『米』 第五話



★★★★★★

頭が狂ってしまったらどれだけ楽であろうか
そう願うものの澄み切った頭脳は許そうともせず、ただただ冷静に現実を突きつける

目覚めるとそこは見覚えのなく、出口のない謎の洋館
7人の頼もしき仲間も同じように、なぜここにいるのか、訳が分からないという
そこに8人の命を狙うために現れたロボット。なんとか撃退するも違和感が出現する
それは、通じ合っているはずの仲間達の『能力』が違う、という事実
8人は無理矢理ながらも、それぞれ別々の世界から来た、という結論に至らざるを得なくなった
『未来を決定づける』譜久村、『空間を跳ぶ』生田、『超聴力』鈴木
『粘液放出』飯窪、『蒼炎使い』石田、『瞬間移動』佐藤、『千里眼』工藤、そして『水使い』の鞘師

目の前に広がる状況に対し、渦巻く感情は疑念、そして困惑
何が真実、何が虚構、何を事実と説き、何を偽りとして突きとめるか、根拠は何もない
仲間への信頼、それだけが精神を保つ拠所となっているかのように信じられた。それなのに・・・
「新垣さんとか光井さんとか・・・一体誰ですか?」
石田の『その発言』はこれまでの何よりも強く心を揺り動かした

「な、なにいっているの?新垣さんも光井さんも私達の大好きな先輩じゃない!
 あゆみちゃんもお世話になっていたし、一緒に戦ってきたんだよ・・・忘れちゃったの」
もとから色白な飯窪の顔が蒼白になり、内面の動揺が浮き彫りとなる

新垣、光井、いわずもがな「リゾナンター」であり、鞘師達8人をここまで導いた人物の一人でもある

能力を有していた、それだけのために、人と違うという理由だけで蔑まされた人生を送ってきた
しかし暗闇の中にいながらも逃げずに、「恐れられている」ことを正面から向き合うことを決めた強い心の持ち主
そして、「能力」を有しているがゆえに「能力者の世界」を作ることを理想とする組織と戦うことを決めた者達
それがリゾナンター、高橋、新垣、亀井、道重、田中、久住、光井、ジュンジュン、リンリンの9人から始まった
彼女達はそれぞれの出会いを「共鳴」と表現とし、全てを「運命」と信じて疑わなかった


そして彼女達は教えてくれた
次の世代、私達の声が届いた者もリゾナンターである、と。
それは運命という名を介した巡りあうべき必然なのだと
そして声が届くことを彼女達はこう表現した。それもまた、『共鳴』なのだと。

共鳴は絆、共鳴こそが信じる者の証、そう鞘師は信じ、仲間達も胸に刻んでいたはずだ
―それなのに、石田の『告白』は残酷だった

「忘れちゃったというか・・・知らないんだよね」と先程の飯窪の問いに石田は答えた

「はあ?あゆみんおかしいっちゃろ!新垣さんのことを忘れるとかありえん!」
声を荒げて詰め寄ろうとする生田の勢いを感じたのだろう、石田は思わず後ずさる
「あんなにえり達のことを守ってくれた新垣さんのことを忘れたとかいわせないと」
「いやいや、光井さんのことも触れてあげて欲しいんだよね」
生田の沸点の低さを知っている鈴木がすかさずフォローに入る
「でも、本当に知らないの?高橋さんとか田中さんのことは覚えているよね?」

首を横に大きく振る石田
「ありえん、ありえん」とうるさい生田を除いて、沈黙が辺りを包んだ

水軍流の家に生まれたとは言え、俗世間から離れた暮らしを送ったわけではない
子供向けの正義、友情、信頼を伝えるべく作られた特撮番組、アニメを同年代の友達と同じく観ていた
画面の向こうで広がる絶対的で揺るぎない大義名分をかざし、悪と戦い、仲間を信じ、成長する主人公達

しかし、彼女達、リゾナンターがそんな「正義の味方」達と異なる点は複数あることを鞘師は感じていた
―誰一人として自分達を「正義」と自覚していない
―自分達の存在を誰にも明かさず、普通の日常に干渉せんと己に課した定め
―支援団体などなく自らの意思のみで活動している
しかし、その中でも鞘師は特筆すべきものは『共鳴』能力、田中れいなという存在と考えていた


