■ アガルリフタアガルズ -飯窪春菜- ■


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 ■ アガルリフタアガルズ -飯窪春菜- ■

まーちゃんのこと、たすけてくださぁい

飯窪春菜は混乱していた。いや、大混乱していた。
『なぜバレた?なぜバレた?なぜ?なぜ?なぜバレタのぉおお?』

目の前の少女は本気だ。こっちをまっすぐに見つめ、本気で頼んでいる。

自動販売機に。

飯窪春菜。人よりちょっとだけ高い声を持つ、平凡な女子高生。
平凡な暮らしの中、幼いころより、人知れず研さんを積んできた、その非凡。
【偽装幻視(ディスガイス;disguise)】
自分の見た目に関してのみ、あらゆる偽装を可能とする集団幻覚。
この力を、彼女は完全に『モノ』にしていた。
その成果の一つが『どれぐらい効いているのか?』を、個々対象ごと、かなり正確に把握できる事、だった。
たとえばリボンの色を実際の色とは微妙に違う色にして周りの友達の反応を見る、
効いている友達と、あまり効かない友達、あきらかに「手ごたえ」のようなものが違う。

ドンピシャで効いているときの爽快感、効きが悪い時のモヤっとした感じ。
いま、目の前の少女から伝わる手ごたえは、「ドンピシャ」だ。
完全に、効きまくってる。

そして、だからこそ。
だからこそ、飯窪春菜は混乱している。いや大混乱だ。

『こっ、この子……自動販売機に本気で話しかけてる!あ、あぶないっ!あぶない子だわっ!』

その自動販売機が自分だということをつい忘れそうになる。


はやくーはやくー

自体はさらに混迷を極める。
まーちゃん、そう名乗った少女は、まったく躊躇することなく、
飯窪の両手を、がっちり掴み、
あらん限りの力で、ぐいぐい引っ張り始めたのだ。

まーちゃん、この少女の目には自動販売機しか見えていないはずだ。
つまり飯窪の手など見えてはいないはずなのだ。
どこにあるか、わかりようもない、その手を、
どうやって見つけた?
どうやって掴んだのだ?

ごっちーごっちー

お尻を進行方向へぷりっと突き出し、まるで綱引きでもするかのように、飯窪を引っ張る。
もし、ここに第三の観察者がいれば、
『前後に揺れる自動販売機をへっぴり腰で引っ張る少女』というなんともシュールな光景を拝めたことだろう。

『ひーっ!ひーっ!こわい!こわい!こわい!え、そっち?やっぱりそっち?』
2重の意味で怖い。
まーちゃんも、その引っ張られゆく先も。

横転した白い車、黒づくめの男たち。
「え、えとま…まーちゃん?そっちはちょっと危ないと思うなぁ……
お、お姉さんは、い、行きたくないなぁ」

そーです
あぶないんです
まーちゃんのおしゃかなしゃんが


「いや、えーとね、あぶないのは私の方だと、お姉さん思うなぁ」
それはだじょーぶです

大丈夫?何を言っているんだろう?
先ほど、黒づくめを、なんとかやり過ごした、そのすぐあと、
例の方向からは複数の銃声と、怒号が鳴り響いてきていた。
だが、その騒乱も、今しがた、ようやく静かになったところなのだ。
恐怖で動けず、震えながら佇立し続けていた彼女が、
ようやく、逃げよう、この場から、走って逃げよう、
そう決心しかけていたそのとき、まーちゃんがあらわれたのだ。
こんな、あぶない状況、大丈夫なわけがない。

「だ大丈夫って事は、なっ、無いかなぁ。そっちは、ほら怖いお兄さんとかが」
いないでーす
みんなまーちゃんがちんちんにしちゃいました
「ち、ちん?そんなはしたない言葉どこで、って、え?それどういう……」

ここです

「意…味……」

説明の必要はあるだろう。飯窪春菜にはまるで理解できないのだから。
説明の必要はあるだろう。ちんちんの意味がわかったわけではないのだから。
だが、説明の必要はなかった。

「え、これ、まーちゃんが、やっ、た、の?」

黒づくめの男たちがそこかしこに倒れ伏している。

コツン


足元に銃が転がっている。
なんだっけ?見た事あるやつだ、アサルトライフル?
おもわず触ってみたくなる。

ヲタク

平凡な飯窪春菜の、平凡なりの個性。
彼女はマンガヲタクだった。
読むのも描くのも大好き。
少年漫画も少女漫画もエログロもヤオイも何でもいけるクチだった。
型式までは思い出せないが、同じ形の銃が出てくる漫画がいくつかあったはずだ。

ちょっとだけ、触ってみても……
「にゅ熱っ!」
高熱
指先でつついただけで良かった。
転がるその銃は、信じられないほど高温に加熱されていたのだ。

ちんちんでーす
そんでまーちゃん、ぶっとばしましました。

よく見るとそこかしこに転がる銃のうち、いくつかは、部分的にひしゃげたり、歪んでいたりしているようにも見える。
「こ、これ全、部?」
あらためて周囲を見渡す。
倒れている男たちに、特に目立った外傷はないように見えた。少なくとも、だれも血を流していない。


銃を『加熱』し、屈強な男たちを全員『ぶっとばした』?
まーちゃん、この、ちいさな女の子が?

