『Perseusーペルセウスー』


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scene#01


「あっ」

ある街に用事で訪れたその帰りしな、春菜はそれを目にして足を止めた。

“新人芸術家合同展示会”

へえ、ちょうど今日からなんだ。
時間もあることだしと、展示会が開かれている街の公共施設に春菜は入館した。

学校の体育館ほどの広さの会場には、絵画だけでなく彫刻やオブジェなど、様々な芸術作品が展示されていた。
それらを熱心に見て回る春菜に、声をかけてきた人がいた。

「どうですか、何か気になられたものはあります?」

見ると、ベレー帽を被った細身の女性。
そうだ、この人は新人芸術家の人だとすぐわかった。

「あっ、はい、あの油彩画が」
「あれもいいですよね、あっちの石膏像はどうでしたか?」
「えっ?もしかしてあの石膏像を作られたのが…」
「そうです、私ですよ」

実を言うと、絵画ばかり見ててそっちはよく見てなかった。
それにしても、こんな細身の体であんな石膏像を彫れる力があるんだ。


「すごいですね、こんなに…」
「痩せてるのに、力があるねって事でしょう?よく言われるんです、こう見えて力は結構強いんですよ」

改めて、石膏像をちゃんと見てみる。
石膏像といえば、裸体や古代・中世の服装をモデルにするイメージがあるが、この人の作品の服装は現代的だ。

「私、去年までは絵画をやっていたんですけどね。失恋して傷心旅行で行ったヨーロッパで、彫刻を見て感銘を受けたんです」
「え?去年ってことは、1年くらいでこんなに何体も作ったんですか!?」
「そうです、私、作り始めたら速いので。一番向こうにあるのが一番最近出来た作品ですよ」
「へぇ~、彫刻ってマッチョな男性やふくよかな女性をモデルにするイメージですけど、これは結構華奢な…」

2人の女性が並ぶ石膏像。
その像の正面に回ったところで、春菜は声を失った。
ひきつる表情。変わる顔色。

「あ、す、す、すみません、私、そろそろ、時間なのでっ」

慌てて展示会場を立ち去る春菜。
その姿を、ベレー帽の女は不敵な笑みで見送っていた。





投稿日:2013/11/28(木) 00:00:34.43 0


scene#02


カランコロ-ン


「あ、おかえり飯窪」
「只今戻りました…」
「ん?どうかしたの?」
「あ…気のせいかもと言いますか、単なる偶然かもしれないんですけど」
「うん、何?」
「さっきですね・・・」



「・・・え!?やだ、なんか気味悪い」
「そうなんです。それにあの2人、ここ3日くらい連絡取れないですし」
「…ねぇ、そこ今から案内してもらえる?」
「えっ!?…はい、それはもちろん出来ますけど、ただ、私がその人とまた会っちゃったりしたら…」
「うん、それは大丈夫。中の場所教えてくれれば1人で入るし、何なら変装してけば?」


カランコロ-ン


「「「こんにちはー」」」

「あ~!ちょうどよかった、ねぇ突然で悪いんだけど、ちょっと店番しててくれる?」

里保・香音・さくらに店番を頼み、さゆみは春菜と出掛けて行った。

「何の用事なんだろうね」
「なんか、確めるとかって言ってたけど」
「あれ?」
「小田ちゃんどうかした?」
「これです、ほら」

さくらは、手に取ったそれを2人に見せた。

「うわッ!!ヘビ!!」
「…え?それ何、おもちゃ?」
「おもちゃだと思うんですけど…ただ、なんかスゴくリアルなんです」
「忘れ物かな?」
「忘れ物にしても、こんなの持ち歩く人いるの?w」

何気ない、他愛もないひととき――― の、はずだった。





投稿日:2013/11/30(土) 19:00:45.03 0


scene#03


さゆみ達が店を出てから数十分後――


カランコロ-ン

「あっ、すいませーん、今日お昼で終わりなんです~」

入店してきたのはベレー帽を被った細身の女性。
女が入店してきた瞬間、先ほどのヘビのおもちゃがスッと動き、女の背後へ回ったのを里保は見逃さなかった。

「あら、そうなんですか。じゃあ、ちょっと一つ聞きたい事があるんです」
「? なんでしょうか?」
「こちらに、長い黒髪で、痩せ型で、目が大きい女の子いらっしゃる?」
「飯窪さんのことですかね…」
「はるなんがどうかしましたか?さっき出掛けていっちゃったんですけど」

