『リゾナンターЯ(イア)』番外編 「朝靄・5つの影」



前編


籠る熱気。滴る汗。
息を吸えば、噎せ返るような湿気が肺に流れ込む。
静かに、そして深く。密集した木と叢の間を縫うように先へ進む少女たち。
周りを取り囲むように生い茂った葉は時に鋭く少女たちの肌を擦り、傷つけた。
その程度のかすり傷など気にならないくらい、鬱陶しい。
真夏の、光も射さない樹海の環境は最悪だ。

「カオリ歩くの疲れた」

一行の中で一番の長身、ビロードのような艶やかな長い黒髪の少女が呟く。
もっとも、自慢の髪も湿気と汗でべた付き見る影もない。

「…もう少しで着くから。我慢しな」

まるで山猫を思わせるワイルドな顔つきの少女が、嗜める。
鼻のピアスが彼女の自己主張の高さを表すように、鈍く光っていた。

「ねえお水ぅ。なっちもう喉からからだべさ」

とっくに水の切れた水筒を振り回すのは、小柄で細身の少女。
滴る汗が目に入らないように、ひたすら手で拭っている。
「なっち、さっき私の水筒飲んだばっかりじゃん。これから敵陣に乗り込むって言うのに、お腹たぽたぽじゃ戦えないよ?」

先の少女と同じくらいの背格好の、最年少の少女が淡々とそんなことを言う。
年の割に大人びた態度は、彼女の中の理知性の表れ。実際、少女たちの頭脳とも言うべき存在であった。

「しっ。おしゃべりはそこまでや。着いたで」

一行の最年長。派手な金髪、気の強そうな顔つき。
グループを結成してから程なく「リーダー」として任命された彼女は、顎でしゃくって目標に注目させた。

緑に覆われた隙間の奥。
鬱蒼とした樹海のど真ん中に、その建物は立っていた。
今回の彼女たちの、最終目標。



能力者。
その名の通り、異能を保有する者たち。
この国が産声を上げた時から彼らは、そして彼女たちは存在していた。
運よく能力を制御できた者たちは、時に権力者を支え、また時には権力者そのものとなり大いに力を振るっていた。
しかし。能力者として生まれたものの殆どは能力を制御できず、疎まれ、蔑まれ、そして恐れられるままに暮らしていた。中
には理不尽な理由で処刑されるという憂き目に遭うものまでいた。

その状況は、ごく最近まで、続いていた。

だが、ついにこの国の政府は気付いた。
能力者を保護・育成することがやがては国の利益となることに。

そこで政府の全面協力の元、スカウトマンたちが全国から有能な少女たちをかき集める。
結果として五人の少女、あるいは女性がピックアップされた。


空間能力者・中澤裕子。
念動力者・石黒彩。
予知能力者・飯田圭織。
言霊師・安倍なつみ。
精神操作の使い手・福田明日香。

彼女たちは、能力者たちの夜明けから朝を担うものとしての「朝夜」、転じて「アサ・ヤン」と呼ばれるグループを形成することとなる。



今回は、「アサ・ヤン」としての初の大舞台だった。
日本の闇社会にて暗躍し、「T-Kレイブ」という合成麻薬によって一時代を築いた男がいた。名前は胡室、もちろん偽名では
あるがその名を知らない闇の住人はいないほどの隆盛を誇っていた。
だが、時代は彼を主流の外へと徐々に追い出してゆく。当時5万を誇った彼の軍勢も、「アサ・ヤン」や胡室に反旗を翻した勢
力によってじわじわ削られ、ついにはこの名もなき樹海にまで追い詰められていた。今となっては数少ない私兵が、彼の身辺を
保護するのみである。

「圭織、何か視えたか?」
「ぜーんぜん、何も降りてこない」

敵陣を前にして、中澤が飯田に尋ねる。
この時点で起こりうる未来を予想できれば、突入の際に非常に有利に働く。
だが、頼りなく圭織は首を振る。
それを見た安倍が、飯田をからかい始めた。

