■ シントイズムウォルブス -工藤遥- ■


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 ■ シントイズムウォルブス -工藤遥- ■

「あれ?なんかまたおっきくなってねーか?」
洗面台の前でそうひとりごちる。
身長140cm。いまだ小学4年生の工藤遥である、当然胸では無い。
歯、である。
抜けるように白く艶やかな肌、丸い目頭、大きく広がった目尻、
そして少し色素の薄い、吸い込まれるように深くキラキラと輝く瞳。
絶世の美女、である。
だが、普段の彼女をみてその印象を受ける者は少ないだろう。

一つは彼女の性格、言動である。
「男勝り」という言葉は工藤遥のためにこそあるといえよう。
二人の弟とエキセントリックな父に囲まれた男性優位の一家に育った必然なのか、
その言動、嗜好あらゆることが「男子」。
唯一母親だけがなんとかかんとか彼女を「女子」の範疇に引き戻そうと日々孤軍苦闘しているのであるが
そんな母親も決して淑女といったような大人しい女性では無いのであるからその努力も徒労というものだろう。
が、それはまた別の機会としよう。

二つ目が鏡の中、今まさにいっぱいに開けた彼女の口腔が物語っていた。
鼻から上の艶やかでふくよかな印象とは正反対の細く尖った顎、薄いがぷりんと突き出た真一文字の唇。
そして、大きな犬歯。
左右対称でとても美しい、綺麗な八重歯である。
この八重歯が彼女に「美女」ではなく「幼く可愛い少女」という印象を与えていた。


やっぱ成長期だかんな、はる。
歯もおっきくなるんかな。
そんなわけはないのだが、小4の中でも決して賢い方とはいえない工藤遥はそれで納得してしまう。

やっべもうスイミングの時間じゃん!
工藤遥は全速力で玄関へ。
マンションによくある金属製のドア、狭い玄関。
扉の上にはブレーカー等が収まった小さな薄い配電箱が据え付けられている。
その箱の上の壁、そこに普通の家庭では見慣れぬ小さな縦長の『和紙』が貼られていた。
そこには太くかっちりとした書体の文字と、真っ黒い ―まるでドーベルマンのような― 不思議な犬が描かれている。
それは『お札』であろうか?

「いってきまーす!」
靴を履くとほぼ同時、勢いよく垂直に飛びあがると、片手を大きく伸ばしその『和紙』にむかって声をかける。

「遥~!ちゃんとごけんぞくさまにあいさつしてからいくんだよ~!」
「もうしたって!」
「おやしろにも!」
「わぁってるって!」

エレベータなんか使わない。
階段を3段飛ばし4段飛ばしで駆け下りる。
ものすごい運動神経である。

―――――


ここ埼玉県には、古くから山犬伝説、狼伝説が伝えられてきた。
M山麓を中心として「大神(おおかみ)」を崇め奉る、「御眷属信仰」がそれである。
最も、工藤遥が暮らすK市のような都市部でそんな古臭い信仰を知っている者など皆無に等しい。
だがどういうわけだろう、このマンション一階エントランス、小さな中庭。
実に不釣り合いに、もう、思い切り不自然に、その社は鎮座していた。

「はぁはぁはぁ!んぐっ!ひーっ!」

セミロングの綺麗な髪が額に張り付いている。顔や腕はテカテカだ。
もう汗だくである。このスタミナの無さ!
あれだけの運動神経をもちながら、すでに疲労困憊。
彼女の最大の欠点。
熱しやすく冷めやすい。気力と体力が極端に足りない。
器が、あきれるほどに、小さい。

階段を降り切った工藤遥は、よろよろと小さな鳥居をくぐる。
白木の小さな社の前に、これまた小さな ―狛犬にしては口が大きくはないだろうか?― 石の像が一対鎮座している。
その狛犬?に左右それぞれ両手を振り回す。

「ちっす!」「おはーっ!」

そして、お辞儀もそこそこ、ぱんぱんと二拍。
急に神妙な顔つきになり目をつむる。

とたんに清純で、可憐で、美しい巫女を思わせる、神々しいまでの美貌が現れる。
その美貌の、額に、頬に、玉の汗が流れ、蠱惑的な色香を放つ。

「……どうかはるの身長が170cmになりますようにっ!」

どこの神様がそれで願いを聞いてくれるのか?と今度こそきっちり問い糺したくなるような適当な拝礼を済ますと
「じゃな!」
そう言い残し、彼女は再び全速力で駆けだしていった。

工藤遥。身長140cm。いまだ小学4年生である。



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投稿日:2013/09/26(木) 00:49:58.48 0