらえるなんて、これっぽっちも期待してない。それどころか、奇襲に備え最大限の注意を払っている。


「分子レベルで特殊な回路を組み込まれた原型細胞の集合体の産物、らしいよ。ごとーも詳しくは知らないけど。特殊な回路ってのはたぶん」

「黒翼の悪魔」が、れいなを指差す。

「そんな風になっちゃう回路、ってことなんだと思うよ」
「随分他人事みたいに言いよるけど」
「ああ、他人事かぁ。まあね。いろいろあるんだよ、こっちもさ」

あくまでもはぐらかす気か。
そっちがその気なら、力づくで吐かせるしかない。
れいなの姿勢がより低くなる。溜めに溜めた力を、一気に解放するために。

「うおおおおっ!!!!!」
「いいね。そういうの嫌いじゃないよ、ごとーは」

獣の如くの咆哮とともに、れいなが「黒翼の悪魔」に襲い掛かる。
唸る拳が悪魔に向け振り下ろされるが、難なく交わされてしまった。勢い余ったれいなは床面に拳を叩きつけてしまう。

「のっけから飛ばしすぎじゃない?」
「飛ばすのは、こっちのほうやけん!!」

れいなは、床を叩き割った姿勢からそのまま、悪魔に向け蹴りを放つ。
いや、蹴りを繰り出したのではない。蹴ったのは、砕かれた床材の欠片。
大小の瓦礫が、「黒翼の悪魔」に向かって飛んでゆく。しかしそれが彼女に直撃する事はなかった。


「なるほど。あの時よりは、ちゃんと頭使って戦えるようになったわけだ」

「黒翼の悪魔」が前方に翳した手の先。
闇が口を開けたかのように、空間が割れて口を開けている。れいなの蹴り出した瓦礫は、全てその薄暗い穴に飲み込まれていた。

「空間裂開(スペースリパー)」。
今いる空間とは別の空間へと道を作り、裂き開く能力。
その裂け目に飲み込まれたものは、使役者の意のままの世界へと放り込まれる。無限大の彼方へと飲み込みそのまま消滅させてしまうこともできる、恐ろしい力。

「このれいなの力はあんたの血のせいやけん、あんたも同じ力使うと思ってた」
「悪いんだけど、そっちのほうは今品切れ中なんだよねえ。でも、こっちの力も偉大な人のやつだから、楽しんでってよ」
「言われんでも!!」

両手を広げ、れいなの体に向け「空間裂開」を発動させる「黒翼の悪魔」。
空間の穴が人体の上で空いた場合。その部分は物理的な衝撃により空間の穴同様の穴が空いてしまう。つまり、その力を受けるわけにはいかない。

降り注ぐ雨のように開かれる無数の空間の穴。
れいなは。
空を走る稲妻の鋭さで、「黒翼の悪魔」へと切り込んでいった。



巨大な飛行船から射出された、銀色の弾丸。
「リゾナンカー」は、目的地である「紺碧の研究所」に向けて一直線に飛んでゆく。

なんだ、意外と簡単じゃん。

さゆみは機体に力を送り込みつつ、そんなことを考える。
操縦、と聞いた時には複雑な操作が求められそうなイメージがあったが何てことはない。頭の中で機体が飛んでゆくイメージで動かせばいい簡単なも
のだった。感覚的に言えばマリオカートあたりと何ら変わりはない。

「さゆみも免許、取っちゃおうかなぁ」
「みにしげさーん、まーちゃんにも操縦させてくださーい!!」

鼻歌交じりのさゆみを羨ましく思ったのか、後部座席の優樹が身を乗り出す。必然的に前にいた衣梨奈や春菜が踏み越えられることに。

「いたたたっ、まーちゃん暴れない!!」
「もう!大人しくすると!!」

目的の操縦席まであと一息、というところで優樹の後ろ襟が引っ張られる。


「佐藤、所定の位置に戻る!敵の迎撃ミサイルが、来るよ!!」

最後部に座る里沙、彼女の精神干渉能力もまた「リゾナンカー」によって強化されていた。その研ぎ澄まされたセンサーが、前方から飛んでくるミサ
イル群を感知する。

「あーあー、みなさん、聞こえますか?聞こえますかー?」
「その声は…愛佳!?」

車内に搭載されていたスピーカーから聞こえる、愛佳の声。

「時間がないから簡潔に説明します。その『リゾナンカー』はみなさんの精神力で移動・感知・攻撃・結界展開ができるようになってます。状況に合
わせて使い分けてください」
「了解っ!!」

さゆみが愛佳の指示に答えながら、機体のスピードを上げてゆく。
必然的にミサイルとの距離が、一気に近くなる。


「右45度方向、ミサイル来ると!」
「ハルがやります!!」

里沙の見よう見まねでミサイルを感知した衣梨奈の声に答えたのは、遥だった。目にも止まらぬ速さで飛んでくる数多のミサイルを、リゾナンカーが
生み出すエネルギー弾を駆使して次々に撃ち落としていく。

