『WHO KILLED MY DIVA』


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「お疲れっしたー」

仕事を終え、帰途につく1人の男。
信号待ちで立ち止まり、携帯を操作する。

「ミーちゃんイベントどうだったかな~」

twitterを開き、大ファンのアイドル“美伊葉子”のアカウントを確認する。

@mie_yhoco 【スタッフ】本日のイベントを含め、今後のスケジュールは当面の間全てキャンセルとさせて頂きます。払戻等、詳細は追って告知させて頂きます。取り急ぎご報告まで。

「へえっ?」

予想だにしない文面に、思わず声が漏れ出る。
何があった?何が起こった?
急病とかだったら、そう書くはずだ。
検索やハッシュタグで、情報を漁る。
そして、大体の詳細が掴めた。

イベント会場のオープンスペースに、突然怪物が現れ、ガスを噴き出しながら暴れまわったという。
ガスを浴びてしまった人は何故かカエルの鳴き声のような声しか出せなくなり、美伊葉子もそれに巻き込まれたようだ。
そして彼女は、行方不明らしい。

俄には信じられないが、まるで特撮ヒーローでよくある話のようである。
帰宅しても気が気でない男は、翌日は休みということもあって、深夜まで情報交換に明け暮れた。


翌朝。気づくと男はパソコンの前で突っ伏して眠っていた。
テレビをつけると、ちょうど朝のワイドショーで昨日の事を報道していた。
マスコミ各社も昨日は入っていたらしく、その時の生々しい映像が各局各番組で流されている。

グゥ…

そういえば、昨日はメシも食わずずっとパソコンに向かっていた。
各番組が他の話題に移ったのを見て、男はコンビニに出掛けた。

食べ物とスポーツ新聞を買って帰り、自転車を駐輪スペースに戻す。
ふと、その脇の植え込みに目が行った。
何か、少し派手な色目の服が見える。子供のかくれんぼか?
そう思いつつも、気になった男は近づいてゆく。

「ゲロッ!?」

男の接近に気づき、こちらを振り向いたのは、子供ではなかった。
とても見覚えのある顔と衣装。
そして、…ゲロッ?

「み、ミーちゃん!!??」

美伊葉子、その人であった。
男が思わず出した大声に、葉子は必死そうに口の前に指を立てる。

「す、すみません…な、何でこんな所に」
「ゲロゲロッ」
「あっ、そ、そうか喋れないんだ…。そうだ、コレを」

男は自分の携帯を、メール作成画面にして渡した。


“つかまってたのを逃げてきたの”
「大丈夫?ケガとかはないの?お腹すいてない?」
“ケガはない、おなかすいた”
「じ、じゃあこれ食べて!」

男は今しがた買ってきたばかりの食べ物を差し出した。
葉子はすぐさまかぶりついた。
そして

“あなたの家に居させて下さい”
「え!?ええっ!」

男は躊躇った。自分なんかの部屋に大ファンの葉子を入れてしまっていいのだろうか。
だがそれ以上に、彼女は怖い目にあい困っているのだ。
男は葉子を家の中に入れた。部屋に飾られたポスター等で、男が自分のファンだった事に気づく葉子。

「あ、お、俺、こういう者です」

仕事の名刺を葉子に渡す男。


□□学習塾
講師  遠田 守


『まもるさんね』と口を動かす葉子。

「あ、まだお腹すいてないですか?何か買ってきますから!」

守は自転車に乗って、再びコンビニに向かった。
その帰り道。


ビ~ュン!!

猛スピードで走り抜ける1台の車。
危ないなぁ、と思って見ていると車の前に急に1人の少女が飛び出した。
ヤバい!ぶつかる!
響き渡るブレーキ音。そして衝突音。
ああ、110番しないと。状況を確認しようと現場に近づこうとしたその時、車のドアが開いた。

「な、なんだアイツら!?」

車から出てきたのは、黒ずくめの服装をした女と、覆面をした数人の男。
そして、カエルに似た風貌の怪人。
110番どころではなく、守は物陰に隠れる。

「やった~!へっへ~んだ!」

そいつらの前で何故か喜んでいる、少しぽちゃっとした少女。
あの子、確か飛び出した子じゃ…?無事ならそれはそれでいいけど…。
するとそこに、更に何人かの少女達も現れた。

「今度は何を企んでいるんですか!?」
「うるっせーな!お前らには関係ねーだろ!」

少女の1人の問いに、黒ずくめの女がキレ気味に返す。

「それにしても、そういうのも久し振りですよね」
「お前らが次から次へと倒しちゃうから、予算減らされて怪人部門を縮小しないといけなくなったんだよ!あー糞ムカつく!!」
「そんなのは早く廃止するに限りますね」
「うっせー!!車もお釈迦にしやがって!!お前らやっちまえ!」
「イーッ!!」


少女達と覆面の男達が戦いだす。
一体何なんだコイツらは…。
守が後退りをしたその時。

ガシャーン!!

