『ハルが生まれた日』 中篇



「ちょっとぉ!何で当てないわけ!?」

光が放たれた山頂、S/mindage側の拠点。小柄な女が色白な女に食ってかかる。

「いきなり消しちゃ演習にならないでしょ。上も手加減しろって言ってたし。それに・・・」

色白な女が目を伏せて小さく呟いた

「私は誰も殺さないから」
「それこそ演習にならないでしょうが!命のやり取りの中でこそ能力の進化は産まれるんだよ!」
「まーまー、ユウカちゃん優しいから」

色黒で身の引き締まった女がしつこく食ってかかる小柄な女を制した。

「もうっ!こっちはこっちで勝手にやらせてもらうからね!」
「ご自由に~。行こう、ユウカちゃん」
「あ?2ndの子は?」
「知らないわよあんな連中!そっちで面倒見てよ!サキチィ―は先にどっか行っちゃうしホントにもうっ!」

振り返った小柄な女、その横をヒュン!と何かが通り抜ける

「な・・・」

バゴーン!その何かは近くの岩を砕き、飛び散った岩の破片が小柄な女の顔に当たる

「痛いっ!」

バゴーン!バゴーン!バゴーン!バフッ!次々に3人の周囲の岩や土が飛び散った

「きゃ~、ゆうかちゃん何か飛んで来てるよ!」「ここからは離れた方が良さそうね」

色白の女は光となって姿を消し、色黒の女はこれまた足元に現れた光輝く光彩の中へ溶けるように消えていった。


「ちょっと!私だけ置いて・・・キャアアッ!」

次々と降り注ぐ"それ"の着弾点は徐々に小柄な女に近付いていく

「調子に・・・乗るなぁあ!」

小柄な女の指が光を放ち始める。大気がその指の周囲に集まり、渦を形造る
そしてピストルを撃つような構え

「シンデレラーっ、レボリューションっ!!!バン!バン!バーンっ!」

集束した空気の螺旋が勢いよく女の指から放たれた
螺旋は勢いを増し、衝撃波となって、地上へと舞い降りる

「また攻撃来るわ!伏せて」
「わわわわわ!やばっ!」

光になって逃げ出したT1110以外は全員またその場に伏せる
頭上を凄ましい突風が駆け抜けていく。
つーかぐぬぬ・・・地面に爪でも立ててないと吹っ飛ばされそうだ。
直撃、ではない・・・ただ当てずっぽうに撃ってきてるだけ。でも私達を圧倒するに充分な威力だ!

「きゃあーっ!」
「さらばでありますっ!」

誰かが吹っ飛ばされた!誰だ!?

『EGG T0721 リングアウトにより失格 累計0point』
『EGG H0426 リングアウトにより失格 累計0point』

無機質なアナウンスが再び響く
まだ幼かった2人・・・リングアウトって一体どこまで吹っ飛ばされたんだよ。つーかポイントって何だ?


『S/mindage フクダカノン レボリューションカノンにより2名をリングアウト 3000point』
『S/mindage マエダユウカ EGG側拠点を半壊 5000point』

そうか、ポイントは多分評価点。あのポイントを稼げば昇格も有り得るってわけか

『EGG O0403 S/mindage側拠点を攻撃 500point』

O0403は光の攻撃に憶さずに即座に小石を次々に射出して反撃した。
直接的な攻撃がポイントになるってことかな・・・?

「みんな、一旦散りましょう。ここままだと全員吹っ飛ばされるわ!最集合地点はx286-10!」

小石を飛ばして攻撃していたO0403も、他の面子もそれぞれに散っていく
あちこちを薙いでいく山頂からの衝撃波、あれを避けるには向こうの居る山麓の集合地点に近付いていくしかないみたいだ
一か八か、前へ・・・とりあえず時間を稼ぎたいところだけど・・・

考えてる内にピタリ、と衝撃波が止んだ。ん?上で何か起きたか?

少し力を解放し、自分の思念の触手を広く伸ばす・・・よく知った攻撃的なエナジーを感じる
アイツか!そのまま時間を稼いでくれ!


