『ラヴ&ピィ~ス!』


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『ラヴ&ピィ~ス!』

〈HERO! HERE WE GO!〉

1-1

工藤遥は指令室の中央に立っていた。
周りを道重さゆみ、譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、そして石田亜佑美の5人が囲む。
鈴木香音は、出血のダメージが大きく立ち上がれない。
さゆみ達5人は、千里眼の映像を共有するため、工藤の頭に手を乗せた。

関根梓と6人の仲間、および8匹の犬たちは、全員同じ部屋にいた。
ダークネスの研究員は全員脱出したのか、一人も見当たらない。
7人の虚ろな目をした少女達は、バラバラの方向を向いてマネキンのように立っていた。

「さゆみは梓さんを助けに行く。皆は香音ちゃんを連れて急いで逃げて。
さゆみは、梓さんを正気に戻して、一緒に瞬間移動するから」
「道重さん!えりも行きます!えりがおらんと、梓さんの洗脳は解けませんよ!」
さゆみは生田の顔を見て頷いた。
「えりぽん、ありがとう!じゃあ、みんな、急ごう!」
ドアへと踏み出したさゆみの細い足が、突然ガクンと折れ曲がった。
そのまま床に倒れ込んださゆみを、譜久村たちが取り囲む。
譜久村がさゆみの上半身を抱き起して名前を呼ぶ。だが、さゆみの目は開かない。
さゆみのやつれた青白い顔を見て、譜久村が言う。
「道重さん、もう限界だったのかも。電流のダメージも残ってるだろうし……」
「うん……。この前心臓を斬られたときの出血も凄かったし、きっと無理してたんだよ」
心配そうにさゆみを見つめる鞘師の肩に、生田が手をかけて力強い口調で言う。
「里保、聖!道重さんのことは任せた!えり、一人で梓さんたちを助けに行く!
ここは、世界一のエスパーを目指しているこの私がHEROになるけん!」
生田を除く全員の顔が、不安で曇った。


1-2

結局、梓たちの救出には、譜久村、生田、鞘師の三人が向かうことになった。
「ハア、ハア、ねえ、里保ちゃん、その手に持ってるの、みーこさんの刀?」
「ハア、ハア、うん、なんか大事そうにしてたから」
「ハア、ハア、もう時間が無いけん、おしゃべりせんと全力で走ろ!」

一方石田は、さゆみを背負って、来るときに通った洞窟を逆走していた。
隣には鈴木を背に走る工藤がいる。
額に汗を感じつつ、石田は、さゆみの軽さに驚いていた。
(道重さん、こんな華奢な体で、私たちを引っ張ってくれてたんだ……)
石田の胸に、熱い思いがこみ上げてきた。

「あゆみん!ストップ!」
走りながら進行方向を千里眼で探っていた工藤が、大声で叫んだ。
「前から何か来る!」
石田は急いで通路の両脇を見る。
運よく、四人が隠れるのにちょうど良い大きさの石筍があった。
「どぅー、あそこ!」
二人は灰色の石筍の陰に隠れると、さゆみと鈴木を背中からおろした。
そして、岩肌に手をかけ、息を飲んで通路を見つめた。
数秒後、一匹の黒い獣が、禍々しい気を撒き散らしながら二人の眼前を駆けていった。

「……どぅー、……あれ、何?」
工藤は目を閉じて獣の行方を追っている。
「……いた……これ、黒豹だ……。ハル、動物園で一回見たことある……」
「黒豹?……で、そいつはどこに向かってるの?」
「階段をどんどん降りてる……。まずい!そっちには譜久村さん達がいる!」
石田は映像を共有すべく工藤の肩に右手を伸ばした。指先が恐怖で震える。
だが、石田の手が乗った工藤の肩の震えは、それ以上であった。


1-3

譜久村・生田・鞘師は、広くて真っ白な部屋にたどり着いた。
正面に金属製の扉があり、「実験室」と書かれたプレートが嵌め込まれている。
左の壁には「No.6:セキネアズサ」というように、梓たち7人の名前が並んでいた。
譜久村は高橋の力を使って実験室の様子を探り、閉ざされた心が7つあるのを確認した。
「間違いない、梓さんたちはこの実験室の中にいる」
扉の横のパネルを操作していた鞘師が振り返る。
「この扉、ロックされてる!」
譜久村は、新垣の精神干渉の能力も複写できる。
だが、梓たちの心を覆っている殻は固く、譜久村の手に負えるものではなかった。
「えりにまかせて!」
生田が両手を扉の方に向ける。そして、目を閉じて、精神を集中させ始めた。
譜久村と鞘師は、祈るように生田の顔を見つめる。
(!?)
突然鞘師の背筋に悪寒が走った。
鞘師は何かに弾かれたように動き出し、体当たりで生田を突き飛ばす。
次の瞬間、鞘師の体を、5本の黒い線が貫いた。
「里保!」
床に倒れている生田は、鞘師の体が赤い血を噴き出すのを見た。
さらに、その向こうにいる譜久村の体にも、同じように5本の黒槍が突き刺さっている。
「聖……」
10本の槍の柄をたどると、それらは全て、一人の女性の両手から伸びていた。
鞘師が、鮮血とともに、その恐ろしい名前を口から吐き出す。
「……R……」
「さやしちゃんだっけ?私の名前、憶えていてくれたんだ」
Rはそう言うと、10本の黒い槍を元の指の形に戻した。
鞘師は扉に背を預け、ズルズルと滑り落ちる。
Rは微笑みながら、ゆっくりと、鞘師の方へ近づいていった。
《総員退避。総員退避。爆破まで、あと20分、あと20分。繰り返します……》


