■ クリアスカイ -飯窪春菜・石田亜佑美- ■


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 ■ クリアスカイ -飯窪春菜・石田亜佑美- ■

「解答編…なんちゃって」
「しゃべっちゃだめ!早く!早く!病院に!」
「あのひとに椅子を投げた時、すぐに気づきました…。ああ、この人に物を投げると自分に跳ね返るんだなって……」
「いいからっ!いいからっ!」
【空間跳躍】そして【空間跳躍】
石田は自分の無力さに歯噛みする。

長い距離を『跳べない』

建物の屋上から屋上へ【跳躍】しながら必死に病院を探す。
「無い!無い!何で無いの!」
「病院…は見つけてください…あの子たち、まーちゃん、背中に怪我してるから…
でも、この辺はダメ…もっと、もっと遠くの……」

「だまって!」
涙で目が曇る。痛めつけられた全身が悲鳴を上げている。

だが、涙は痛みによるものではない。

これは怒りだ!
騙された!この女よくも!
石田亜佑美は飯窪春菜に、まんまと騙されたのだ。

高橋さんによって味わったあの感覚。
直接イメージを体感にして教えてくれた、あのときの、あの感覚。
これが、この感覚が……
再び知覚したその感覚で、彼女は知った。
3人のリゾネイター達の危機を。
高橋さんの追体験ではなく、自らが感じた、初めての……。


「まーちゃんたち、ふ…二人は?」
「大丈夫!あのとき、『あなたが言った通り』よ!ウチが持ってるもう一つの力で二人とも運んでる!」

スカークロウ。姿なき案山子の暗殺者。石田の持つ3体の獣の一体。
遠隔操作に優れた、大きな藁人形。
全身、"中が中空となった管"が寄り集まって出来上がった、
その藁のような、管と管の間は自在にずれあい、伸縮する。
その隙間に二人を包みこみ、安全圏へ離脱、以降、石田に追随するようコマンドされていた。

『もう一つだけ教えてください』
あのとき、飯窪が確認した事、視界の隅で捉えた、その光景。
じわり、じわり、少しづつ、萩原舞にバレないように、少しづつ。
静かに、そぉっと、床を滑っていく、それは、佐藤優樹と工藤遥の気を失った身体だった。
まるで、『見えない力』で運ばれていくように……
『あの二人を、運んで下すってるの、あれ石田さんの力ですか?』
石田は答えた。
「そうです!私です!」

その瞬間、飯窪は理解した。石田亜佑美、彼女の意図の全てを。
そして、確信した。助かる!と『この人に任せれば、あの二人は助かる!』と。

「それから、私は……、今度は消火器を吹きかけてみました。
粉末なら、小さい物なら…、数が…多ければ…、跳ね返せるもののスピード…、知る必要が、あったんです。」

「だまってっていってるでしょ!」
しんじゃう!しんじゃうよ!共鳴を感じた、この人が、しんじゃう!

「そして、数が多くても、粉のように小さいものでも、早く噴出するものでも、跳ね返るんだなって…ん…ん…、
最後に、飛び道具じゃなければ、当たるかもしれない…から、ほうきで殴った…あれなら跳ね返っても、痛くない、から…」


「結果は、最悪でした…全部だめ…、で、でも髪の毛をつかんで踏まれて、そのとき、わかった……
早い動きで近づく物は全部跳ね返るんです、で、でもあの人の方から近づくとき、
それと、ゆっくり近づく物、つまり、普通の動き、には…は…反応しない…」

「私が、あ足をつかんでも、跳ね返らなかった…。
わ、わたし、覚悟を決めてたんです…だ、だから、じ…銃を…」

飯窪春菜は【偽装幻視】を発動していた。彼女は隠した。背中に忍ばせた拳銃を。
あのとき、白い車から、深呼吸をしに一旦出た、その時、飯窪はそれを背中に隠した。
床に倒れる戦闘員の拳銃を。
加熱されていたのはアサルトライフル。まーちゃんへと直接向けられた銃のみだったのだ。
飯窪春菜の覚悟、二人を助け出すには武器が必要だと。
だれかを傷つける、誰かを『殺す』覚悟が必要だと。