「吹き飛べぇ!みんな吹き飛んじゃえ!バン!バン!バーンっ!・・・ん?」

山頂から狂ったように衝撃波を放ち続ける小柄な女。彼女の鼻に何か嫌な鼻につく匂いが流れ込んできた

「この匂い、硫黄・・・燐・・・お前かっ!バーンっ!」

上空から襲い掛かる炎の輪、しかし寸前で気付いた小柄な女が上空に放った衝撃波でそれは吹き飛ばされ霧散する。

「あー、気付かれちゃいましたね」


念動力で宙に漂う少女、m1201がわざとらしく手を振った

「ちょっと、先輩を不意打ちとかいい度胸じゃない!」

次々に宙に放たれる衝撃波、しかしm1201は素早く飛び回ってそれをすいすい避ける

「いいんですか~、そんなに連発して。S機関には暴走の危険があるって聞きましたけど」
「うっさい!つーかあんた何でそんな話知ってるの!」

小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら輪を描くように小柄な女の周囲を飛び回るm1201。

「だって私、2ndプロダクト辞退したんですよ。S2は電池式でリミッターあるから大丈夫とか言ってましたけどなんか胡散臭いし」
「あんな玩具にビビったのあんた?私はね、S1を使いこなしてみせる。それが私のレボリューションっ!ナメんな!」
「そうですか~。じゃあ私がそれ、暴走させて見せますよ。フクダさんの限界、見せて下さいっ!」
「安っすい挑発ね。時間稼ぎのつもり?アンタ逃げてるだけじゃ・・・!?」

宙を飛びながらm1201が描いた輪。小柄な女、フクダカノンは気付いた。
その輪の軌跡をなぞるようにいつの間にか大きな紅い光のリングが形成されていることに。囲まれた!?コイツ、お喋りで私の気を引いて!

「そーれ、りんっ!」

m1201の合図と共に、紅い光の輪は発火を始め巨大な炎の輪に変わる

「ちいっ!」

レボリューションカノンで輪を吹き飛ばそうと構えるカノン。しかし・・・

「さよなら、フクダさん」

急速に縮まりカノンに迫る炎の輪、ダメだ!正面の炎を吹き飛ばせても横や背後から炎を食らってしまう

「チッ、畜生ぉおーーー!!!」


ボーン!山頂で爆発の炎のようなものが見える。m1201、おっぱじめやがったか
ピロロロロ、と通信機が鳴る。

「おいK1027、そろそろ敵の位置教えてくれ」

O0403、コイツもなかなかに積極的だ。

「分かった、すぐに!すぐに・・・っておい!」

伸ばした意識の触手がO0403に迫る独特のエナジーを捉えた・・・アイツは危険だ!

「逃げろ!そいつの"色"には絶対触れるな!」
「"色"?何のこと?あ、ターゲット居た。今から殺るわ。じゃーね、ばいちゃーこ」

O0403は通信を切り、目の前に現れた"敵"をターゲットした。

(少し距離不足だけど・・・殺るには充分!)

意識を集中し手から伸びるエナジーの"クラブ"を形成する。
この"クラブ"で物体をインパクトすることで物体は加速し凶器と化す。
O0403は"クラブ"を大きく振り被り、足元の小石に一気に振り下ろした。チップ気味低め!

「悪いけど、殺らせてもらいますよ!」

クラブでインパクトした小石は加速度を増し、目の前に突如現れた女の頭へと低い弧を描いて飛んで行く
女は棒立ちのままだ・・・貰った!O0403は勝利を確信した

しかし

バシっ!女は素手で加速した小石をキャッチした。そんな!?あの加速度の小石をキャッチ出来るはずがない。
人間の素手など貫通出来る威力のはずだ!


「あー、さっき飛んで来てたのこれかー。貴方が飛ばしてたのね」

色黒な女がパシパシと手で小石を弄びながら微笑む。その掌は虹色の色彩に光輝いていた。
あの手・・・何かのエネルギー体になっているのか?少なくともあの手は私の攻撃を無効化してキャッチできる。ならば!O0403は女に背を向けて駆け出す。

「あー!待って!あやも1500ポイントノルマあるから!」

向こうにも何かノルマがあるらしいがそんなの知るか!それに自分が勝つ前提でいやがるけど勝つのはこっちだ。
O0403は後ろを見ずに全力で駆け抜け、スタート時に自分が居た地点・・・山頂を攻撃していた丘へと戻った。
そこで後ろを振り返る。女はやはりこちらを追って来ている、しかしまだ距離は充分!そしてこれだけあれば・・・
攻撃用に掻き集めていた沢山の小石の山、エナジーの"クラブ"のインパクトポイントを普段より大きく形成しこの山を・・・叩く!

「食らえーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

フルパワーのインパクトで小石の山を叩いた、まるで散弾のように飛び散る小石。
先程よりも更に直線的な軌道で無数の小石が不用意に近付いてきた女に襲い掛かる。今度こそ終わりだ!