「左30度方向!」
「こんちくわー!」

次に愛佳の言葉に答えたのは優樹だった。
遥と同様、エネルギー弾で次々にミサイルを撃ち落としていく。

飛行機並みの速度で移動するリゾナンカー。
仲間達とリゾナンカーを暴風や敵の攻撃から守るのは聖、香音、亜佑美が作り出した三重結界だった。

十数分程、こうしたやり取りを繰り広げただろうか。
やがて、リゾナンター達の視界に見えてきた小さな島。

「上陸したらそこから各二人のチームに分かれて四方から施設を攻めるよ! 各自、何か不測の事態が起こったら心の声で知らせて!」

さゆみの言葉に、皆頷くと各自集中を開始する。
ここまで近づいてしまえば、ロングレンジのミサイルから狙われることはない。あとは上陸するために「リゾナンカー」の速度を落とすだけ。


「ねえ愛佳、ところでどうやって『リゾナンカー』の速度を落とすの?」

すると、嫌な感じの沈黙の後に、いかにも気まずそうな愛佳の返事が返って来た。

「あの、言いにくいんやけど…あくまで試作品みたいで、減速機能は検討中…らしいですわ」
「はぁ!?」

車内の10人の声が、揃う。

「じゃあ墜落ってこと?やなの!さゆみやなの!!」
「おかーさーん!!」
「もうこうなったら派手に激突っちゃ!」
「zzz…」
「里保ちゃん寝ないで!縁起が悪いんだろうね!!」
「だっ大丈夫ですよ、だいじょぶだいじょぶだいじょぶ…」
「フランス!フランス!!」
「何でフランスなんだよ!まーちゃんも喜んでんじゃねえ!!」
「イヤッホー!ジェットコースターみたーい!!」

「ちょっともー墜落とか聞いてないんですけどー!!!!!!」

最後に里沙の昭和なリアクションとともに、銀色の弾丸は孤島の岸壁に激しくめり込んだ。





某蒼の有名作の突撃シーンのオマージュです
読み比べてみると面白いかもしれませんw







投稿日:2014/01/08(水) 20:34:46.26 0



47回目



夕陽が、沈む。
ここのところ、見慣れた風景。
ビルの屋上のフェンスに腰掛け、赤い赤い、血の色のような太陽が沈んでゆくのを、黙って眺めていた。

普段は戯れに振り回している、夕陽の色と同じ刃の大鎌を肩にかけ、フェンスに座る。
何ともノスタルジックな感情が、生まれてくる。

「赤の粛清」。
「黒の粛清」と並ぶ、組織の処刑人。彼女たちに有罪とされたものたちは、悉くその命を散らしていった。幾百、幾千の魂たち。
けれど、「赤の粛清」が本当に欲しかったのは。
たった一つの、命。赤き死神がまだa625と呼ばれていた頃に、唯一心を許した少女の、その魂。

― スペードは剣で、ハートは心臓なんだよ。ねえ、アイちゃん聞いてる? ―

あの時交わした約束。
それが叶うのは、今日をおいて他にない。

ビルの下が妙に騒がしい。恐らく、既に「動いて」いるのだろう。それを待っていた。全ては、約束のために。


「…挨拶は必要ないよ?」

赤く染まる空に向け、粛清人が呼びかける。
屋上に姿を現す、四つの影。

「へえ、気づいてたんだ」
「気づいてて、何もしなかったんですか?」
「余裕かましてると死にますよ?」
「どの道死ぬけどね」

和田彩花。前田憂佳。福田花音。小川紗季。
「赤の粛清」を始末するためにこの地に赴いた、能力者部隊「スマイレージ」。

夕陽に佇む粛清人は、フェンスの縁に立つと。
綺麗な宙返りを描いて、四人の前に降り立った。

「…我が後輩たちよ、かくも逞しき雄姿なり。なんてね」

一陣の風に、羽織ったコートと赤いスカーフが靡く。
ダークネスに生み出された人工能力者、その先駆者としての労いの言葉。


「後輩?あなたの後輩になった覚えは、ないんだけどな」

彩花が、一歩前に出る。
その瞬間、建物の四方から眩い光の柱が立ち上る。
地上でスマイレージのサブメンバーたちが結界を展開した合図だった。

彩花が、ゆっくりと微笑む。
そして、手にした小石を。屋上の床に向かって、落とした。

地面にこつんと当たったかに見えた石は。
屋上の頑強な床を突き抜け、衝撃で高層ビル自体を破壊してゆく。
各層の構造を支える床を失った建物は、途端に強度を失ってしまう。柱が崩れ、鉄骨が撓み、さらなる崩壊へと繋がっていった。

衝突。それはまさに衝突と言い換えて何ら不思議のない、強大なエネルギーの発生。
板チョコをばりばりと折るが如く、床のコンクリートが破壊、崩落してゆく。四方八方に走る皹は容易に「赤の粛清」を捉え、
そして飲み込んだ。