萩原舞は不用意に近づいた。飯窪春菜を【無能力者】だと決めつけて。
だがその時、飯窪春菜はすでに【能力】を発動していたのだ。
その手ごたえは、「ドンピシャ」。萩原に【偽装幻視】は、完全に、効きまくっていた。

萩原が腰のホルスターに手をかけた、飯窪はその瞬間を待っていた。
私は平凡だ。覚悟を決めても尚、『ためらう』かもしれない。
『ためらい』を振り切るために、もう、殺される以外にない状況に、自分を、追い込んだ。
【偽装幻視】で、怯える自分自身を作り出す。
突きつけられる機関拳銃を恐れて、空しく手の平を広げ、宙を泳ぐその【幻想】の裏で。
ゆっくりと、伸ばす。
飯窪は、長く華奢な、その腕をいっぱいに伸ばし、その手にした拳銃を、
萩原の鼠蹊部に、ぴたりと付けていた。


一撃だ。この一撃で、腸骨動脈を吹き飛ばす。ついでに内臓も、ぐちゃぐちゃにする。

彼女はマンガヲタク。読むのも描くのも。
解剖学はデッサンに必須の知識だった。

きっと次の瞬間、あなたの鼠蹊部を吹き飛ばした弾丸か、あなたが撃った弾丸で私は死ぬ。

でも、かまわない。もう、これしかない。
ごめんね。
背中、痛いだろうに、心細いだろうに、
ふたりぼっちにしちゃって、投げだしちゃって、ごめんね。
普通の私に出来る事は、ここまででした。
最後まで逃がしてあげられなくて、ごめんね。
そのかわり、ここで必ず、必ずこの人を……。
きっと、目を覚ましてね。
お願い、この銃声でも、なんでもいい!
起きて!逃げて!
それに賭けるしかない。


そのとき、その瞬間に石田が飛び込んできたのだ。

飯窪の計画は頓挫した。
助太刀の石田はまるで役に立たなかった。
だが、その途中、それが彼女の演技、彼女の覚悟だと知った。

石田亜佑美は、自分が囮になる間に、自分が道化を演じている間に、
スカークロウによって、気を失った二人を救出しようとしていた。
だから、必要以上に大声を出した。
必要以上に動作を派手に、片時も、自分から目を離させないために。
そして、時間を稼ぐ。自分が痛めつけられながら。
スカークロウは、繊細な作業性、高い踏破性を持ってはいたが、反面、決して機動性が高いとは言えなかった。
飯窪を一緒に運ぶという負担によって、距離と精度が落ちる【空間跳躍】で逃げきるためには、
出来る限り子供二人を、より遠くまで先行させる必要がある。そう考えての事だった。

飯窪春菜は確信した。
石田さん二人をお願いします。
この人に託そう。この人の能力、この人の強さ、二人を逃がすには石田さんが適任だ。
そして、私は確実に、この舞さんを仕留めよう。
この人の追跡をここで、断ち切る。完全にだ。
もしかしたら、舞さんは放置して逃げる方が本当は賢いのかもしれない。
でも、この人は石田さんを、まーちゃんを『見た』。
やっぱり、生かして帰すわけにはいかない。
不安要素は残さない。絶対に。ここで、断つ。


石田さんは、きっといい人だ。
思考回路は至極単純そうだけど、とってもいい人。
私の作戦を知ったら、怒るだろうな。

だから、嘘をついた。
それも、最も卑劣な、嘘を。

一言も、嘘をつかない、という嘘を。

彼女は利用したのだ。
石田亜佑美が能力者であるが故の心理の盲点を。
単純で、いい人であるが故の心理の盲点を。

石田は信じた。単純に。
飯窪春菜の本気の決意を。

だから騙されたのだ。だから、怒りに震えているのだ。
『私は大丈夫』そう、この女は言った。
それは『私は死んでもいいから大丈夫』そういう意味だった。
わざと、言葉を削って誤解させたのだ。
なんで気付かなかった。
まんまと騙された、バカだ、ウチは大バカだ。