新垣の精神干渉、光井の予知能力などと違い、田中は一人で『能力』を発現することはできない
それでも田中は戦闘の最前線で華麗に踊り狂い、獣のように敵を薙ぎ倒す。それも己の拳のみでだ

田中れいなという一人の戦士ではなく、リゾナンターとして向かう時にこそ彼女の力は脅威となる

彼女の力の本質は『信じる』ことから生まれている。信じているからこそ強くなれる。それだけの力
それだけだが、そんな純粋な表現でしか表しようのない、純然たる思いが、仲間達を強くする

一人ではどうしようもない巨大な障壁も仲間と一緒なら乗り越えられる

それが共鳴、それが仲間との証、それがリゾナンター
弱さを認め、弱さを受け入れ、弱さを強さとする
認められなかった過去を未来へ繋ぐための道標とするその姿勢に似ていた

そんな田中れいなを含めた仲間を石田は「知らない」という

鞘師は考える。そんなことはありえるのか、と
違う世界から来たという前提に立って、私達は互いの存在を認めあっている
どの世界でも8人は存在し、互いに助け合い、仲間として戦っているという
しかし、石田の記憶の中には始まりの9人の影がないという

高橋愛を、新垣里沙を、亀井絵里を、道重さゆみを、田中れいなを、久住小春を、光井愛佳を、ジュンジュンを、リンリンを
石田はその名前すら知らないというのだ

「じゃあだーいしはどうやってはる達と出会ったのさ」
それは至極当然の疑問だろう。田中れいながいないならば、共鳴という存在すら知りえないはずだ
鞘師にとってはじぃちゃまに知らされた高橋の存在からこの物語は始まった
科学的に証明することなんて到底不可能な巡り合わせにより仲間を得た
導かれるようにして出会いし8人の交わった運命を、石田は何により得たのか、興味があった

「あゆみん、教えてよ~まあちゃんとどうやって出会ったの?下向かないでまさの顔見てください」
「・・・」


「まさはね、あゆみんとの出会いを覚えているよ
 国がね、まあちゃんをね、連れて行ってね、そこでねどぅとかはるなんとかあゆみんと出会ったの
 いろんな検査受けてね、訓練受けてね、痛かったけど楽しかったよ」

「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」
「あれ?どうしたの?すーずきさん、口があんぐり開きっぱなしですよ、イシシ・・・」

(国が連れていった?検査?訓練?何がまさきちゃんの世界では起きているんだ?)

同じように何か不穏な空気を感じたのだろう譜久村が問いかける
「ねえ、まあちゃん。まあちゃんの世界で私達は一体なんの活動をしているの?」
佐藤は首をかしげながら、言葉を選んで説明を始める
「国に頼まれて悪いことをした人をバシッとするの
 でもね、やりすぎてまあちゃん、追われちゃった」
「やりすぎってさっき言ってた、まあちゃんがあゆみちゃんを倒したってこと?」
「う~ん、わかんない。でも、鞘師さんは敵をそんな風に倒してはいけないって言ってた」
「そんな風って?」
「目玉をぐりぐりしたり、お腹に穴をあけて景色の向こう側を覗き込むの。まさ、キレイなことだと思うのに」

佐藤が言っているから現実感は無いのだが、その姿を想像するだけで不快感がこみ上げてくる
眼球を抉ったり、腹を切り開く。それをためらいもなく、この佐藤はしたのだ
鞘師の知っている佐藤は確かに常識に欠けている部分はあった。しかし、明らかに善悪の分別はついていた
それなのに眼の前の佐藤にはそれが欠けている。純粋という言葉では説明がつかない、何かがおかしい

「だ、だめですよ!まあちゃん!そんなことは北の白ギツネ様であるあなたとはかけ離れています!!」
眼に涙を浮かべ佐藤の肩に手を置く石田。身長の低い石田は自然と佐藤を見上げる形となる
「でも、あゆみんの死体もすっごく綺麗だったよ」
「ヒィッ」
思わず手を離して尻餅をつき、壁際まで後ずさる


「なんでそんなことをしたと?」
言葉は穏やかだが、その口調には怒りが込められていた
「あゆみちゃんは仲間っちゃろ?そんなことして心が傷つかんかいな?」
「だって、それは・・・『ふくさよう』だから、仕方ないってさやしすんが」
「里保が何か言うたと?」
眉を吊り上げてを向く生田に、鞘師は首を振って「知らない、知らない、私は何も知らない」と答える