香音とさくらが女の応対をする横で、里保は一言も発さず女を見据えていた。


「そう、残念ね」

女はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
その瞬間、女の目が妖しく輝いた。

「目を見ないでっっッ!!」

里保が叫びながら目を覆った。
しかし、一歩遅かった。

「……!!!」

目を開けた里保が見たものは。
香音とさくらの身体が、時間が止まったかのように硬直していた。
そして、女の髪が逆立ち、蠢いていた。

厄介な力の持ち主だ。まごついていれば自分も同じ目に遭う。
そう直感した里保は、飲んでいたコップから床に溢した水で作り出しておいた“刀”で
たちまち、斬りかかった――


――手応えはあった。
後ろを振り向く。

首から上を失った女の身体が横たわっている。
たが何故だ、気配は変わらず感じる。

里保が前を向き直ると、そこに――



――女の生首が浮かんでいた。
そしてその目が、妖しく輝いた。





投稿日:2013/12/02(月) 20:55:23.80 0


scene#04


(どうですか道重さん?)

「飯窪が言ってるような人は見たところいないみたい、入っといで」

その頃出掛けていた2人は、先ほど春菜が訪れた展示会場に到着していた。
念の為、春菜は帽子・マスク・だて眼鏡で完全防備。
数時間前に春菜が驚いた、その石膏像の傍らに佇むさゆみに、春菜が歩み寄っていく。

「…これ?」
「そうです。そっくりですよね」
「そっくり、っていうか、そういうレベルじゃないし。もう、そのものだし」

2人が視線を向ける、2人の女性が並ぶ石膏像。
詳しい造形を説明すると、一方の女性がもう一方の女性の背後に隠れつつ、何かに怯えるように半身を出して視線を前方に送っている。
そして更に詳しく言うならば、それが――


――優樹と遥にまるでそっくりなのだ。


「…ちょっとなんか、ありえないっていうか」
「私もいまだに、よくわからないです」
「ただ少なくともはっきりしてるのは、」
「はい」
「その人と2人が、何らかの接点があったということ」
「ですよね」
「それと可能性が高いのが、」
「はい」
「その人が2人の消息について何らかの事を知ってるってこと」

しかし何か手掛かりがあるわけでもなく、それ以上の事は見当がつかない。
場内には蛍の光とともに閉館アナウンスが流れはじめる。
さゆみと春菜はリゾナントに戻って仲間たちを召集し、態勢を立て直すことにした。

ヴーッ ヴーッ

その時、さゆみの携帯に着信が入った。

「あ、フクちゃん?ちょうどよかった、今呼ぼうと思って… え!? ええッ!!?」






投稿日:2013/12/05(木) 20:42:04.73 0


scene#05


急いでリゾナントに戻ってきたさゆみと春菜。
ドアを開けて、そこで見たものは。

「何これ…」

店番を頼んだはずの3人の姿がなく、代わりに3人にそっくりな石膏像が…。
いや、3人が変えられた石膏像と言うべきか。
香音とさくらは立ち尽くした姿で、里保は片膝をついて構えた姿のままで。

「私が来た時は、まだそのままの姿だったんです、だんだんこう白くなっていったんです」

聖が顔を出し、説明する。
連絡を受けた衣梨奈と亜佑美も、既に到着していた。

「きっと…あの人が来たんですね」
「あの人って?」


春菜は3人に、展示会で出逢った女性の話をする。
そして、優樹と遥にそっくりな石膏像の事も。

「これで、あの2人も同じように変えられた、と考えていいね」
「あの人がやったんだとすれば、まるでメデューサみたいですね」
「メデューサって、髪がヘビの?」
「そうです、ただ、メデューサは石膏じゃなくて石ですけど…」
「とりあえず、向こうの2人をそのままにしておくわけにはいかないですよね」
「そうよ、壊されたり、何かされるかもわからんけん」
「それに、ここの場所を知られたのなら、きっとまたやって来ますね…」
「じゃあ支度して、2人を取り戻しに行くよ!」