「圭織の電波は当てにならないっしょ」
「はぁ?降りてくれば100発100中だし。大体なっちはいっつも飲んだり食べたりばっかでさ」
「二人とも、喧嘩するならミッションが終わってからにしな!」

石黒の一喝。
怒られた二人は同じように、項垂れる。


「建物の正面に立ってる二人の兵隊。一人はやや強めの念動力者だけど、もう一人は能力を持ってない。裕ちゃんとアヤッペ
が念動力者を制圧している間に、私となっちがもう一人を片づける。圭織は、後からついてきて」

明日香が、淡々とこれからの展開を述べる。
地面にごく弱い精神派を流し、先にいる二人の人間をいわば「スキャン」する。精神操作能力としては上位にあたる技術を駆
使しつつ、作戦を立案する。彼女を見出したいんちき臭い男が、彼女を「天才」と評したのもうなずける話だった。

「ほな、行くで」

リーダーである中澤は小さな声でそれだけ言うと、それっきり黙ってしまった。
沈黙。風が流れ、微かな葉の音が聞こえる。一呼吸、ふた呼吸。

中澤の手が、上がる。
それが突入の合図だった。


建物の前で、敵の襲撃に備えていた二人の兵士。
だが、空間操作を駆使した急襲に身構える暇などあるはずがない。

「なっ、なっなっ!!!!!」

音もなく、自らの目の前に現れた二人の女。
兵士は自らの念動を二人に向け放った。はずだったが、全ての力は中澤が手のひらで開けた空間の中に吸い込まれてゆく。言
わば武器を取り上げられたような格好になった兵士は、わけのわからないまま、石黒の念動によって首をねじ切られた。シャ
ンパンの栓を抜くが如く、男の首は血飛沫を上げながら建物の壁まで飛んで行った。

一方、能力を持たない兵士は代わりに自動小銃を持たされていた。
それも、福田の精神操作の前には何の意味もなさない。

「あ、か、体が勝手に!?」

目の前に飛び込んできた三人の少女に向けられたはずの銃口、なのに何故かその銃の先を自分の口が咥えている。
理解不能。理不尽。自らの意思とは関係なく、引き金を引こうとする男に安倍はつぶやいた。


「…おやすみ」

男は急速に睡魔に襲われ、意識を失う。
銃声が響いたのは、そのすぐあとのことだった。

「なっち、さっきの意味あるの?」
「だってさあ、兵士さんも痛いっしょ?だから、死ぬ前にせめて意識だけはなくしてあげようと思ってさぁ」

笑顔でそんなことを言う安倍に、呆れ半分の視線を送る福田。
二人の後を、あさっての方向を見ながらついていく飯田。別によそ見をしているわけではない。
「交信」が、はじまっているのだ。

飯田の意識に、鮮やかな映像が流れ込む。

二人の兵士を撃破した中澤たちが、その勢いのまま正面突破を図る。
扉の向こうに待ち受ける兵士たちを石黒の遠隔による念動で文字通り捻り潰し、障害がなくなった扉に中澤が空間操作能力で大きな穴を。
その瞬間。映像が白くなる。いや、そうではない。


罠。
扉に何らかの衝撃が加わったら、建物ごと木っ端微塵に吹き飛ぶ大掛かりな仕掛け。中の人間もろとも襲撃者を亡き者にする
確実な、そして最低のトラップ。

「みんな、ストップ!そこの扉自体に罠が仕掛けられてる。開けたら、みんな死んじゃうよ!!」

圭織が、大きく叫んだ。
今にも扉に穴を開けようとしていた中澤は、慌ててその手を止める。

「危なっ!もう少しで仲良く全滅するとこやったわ!」
「間一髪ね」

いつ降りてくるか確実ではないものの、降りれば必ず的中し全員の身を守る。
その働きは「守護者」と言い換えても大げさではないだろう。

「で、肝心の建物の主は」
「…ちょっと待って」

明日香がその場でしゃがみ、地面に手を当てる。

「兵士十数人に護衛されて、ここから北、約200メートル先の場所にいるね」
「ったく。せこい真似して。ま、ええわ。すぐに青ざめさせたるからな」

中澤はそれだけ言うと、両手に力を込める。
手のひらに発生した空間の穴。やがてそれは5人をすっぽりと覆うほどの大きな穴になり、そのまま5人を呑み込んでしまった。





投稿日:2013/11/28(木) 23:55:21.88 0


後編



一方。
木々生い茂る樹海に似合わない、白のブラウス。
サイドに分けた長めの茶髪が、汗と湿気でべったりと額に張り付いている。
麻薬王と自称する胡室は草をかき葉を分けながらも、現在の状況に苛立ちが止まらない。