「あー!やばーい!えいっ!」

女の背中に後光のような虹色の光が光った。その光から"生えて"きたのは無数の虹色の手。
パシッ!パシッ!パシパシパシパシッ!
散弾のように放った小石は全てまるで触手のように生えきた虹色の手にキャッチされてしまった。
アイツ・・・やべえ!あの手が何なのか、奴の能力が何なのかはわからないが確実にアレはやべえ。
昔、あんなような像を教科書で見たことがある気がする・・・確か、千手観音だっけか?
虹色の手がそれぞれ小石を弄んでいる。その虹色の手に触れた小石もまた虹色に浸食され、輝き始めた

「なかなかスリルあったよー。楽しかった。じゃあこれ、返すね!」

ぞわっ、と虹色の手が一斉に動き出した。大きく振り被る、アレは・・・スローの構え!
弧を描く無数の虹色の手から一斉に無数の虹色の石がO0403に放たれた。

「うわぁああああああああああああああああ!!!」


「おい!T0421、敵を見つけた!y308-1地点にブリザードだ!」

K1027はO0403との通信が切れた後、すぐにT0421に敵の位置を伝えていた。

「わかった!ちょっと遠いけどブリザー・・・」

ガシャッ!通信機からの突然の音。まるで地面に落ちたような・・・

「おい!」

続いて何か揉み合うような物音。そしてどさっ、と何かが地面に落ちるような音

ピンポンパンポーン!再び、島内に全体アナウンスがこだまする

『S/mindage ザーッ・・・T0421を撃破 1500point』

嘘だろ!やられた!?誰に?アナウンスにノイズが入っていて聴き取れなかった!
私はT0421の居た地点の周辺に意識の触手を伸ばす・・・
隈なく、周辺を探ったが誰の意識もエナジーも感じない

「気を・・・つけて・・・」

通信機からか細い声が聞こえてきた。T0421!

「アイツ・・・見え・・・」

ガシャアッ!ガガガガガガガ!すざましいノイズが耳に響く
T0421をやった奴が通信機を潰した!?T0421の近くに居るのに感じない・・・一体何なんだ!?


ぞくっ!その代わりK1027は自分の周囲に突如発生した無数の意識、『敵意』を感じた。
数えきれないほどの『敵意』・・・なんだこれ?今まで感じたことのない感じの意識
数は多いが皆が皆、寸分たがわず一緒の意識を持っているように感じる。全く同じ、寸分違わぬ同じ敵意をコチラに向けているのだ。
それも感情のようなものを感じないどこかメカニカルな敵意・・・K1027は足元を見て、その『敵意』の正体について理解した。
蟻・・・無数の蟻が周囲を囲んでいる。この不自然な敵意は群生の昆虫の意識、集合意識ともいえるもの。
そして、K1027は無数の蟻達の意識の向こうに一つだけ感情を帯びた意識を捉えた。

「あー実は私、虫って大嫌いなんだけどさ。なんかこう?フェロモン?って奴が出てるらしくてさ」

蟻たちの向こうに緑の服を着た少女が姿を露わした。蟻だけではない。様々な虫が彼女の周囲を飛び交い、這い回っている。

「そんなこんなでちょっと気が狂いそうなわけでイライラしてるわけなのさ。
 というわけで悪いけどとっととノルマ果たして演習終わらせて虫居ないとこに行かせてもらうね」

ムシガール、O1118ことオガワサキ。ご丁寧な自己紹介の通り、フェロモンで昆虫を操る能力者だ。
しかし、以前の彼女の能力はここまで強力ではなかったはずだ。
なんか虫に好かれ過ぎで逆に可哀想な・・・フェロモンのコントロールが上手くいっていないのだろうか?
蟻が一斉に私の足を登ってきた・・・うわ、キモっ!とんでもない数でブーツもタイツも真っ黒に覆い尽くされる
うわっ!痛っ!コイツらチクチク噛みついてやがる・・・ヤバい!このままじゃ蟻の海に飲み込まれる

やるしかねぇ!

他人の意識やエナジーを捉える能力はIN。感受性、感覚の能力。自分の意識やエナジーを他人に伝える能力はOUT、伝達の能力。
一流のマインド系能力者は相手の意識を読んだり自分の意識や精神エナジーを誰かに飛ばすテレパス能力が使える。
でも私はOUTに関してはまだまだ未熟、同系のK0701とは同調して細かい意識を交換できるが他の人の意識はなんとなく読めても
自分の意識を相手に伝えるには至らない。私が人に意識や精神エナジーを送ろうとすると事故が起こってしまうのだ。
コントロールされていない原初の精神エネルギー、リビドーとでも呼びべものが直接相手にぶつけられ最悪ショック状態を引き起こしてしまう。

無軌道な精神エネルギーの放出、寄るな、寄るな、寄るな、寄るな・・・今は、最悪でいい
K1027は自分の心のリミッターを解除した。K1027の全身に可視化されたオレンジ色の精神エネルギーがバチバチと火花を散らし始める。

「寄るんじゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」





投稿日:2013/11/03(日) 00:44:40.71 0





















最終更新:2013年11月04日 10:14