■ ピュアブラッド -工藤遥- ■



 ■ ピュアブラッド -工藤遥- ■

22号は火炎の中に影をみた。

炎を背に、見知らぬ少女がこっちへと……大きな、リボン。
大粒の涙を流し、ごっそりと両腕を食いちぎられた少女が、よろり、よろりと22号へ向かって近づいてくる。

「…にたぐない…じに…たぐ……」

影だ。両腕の無い少女の小さな影、その影のすぐ後ろに。

撓やかな、そして、靭やかな、漆黒の、人狼。
黒き狼はそのアギトを開き、その輝く牙が少女のうなじを捉え、喰い千切る。

「やべでぇ!やべで…ぃ…ぎぃ……ひぎゃああああああああああ!……ぁぁぁ……」

ほんの少し前まで、少女であった『それ』に覆いかぶさり、
ただ、ひたすらに、引き千切り、喰い尽くす、黒い影。

恐怖、それは、まさに、恐怖そのもの。

―だが、22号に、恐怖は無かった。

その瞬間、22号は思い出す。

―恐怖などであるものか。

己が何者であるのかを。

―そう、この感情は―


『工藤遥』は思い出す。

白き巨狼を、喰い破った、その怨敵を!

ボシュウウウウ……!

大気が渦巻き、白煙を上げて氷霧が噴きあがる。

冷気。

グルルルルル……

工藤遥の周囲の大気が急速に冷却されていく。
過冷却状態と化した大量の水滴が爆発的に生成され、
キラキラと光る結晶を含んだ白霧と化し、
一瞬で膨張し、幼い少女を、『工藤遥』を、覆い尽くす。


ズン!

鉤爪。

グルルル……グルルルル……

毛皮、唾液、耳、そして牙。

ア゛ウォオオオオオオオオオオオオオ!

白煙を上げる氷霧から、白い弾丸が、跳躍する。黒き人狼に向かって。

現れたのは、純白の、白銀の、人狼!

工藤遥のその能力。
今や彼女は『人の体に獣の頭』純白の毛皮に覆われた、一頭の魔獣であった。

地面すれすれを『滑空し』まるで音速かと見まがう速さで襲いかかる。一直線に。

今まさに目覚めた純白の人狼を


漆黒の人狼が迎え撃つ。

ゴッ!

顔面。

ゴッシャアアアアアアアアア!

拳。

純白の人狼の顔面に漆黒の人狼の、拳がめり込む。
その鼻が無残に潰れ血肉が飛散する。
勢いの行き場を失ったその身体が、顔面を軸にして前方に、
そして上方に放りだされ、一回転、二回転、三回転と宙に舞い、地面へと叩きつけられる。

惨敗。瞬殺。圧倒的な力量差。

白煙を上げ、再び工藤遥の周囲が渦巻く霧に覆われていく。
その毛皮が、筋肉が、爪が、牙が、溶ける。
溶解した獣の肉体は、透明な、常温の体液へと急速に変じ、みるみる流れ落ち、床を濡れ広がっていく。
あとに残るは、全身をぐっしょりと濡らし、仰向けに横たわる、無力な、工藤遥。


工藤遥は、黒い影を見上げる。

撓やかな、そして、靭やかな、漆黒の、人狼。

手を、手を伸ばす。
あいつを!あいつを!……!

そこで、工藤の意識は失われた。

――――

キーーーーーーン!

白いカプセルが軋み、悲鳴を上げる。

ピシッ!ピシッ!……バリン!

『だしたぁげるっ!』

声の主は自分と変わらぬ、幼い少女であった。
逆光。
工藤遥はまぶしさに目を細める。

『……ちゃんが!、すぐにっ!だしたぁげるっ!』




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投稿日:2013/10/02(水) 12:53:57.00 0



















最終更新:2013年10月03日 05:30