■ ミスイーチアダ -福田花音- ■
「それにしても、この状況……デジャブでしょうか」
福田花音はため息をついた。
無人のショッピングモール、そのバックヤードの薄暗がりに、
左耳のピアスがキラキラと揺れている。
ぺち、ぺち、ぺち。
「あらあら萩原さん、どうしたんです?
はやくアレ使ってみてくださいよ。ほらほら。」
その頬を、叩く。
「なーんだ。つまんない。もう【能力】も使えないほど、弱ってらっしゃるのね。」
「かは…かひゅー!(て、てめぇ…てめえ…!)」
「ねぇ萩原さん、なぜあの子だけこんなにしゃかりきになって回収したがるの?
わからないわ。
私たちをおびき寄せた段階で、あの子たちの役目は終わっていたはずでしょう?
他の子たちは見捨てて、あの子だけ、ねぇ?」
頬を叩くことに飽きる、ふと、鼻をつまんでみる。
「か…かふっ…ひゅー(息が、息が出来、な)」
「ふふ、ごめんなさい。あなたが知ってるはずないか。
いつもの通り、大切なことは、
なーんにも、教えてもらえてないんですものね。」
「ぐ…ぐ…(そんなこと!舞は、そんなこと…)」
「ま、いいわ。私も少し熱くなりすぎていました。
あんなに回収したがるものだから、こっちもすこし意地になっちゃってたんです。
私たちはもう『あの子たち』を奪取しているんですから。
他の、こういっちゃあなんですけど、別に何のゆかりもない子まで面倒みる義理もないわけです。
あの人たちの手にわたったのならそれはそれでいい、組織の邪魔も出来たし、結果大成功。」
福田花音は、腰を上げる。そろそろ潮時だ。
「さて、萩原さん。ごきげんよう。」
「は、はへぇーはひゅ、けへっ(ま、待って、助けて!助けて!)」
福田花音は、その憐れな茶髪を見下す。
冷たい、軽蔑のまなざしを隠そうともしない。
が、そこにふっと優しげなものが浮かぶ。
再び、しゃがみこむ。
「と、言いたいところですけど、萩原さん。
ご存じのとおり、私たち今、手駒が不足してるんです。
『あなたたちのせい』、でね。だから、あなたみたいな捨て人材でも、
役に立つかわからないけど、一応確保しておこう、今、そんな気分なんです。」
「あ…あは…(よ、よかった、あ、あり……)」
「あれ?なにか勘違いなさってます?どなたか、あなたを『助ける』なんて言いました?」
「げ…ぐ…が…(え?なに?それって、なに?……なに?!)」
「もしも、『生きてたら』またお会いしましょう、んふふ。
そのときは、せいぜい働いてもらいますよ。
……まぁ、萩原さんの自覚の無いところで、ですけど。」
「あが…あが…(やめ、ろ、やめ、て!やめて!)」
目をそらすことができない。その言葉から逃れられない。
少女の唇が歪み、そして…
「『疑うことなく』信じるにょん、あなたは……」
投稿日:2013/10/17(木) 00:57:10.84 0
最終更新:2013年10月17日 11:52