『ひょっこりひょうたん島』


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『ひょっこりひょうたん島』

〈苦しいこともあるだろさ〉

1-1

譜久村聖と工藤遥は、真っ白な砂浜の上に並んで座っている。
燦々と降り注ぐ太陽。
雲一つない青空。
頬を撫でる爽やかな潮風。
バカンスで来るには最高の場所である。
だが、二人の心は、暗く沈んでいた。

古川小夏と森咲樹を倒した譜久村と工藤は、Uによってここへ飛ばされた。
黄色い光に包まれた次の瞬間、二人は、砂浜の上に立っていた。
周囲を見回すと、そこは、青い海に囲まれた無人島であった。
ただし、「島」と言っても、広さは野球場程度しかない。
そのほとんどが砂浜で、中央にわずかな草地と数本のヤシの木があるだけだ。
川はもちろん、泉のようなものも見当たらない。
マルシェは、ここでは時間が500倍の速さで流れると言っていた。
譜久村達と同じ様にここに飛ばされた田中れいなは、10分後に戻ってきた。
譜久村は、砂の上で、5000を60で割ってみた。答えは83で、余りが20だった。 
さらに、83を24で割ると、3余り11という答えが出た。

「譜久村さん、ハル達、あと三日はここにいなきゃいけないんですよね……」
「うん……」
「食料も、水も無いんですよね……」
「うん……」
海の水が飲めないことぐらい、譜久村にだって分かる。
譜久村は、工藤がいなかったら絶対泣き出しているに違いないと思った。


1-2

落ち込んでいても仕方ない。二人は生き抜くための努力を始めた。
工藤は、千里眼の能力を使って島の周囲の状況を探った。
しかし、どれほど遠くへ「目」を飛ばしても、青い海しか見えない。
一方、譜久村は、島のあちこちで立ち止まり、思念が残っていないか探ってみた。
すると、砂浜の一角に、れいなの思念を見つけた。
譜久村は工藤を呼び、その手を握って、読み取った思念を共有した。

(吉澤あああああああ!!)

(あれ……、吉澤!どこいったと!?……ていうか、ここ、……どこかいな?)

(きっとマルシェの仕業やろ。あいつ吉澤との戦いを止めようとしとったし……)

(ごちゃごちゃ考えとってもしゃあない!さゆがなんとかしてくれるやろ!)

(……おなかすいたなあ。……のど、渇いたなあ)

(……おえっ!ぺっ、ぺっ!からっ!まずっ!)

(もう!さゆ、早くなんとかしいよ!れいながこんなに困っとるのに!)

(すっかり夜になりよった……。いま何時かいな……)

(ふわあ……。あれ?れいな、なんで砂浜におると?……そっか、そうやった……)

(れいな、何でこんな目に合わないけんと!何かちょー腹立ってきた!)

(……わかっとう。自分のせいやね……。さゆが止める声、聞こえとったのに……)


1-3

(愛ちゃんやガキさんにもよく叱られたなあ……)

(「れいな、皆の意見も聞かなきゃ!」……「田中っち!落ち着いて!」……)

(えりは滅多に怒らんけん、キレられたときは、ちょー怖かった……)

(愛佳は、どんな時でも笑ってれいなのそばにいてくれよったなあ……。)

(ジュンジュン、リンリン、元気にしようかな……)

(さゆ……、さゆぅ…………)

そこで思念は終わっていた。工藤が深々と溜息をつく。
「どぅー、どうしたの?」
「……田中さん、ハル達の名前、全然言ってくれませんね」
工藤が悲しそうな表情をする。、譜久村も胸が苦しくなる。
「ハル達、そんなに頼りないのかな……」
二人は、俯いて黙り込んでしまった。
夕暮れの浜辺は、波音がやけに大きく響く。