店に鍵をかけ、5人は展示会の会場へ向かった。





投稿日:2013/12/14(土) 00:01:45.00 0


scene#06


バタン ガチャ

会場の公共施設へ到着した5人。
職員が施錠し、退出したのを見届けて侵入を試みる。

「じゃあフクちゃん、お願い」
「はい」

聖は、香音から複写した能力で施錠された扉を透過する。
そして鍵を開き、さゆみ達も中へ入る。

「こっちだったっけ?」
「そうです、それで、突き当たりを右です」

施設内は非常口の案内灯が各所にあり、本来の照明が消灯されている中でも以外と明るい。
しかし、それでもやはり暗い。
「やだな~…なんか肝だめしみたい」
「そんなこと言われたらもっと怖くなるじゃん…」

自然と歩調が落ちて行く。
そしていつしか、電車ごっこのように連なる5人。
その状態のまま、コーナー部を曲がろうとした時だった。

「!!!!!?」

突然、眩しい光がこちらを照らした。


「だっ、誰だ!?」

その光の主は、懐中電灯を持った警備員。

「あぁ~、なんだ警備の人か、オバケじゃなくてよかった~」
「いや!よくないから!」
「何だ君達は!?どこから入った!?」

5人は一目散に駆け出す。

「こらッ!待ちなさい!」

追いかけようとする警備員。
しかし、年の頃は初老ほどの警備員はあっという間に引き離され、5人を見失う。

「まったく!肝だめしか?イタズラか?どこ行ったんだ…」

あちこちを懐中電灯で照らしながら、逃げた少女達を探す警備員。
その時、物音がした。

「そこか!?そこにいるのか!?」

物音がした方を照らす。


ゴトン


光ったままの懐中電灯が、床に落ちる。
沈黙。

その沈黙の中、懐中電灯を拾い上げる人物。
そしてその人物は、静かに歩みだした。





投稿日:2013/12/19(木) 22:03:09.66 0


scene#07


「これが…」
「はい、そうなんです」

5人は展示会場にたどり着き、“例”の石膏像を前にしていた。
初見である聖たちは話こそ聞いてはいたものの、実際に目にすると言葉を失った。

「あまりゆっくりしてられないよ、じゃあフクちゃん、またお願いね、佐藤はこの通りだし」

聖が優樹から複写した能力で、2人の像と共に全員でリゾナントへ戻る目論みだった。
ただし、共に移動する人数や物質の量が多いほど、精神をより集中させる必要がある。
皆口をつむぎ、精神集中に協力していたその時。

カツッ カツッ

近づく足音。
出入口付近にちらつく懐中電灯の明かり。

「ヤバっ、警備の人だ…」

聖は焦る。早くしなきゃ。
だが、焦るほど、うまくいかない。
なんとか、立ち去るまで息を潜めてやり過ごそうと一同は思っていた。
しかし次の瞬間、その思いは覆される。


「お嬢さん達、隠れても無駄よ」

あの女だ。
空気が一気に緊迫する。

「私の作品をどうするつもり?」
「決まってるでしょ!返してもらいます!」
「あなた達の手に渡ったところで元に戻りはしないわよ。私を、倒さない限りは…ね」
「やっぱりあなたがやったんですね!?」
「どうしてこの2人や里保ちゃん達をこんなにしたの!?何故私達を狙うの!?」
「…どうして、ね。まあ、仕事だから、かしら」
「仕事…でしょうね。私も直接あなたに狙われる理由は、それ以外思い当たりません」

さゆみの言葉に、女は微かに鼻で笑う。

「では質問を変えます。どうしてうちの店が分かったんですか?その仕事を頼んだ人から教わったんですか?」
「いいえ、あなた達の写真を渡されただけよ」
「ならどうして…」

やおら、女は自分の頭に手を伸ばした。身構えるさゆみ達。
しかし、その掌を開いて見せたのは、抜いた数本の自分の髪の毛。
その毛が、次第に変化し、1匹のヘビに姿を変えた。


「この子をね、あなたのカバンに忍ばせたのよ」

春菜を差して言う女。

「私の…」
「そう、あなたが教えてくれたの」
「私が…私のせいで、皆さんが…」
「はるなん違う!!」
「責めるのは自分じゃない!あいつだよ!」

動揺を誘い、心を乱そうとする。
ニヤリと笑う女。

ゾワッ

女の雰囲気が変わった。
それに真っ先に反応したのは、亜佑美。
高速移動で、至近の扉が開いていた一室に女を押し込める。
それに衣梨奈が続き、その腕っぷしで扉を押さえつける。

