■ フォールン -矢口真里- ■


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 ■ フォールン -矢口真里- ■

「へぇこいつらが?」
矢口真里は、あごをしゃくる。
マジックミラーの向こう、ビビットカラーの壁面の前で
子供たちが無邪気に笑い、おもちゃや遊具で遊んでいる。

「まあ、一部ですが。この中で何割がモノになるのか。我々も高揚していますよ。」
「ふん。能力開発なんて意味あんのかねぇ、才能だろがこんなもん。」

 あの日、アイツが使った『力』、そいつをオイラは『邪魔』してやった。
 『力』が使えないと知ったアイツは、おもしれぇぐらいに怯えて……。
 だから……オイラは……何度も、何度も……ざまぁみろ……ざまぁみろ……。

「あん?なんだ?」

喧嘩だ。
ちいさなぬいぐるみを引っ張り合い、二人の子供が泣きわめいている。
そして、
パアン!
小さい方が【能力】を使い、もう一人を弾き飛ばした。
いいね。やっちまえやっちまえ。

「いかんな。緊急指導を」
研究員が傍らの赤いボタンに手を伸ばす。
ボタン一つで室内に一気に無色無臭の催涙ガスが充満する。
臭いは無いはずだが、ひとたび吸い込めば、
目と鼻と喉、肺の奥まで激痛に苛まれ、しばらくは何を食べてもガスの味しかしなくなる。
憐れな子供たちは己の立場をその身体に充分以上に刻み込むことになるだろう。


「まて、オイラが行く」
「は?」
「あ、なんか問題あんのか?」
「いえ」


「はーい!今日もやってまいりました!矢口とクソガキ共でお送りする『たまごの時間』でーす!」

突然現れたその女性に子供たちの動きが止まる。
一斉に視線が一点に集中する。
どの子も皆、ぽかーんとしている。
能力を使った子も、吹き飛ばされた子も、そうではない子たちも、
自分たちと似たような体形の、その女性に釘付けになる。

傍らのマラカスをマイクに見立てる。
さぁみなさん朝から元気ですね。もう放送はじまってますよ、番組に集中しましょうっ!
さっ最初のコーナーは……

いつのまにか、TV番組ごっこが始まっていた。
子供たちは大はしゃぎで、矢口が勝手に『ここにTVカメラがある』ことにした、
でかいくまに向かってピースをしたりべーしたり、思い思いのアピールタイムを楽しんでいる。

さきほど喧嘩していた二人も、そんなこと、すっかり忘れておおはしゃぎだ。
吹き飛ばした方は、ぬいぐるみを放りだし、吹き飛ばされた方は鼻血を出したまま、
カメラに向かって二人でハートを作っている。

喧嘩の原因になったぬいぐるみが矢口の足元に転がってくる。
そいつを、さりげなくおもちゃの山にむかって蹴り飛ばす。
ぬいぐるみは、床を何度も転がり、バウンドし、箱にぶつかって止まった。


泥と血にまみれ、全身の痛みの中、矢口は思い出す。
ああ、あのときのガキの中に、おまえはいたんだな。
あの中の、どれがお前だった?
ぜんぜんわかんねえや……。

吹き飛ばされ、地面に何度も叩きつけられ、空中を回転していく。

ほんの気まぐれ、ほんのお遊びだ。
どうせ、すぐに死ぬ。
残った奴らにしても、すぐに忘れると思った、だから、ほんの気まぐれでやったんだ。

 『なんかぁ、彩たちとぉ遊んでくれたこと、あったじゃないですかぁ☆』

あんな、くだらねえ、
ほんの気まぐれを、おまえはずっと、覚えてたんだな。

腕が折れ、足をくじき、アバラが折れる。

矢口は転がっていく、あのときのように……

天空から、『天使』が舞い降りる。

あのときの、ぬいぐるみのように……

今、矢口の頭上に、『天使』が――



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投稿日:2013/10/22(火) 17:20:49.47 0