『リゾナンターЯ(イア)・番外編「聖の休日」』


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都内某所のデパート屋上。
いつもなら子供たちの嬌声で賑わう場所が、しんと静まり返っている。

「てめえら、大人しくしやがれ!てめえらには今から人質になってもらうからな!!」

黒ずくめの、無精ひげを生やした人相の悪い男が刃物をちらつかせながら、観客である子供たちを威嚇する。
ついさっきまで、ゆかいなショーを楽しんでいたのに。
事の異常さに気付いた数人の子供たちの、すすり泣く声。

どうしてこんなことに……

現場に居合わせたリゾナンターのサブリーダー・譜久村聖は怒りを覚えるとともに、自らの力のなさを悔やんでいた。
リゾナンターは、決して一般人に能力をみせてはならない。
これだけの大勢の子供がいては、能力を使うことすら許されなかった。
しかし、苦悩する聖の視界に、あるものが映る。普段頭の回転がそれほど速くない彼女ではあるが、楽しい時間を壊された怒りと愛しい子供
たちを守りたいという思いが聖にあることを決心させたのだった。

事のはじまりは、今から数分前にさかのぼる。


★ ☆ ★

聖にとって、久々の休日。
学校はもちろんのこと、リゾナンターとしての仕事もない。完全なるオフだ。
衣梨奈はカラオケ、優樹と遥は目当てのガチャガチャ探し、香音はドリフのDVD三昧、そして里保はひたすら寝る。それぞれのメンバーが
思い思いの休日を過ごす中、聖はデパートの屋上という一見女子高生らしくない場所で過ごすことを選んだ。その理由とは。

「やあみんな。今日は遊びにきてくれて、どうもありがとう!」

特設ステージの檀上で、元気にあいさつをする人物。
赤い服に、黄色い手袋と靴。背中には茶色いマントを羽織った、丸い、おいしそうな顔。

「あんぱんまーん!!!!!」

子供たちに交じって、普段からは想像もつかない大きな声を出す聖。
そう。聖は、いわゆるアンパンマンショーというやつを見に来ていたのだ。

聖は、アンパンマンが好きだった。小指が立っちゃうツインテールの某アイドルの次に、好きだった。
今日が完全なオフだということを知って、聖はこのデパートの屋上でアンパンマンショーを開催することを調べ上げたのだ。
しかしながら、たくさんの小さな子供たちに交じって一生懸命アンパンマンに声援を送っている姿は、ちょっと、いやかなりの違和感がある。
無理やりな見方をすれば、子供の付添いで来た団地妻…ではなくお姉さんという見解もあるかもしれない。それにしても両脇の子供たちと同
じくらい、もしくはそれ以上のはしゃぎようは「もしもしおまわりさんこの人です」と通報されてもおかしくないレベルだった。

「ねーねーおねーちゃーん、おねーちゃんもあんぱんまんが、すきなのー?」

隣の小さな女の子が、聖に話しかけてくる。
その瞬間、聖の目つきが変わった。


「うんそうだよ!聖もアンパンマン、大好きなんだよ!!」

と言いながら、女児の小さな手を取り、撫でくり回す。

うわぁ…やっぱちっちゃい子の手はやわらかいなあ。すりすりしたいなぁ。それにまんまるのほっぺ。うぅん、ほおずりしたいよう。でもそん
なことしたら道重さんになっちゃう。我慢、我慢。そうだ、帰ったら里保ちゃんのほっぺをぷにぷにしよう。それともどぅのほっぺに頬ずりし
ようかな。二人とも大人になっちゃったけど、それはそれで…

と、ここで本来の目的を思い出し、首を振る。
今日はずっと楽しみにしていたアンパンマンショーを見に来たのだ。集中してアンパンマンの雄姿を目に焼き付けないと。
女児の手を離し舞台に目をやると、既に寸劇ははじまっていた。

「あんこたっぷりなんだろうねー、いっただきまーす」

場面はアンパンマン世界で一番食いしん坊はカバ男くんが、大好物のしるこサンドを食べようとしているところだった。
至って平和的な風景。だが聖は知っている。その平和が、つかの間の平和に過ぎないことを。

「おいお前、おいしそうなもん食ってんな!はーひふーへほー!」
「なんだよ、やめろよー!!」

カバ男くんからしるこサンドを奪った、黒ずくめの憎いやつ。
ばいきんまん。アンパンマンの敵にして、永遠のライバル。


「こらー、ばいきんまん!悪さはやめなさーい!!」

手に汗握る展開に、思わず聖もばいきんまんに抗議の声を上げる。
しかも。ばいきんまんがカバ男くんに殴る蹴るの暴行を働くたびに拳を突き上げるものだから。
揺れるのだ。何が? 聖の正面に装備されている立派なπが。
一部の子供たちがショーよりも右に左に大きく揺れる二つの生き物に目が行くが、そんなことは気にしない。
舞台袖で裏方さんたちに白い眼で見られてることなどおかまいなしに、聖のボルテージは上がる一方だった。

この状況を、このピンチを。アンパンマンが見逃すはずないんだから!

やめるんだ、ばいきんまん!という声とともに颯爽と現れる正義の味方。
いきなり暴力に訴えることはせず、まずは言葉による制止をする。聖にとってそれは理想のヒーロー像であり、目指すべき正義の形であった。
しかし、アンパンマンの台詞の代わりに聞こえてくるのは荒々しい声。

「うるせえ!殺されたくなかったら大人しくするんだよ!!」

はて?
アンパンマンにそんな汚い言葉遣いのキャラなんていたかしら。
もしかして。やなせ先生が寛容なことをいいことにここのデパートが勝手に作った新キャラとか?