「聖!今よ!先に3人で行っとって!」
「私達は大丈夫ですから!早く!はるなんしっかりね!」

2人の力強い言葉に押され、聖はさゆみ・春菜、そして優樹と遥の像を連れて、その場から消えた。





投稿日:2013/12/22(日) 20:46:06.48 0


scene#08


仲間たちが先に移動してからも、女を一室に閉じ込め続けようと踏ん張る2人。
衣梨奈が扉を押さえつけながら、亜佑美が手近な物を素早く集めてきては、扉の前にバリケードを構築してゆく。
そのうちに、扉の向こうからは開けようと抵抗する物音がしなくなっていた。

「ふぅ~」
「あいつどうしたとやろ?あきらめたっちゃろか?」

バリケードを背に、もたれ掛かりながら一息つく2人。
その時、頭上から何かかすかな物音が聞こえた。

スーッ

まるで人間の吐息のような。
思わず2人は、上を見上げた。


その頃――


「2人を連れてすぐ戻ってきてね!今は戦っちゃダメだからね!」
「はい!」

聖に指示するさゆみ。
衣梨奈と亜佑美を案じながらも、何度もの瞬間移動で体力を消耗することになる聖。
とにかく今は、時間をおかなければならない。
休息に。態勢の立て直しに。

「行ってきます」

その言葉と共に聖は姿を消す。
そして、言われた通りにすぐ戻ってきた。2人を連れて。

「あぁ~、よかった」

胸を撫で下ろすさゆみと春菜。
しかし、すぐに異変に気付いた。

「…フクちゃん?」
「生田さん!?あゆみん!?」

問い掛けに、3人は無言だった。
その体は、硬直していた。





投稿日:2013/12/26(木) 18:02:32.34 0


scene#09


「そんな…そんな…」

硬直し、徐々に石膏化してゆく聖たち3人の身体。
それをただ見ているだけしかできず、悲嘆の声を洩らす春菜。

「しっかりしなさい!」

さゆみが春菜の両腕を掴み、体を揺さぶりながら一喝する。


「もうみんなを助けられるのは私達だけなの!じきにあいつもここに来る!オロオロしてる暇はないの!」
「…はい」

ズッ

鼻をすすり、いつの間にか流れていた涙を拭き、春菜はさゆみの言葉に頷く。
そしてさゆみは、うってかわって優しい口調で言葉を続ける。

「それにね、思わない?3人がこんな形ででも帰ってこれたのは、あいつとフクちゃん、お互いの力の発動が偶然同時だったからだよ、きっと。
 やられっぱなしだったのが、流れはさゆみ達の方に向いてきてるって思わなきゃ!」
「…はい!」
「それでさ、さっきメデューサみたいって言ってたでしょ、メデューサの弱点みたいなのとかわかる?」
「弱点…といいますか、メデューサは鏡の盾を持ったペルセウスに倒されたんです」
「鏡…。そっか、鏡の中の自分と目を合わさせて、逆に固めちゃうんだ」

手鏡やコンパクト、姿見、はては洗面所や浴室の鏡にいたるまで、店じゅうのありとあらゆる鏡が集められた。
神話と同じ手がきくのか、はっきり言って自信はない。
しかし、隙を見せないあの女に対しての突破口となる僅かな根拠が、残された2人の希望だった。


「さあ、来るなら来いッ!」
「そう!その調子!」

自分たちを鼓舞する2人。
物言わぬ仲間たちに見守られながら、その時を待つ。


――来る…!――


脈打つ鼓動。唾を飲む音。
静寂の中を近付いてくる足音。
緊張が走る。


カランコローン


「…いらっしゃいませ」

さゆみは、あえてそう言った。
ここは私達が守る場所なのだ、という思いを込めて。
女は店内を見回し、口を開いた。

「…なるほどね」
「何がですか」
「私の能力を逆手にとろう、っていうことね」


…見抜かれた。
2人は動揺するが、おくびにも出すまいとする。

「確かに、貴方達の考えている事が成功すれば、私を倒せるでしょうね」
「…絶対成功しないっていうんですか」
「そう。鏡に私を写す前に、私が壊してしまうから」
「これだけあって、一つも見ずに壊すなんて出来ないんじゃないですか」
「これを全部壊すのは大変そうね、でも出来るのよ。せいぜい抵抗してみなさい」

女は余裕の言葉を返す。
その瞬間、女が動きを見せた。しかし2人は目を疑った。
首のない体が動き、鏡を割り出したのだ。
さっきまで女が立っていた場所を見ると、そこに女の生首だけが浮かんでいる。