いかに最新鋭の技術が施された構想建造物とは言え、一点の衝撃に対しては脆く崩れ去ることはいつかの世界的規模のテロ事件に
よって証明されている。
ジェンガ。まさにジェンガだった。
天高く積み上げられたコンクリートと鉄骨のジェンガ、それががらがらと激しい音を立てて崩壊する。土煙を上げる巨大なコンク
リートの塊。破砕された窓ガラス。変形し落ちてゆく鉄骨。土石流にも似た荒ぶる流れに、赤いスカーフは完全に呑まれ、潰され、
見えなくなった。



紺碧の研究所の、建物内。
れいなが走り通り過ぎた通路のちょうど中央に、やや広くなったスペースがあった。
そこに向け、複数の足音が近づいてくる。

れいなに倒されたはずの、「氷の魔女」。「永遠殺し」。「黒の粛清」。
そして、「鋼脚」。

「計画はうまくいったわね。れいなの奴、あたしたちを叩きのめしたと思ってたみたいだけど」

スペースにて顔を合わせた四人。
開口一番、「黒の粛清」が意地の悪い笑みを作る。

「ま、いんじゃね?うちらの仕事は、あくまであいつを『完全覚醒』した状態で研究室に送り込むこと。だからな」

続いて、「鋼脚」。
大きく伸びをして、体の間接をぽきぽきと鳴らした。

「ともかく。私たちの任務は終了したわ。あとはDr.マルシェの迎えを待つだけだけど」
「…『永遠殺し』さん。一人、足りなくね?」

「氷の魔女」が、「永遠殺し」に尋ねる。
本来ならば、自らの仕事を誇らしげに喋る小さな先輩がそこにはいたはず。


「ほんとだ。妙に静かだと思ったら」
「小さすぎて見えないんじゃないの?」

左右を見渡す「鋼脚」に、いないのをいいことに悪口を言う「黒の粛清」。

「『詐術師』は。不注意で予想外の負傷を負ってしまったみたい。今頃研究所の治療室で手当てを受けてるわ」

同期の恥は、自らの恥。
そう言いたげに、「永遠殺し」が肩を竦めた。
それを聞き、魔女と粛清人が明らかに侮蔑の表情を浮かべる。

「うわ、ださっ。あの人だけマジでれいなに叩きのめされたってわけ?」
「笑っちゃうよねえ。ま、『能力阻害』なんて大した力じゃないし。初期メン面して偉そうに幹部の座についてるほうがおかしいよねえ」
「あんたも似たようなもんじゃん。何か本気でれいなに苦戦してそうだし」
「な、何ですって!!」

魔女の容赦ない言葉が、粛清人の怒りを買う。
一触即発か、という状況に割って入ったのはこの場で最古参の「永遠殺し」だった。

「くだらない争いはよしなさい。それと、石川」
「は、はい」

久しぶりに二つ名ではない名前を呼ばれた「黒の粛清」の表情が固まる。
このような時は、大抵。


「矢口を侮辱するのは…許さないわよ」
「ひっ、す、すいません!!!!」

時間停止の力を使っていないにも関わらず。
「黒の粛清」はまるで自らの心臓の動きが止められたかのような錯覚に陥った。とともに訪れる、相手への恐怖。

オーバーリアクションとも言えるくらいに恐縮した「黒の粛清」にため息をつきつつ。
「永遠殺し」は、他の二人に問いかける。

「まだマルシェとの約束の時間にはなってないけど。あんたたちは、どうするの?」
「あ、すいません!私、ちょっとリゾナンターと遊びたいんですよねえ!!」

が、最初に言葉を発したのは「黒の粛清」。
つい先刻、リゾナンターらしき能力者を乗せた飛行物体が研究所近くの岸壁に不時着した、という情報は戦闘員から齎されていた。

「…あの子たちと交戦するのは任務のうちに入ってないわよ?」
「ちょっとくらい、いいじゃないですかぁ。ちょっとした、教育的指導ですって」
「ま、そうでもしないとれいなに負けたあんたのプライドが許さないもんねえ」
「ちょっとあんた、もう一遍言ってみなさいよ!!」

またしてもいがみ合う、「黒の粛清」と「氷の魔女」。
その様子を楽しそうに見ている、「鋼脚」。


「ちょっと『鋼脚』。あんたもたまには止めなさいよ…」
「この二人が仲悪いのは、いつものことなんで」
「しょうがないわね。いいわ、『黒の粛清』。出撃を許可するわ。ただし、決してリゾナンターを殺したりはしないこと」
「はぁい。じゃあいってきまーす」

気持ち悪いくねくねとした動きで、建物の出入口に向かう「黒の粛清」。
そんな後姿に、「氷の魔女」が一言。

「外に放ってる『ワンちゃん』たちの足手まといにならないといいけど」
「…うるさいわね!そんなわけないじゃない!!」

何度も見た、そんなやり取り。
「永遠殺し」はただ、呆れつつ首を横に振るしかなかった。





投稿日:2014/01/12(日) 12:29:21.36 0