口元にだらしなく笑みを浮かべて佐藤は語る
「さやしすんが能力を使うたびに、まさの心が砕けていったって教えてくれました
 何が正しくて、何がダメなのか、わからなくなって。でも、たたかうとみんな褒めてくれるんです
 みんなのためになりたくて、でも、どうすればいいのかわからなくなって
 だから逃げたくなって、そしたら、国が追って来て、どうしていいのかわからなくて
 さやしすんがまさのところにきて、一緒に行こうっていってくれて・・・」
歪んだ笑みとは対照的にガラスのような透明な瞳から静かな涙がこぼれおち、床を濡らした
「まさはどうすればいいのかわからなくて、でも死ねなくて、死にたくなくて、だから」
「もういいよ、まあちゃん、泣いていいから」
鞘師が懐を貸すと、佐藤は飛び込んだ。くぐもった声が響き渡り、生田の眼に涙が浮かんだ
「大丈夫、きっと、それは神様のきまぐれだから、苦しまなないで、悲しまないで」
「うわああぁぁぁん」

「・・・なにか今の言葉どこかで聴き覚えがあるんだろうね」
「鈴木さんもですか、実は私もどこかまでは覚えていないんですが、鞘師さんが言ったような気がしました」
飯窪と鈴木はむせび泣く佐藤を温かな眼で見守った

「ところであゆみんはどうやって、えりと出会ったと?それに白ギツネってなんやと?」
こんな空気であろうと持ち前の気の強さ(KY)は健在であった
「・・・まあちゃんは私の世界では、石田家が守護者として仕えてきた一族の次世代の当主です
 私はそんなまあちゃんと年が近いということで、現当主から依頼され出会いました」
「それでえり達とはどうやって出会ったと?」
「・・・わかりません」


「はあ?覚えていないならともかく、わからないってどういうことっちゃ!
 あゆみんにとって大事なのはまあちゃんだけで、えり達はどうでもいいってことかいな!」
「違います!違います!生田さんも譜久村さんも鞘師さんも鈴木さんもはるなんもくどぅも大事な仲間です」
「それならなんでわからないっていえるっちゃ!!なんのためにあゆみんは戦っていると!なんのために!!」

「えりぽん落ち着いて!」
再び怒り出したため譜久村が落ち着かせようと伸ばしてきた手を生田は払った
「まだあゆみちゃんの話はおわっていないようだから、最後まできいてあげましょう」
「いいや、えりの話はおわっとらんけん・・・」
「わ、『私は知っています』、『えりぽんはあゆみちゃんの話を静かに聴けること』を」
このままでは埒があかないと感じたのだろう譜久村は生田の未来を決めた

生田は静かに床に座り込んだ
「えりぽん、よく出来ました」
その生田の横に座り込んだ譜久村のほほにつぅっと赤い筋が二つ流れた
「相変わらずえりぽんは強情ですわね、特に今日は気が荒いですね」
「大丈夫ですか?譜久村さん?」
「大丈夫、これくらい、なんってことありません。よくあることですわ」
飯窪が駈け寄り譜久村の切り傷に沿って指をなぞった。
傷跡に沿ってハニー色の光が差し込み、傷は綺麗に閉じ、一見すると傷など無い様に眼に写った

落ち着いた石田が言葉を選びながら答え始めた
「・・・私の世界では譜久村さんの秘密の部屋を基地として、ダークネスと名乗る集団から平和を守る毎日を送っています
 私も含めて8人はそれこそ運命で惹かれあった様に息の合ったコンビネーションでした
 ただ、まあちゃんと出会ったことは覚えているんですが、その間の記憶が一切なくて、まったくの無なんです」

なぜ石田には出会ったときの記憶がないのか、と鞘師は考えた
鞘師の脳裏にはそれぞれと初めて出会った時の会話が鮮明に残っている。もちろん石田との出会いも含めて
どのような言葉を発し、どのような表情を浮かべたのか、それこそ書き記されたように鮮明だ


「あのですね、譜久村さん、いいですか?」
「どうしたのかしら、くどぅ?」
「・・・実ははるもあゆみんと同じようにわからないんです。どうやってみんなと出会ったのか
 で、でも田中さんとか新垣さんのことはわかりますよ」

(え?あゆみちゃんだけでなくくどぅもわからないってどういう?)