「な…なんで?」
「教えてあげる。私は元々、ろくろ首だったの」
「ろくろ首!?ろくろ首って、首が伸びるやつじゃ…」
「有名なのはそっちの方ね。でも、こうやって首自体が離れるろくろ首もあるのよ」
「じゃあ、なんでろくろ首が人間を固めてしまうの!?」
「…いつの間にかろくろ首になっていた私は、夜な夜な首が離れてはふわふわ浮かんで、せっかく付き合えた人にも気味悪がられて逃げられた。自分の身体に絶望して、死のうと思った。
 どうせ死ぬなら、自分の好きな場所で死のうと思った。それで憧れだったヨーロッパに行って、一度見たかった色んなものを見て回って、最期に人気のない洞窟の中で、手首を切って死のうとした。
 いや、一度私は死んだ。だけどそこは、メデューサが封印され、眠っている洞窟だった。私の血で、メデューサの力と私の身体は甦った。メデューサの影響で、首と胴体が離れてもそれぞれ自在に動かせるようにもなった」
「ろくろ首とメデューサ…日本と西洋の妖怪のハイブリッドですね…」
「フフッw、ありがとう」
「こんな時に褒めてる場合じゃないでしょ!!」
「す、すみません。…でも、メデューサは石に変えてしまうはず…。なんで石膏に…」
「さあね。多分、洞窟に行く前最後に見たのが石膏像だったからかしら。まあ私は別に、石でも石膏でもどっちでもいいわ。そんな私の身体を、力を、必要としてくれる人がいた。
 私が絶望した私の身体を、力を、必要としてくれる人がいた。一度は死んだこの身体、悪い事だろうがなんだろうが、必要とする人がいるならその世界で私は生きていくわ」
「そんなの、絶望なんて、私だって…」
「貴方達には分からない!!…こんな、他に活かしようのない力…。それを活かせる世界で、私は生きてゆく」


一頻り喋り、女の体は再び鏡を割り始めた。
さゆみと春菜は阻止しようとするも、仲間の中でも非力な2人はすぐに振りほどかれてしまう。
あえなく、用意した鏡は全て壊されてしまった。
そして――


ゾワッ


女の髪が逆立ち、蠢きだす。
メデューサとしての能力が発動する。
それを感じ取った春菜はさゆみと目配せをし、自身とさゆみの五感を強化させる。
これで、視覚以外の感覚で相手の動きを察知する。
2人はそれぞれ、鏡を1枚忍ばせていた。ぎりぎりまで引き付けて、それを取り出し逆襲するつもりだ。


――今だ!――


さゆみが、鏡を取り出そうと一瞬手元に集中したその瞬間。

ガシッ

女の体に、羽交い締めにされてしまう。
手から落下する鏡。女の足で、割られてしまう。
春菜はさゆみを助けようとするも、女の首に邪魔される。
そこで、傍にあった鉢植えを咄嗟に投げつけた。
怯んだ隙に、さゆみから女を引き離そうとするが。


ガッ

足蹴にされ、よろける春菜。
転びそうになるが、そこには仲間の石膏像が――

壊してしまう!