〈さあ立ち上がろう!〉

2-1

Rは園児に語りかけるように、優しい声を出す。
「お嬢ちゃんたちは、また今度改めて殺してあげるからね。
お姉さんはこれからお仕事をしなくちゃなの。だから、さっさとお家へお帰り」
鞘師は、Rを睨んだまま、生田にささやく。
「……えりぽん……KY波は?」
「ムリ……、えりの能力は、こいつには通用せん……」
床にぺたんと座り込んでいる生田は、すでに戦意を喪失している。
Rは歩を進めつつ、生田をちらっと見た。
「そこの黄緑色のTシャツの子は、たしか精神系の能力者だったわね。
じゃあ、私の心の中がどうなってるか、もう分かっちゃってるんだ?」
Rは、鞘師の2mほど手前で立ち止まった。右の拳が、棘の生えた鉄球に変形していく。
「早くどきなさい。さもないと、これであなたの頭をミンチにしちゃうわよ」
鞘師は表情を変えず、Rの狂気に満ちた眼差しを睨み返す。
「いい目してるわね~。私のSっ気がビンビン刺激されちゃう」
そう言うと、Rは、鞘師めがけて右腕を高く掲げた。
「ぐわあっ!」
絶叫とともに、Rの体が突然緑色の爆炎に包まれる。
鞘師は床に落ちていた日本刀を左手で拾い、立ち上がって跳び出した。
燃えあがるRの体の横を、鞘師が風のように通り過ぎる。
銀色の刀身が、煌めきながら人型の緑炎を斬った。
刃先を右斜め上に掲げた姿勢で、鞘師の動きが止まる。
同時に、炎に反応した天井のスプリンクラーが作動した。
Rの足元の棒切れで揺らいでいた小さな緑炎が、ジュッと音を立てて消える。
譜久村が鞘師に駆け寄ろうとする。それを、鞘師は、左手を伸ばして制した。
「ウフフ、ショボい火ね。あの中国娘のと比べたら、月と、すっぽんのフンだわ」
そう言って振り返ったRの漆黒の体には、かすり傷一つ無かった。


2-2

「火で攪乱しておいて、刀で斬りつける……、作戦としては悪くないわね。
そこのコピー能力者、さっき、さゆの力を使って、自分の傷を治してたでしょ?
その時間をかせぐために、あなたは座ってじっとしてたのよね?
でも、残念でした。私のこの完璧なボディは、そんなナマクラ刀じゃ斬れやしないわ」
スプリンクラーの水が止まり、噴出口の端の穴から、大粒の滴が不規則に落下する。
Rの右手が鉄球から元の五本指に戻る。
そして、両手の指先が先刻のように鋭く尖り始めた。
「時間がなくなってきたから、さっさと終わらせるわよ……ほい!」
黒い槍が、再び鞘師と譜久村を襲う。
譜久村は水浸しの床を前転して躱すが、右の太腿が一本の黒槍に貫かれる。
痛みをこらえ、急いでさゆみの生写真を取り出す。
だが、残った槍の穂先が瞬時に蛇の頭部と化し、その写真に喰らいつき、引き裂いた。
回復手段を失って動揺する譜久村の全身に、黒い蛇が次々と噛みつく。
一方、鞘師は、5本の黒い線を縫うようにして距離を詰め、Rの腹部を刀で切りつけた。
金属音がして、二人の間から光る回転体が跳び出す。
それは、シュルルという音をたて、放物線を描いて床に落ちた。
Rの背後で鞘師が振り返り再び身構える。
握っている日本刀の刀身は、半分の長さしかない。
「だ~か~ら~、無駄だって言ってるでしょ」
Rは譜久村に噛みついていた左手の指を元に戻す。
呻き声とともに譜久村が倒れる。
Rの右手が形を変え、今度は大きな偃月刀になった。
額に汗を流しつつ、鞘師が生田を叱咤する。
「えりぽん!早く梓さんの意識を戻して!こいつはうちが食い止める!」
その叫びが、生田の怯気を蹴飛ばした。
生田は座ったまま、震える両手を実験室の方へ伸ばす。
それとほぼ同時に、扉の向こうから、「パンッ!」という乾いた爆発音がする。
Rの口許が愉しそうに歪んだ。