自転車を倒してしまった。
その音に、視線が一気にこちらに注がれる。

「クソっ、一般人に見られたか!ガマ男、あいつもやれ!」
「ゲロゲロゲロ!」

ガマ男と呼ばれた怪人が迫り、ガスを口から噴き出す。
そ、そうかコイツが…。
小さな勇気と正義が芽生え、守は足を止め、怪人に向き直る。
しかしすぐに、自分にはどうしようもできないと気付く。
もうダメだ!
そう思った次の瞬間――

――守は、自宅の前にいた。
傍には、あの場にいたうちの2人の少女もいる。

「大丈夫ですか?」
「ケガしてなーい?」
「え…?一体どうなって…」

物音に、部屋の窓から葉子が顔を出す。

「あれ?あぬみんあの人…」
「ほら、戻るよまーちゃん」
「でも…」
「いいから!みんな待ってるよ!」


少女達は姿を消し、守だけが残された。
この短時間で色んな事が起こりすぎ、正直混乱している。
部屋へ戻ると、葉子が出迎える。
食事を終え、安心したように眠る葉子の姿を見て、守は思った。
このままずっと、一緒にいれたらいいのに。

ピンポーン

しばらく時間が経ったその時、インターホンが鳴った。
覗き窓を見ると、先程自分と一緒に家の前までやってきた2人の少女。
それに付き添うようにしている、2人よりもやや年上の女性。
確かこの人も、あの場にいたはず…。

「すみません、この自転車、あなたのですよね?」
「ああっ!そうだ、俺の自転車!」

あまりの事態に、自転車の事などすっかり忘れていた。
守は礼を述べつつも、色々な疑問をぶつけた。

「あいつらは何なんですか?それに、君達も一体何なんですか?一瞬で移動したり消えちゃったり、何?正義のヒーローみたいな?」
「…みたいなもの、かもしれませんね。ただ、詳しい事は教えられません」
「じみしげさん、まさ見ましたよ、中に…」
「うん、それは今聞く。自転車を届けにきたのと、もう1つ用があります。こちらに、美伊葉子ちゃん居ますね?」


守はドキリとした。
そこに、話し声を耳にして葉子が顔を出してきた。

「ああ、やっぱり!美伊葉子ちゃんですよね?」
「ミーちゃんの声、戻るの?」
「ええ、あの怪人を倒せば」
「…倒さないで」
「はぁっ!?」

予想だにしない言葉に、少女達は耳を疑った。

「どういう意味ですか!?」
「このまま、ずっとミーちゃんと一緒にいたいんだ。声が戻ったら、もう俺と一緒にいれなくなっちゃう…倒さないでよ怪物!お願いだから!」
「相手の不幸につけこむようなそんな寂しい夢を見ないで!」

やり取りを不安そうに見つめる葉子。

「私、見てましたよ。一瞬でも、怪人に立ち向かおうとしてたところ。あなたは正しい心を持っています。一時の気の迷いで出来た寂しい夢に惑わされないで!」
「寂しい夢でもしがみつくしかない人間もいるんだ…」
「私達は、怪人を倒します。被害に苦しむ人の為にも。そして、あなたの間違った夢を終わらせる為にも」

強い眼差しでそう言い放つと、少女達は立ち去っていった。
守は部屋に戻り、しばらくの沈黙の後、葉子に話し掛けた。


「ねぇ、一緒にミーちゃんのDVD見よう」

葉子は頷き、微笑んだ。
およそ2時間のコンサートDVD、会場じゅうが合唱するラストの曲。
その時、その瞬間は訪れた。

「ララララ~♪」
「…ミーちゃん!?」
「えっ?」
「ミーちゃん!声が!ほら声が!」
「あ…あ…本当!声が…声が戻った!」

手を取り合い、喜ぶ2人。
ひとしきり喜んだ後、守は言った。

「…早く、事務所に戻りなよ」
「いいの?さっきあんな事言ってたのに」
「俺だけのミーちゃんなんて、無理だよ、荷が重すぎる。ミーちゃんはみんなのミーちゃんだから」
「…ありがとう。今日は、本当にありがとう」
「俺からも、ありがとう。楽しい夢が見れました」

守が呼んだタクシーに乗り、葉子は去っていった。
そして誰もいなくなった部屋。
守は、寂しいからなのか、何の感情なのかよくわからない涙を流した。


―――数週間後。

いつも通り、職場の塾で仕事に励む守。
事務室で雑務をしていると、突然子供達の歓声が聞こえてきた。
何事かと、歓声のする教室へ向かう。

ドアを開くと、何故かテレビカメラ。
それに群がる子供達の輪。
そしてその輪の中心には、   美伊葉子がいた。 

「あっ!守先生!」
「先生すげえ!知り合いなの!?」

守に駆け寄ってくる子供達。
教室内の大騒ぎは、しばらく続いた。
そしてその喧騒の様子を、外から温かく見守る少女達の姿があった。





投稿日:2013/12/12(木) 18:38:01.05 0