体をひねった為、割れた鏡が散乱する場所にバランスを崩して倒れ込んでしまった。

「ぐっ…!」

背中に鋭い物が突き刺さる感覚。
周囲の床が赤く染まってゆく。

「飯窪!!」
「あらあら、おドジさんね」

さらに、怪我の衝撃で五感強化は解かれてしまった。

「手負いを先に潰してもつまらないわね」
「…!?」

羽交い締めにされながらも抵抗しようとするさゆみ。
意地でも目を開くまいとしている。

「面倒くさい子ねぇ、じゃああっちの子から先にやっちゃお」
「!!!! 飯窪!!」

思わず、春菜の方を向き目を開いてしまう。
その目線の先にあったのは、女の首。





投稿日:2013/12/28(土) 00:12:41.17 0


scene#10


――!!!――


「あぁっ…」

女の目を見てしまったさゆみ。
その身体が硬直する。

「道重さんっ…!」

春菜が悲痛な声を上げる。
しかし、ただやられてしまうだけのさゆみではなかった。

聖たちが硬直しながらも移動してこれたことから、目が合ってから硬直が始まるまで、僅かなインターバルがあることを見抜いていた。
それでもし、春菜を残して自分が先にやられてしまう場合を考え、仲間たちの像やイス・テーブルなどの備品を計算して配置していた。
女と目が合ってしまった瞬間、自分の両脇に配置していた香音とさくらをそれぞれの腕で抱き寄せる。
そして、自分を羽交い締めにしている女の胴体に向かって力一杯体重をかける。
その背後には柔らかいソファーを配置していたことで、自身や抱き寄せた2人を傷つけることなく、女の胴体を3人の下敷きにし、身動きをとれなくさせた。
硬直してしまうまでの一瞬の間に、この一連の動きをしてのけたさゆみ。
その最後には、春菜に向かって微笑んだ。
そして、微笑んだまま硬直した。


「道重さん…」

その微笑みに込められた思いとは。
決して開き直ったわけではない。そこに絶望はない。
必ず、なんとかなるという自信と信頼。

でも、この状態から一体どうすれば…。

女の攻撃の手の多くを削いだとはいえ、たった1人になってしまった上に傷を負った春菜が不利な状況にはかわりない。
背中からの出血は続き、上体を起こすのがやっとで、動き回ることもできない。
今、自分に出来るのは相手の目を見ないようにするだけ。
その様子をしばらく静観していた女の首が、口を開く。

「そんな体でどうするつもり?そのままじゃ出血多量で死んじゃうわよ。私の言う通りにすれば、死なないうちに固めてあげるのに」
「そんな気は…全く…ありません…」

言葉だけは強気を貫くが、その声も弱々しくなってきた。

どうしよう
どうしよう
どうしよう…

止血できる術もなく、次第に意識が遠のいてゆく。


ビチャチャ

ついに再び倒れ込んでしまう春菜。
血だまりが波打つ。

「フッフフ」

女が小さく笑う。
その声から、仰向けになった自分の顔の真上、真正面に女の首がやってきたのが分かった。
きっと自分が目を開けば、そのまま女と目が合い硬直するのだろう。
でも、それだけは、絶対に――

『………な…』
『……く…ぼ』

仲間たちの声が聞こえてきた気がした。
そんなはずはない、仲間たちはみんなすぐそばで沈黙しているのだ。
そうか、これが走馬灯だ…。

今までの日々の色々な場面がフラッシュバックしてゆく。
一人一人との出逢い。
苦しかった戦い。
穏やかな日常。
一場面一場面が、思い出されてゆく。


“ガチャーン!!”
『あー!』
『あーあ、落としちゃった』
『お前だろ!?』
『ねーどぅーどぅー、コーヒーが鏡みたいになってるー』
『聞けよ!ハルの話を!あーもう、どうすんのさカップ割っちゃって』
『大丈夫大丈夫、いっぱいあるから1個くらいわかんないよ』
『ダメだって!』
『今ちょうどじみしげさんいないから、ナイショ!絶対ナイショ!』
『何がナイショなのかな~?』
『ピャーーー!!』


鏡みたいに…
鏡みたい…
鏡…

チャプン

僅かな身動きで波打つ血だまり。
春菜は、かすかに笑った。


「笑ってる…。死を覚悟したか」

そんなもの、とっくに覚悟してるわとでも言いたげに、春菜はもう一度笑った。

「ええい、癪に障るわね!」

強情な春菜にしびれをきらした女の首は、その首筋を咬みきってやろうと、一気に迫ってきた。

まだ…

まだ…!


今だ!!


春菜の目の前に迫る生首。
春菜は残った力を振り絞り、素早く身をかわした。


――!!!!!!!!!?――


鏡のように女の首を映し出す春菜の血だまり。
その目と女自身の目が合った。

ビチャッ

沈黙。
驚愕の表情のまま、血だまりに転がる硬直した生首。
薄れゆく意識の中春菜は、それが石膏化してゆくさまを見届ける。
そして――


ガシャン!!!


「道重さん… みんな… 私… やりま…し…た…」

春菜は、意識を失った。


「………な…」
「……く…ぼ」

仲間たちの声が聞こえてきた気がした。

私…?死んで…?

目を開く。
その瞳に映し出された、自分を見下ろす9人の姿。

よかった…
よかった…

無事を確認しあい、泣きじゃくる。

「もう!今度は泣きすぎて脱水症状で死んじゃうよ!?」

さゆみの言葉に、笑いが沸き起こった。





投稿日:2013/12/30(月) 21:30:31.30 0