『リゾナント殺人請負事務所録』 Interlude.1~殺し屋たちの信念~


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どうして俺が殺されないといけないんだ…ですか?
それはすみません存じ上げないんですけど、どうして私があなたを殺すのかという質問にならお答えします。
お仕事だからです。
ふざけてなんていませんよ、私は真面目さだけが取り柄なんですから。
この業界一の真面目人間ってもっぱらの評判なんですよ。
…今のはちょっと盛りましたけど。
でもこのお仕事に、真面目に真剣に取り組んでるのは本当ですよ。
うちのエースの鞘師さんと比べても、上からの信頼の厚さでは負けてないんですから。
…って思ってるんですけどね自分では。
そのようなわけですので、申し訳ないんですけどあなたには死んでいただきます。
あ、ごめんなさい、命乞いはお聞きするわけにはいかなくて……
本当にごめんなさい。
お金の問題ではないんです、言ってみればそうですね…そう、信念の問題なんです。
信念ってお金じゃ買えないじゃないですか。
私いいこと言いましたよね、今。
いえ、ですからふざけてなんていませんってば。
お金も確かに大事だと思いますよ。
信念とかえらそうなこと言いましたけど、私が今こうしてお仕事をしているのも、突き詰めればお金のためなわけですし。
私の大好きな漫画だってお金がないと買えませんし。
だから「信念>お金」って思ってるわけじゃないんですよ、決して。
でも、やっぱり譲れない部分っていうのはあるじゃないですか誰にでも。
え?こんなことが許されると思っているのか?
それって人殺しなんてしてもいいのかって意味ですか?
う~ん……実は私もそのことについてずっと考え続けてるんですけど、すごく難しい問題ですよね。
真面目に言ってるんですってば。
じゃあ、例えばあなたは人殺しはいけないことだと思いますか?
では、何故いけないのでしょう?
なるほど、駄目なものは駄目だというのは、確かに一面の真実だと思います、思いますけど…でもそれじゃ議論が成立しませんよね。
議論の余地がないようでしたらもういいですね……あ、他に何かあります?
自分に置き換えろ?自分が殺されたくないなら殺しちゃいけないよってことですね。
それもよく分かります、分かりますけど、じゃあ私がこう答えたらどうしますか?
私はいつどこでどんな理由でどんな風に誰に殺されたとしてもまったく構わない。


そういう人もいますよね?私がもしそうなら、今のあなたの言ったことはあなたを殺してはいけない理由にはなりませんよね?
屁理屈?そうでしょうか?自分に置き換えろなんていう方が勝手な理屈だと思いますけど。
誰もが自分と同じだとは思わない方がいいですよ…なんて、こんな小娘がえらそうにすみません。
ああ、遺された人が悲しむ……なるほど、それもありますよね。
ただ…あなたのような方にそういうことを言われても、説得力に欠けますね。
俺は人殺しなんてしてない?すみませんすみません、それはそうですね。
私の言い方が悪かったです、それは謝ります。ごめんなさい。
ただ、あなたもご自分のお仕事の中で多くの方を泣かせてきたことは、ご自身でよくお分かりですよね?
そうです、それは別にあなたが悪いわけじゃない。
あなたのお仕事に、どうしてもついて回るというだけですよね。
でも、それはこちらも同じなんです。
あ、そうですよね、一緒にするなというお言葉はごもっともです。
いくらなんでも一緒にしちゃいけない。うん、いけませんよね。
でもですね、あなたがあなたのお仕事に矜持を持っていらっしゃったように、わたしにもあるんです。
さっきも言いましたけど、信念が。
たとえ他の誰かを悲しませることになったとしても、やり遂げないといけないという信念を持って、私はいつでも臨んでます。
だから言ってみれば、誰かが悲しむことは承知の上でやっているので……それはあまりに今さらですね。
私にとって、お仕事を放棄する理由にはなりません。
法律ですか。
でも刑法上には「殺してはいけない」とは書いていなくて、「殺したら罰を与える」って書いてあるだけですよ。
ふふ、そうですね、今のは完全に屁理屈です。
私だって分かっていますよ、それは「殺してはいけない」と言っているのと同じ意味だってくらい。
でも、バレなきゃいいんじゃないですか?…ってそれも屁理屈ですもちろん。
ただ、そう思って行動している人を止めることはできませんよね?
殺しても捕まらなきゃどうってことないじゃん…ってもし私が思っていたら、法律なんてないも同じじゃないですか?
もしくは、捕まって死刑になっても構わないとか。
すみません、最初にも言いましたけど、命乞いは聞くわけにいかないんです。
私は、あなたを殺さないといけない。
それがお仕事だからです。
…疑問?まったくないと言えば嘘になりますね。
だから……私はいつもこういう風に議論をしてみるんです。
「どうして人を殺すのはいけないことなの?」という命題について。


    ◆    ◆    ◆ 

「でも、『これは!』という答えに出遭えたことはありません。まだ一度も」
「あ、当たり前だ!そんなものに、こ、答えなんてない!」
「かも……しれませんね」

裏返った男の言葉にほんの小さな頷きを返すと、春菜はその首の動きと同じくらいさりげなくナイフを振った。
「標的」の喉が切り裂かれ、赤いものが噴き出す。
目を見開き、金魚のようにただ口をパクパクとさせていた男は、やがてその動きを止めた。

男の目から生命の色が消えたのを確認し、春菜はナイフを仕舞う。
そしてふっと小さく息を吐き出した。

ああいう言い方をしたが、春菜には分かっている。
人を殺すのは「いけないこと」であると。
自分は「いけないこと」を生業にしていると。

この「業界」には、色んなタイプの人間がいる。

「人を殺して何がいけないんだ?」と本心から思っている者。
「人を殺すのが楽しい」と逆に思っている者。
「人を殺すのはいけないことだな、うん。だからやるんだよ」となどと嘯く者。
「人を殺していいか悪いかなんてどっちでもいい」というスタンスの者―――

何にしろ、人を殺してはいけない理由を深く考えることをする者は、この「業界」には少ないだろう。
いちいちそんなことを考えていては仕事にならない。
サッカー選手が「どうして手を使っちゃいけないの?」なんていちいち考えながらではプレイはできないに違いない。

だが、春菜は考え続けると決めている。
それは、「いけないこと」と知りながらこの世界に身を置く自分の、最低限すべきことなのではないかと思うから。
たとえ遥や優樹あたりにバカにされたとしても。





投稿日:2013/11/26(火) 19:51:07.66 0