2-3

「R!何をした!?」
鞘師が叫ぶ。
「はい!これでもうあんたたちは瞬間移動できなくなりました~」
「何!?」
「No.6が飼ってるあの犬どもの一匹に、発信機を埋め込んでおいたの。
そうしないと、どっかに飛んでったときに探すのが大変でしょ?
そしてぇ、その発信機にはぁ、爆破装置もついていたのでぇ~す!」
Rの左手の人差し指が、ベルトのバックルの横のボタンをさすっている。
「このやろおおお!」
生田が、雄叫びをあげながら立ち上がった。
顔を怒りで紅潮させ、Rへ突進し、全力の蹴りを腹部に打ち込む。
だが、剛質化したRの体には、ダメージがまったくない。
逆に、Rの偃月刀が、生田を肩口から袈裟切りにする。
「……くっ、うおりゃあああ!」
それでも生田は倒れず、Rを殴り続ける。
生田の拳はRの顔にも当たるが、やはり剛質化させた皮膚がそれを弾き返す。
拳の皮膚が裂け、Rの体のあちこち赤い斑点が生まれていく。
Rは生田の攻撃を避けもせず、呆れ顔で言った。
「こいつ、バカなのね……。ウザいわ!」
Rは、偃月刀を生田の右胸に突き刺した。
刃を抜くと、傷口から鮮血が溢れ、Rの体に降りかかる。
生田は床に崩れ落ち、動かなくなった。

《総員退避。総員退避。爆破まで、あと17分、あと17分……》
Rは目を細めて、鞘師の方を向く。
「さて、メインディッシュといきますか」
生田の無残な姿に、鞘師の怒りが滾り始める。
鞘師は、折れた日本刀を、無造作に投げ捨てた。


〈ああやってこうやって〉

3-1

鞘師は床に落ちていた鞘を左手で掴み、その鯉口を腰に当てた。
腹部には、黒い槍によって刻まれた大きな傷がある。
その傷口から湧き出る血が、鞘の中に吸い込まれるように滑り込んでいく。
一方Rは、左手を、右手と同じように曲刀へと変形させた。
両者が睨み合う。
数秒間の静寂。
先に、Rが動いた。
Rは両腕を鋏のように交差させ、鞘師の首に迫る。
鞘師は十分にひきつけてから、後ろに躱し、右回転しながら鞘でRの両腕を払う。
そして、その勢いを維持して270°回転すると、そこで鞘から血を抜き出す。
紅色の弧が、鞘師を中心に水面の波紋のように放射され、Rの胴体を横切った。
(!?)
鞘師は、左肩に衝撃を感じた。
衝撃はすぐに激痛に変わる。
(だめ……じゃったか……)
Rの右腕の刃先が、鞘師の左鎖骨を割り、深く食い込んでいる。
「さすがは次世代エース。見事な動きね」
Rの体にも、鞘師の斬撃に沿って一筋の赤い線が走っている。
だが、そこに付着している血は、鞘師のものだけであった。
「ここまで深く斬られたのは、初めてかも……」
そう言ってから、Rは左足で鞘師の胸を踏みつけ、偃月刀から鞘師を外した。
鞘師は仰向けに倒れ、苦しそうに呻く。
「もうおしまい?……つまんないの」
Rは、胴体の斬撃の跡を塞ぎながら言った。
「せめて最後は、最高の断末魔を聞かせてちょうだいね……」
Rは、血に染まる偃月刀を、高々と振り上げた。