しかし話の流れは聖の予想もつかないところへと向かってゆく。
それを決定づけたのが、声の主が懐から出した包丁だった。


★ ☆ ★

「ちっくしょう、おい、殺されたくなきゃな!!デパートの、有り金、全部こっちに持って来い!!言っとくが俺は本気だぞ!!」

黒っぽい上下のジャージを着た、中年男。
傍にいたカバ男くんとばいきんまんを蹴っ飛ばし、ステージの中央に陣取った。

最初はショーの演出だと思っていた子供たち。だが、聡いものは様子がおかしいことに気付き、恐怖のためかぐずり始めた。
幸せな空間に、徐々に暗雲が立ち込めてゆく。

どうしてこんなことに……

聖が今すぐ舞台に乗り込めば、あんな中年男などあっという間に倒してしまうだろう。
ただし、能力が使えればの話だが。
リゾナンターは一般人に能力を見られてはならない。これは、リゾナンターが一般社会に溶け込み生きてゆく上での不文律。そして今聖はその
せいで、打つ手を失っていた。

しかし。
聖の目に、ある光景が飛び込む。
それは、舞台袖に引っこみがくがくと足を震わせているアンパンマン役の人の情けない姿だった。

いくら非常時って言っても、こんなアンパンマン見たくない!!聖がアンパンマンなら、あんなやつすぐにやっつけて…

そこで聖ははたと思い直す。
そうか。その手があったか。
そうと決まれば話は早い。聖は、何かあった時のために亜佑美から借りた高速移動の力を使い、ステージ裏へと駆けていった。



「まだかよ、まだなのか!俺がやらないなんて思ったら大間違いだぞ!ガキの一人や二人、簡単に…」
「やめるんだ、ばいきんまん!!」

舞台の裏から響く声。
訝しがる男の前に、颯爽と現れたその人は。

「あっ、あんぱんまんだ!!」

子供の一人が、大声をあげる。
彼が見たのは、紛れもなくアンパンマン…アンパンマン?

アンパンマンってパンが3こも、あったっけ?

軟弱なアンパンマンの中の人(時給850円)に成り代わり、アンパンマンの被り物を頭に装着した聖。
しかし、衣装が経費削減で赤の全身タイツだったために。
色々無理があった。特に前の特定部位のほうが。やばいよやばいよ、タイツ破れちゃうよ!

「なんだ、誰だお前は!?」
「ぼく、アンパ…じゃなかった、みずパンマン!!」

そこで聖はとっさに思いついた名を名乗る。
アンパンマンを名乗らなかったのは、本家に対する敬意。それと、ちょっとだけオリジナリティを出したいささやかな自尊心。
この人、さっきのおねえちゃんだよね。まさに顔を隠してπ隠さず。だが最近の子供たちは妙に空気を読むところがある。
子供たちは、一斉に歓声を上げた。


聖の目的は二つ。
一つは、この凶悪犯を聖が正体を悟られることなく倒すこと。
そしてもう一つは、子供たちにこの出来事があくまでもアンパンマンショーの一部だと思わせること。
最初の目的はともかく、もう一つの目的は無事果たされたようだった。子供たちの目に映るそれは、まさしくアンパンマン対ば
いきんまん。

「ふざけた野郎だ、ぶっ殺してやる!!」

アンパンマン、もといみずパンマンに襲い掛かる中年男。
ぎらついた包丁が、右に、左に空を裂く。それを紙一重のところで交わす聖。いくら能力を使わないとは言え、日々鍛錬を怠ら
ないリゾナンター、この程度の相手に後れを取るはずがない。
余談だが、右に左に聖が包丁を回避するたびに聖のマシュマロパンも右に左に揺れる。これが、意外な効果を発揮する。

「ちょこまかと揺らし、じゃなかった、避けやがってえ…」

攻撃を仕掛けながらも、男の目は聖のバインバインしてるπに目が釘付け。最早ただのπルッカーと化していた。
男と生田衣梨奈のπルッキングは決して悪いことではない。だが、戦場でのπルッキングは死を意味する。

「隙あり!ぽーん…パーンチ!!」

最後は春菜から借りた五感強化による、聖の鉄拳が男に炸裂。
拳の威力と跳ね上がるπによって、男はもんどり打って舞台裏のほうへ消えて行った。
ばいばいきーん、とは言わなかったが、星のように消えて行った男を見て。子供たちは割れんばかりの拍手を送った。


「やったぁ!」
「かっこよかったよ、みずぱいまん!!」
「え、聖はみずパンマンなんだけど」
「みずぱいまーん!」
「みずぱいまんかっこいいー!!」

子供たちは見たままのことを言葉にしてしまう生き物。
まるでそうなるのが当然のごとく、みずパンマンはみずぱいまんとして子供たちの心に残ることになった。

みずぱいまん…こんな恥ずかしい名前、他のメンバーたちに聞かれなくてよかった。
人一倍大きな胸をなでおろす聖。
しかし、特設会場の横にあるガチャガチャコーナーで一部始終を見ていた二人組がいた。

翌日、遥と優樹によってみずぱいまんの活躍が報告され、その日を境に聖のあだ名はみずぱいまんとなってしまうのだった。





投稿日:2013/11/15(金) 22:04:02.32 0