夜空には、新月から十三番目の月が浮かんでいる。
気温はあまり下がらない。これなら野宿しても風邪を引く心配はないだろう。
ただ、喉の渇きが耐え難い。
譜久村は気を紛らわせるために散歩を始めた。
島の中央にヤシの木がある。しかし、残念ながら実は一つもついていない。
れいなはヤシの実を採れたのだろうか。
譜久村はふと気になって、木の幹に左手をついた。
集中して残留思念を探り始めると、そこから、意外な声が聞こえた。


〈かなしいこともあるだろさ〉

2-1

(おー、やっぱり「きっかワールド」は最高だな~)

(どれどれ……蓋を開けた様子はないな。やっぱり田中さん、これに気付かなかったか)

(ここに非常用のカプセルが埋めてあるなんて、教えられなきゃ絶対わかんないよなあ)

(さてと、まだ一時間以上あるな。ちょっと昼寝でもしちゃおカナ)

譜久村がパッと顔を上げ、草地で横になっている工藤へ声をかける。
「どぅー!起きて!ここに何か埋めてあるみたい!」
工藤は跳び起きて、譜久村のもとへ走ってきた。
そして、「視線」を木の根元付近の砂の中へ向けた。

「譜久村さん!ここに何かありそうです!」
工藤が指し示したところを、譜久村が手で掘り始める。
工藤もすぐにしゃがんで一緒に掘り進めていく。
50�ほど掘ると、大きなカプセルのような物が現れた。
中には大きなコーヒーメーカーのような機械が入っていた。
「ここ、太陽光パネルですよね。譜久村さん、そこに書いている英語、読めます?」
「えっと……、シーウォーター……デサリ……ナチオン……システム?」
「……『シー』は海、『ウォーター』は水ですよね……。
もしかすると、これ、海の水を飲み水に変える機械じゃないですか!」
「そっか!このタンクに海の水を汲んで……、このコップに飲み水がたまるのかな?」
「きっとそうですよ!とにかく明日太陽が昇ったら、すぐに試しましょう!」
さらに、カプセルをよく調べてみると、底の方から大量のビスケットが出てきた。
月の光が、二人の笑顔を明るく照らした。


2-2

翌朝、二人は、日の出とともに、その装置の電源スイッチを押してみた。
すると、モーター音が鳴り、タンクの中の海水が減って、コップに水が溜まっていった。
譜久村が恐る恐るその水に口をつけてみる。案の定、それは真水であった。
生ぬるくて少しカルキ臭かったが、それは、過去に飲んだどの水よりも美味しかった。

譜久村と工藤は、十数時間ぶりに渇きと空腹から解放された。
元気を取り戻した二人は、他にも何か隠されていないか、改めて島の探索を始めた。

「どぅー!来て!」
ヤシの木から少し離れたところで、譜久村が叫ぶ。
「ここにも久住さんの思いが残ってた!」
「どんな内容ですか!?まだ他に何か隠してあったんですか!」
「ううん。でも、とっても大事なことが分かった!」
譜久村は工藤の手を取り、感じ取った思念を再生した。

(……それにしても、シゲさん、田中さんがあの状態なのに、なんで帰んないんだろ?)

(瞬間移動ができなきゃ、あの子らを逃がすなんて絶対ムリだよ……)

(コンソールにある銀色のスイッチをひねれば、瞬間移動できるようになるけど……)

(マルシェに気付かれずにスイッチを切る方法なんて、きっと無いだろうしなあ)

工藤が目を輝かせる。
「確かに、いっぱいスイッチがあるところに、一つだけ銀色のがありました!」
「スイッチを切って瞬間移動ができるようになれば、一気に形勢を逆転できる!」
「はい!」
「……でも、誰が、どうやってそのスイッチを切るか、だよね……」


2-3

二度目の朝が来た。
元の世界へ戻れるのは、おそらく明日の夜だろう。
マルシェの目を盗んで瞬間移動妨害装置を止める妙案は、まだ思いつかない。
だが、皆で知恵を出し合えば、きっと何か良い方法が見つかるはずだ。
二人はとにかく、元の世界へ帰るその時を待つことにした。
改めて周囲を見てみると、とても快適な環境である。
食糧の心配はもうない。
知らず知らずのうちに、二人の心にゆるみが生じ始めていた。