「じ、実は私もわからないんです。
 か、隠していたわけではないんです、お伝えするタイミングがなかっただけなんです!」

(はるなんも?)

「・・・私もじつはそうなんだよね。
くどぅとはるなんが里保ちゃんとか田中さんと出会ったことは覚えているんだけど、自分自身のことはわからないんだよね」

(香音ちゃんまで?)

「里保ちゃんは覚えているの?」
問いかけられた鞘師は「私はみんなとの出会いをはっきりと覚えています」と答えた
生田も「えりももちろんおぼえていると!」と訊いてもいないのに力強く答えた
「ふむ・・・私とえりぽんと里保ちゃんとまさきちゃんははっきりと出会いを覚えている
 でも、香音ちゃんとはるなんとあゆみちゃんとくどぅは覚えていない、ですか。不思議ですわね」

完全に出会いの記憶が抜けている者がいる。その一方で完全に記憶が残っている者がいる
それも出会いというこの8人にとっては欠くことのできないものをだ
(どういうことなのか?他の7人のうちの誰かが偽物ということを、改めて疑わなくてはならないのであろうか?
 それとも、あえて知らないというフリをしているものがいるのか?しかし、なんのために?
 撹乱?仲間割れ?それとも?)

そこで鞘師ははたとあることに気がついた。


(いや・・・何を悩んでいるんだ、私は?それこそ敵の思うつぼかもしれないのに
 ・・・別に出会いがなかったとしても戦っていることに変わりはないだろう
 私にとって戦うべき相手は『ダークネス』。それは確固たる事実

 手放すことなど決してできない強固な絆を結んだ仲間と戦っているし、それを誇りに思おう
 だからこそ、今、この眼の前にいる7人を疑うことなく、信じるんだ
 そう、眼の前の状況をみなくては・・・みなくては!?)

天井に向けていた視線を仲間達へ、壁へ、床へ、天井へ、そして仲間達の方へと巡らす
その行動を異様に感じたのだろう鈴木が問いかける
「里保ちゃん、どうしたんだろうね?」
「・・・ねえ、香音ちゃん。香音ちゃんはどんな小さな音も聴こえるんだよね?」
「もちろん!今はまあちゃんのお腹の虫がぐーぐー鳴いてるのばっかりだけど」
「それから、くどぅ?この建物を隈なく『視た』んだよね?」
「そりゃそうですよ。はるの眼に視えないものはないんですから」

そこで鞘師の言わんとすることをなんとなく悟った飯窪が「あっ!」と小さく声を上げた
「私達を連れ去った犯人はどうやって私達を監視しているんでしょうか?」
頷く鞘師と同じく気付いた譜久村以外の5人はそれぞれ驚きの表情を浮かべた
そう、鞘師が云わんとすること、それは鈴木の耳にも工藤の眼にも映らずに監視する方法

その問いに対して鞘師はすでに一つの結論に至っていた
(念写能力、か・・・)
遠距離からこの場を監視するには小さなカメラだけで十分なはずなのだ。しかし、そのカメラは見つかっていない
これはカメラを壊されることを避けるための方法と考えるのが最も論理的であろう
もしカメラがあることに気が付いたならば、監視を逃れるために破壊しようとするであろう
2人も探索に長けた能力者がいるのだから、隠し通すことは不可能と考えてよい


カメラを壊されたくないということは、裏返せばずっと監視しなくてはならない、ということ
その目的はわからないが、何らかの明白な意図があるはずなのだ
このような閉鎖空間に連れ去られたことでの精神状態や行動を監視するためなのか
それとも、元いた世界の他の仲間達に攻撃をするための準備なのか、はたまた・・・

リゾナンターの一人、久住は念写能力を有していたという
彼女の場合、遠く離れた場所を写真として写すことが可能であったという
同様の能力者がいたっておかしくはない
もちろん、静止画と動画という違いはあるが、久住の場合放電能力という複数の能力を有していた
もし、念写に特化している能力者なら映像を送り続けることは不可能ではないと考えても申し分ないであろう

そして、もう一つ、結論に至ったことがある
それは、犯人は単独犯ではないということ

ここまで仲間達に伝えた鞘師に佐藤が「えー何でですかあ?」と疑問の声を上げた
「べっつに一人でもいいんじゃないですか?」
「それならまあちゃん、さっきのロボットはどう説明するの?どこから現れたって言うのさ」

