負けた。
叩きのめされた。
さゆみ達が誘い出された場には、全国各都市に拠点を持つ組織の、その各部隊が待ち構えていた。
いくら個々の力では勝っていようとも、多勢に無勢。
深い傷を追い、命からがら逃げるのがやっとだった。
相手部隊も深追いすることなく、撤退するさゆみ達を見送る余裕を見せた。
総力戦にも関わらず、ここまで明白な敗北を喫したのは、初めてだった。
日暮れ、10人は無事にリゾナントで合流した。だが、各人とも傷は深い。
より重傷な者から順に、さゆみによる治癒が行われてゆく。
しかし、さゆみ自身も負傷し体力を低下させている為、全員の治癒を終えた時には疲労困憊だった。
「このくらいなら私は大丈夫です、道重さんは早く休んで下さい」
そう申し出る者もいた。
だが、さゆみの責任感がそれを許さなかった。
なんとか全員の治癒が終わり、ひと安心した一同は、椅子やソファー、はたまた床に横になった。
「私達、守れるのかなぁ…。世界なんて、おっきなものを」
誰ともなしに呟いた。
「うん、こうして初めて分かった。敵の強さ。世界の重さ」
「でも、戦いは続いてるんだよ。一度背負ったものを、下ろすなんて…できないよ…」
しばらく沈黙が続いた。
そして、さゆみが口を開いた。
ただし、こう前置きをして。
「今からおっきな独り言言うから。聞いてても、聞かなくてもいいから」
今日負けてよかったと思う。
すごく悔しいけど、よかったと思う。
みんな戦いが好きで戦ってるわけじゃないよね。
みんな優しい子なのは、私がよく知ってる。
優しいから、戦うことは苦しいと思う。
でも、苦しさを知って、よりまた優しくなれると思う。
優しさが、守りたいという気持ちを強くさせると思う。
それと、私達は再び立ち上がるための強さも知れた。
負けを知って、ままならないことがあることを知って…若いうちに知れてよかった。
勝ってばかりの人達よりも、私達は色んなことを知ってる。
知るってことは、世界が広がるって事。
それでまた、守りたいという気持ちを強くさせると思う。
若い時のこの大切な時間に、守りたいと思ってくれたこと。
戦わなきゃと思ってくれたこと。
ついてきてくれて、ありがとう。
…でも、この次生まれて来た時にはみんな、誰も傷つけない、花みたいになれたらいいね。
「…よし、ピザでもとろっか!」
久しぶりに、店内に明るい声が響いた。
投稿日:2013/11/27(水) 00:40:07.00 0
最終更新:2013年11月27日 11:08