飯窪の作戦はシンプルだった。
あのコントのような作戦会議が続く間にも、本物の子供二人の救出は進んでいた。
スカークロウが子供二人を連れ、充分に離脱した頃合いを見計らい、飯窪を連れて【跳躍】する。
そこまでが石田の計画、そこに飯窪の作戦が付け加えられる。
萩原の目標は工藤遥だ。
だったら、自分が彼女と入れ替わればいい。
【跳躍】と同時に飯窪が【偽装幻視】で工藤遥に成りすます。
わざと大きな物音を立てる。
遠目に、工藤遥を運ぶ石田を見せる。
萩原に追わせる。
石田は抵抗するふりをする。

『必ず、舞さんの死角の、でも『ちょっと外れた所』に【跳んで】ください。』
飯窪は石田に釘をさす。
『くれぐれも気を付けて!絶対バレてますから、
そこで撃たれたふりしてまた【跳んで】、壁の向こうで待機してください。
やられたか、もしくは大怪我をして逃げ出した、そう思わせるんです。
そのあとは任せて。私のとっておき、奥の手があります。』


「いやだ!いやだ!しんじゃいやだ!飯窪!このやろ!お前っ!ゆるさないぞ!」
もはや、飯窪春菜は言葉を発しなかった。ああ、命が、脈動が。


【跳躍】また【跳躍】、そしてまた【跳躍】、【跳躍】、【跳躍】!
すでにもう、望んだタイミングでは発動しない、望んだ場所まで届いていない。
能力の効きが、『重い』
だめだ…もうだめだ…もうすぐ…【跳べ】なくなる。
なんで!もっと、跳ばなきゃダメなのに!
もっと遠くへ!もっと!もっと!もっと!

…助けて…

『きっと、あーしはもう感じる事が出来なくなる』

『だから、石田、あなたが助けてあげて……』

『そのときが来れば、わかる』

『倒すんでしょ?あーしを』

『それまでは、きっと、あなたを助けてくれる』

『あなたが、願えば、あなたが、そう、』

…声が……

少女は声にならぬ声を聞いた気がした

『あなたが、そう願えば、そこに、必ず!』

それは、まごうことなく、高橋さんと同じ……

【空間跳躍】と【空間跳躍】の、その間隙に


石田は、天使に抱きとめられた。

「つかまえた!やっと、見つけたよ!」

ふたりの天使、白い肌、この世の物とも思えぬ美貌。

ふたつの甘い匂いが石田を、飯窪を、包み込む。
抱きしめられたその瞬間、痛みが消える。
そして、手に伝わる飯窪の感触。
彼女の身体にも、力が戻っていく、
わかる、感触だけで。命が、脈動が。

どことも知れぬ、建物の屋上。
その美しい女性に抱きしめられ、石田は動けなくなった。
いや、もう、動かなくてよい、そう理解した。

知っている…私はこの人を知っている…
…この感覚…この人たち…
そうだ、この人たち、この人たちが……


【共鳴者(リゾネイター;resonator)】

天使のインカムから声がする。
『さゆー!こっちのふたり~なんかビルの壁ぎわ、浮いてるよ、そっちに向かってるけど』

「ねぇあなたの【能力】?」
「はっハイ!私です!ここに、私のあとをついてくるんです!」

「『ガキさんOK大丈夫!』…ねぇその子たちに怪我は?」
「はっはいっ!えと一人背中に怪我を」
「そう。大丈夫だからね。わたし、怪我が治せるの。あなたが【跳べる】のと同じよ。わかる?」
「はいっ!わかります!私、わかりますっ!」

「道重さん!来ました!」
もうひとりの天使、栗色の髪をした、ふくよかな女性が、二人を載せたスカークロウの到着を知らせる。

石田は空を見上げる。
青い、青い空だ。太陽が、あったかい。
気が付かなかった、こんなに、こんなに、
いい天気。まったく、いい天気!

その日、彼女たちは、出会った。
かけがえのない4人。

その共鳴によって。
その日、その晴天の下で。

彼女たちは共鳴する。
【リゾネイター】

そう、私たちは!



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投稿日:2013/10/16(水) 03:09:58.48 0