「ふん…僕ともあろう人間がたった5人の小娘相手に逃走とはね。ねえ、ヘリが用意してある場所まであとどれくらいなんだい?」
「はっ!あと小一時間ほどくらいでしょうか」
「まったく。もっと近くに止めなよ」

かつて栄華を誇った闇世界の貴族が、こんなことを。
胡室は自らの境遇を嘆くとともに、手のひら返しで自らを見捨てた権力者たちに怒りを向ける。

あいつら、散々僕の稼いだお金で贅沢三昧だったくせに。
いざ下り坂になると、あっさりこちらとの関係を切ってきた。ふ、いいさ。いずれ僕が復活した時に思い知らせてあげようじゃないか。

「復活?それはないね」

まるで胡室の心の声を読んだかのような、少女の言葉。
心を読まれたことと、この場所に第三者がいるという危険性から。胡室たちは四方八方を見回しはじめる。


「だ、誰かいるのかい!」

返事はない。
しかし、その代わりに。

「がっ!」
「ぎゃああああっ!!」

周りから、叫び、いや断末魔に近い絶叫が聞こえる。
そしてその獣のような声は徐々に自分に近づいてくる。なぜ、どうして。
それをすぐに、胡室は知ることとなる。

人々を、建物を巻き上げ徹底的に破壊する竜巻のように。
5人の少女たちが、兵士たちを屠りながらこちらに向かってきていた。

ある者は胸に風穴を開けられ。
ある者は首を、手足をねじ切られ体ごと雑巾のようにねじられ。
ある者は手にした銃で自らの心臓を撃ち抜きナイフで頸動脈を掻き切り。
ある者は石像のように固まり眠るように倒れ光に溶けるように消えて行く。

撒き散らされる、血と肉片。
それらが全て胡室の身に降りかかり、あっと言う間に血まみれとなった。

「ひっ!ひぃぃぃ!!!!!」

鼻を突く、不快な生臭いにおい。
視界が血で塞がれパニック状態に陥った胡室は、地面に転がりながら顔の血糊を拭おうとする。
最早当初の貴族然としたいでたちも、血と土埃に塗れ見る影もない。


ようやく、視界が回復する。
気が付くと胡室は、5人の少女に囲まれていた。

「何でこんなことになってるか。わかってるとは思うけど」

中澤がゆっくりと微笑みながら、胡室を見下ろす。
カラコンの入った瞳はまるで爬虫類のそれだ。この状況、特に今にも狩られそうな人間であれば、特にそう感じることだろう。

咄嗟に命の危険を察した胡室は、地に這った態勢のまま中澤の足にすがりつく。

「た、頼む!見逃してくれないか?」
「あかん。これはうちらの任務やからな」
「そ、そうだ!いくらで雇われたんだ?僕ならその2倍、いや3倍は出そう!何だったら…」

惨めに命乞いを始める胡室。しかし言葉はそこで途切れてしまった。
その代わり、何かを必死に表現しようと舌がぺたんぺたんと上下に動いている。
妨げるものがなくなったので、元気よく動いているように見えた。

ちょうど、鼻の下の部分から、上。
それらが、丸ごとなくなっていた。丸見えになった口底部でのたうちまわる舌の様子は、何とも言えず滑稽である。
だが、脳を失った本体はやがてそれに気付くかのように出血する。まるで血の噴水のように。
着ていたブラウスは鮮やかな赤に染められ、そしてどう、という音とともに地に倒れた。