そう、あのロボットは突然、何もない広間に現れたのだ
それは幻覚ではない、まぎれもない現実
念写能力では説明のつかない現象なのだ
それを説明するには・・・いくつか方法はあるものの、いずれも普通の人間では不可能なのだ
加えて8人をここ-出口も入口もない建物に連れて来たという事実を考慮し、鞘師は次の結論に至った

「きっと犯人は物を空間を跳ばして送り届ける能力を持っている」
「それってエリの能力に似とうとね。エリは自分は跳べるけど、他のものは跳ばせられんけど」
「そして、持続的な念写とロボットを送るほどの転送能力、両方を一人がやっているとは負担が大きすぎる、というわけですわ」
「複数犯でしたら私達を連れ去るのも、一人よりも容易に行えるので論理にかなっていますしね」
「もしかしたら出会いの記憶がないのも記憶操作のためかもしれないんだろうね
 新垣さんみたいに精神系能力者なら不可能ではないし」


「でも、犯人が複数ということ、それからこれだけの能力を持っているということは敵は強力だね
 ま、私の蒼炎の前には敵はいませんがね!!」
と石田はドヤ顔を浮かべた

「それにその空間跳躍の奴がいればこの建物からおさらばできるってわけですね!
 これで出口も見つかりましたよ。生け捕りだな!!」
事態の進展に笑みを浮かべ、思わず八重歯を覗かせる

「でも、どうやってその敵さんを見つけるなう?」
「「「「あっ・・・」」」」「「・・・」」

(まあちゃんのいうとおりなんだ。この建物は壊せなかったし、まあちゃんやえりぽんの移動でも出れない)

出口も見つかった。犯人の能力もなんとなく判断した
しかし、その肝心の犯人と出会うことが出来ないならば、どうしようもないのだ
いわゆる手詰まり状態。向こうが動くしか手がないとすぐに暗い気持ちに沈みかけていた

「そうだ!いいこと思いついた!ねえ、みずき?」
生田の考えるいいこと、が本当にいいことでないことが多いので不安ながらも譜久村は何?と返した
「あのね、みずきは未来を決められるんだよね?」
「え?そうだけど」
「じゃあさ、その敵が現れる未来をさ、決めてくれんと?」

鞘師もそれは考えたが、口には出せなかった
というのも、その能力の副作用が恐ろしいためだ

「何言っているんですか、生田さん!危険ですよ!
 譜久村さんの未来確定は未来を変えるのが大変なほど、代償として譜久村さんへの代償が大きいんですよ!」
「そうだよ、さっき、えりぽんを静かにするだけで頬に傷が出来たんだよ!
 それを敵が姿を現す、なんて大きな未来を決めたら聖ちゃんの体がどうなるかわからないんだろうね!!」

「わ、わかっとうけど、それ以外に方法ないっちゃろ?
 別に姿を現すことを決めんでも、例えば、そうっちゃね、敵が脱出のヒントをくれるとか」
「それも危険ですよ!どれだけのリスクがあるのかわからないのに、そんな賭けに出るなんて!」
仲間達は全員当然、譜久村の身を案じ異を唱える

当の譜久村は考え込んだまま、口を開こうともしない
「ほら、譜久村さんも困っているじゃないですか、生田さん、謝った方が」
「いいよ」
聴き間違いではないかと思い、鞘師は止めさせようと声をかけた
「え?何言っているの?やめたほうが」

「ううん、聖、やるよ」
「さすがみずきっちゃね!頼りになると!!」
「ほ、本当にいいの?危ないですよ」
「でも、聖がすれば道が開けるかもしれないんだったら…その代わり、何かあったら、よろしくね」
その瞳には恐れよりも希望の光が宿っていた

すぅっと深呼吸をし、息を整え、譜久村は言葉を紡ぎ始めた
「『私は知っています』、『私達を閉じ込めた犯人が眼の前に現れることを』」

一秒、二秒、三秒・・・何も起きず、譜久村の様子も変わりはない

「ど、どういうことですか?何も起こらないなんて?未来は確定したんですよね?譜久村さん、体の方は」
自分の体を触りながら、不思議な表情で首を振り、何ともないとアピールした

(こ、これって?あ、ありえない)

★★★★★★

『彼女』はそっと笑みを浮かべた





投稿日:2013/12/23(月) 21:23:05.05 0


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最終更新:2013年12月26日 04:26