■ ダブルベトレイヤー -前田憂佳- ■


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 ■ ダブルベトレイヤー -前田憂佳- ■

今、やっと、全ての『重み』から、解放された。

前田憂佳は自らの胸を見た。その胸から生える、鋼鉄を。
背中から胸郭を貫き、突き出した、長い銃剣を。

矢島舞美は、引き金を引いた。
胸郭が爆ぜる。
無数の銃弾の作り出す、大輪の花。

ああ、やっと、これで……
不思議と、苦痛は、無かった。恐怖も、無かった。
むしろ……ほっとした。

すべてを投げ出し、『いち抜け』出来る解放感。
やっと、やっと、終わった。
これでやっと……

これは、裏切りだ。
敵前逃亡。
彼女の脳裏には仲間の顔など浮かばない。
真っ白だ……
結局、この世界に彼女が求める物は何もなかった。
ただ、自由になりたかった。ただ、なにもせず、平和に暮らせればそれでよかった。

「みんなと平和に」

彼女の口癖。


だが、それは、『嘘』だ。
前田憂佳には『みんな』など、本当は、どうでもいいのだ。
自分一人が自由になりたかっただけ、自分一人が平和に暮したかっただけ。
でも、もういいよ、この世界で平和に生きるのは、無理だよ、無理。
頑張れば頑張るだけ、憂佳の願いは遠のいていく。
だったら、もう、いいや、もう。

さいならぁ……

バチュン!
矢島舞美のこめかみを撃ち抜く、大出力のレーザー光線。
最早、全身を切断する力は残されていない、的確に、ピンポイントに急所を狙い撃った。
突撃銃の乱射は止まらぬまま、ゆっくりと、倒れていく。
跳ね回る銃口から飛び散る弾丸が前田憂佳の、腕を脚を撃ち抜き、吹き飛ばしていく。

何もかも捨てて逃げ出した彼女が、その最後に、ほんの少しだけ見せた『罪悪感』。
自分以外、誰ひとり大切な者のなかった彼女の、最後の『自己正当化』。
本当に薄っぺらい、本当に、ひとかけらだけの『友情ごっこ』。
彩花ちゃん達のために、この人だけやっつけておこう。
その薄っぺらい自己満足だけのために、彼女は死に際にレーザーを放った。
まるで、これでもういいでしょ。そう言わんばかりに。

やがて矢島舞美は仰向けに倒れ、手にした突撃銃は全ての弾を打ちつくし、沈黙した。

その瞬間、不可解な、理解しがたき、不可解な現象が起こった。

矢島舞美は、こめかみをレーザーで射ぬかれ、仰向けに倒れ、沈黙した。
それはつまり、死んだ、そういうことではないのか?
だが、もしそれが事実ならば、


そう、それが事実ならば。

いったい、彼女は、誰なのだ?

今、まさに今、忽然と姿を現したのは、誰なのだ?

矢島舞美が、もう一人の矢島舞美がそこにいた。

いや、倒れた矢島舞美が消えている。痕跡も残さず、血痕すら残さず、消えている。
幻だったのか?最初から、こちらの矢島舞美しか、いなかったのか?
では前田憂佳を背後から撃った舞美は誰なのだ?

『新しい』矢島舞美が、前田憂佳を見下ろす。


「きれい……」


その瞳は、限りなく、優しい。
「やっと肩の荷が下りた、そんな顔してる」
腰をおろし、前田憂佳のほほを優しく撫でる。
「でも、憂佳ちゃん。まだ、あなたを、自由にしてあげるわけには、いかないの。」

跡形もなく、痕跡も残さず……
そう、今の彼女が『所有する全て』が、忽然と。

ごめんね、憂佳ちゃん。あなたの本当の役目はここからなの。
あなたが、『仲間を裏切るのは、ここから』なの。

「……ごめんね……」

跡形もなく、痕跡も残さず……
矢島舞美は、そして『前田憂佳であったもの』は、忽然と、姿を消した。



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投稿日:2013/10/09(水) 22:52:29.37 0