「明日香、いい絵は取れた?」
「恐らく」

石黒に訊かれた福田が、抑揚のない口調で答える。
掌には、ふわふわと浮かぶ機械仕掛けの目玉のようなものが。

「あの胡散臭いおっさんから提供されたんでしょ?へえー、こんなんでうちらの活躍がお偉いさんたちの元に届くんだ」
「ちょっとなっち、あちこちいじらない。壊れたら弁償だからね」
「福ちゃんは細かいべさ」

膨れる安倍から記録装置を遠ざけつつ、福田は思う。
この装置を提供した人物、すわなち自分達5人をこの世界に引き入れた張本人。能力者たちが今の政府に取り入ることができた立
役者の繋がりらしいが、一体何者なのかと。

一方で、手持ち無沙汰にその場をうろうろしていた飯田。
突然何かに弾かれたように痙攣し、跪いた。

「圭織?」

石黒の呼びかけには応えず、まるで探し物でも探すかのように両手をわさわさと地面に這わせる飯田。様子がおかしい。その理由
は、当事者である飯田自身の発言によって明らかにされる。

「目が…見えない。病院…」

呆けた表情で、地べたを這いずりまわる飯田。
まさか、最後の悪あがきで胡室に何かされたのか。
ただの肉の塊となった胡室にメンバーが視線を移したところで、突然飯田が倒れた。
意識が、吸い込まれ薄くなってゆく。



飯田が気づいた時。
彼女は、真っ白な空間にいた。
見渡す限り、白、白、白。他に何もない。

あれ、圭織、どうしちゃったんだろ。

状況に戸惑いながらも、歩いてみる。
白い床、白い天井。それらが見えるという事は、視力は失っていないということなのか。そう認識する飯田の耳に、声が聞こえてくる。

「いや、あんたは失明したんや。能力が制御できずにな」
「えっ?」

振り返り、声の主を探す飯田だが、見えるのは白い景色だけで人影などこにも見当たらない。

「ちょっと!隠れてないで出てきなよ!!」
「別に隠れてるつもりはないんやけど」
「あれ?その声…裕ちゃん?」

声が聞こえてきた時に、誰かの声のようだと思った。
そして今度は自らの脳の情報と完全に声が一致する。しかし。

「半分正解で、半分はずれや」
「どういうこと?意味わかんないんだけど」
「まあええわ。とにかく、さっさと始めるで。あっちのあんたにも言われてるからな」


次の瞬間、飯田の目の前に二本の腕が現れる。
腕。腕だけが、空間からにょっきりと伸びていた。

「な、なに?なにこれ?」
「あーもう、うっさいなあ。今から『新しい力』を与えてやるんやから、おとなしくしとき」
「新しい…ちから?」

戸惑う飯田を前に、二本の腕は作業に取り掛かる。
あっと言う間すぎて、抵抗すらできなかった。
DVDプレイヤーの中のディスクを交換するように、簡単に。
飯田圭織の二つの目玉は、取替えられた。

「これ…」
「これで今からあんたは『デュアルアビリティ』、っと。こっちにはまだそんな言葉なかったか。能力を二つ持った能力者、になったわけ
や。視力も回復したし、お得やろ?」