3-2

「痛!」
Rの背中に、何か小石のようなものがぶつかった。
振り返ると、数メートル先から、小柄な少女が猛然と突進してくる。
Rは急いで前面の体表を厚く、硬くした。
「どりゃああ!」
少女は叫びつつRの体を殴る。だが、防御を固め終えたRにはダメージがない。
それでも、その少女、石田亜佑美は拳を止めない。
「しつこい!」
Rは胸板を剣山状に変形させた。
「っつう!」
石田は顔を歪め、数歩後ろに下がる。
Rは前に踏み出し、偃月刀で石田に斬りつけた。
石田はあっさりと床に倒れ伏した。
「……勢いの割に打たれ弱いのね。……それにしても次々と、まるでゴキブリだわ!」
俯せの石田を見下ろし、Rが両腕を上げる。頭上で組んだ両拳が金槌のような形になる。
「ゴキブリは大っ嫌いだから、これでぺちゃんこにしちゃおっと!」
Rがサディスティックに微笑む。
その背後で、鞘師が、ゆらりと立ち上がった。
鞘師の全身から、むき出しの闘気が溢れ出る。
Rはそれを感じ取り、振り返らずにほくそ笑んだ。
(ウフフ……、死力を振り絞った最後の一撃ってわけね……、いいわ……、最高よ……)
Rは体表の自由に動かせる層を柔らかくして流動させた。
そして、それらを背面に集中させ、分厚い、鋼の鎧を形成した。
(さあ、来なさい。すぐに絶望させてあげるから……)
Rが待ち構えている。
ふと何かが足元に落ちる音がした。それと同時に、荒々しい怒りが背後で爆発する。
だが、それは、夜空を一瞬だけ照らす打ち上げ花火のように、すぐに消えてしまった。
Rの耳は、鞘が床に落ちる固い音と、少女が倒れる鈍い音とを、続けざまに聞いた。


3-3

おかしい。
体の奥に激痛を感じる。
あのガキが放った血の斬撃は、剛質化した鋼の肉壁が完全に防いだはずだ。
Rは慌てて両手を元に戻し、右手で背中を調べてみた。
(何よ、これ……)
背中の中央からやや左上の辺りに、半径5cmほどの丸い窪みがある。
その最も深いところから、生温い血が勢いよく流れ出ている。
「R!」
突然名前を呼ばれたRは、急いで背中の穴を塞ぎつつ、その声の方を見た。
「その血の量、ヤバいんじゃない?ひょっとすると心臓に穴が開いちゃってるかも」
そこには、顎を少しだけ上げて、冷ややかに笑っている道重さゆみがいた。

Rの能力は体表の剛質化である。ただし、全身を固めれば、全く動けなくなってしまう。
よって、剛質化させるのは、攻撃に使用する部分と、攻撃を受け止める部分に限られる。
さらにRは、それらの武器や鎧を作る材料を、体表を流体化させて集めることもできる。
さゆみは、Rの体中に付着していた血痕が移動するのを見て、すぐそれに気が付いた。
そこで、鞘師の攻撃に備えてRが背中を固めた時、そこに小石を埋め込ませたのである。
剛質化した部分は感覚が無くなる。武器や鎧が痛みを感じたら、使い物にならない。
だが、今回は、それが仇となった。
石田は立ち上がり、ドヤ顔をRに向け、掌の上で小石をフワフワと浮かせた。

《総員退避。総員退避。爆破まで、あと15分、あと15分……》
Rは強い。
深手を負っているとはいえ、さゆみと石田を一瞬で屠ることなど造作もない。
だが、石田の肩越しに見えるさゆみの余裕の笑みが、Rを惑わせる。
(その顔、何なのよ!他にもまだゴキブリがいるって言うの!?……クソッ!!)
激痛と疑念と混乱が、Rの牙を折った。
Rは再び黒豹に変身し、さゆみを数秒間睨みつけてから、部屋を跳び出していった。


〈Ending:感謝と勇気〉

(助かった……)
さゆみは一瞬安堵した顔を見せてから、急いで譜久村のもとへ走った。
そして、譜久村の傷をすぐに治し、続いて生田の治療を始めた。
さゆみと接触した譜久村は治癒能力が使えるようになり、鞘師の治療にとりかかった。

傷の癒えた生田が言う。
「道重さん、梓さんのワンちゃんが死んじゃったんです!もう逃げられません!」
「えりぽん!ワンちゃんはまだ死んでないよ!」
鞘師の傷口に手をかざしている譜久村が叫ぶ。
「えっ!?」
「さっき道重さんの作戦を皆に伝えているとき、ワンちゃんの苦しむ声が聞こえた!」
「石田!扉は開けられそう?」
扉の横にあるパネルの数字を叩きながら、石田が答える。
「だめです!パスワードが分からないと、どうしようもないです!」
《総員退避。総員退避。爆破まで、あと13分、あと13分……》
「生田!急いで梓さんを目覚めさせて!向こうからなら扉を開けられるかもしれない!」
さゆみはそう指示してから、石田に近づき、肩の傷口に手をかざした。
「……道重さん大丈夫ですか?顔色、すごく悪いですよ」
「もう平気。さっきは心配かけてごめんね。それにしてもあゆみん、よく頑張ったね。
あのRに向かっていくなんて、あゆみんも、皆も、すごく勇気があると思う。
さゆみの無茶なお願いを聞いてくれて、本当にありがとう!」
治療が終わると、さゆみは両手で石田の頬を柔らかく包んだ。笑顔の石田は思う。
(私が勇気を出せるのは、この『ありがとう』が聞きたいからなのかもしれない……)

―おしまい―






投稿日:2013/09/29(日) 11:44:36.39 0


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