こっちー

再び、まーちゃんが手を掴み引っ張る。
白い車……
よく見るとそれはバン…救急車みたい…いや救急車、なのかな?

横転したその白い車の後部扉
その奥に、『それ』はあった。
床―横転する前は側面であったろうそこ―は透明な液体でぬめぬめとしていた。

まーのおしゃかなしゃんです
たすけてー

白い、楕円筒形のカプセルだ。液体はそこからあふれ出たものだった。
その、おおきな繭のような、貝のような、容器の中に、一人の幼い少女が横たわっていた。
カプセル上部が透明なカウル?キャノピー?とにかく、
中が覗けるようになっているが、そこが見事なまでに粉々にされている。


その透明なカウルの破片を触り、またも飯窪は驚かされる。
分厚い。
こんなもの、人間の力で割れる物なの?

「これも、まーちゃんがやったの?」

ちがうんです。
まーちゃんはぁ、おしゃかなしゃんが出たいっていうからぁ、それでだしたぁげたいからぁ。
びーんってやったんです。
まーちゃんはやめようっていったんだけどぉ、おしゃかなしゃんがやっていいってゆうからぁ。

「いやそうじゃないの、まーちゃん。
私、まーちゃんの事、怒ったりしないよ。そうじゃなくて、この子を助けたくて、私を呼んだの?」

そう。


そうです。まーちゃんのおしゃかなしゃん、きんぎょばちわったら、うごかなくなっちゃった。
ひっぱっても、だしゃしぇないからぁ。

飯窪はカプセルを覗き込む。

キラキラと輝く宝石に囲まれた、水の国の美少女。それも全裸の。
(ちっちゃい…細い…顔も身体も腕も脚も全部ちっちゃい!、なんて細くてきれいなのっ!)
が、今は感慨に浸ってばかりもいられない。さらに内部を観察する。
なるほど、少女の両手と両足が黒いベルトで拘束されている。
このカウルを割っても、ここからでは取り出せなかったのだ。
銃や黒づくめをものともせずに戦えて、こんな分厚い物を破壊できて、
それなのに、
この、ちいさなベルトを外す事が、出来なかった。

だから……。

手を伸ばし、少女のほほに触れる。
あったかい、それに息もある。生きてる。
「もしもーし!返事してー!もしもーし!」
だめか、とにかくこのカプセルを開けよう。どっかにスイッチがきっと。


飯窪はカプセルの横腹にしゃがみこみ、何かないか調べ出す。
あった、実に単純、制御パネルが付いているではないか。

タッチ式のその画面には赤い点滅があり、詳細はよくわからないが……
とにかく、故障?問題?があったので、なにか注入?注射?しました?。そんなような意味のことが読み取れる。
それとチーフレベルのコード?とかが打ち込まれっぱなしで、放置されていたようだ。
不用心この上ないが、今の飯窪にはラッキーだった。
アイコンはどれも実にわかりやすく、
ただの女子高生でも「中身を出すときにはこれとこれを触ればいいのね」と一目でわかるものだった。
ええと、これ、でいい、かな。
プシャー!
「きゃっ!」
カウルの割れた部分から水しぶきが噴きこぼれる。
多分、洗浄だ、そして水が止まると同時に、カプセルが真ん中から割れ、上半分がパカリとせりあがっていく。
両手両足の拘束が解け、少女の美しい裸体が、姿を現す。

「まーちゃん!フタあいたよ!もう大丈夫……まーちゃん?」

片隅で少女が座り込んでいる。
「まーちゃん?」
……動かない。
「ちょっと、アナタもしかして!」
背中ごし、服をずり上げる。
血だ。べっとりと血がにじむ。背中の上のあたり、肉がえぐれている。

だから、ずっと私の方を向いて引っ張ってたんだ。


私に怪我を見せないように。
この子を助けたいから、すこしでも私に不安要素を与えたくなかったから。
そして私を、ここへ連れてきて、気を失っちゃった。
見ず知らずの『自動販売機』が、この子を助けてくれると、信じて。
もう大丈夫だと、安心して。

急に涙があふれてくる。
なぜ?理由などわからない。
平凡な彼女の、平凡なりの個性。
飯窪春菜は、極度の感激屋で、極度の泣き虫なのだ。
とにかく感動したのだ。

無言で涙をぬぐう。
飯窪は、全裸の少女を確認する。けがはない。
あらん限りの力で、カプセルから引き出し、まーちゃんと丁度抱き合うように重ね合わせる。
一旦、車外へ出る。
深呼吸。
両腕をグルグルと回す。

「よしっ!」

二人の少女の脇の下を通して両腕を廻し、しっかりと指を組む。
枯れ木のような、華奢な、その身体に、あらん限りの力を込める。
「ふんぬっ!」

持ち上げる。
二人の少女をサンドイッチにして、懸命に持ち上げ、運び出す。

助け出す!二人とも!
平凡な女子高生の、非凡な覚悟が、今、決まった。



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投稿日:2013/10/09(水) 17:03:05.76 0