言ってることの半分も頭に入って来ない。
またしても飯田は、電波交信中のような呆けた表情になる。

「はぁ。電波なのはこっちも一緒か。とにかく。その力、有効に使うんやで」
「あ。ちょっと!」

空間から生えていた二本の腕が、ゆっくりと消えてゆく。
それと同じように、飯田の意識もゆっくりと薄くなっていって…



「圭織!圭織!!」

魂の抜け殻と化してしまった飯田を、安倍が名前を呼びながら何度も揺り起こす。
やがて、うっすらと瞳を開く飯田。

「え…ここは?」
「急に倒れるから、びっくりしたべさ!」

胸を撫で下ろす安倍を尻目に、ゆっくりと体を起こす飯田。
あたりを見回す。360度、緑。やがて、今が任務中であることを思い出す。

「胡室を始末して、それから…そうだ、裕ちゃんに目を貰ったんだった」
「はぁ?寝ぼけてんのか?」

傍から見ればいつもの電波発言。
中澤が心底呆れたような表情で飯田を見ている。

あれは裕ちゃんじゃなかったのかな。でも声は…

「ほら、何ぼーっとしてんの。胡室の残党がこちらに駆けつけてくる可能性もあるんだから、ここから離れるよ」
「…うん」

石黒の言葉で、飯田はそれ以上考えるのをやめる。


「ほな、撤収するで」

中澤が再び、空間に穴を開ける。
石黒が、安倍が、そして飯田が。穴に足を踏み入れ、そして吸い込まれていった。
福田はいったん踏み出した足を止め、振り返る。

「目を、貰った…?」
「明日香、早よしい。この状態キープするのも結構しんどいねんで」
「あ、ごめん」

促され、福田もまた空間の奥へと消えてゆく。
最後に中澤が自ら作った空間のトンネルに入る。
空間に大きく広がった裂け目はしばらく能力によって抗っていたが、やがて何かを諦めたかのようにその口をゆっくり閉じていった。



「アサ・ヤン」が胡室を討ったという情報は、瞬く間に闇社会の隅々にまで伝わっていった。
異能を操る、一騎当千の少女たち。彼女たちの存在はその後しばらく闇の住人たちにとって驚異となる。

中澤たち5人が共同生活を送る、雑居ビル。
戦いの疲れを癒すために眠りについているメンバーを余所に、中澤は一人屋上に上る。

繁華街の中にある雑居ビル。
同じように林立するビルの隙間からは、夜明けが近いことを示すように空が薄赤く色づいているのが見える。
闇夜との境界線を何とはなしに見つめていると、後ろで扉の開く音が聞こえてきた。

「裕ちゃん」
「アヤッペか。おはようさん」
「朝の挨拶には似合わないよ、その手にしてるやつは」

石黒が指さす先には、缶ビール。
そんなのどうでもええやん、とばかりに中澤は金色に輝く缶を口にする。

「お偉いさんの評判は上々みたいだね」
「禿げかけた爺が大人げなく喜んでたで?素晴らしい、これからも資金投資の協力を惜しまないってな」
「なるほどね。その影響で新メンバーが投入されるわけだ」
「新メンバー?」

中澤の表情が変わる。
あまり、面白くない情報のようだ。


「知らないの?今度、また例のおっさんが連れてきた能力者が3人、『アサ・ヤン』に追加されるって」
「…上等やん。しょっぼいのが来たら、しごきまくって辞めさせたる」

台詞とともに飲み干されるビール。
空になった缶をぐしゃりと潰すおまけつきだ。

「ま、その『鬼のしごき』には賛成するけどね。戦力にならなきゃ、意味がない」
「なればええけどな」

言いながら、中澤は持っていた空き缶を投げ捨てる。

「あーっ、裕ちゃんポイ捨てはいけないんだよ!」

またしても、背後から聞こえてくる声。
今日の「アサ・ヤン」はいつになく早起きのようだ。

「何や三人とも。こんな早よう起きたって、ラジオ体操なんてやらへんで」
「裕ちゃん、つまんないよそれ」
「なっちはやったほうがいいかもね。いっつも顔色悪いし」
「はぁ?カオリだってそんなひょろひょろして不健康そのものっしょ!」

年少の3人の登場によって、一気にかしましくなる屋上。

「朝焼けを肴に優雅なひと時が台無しやわ」

太陽が、登り始めていた。
もうすぐ、夜が明ける。


「朝だよ」
「能力者の夜明けから朝を担う、か。まったく重圧的なネーミングだね」
「でもさ。なんだかやってやるぞ、って気にならない?なっちはそういうの、嫌いじゃないなあ」
「カオリたちが、能力者の未来を切り開く」

朝日を前に、それぞれのメンバーが思い思いのことを口にする。
能力者が大手を振って歩ける世界。それは5人の共通の希望であり、未来であった。
そしてそれは、訪れてしかるべきことだとも思っていた。

けれど彼女たちは知らない。
朝が当たり前のように訪れるように、闇夜もまた当たり前のように訪れることを。





投稿日:2013/11/30(土) 14:02:45.01 0




















最終更新:2013年12月02日 10:57