「ふっくむっらさん!」
工藤に呼ばれて譜久村が振り向く。
工藤は、ヤシの木の下でニヤニヤしていた。
譜久村が近づいて行く。すると、工藤がスッと右手を出した。
「きゃあああ!」
譜久村が絶叫して逃げ出す。
工藤の手のひらの上には、虫の抜け殻のようなものが乗っていた。
「うへへへへ」
工藤は手を前に伸ばしたまま、譜久村を追いかける。
「どぅー!やめて!お願い!」
譜久村の悲鳴が、工藤少年の悪戯心を掻き立てる。
「キャッ!!」
逃げ回っていた譜久村が突然転んだ。
「譜久村さん!大丈夫ですか!?」
「いててて……、もう、どぅーのせいだよ……。聖、何に躓いたんだろ?……あっ!」
譜久村は絶句した。
海水浄化装置が倒れていて太陽光パネルが割れている。
慌てて電源スイッチを押したが、全く反応しない。
二人の心が、悲しみに沈んでいく。


〈だけど僕らはくじけない〉

3-1

二人は、夕暮れの砂浜に並んで座っていた。
工藤が、譜久村の方をちらちら見ながら、消え入りそうな声で言う。
「本当にすみません……、譜久村さん……」
「もういいよ……、ちゃんと足元を見てなかった聖も悪いんだし……」
そう言いながらも、譜久村は工藤の方に顔を向けてくれない。
工藤は下を向き、意味もなく両手で砂を掻いた。

「……ねえ、どぅー」
工藤が譜久村の顔を見る。
顔が真っ赤だ。夕映えのせいだろうか。
「……どぅーって、口は堅い方?」
「え?」
唐突な質問に工藤は戸惑った。
「どっちかといえば、軽い方だと思いますけど……」
「……あのさあ、今から聖がすること、誰にも言わないって約束してくれる?」
俯いた譜久村の瞳がじっとりと潤んでいる。
(この目は、ヤバい……)
譜久村は大きい。
工藤もだいぶ成長したが、譜久村とは体のボリュームが全然違う。
もし譜久村に力ずくで来られたら、工藤は抵抗しきれないだろう。
もちろん、そういうときに何をされるのか、幼い工藤にはよく分かっていない。
ただ、譜久村との寝技の訓練時に感じた本能的な恐怖が、まだ体の芯に残っている。
「……どぅー、……私のおっぱい、飲める?」
譜久村はそう言うと、両手を交差させてTシャツの裾を掴み、一気にまくり上げた。
工藤は目を大きく見開き、固まっている。
譜久村は立ち上がり、無言のまま着ているものを次々脱いでいく。
そして、全て脱ぎ終わると、覚悟を決めた目つきで工藤を見つめた。


3-2

夕空と海の緋色を背景に、紅桃色の譜久村の全身が灼灼と浮かび上がる。
残照が描く滑らかな陰翳の濃淡が、瑞々しい肌艶と張りのある起伏とを饒舌に語る。
濃褐色の髪の一縷一縷は、浮気な潮風をも虜にして、刹那の輪舞を楽しんでいる。

工藤は、美術の授業で見たギリシャ彫刻の女神像を思い出した。
その時は、最高の美と称されるその幅のある裸像の魅力が、全く理解できなかった。
だが、今は分かる。
眼の前の譜久村の裸体と、記憶の中の女神の彫像とが、寸分のずれもなく重なっていく。
母性と処女性を併せ持つこの聖なる美は、太陽の光と海風に抱かれることで完成する。
あの女神も、展示ケースの檻の中では、本来の姿を見せることができなかったのだろう。
(すげえ……)
工藤の胸に、すでに恐怖は無かった。

「うめーーー!」
工藤は、半日ぶりの水分を口にした。
喉の渇きが落ち着くと、舌に残る芳醇なコクとほのかに感じる甘みに、工藤は驚いた。
「すっごくうまいですよ!いま譜久村さんにも飲ませてあげます!」
笑顔でそう言う工藤を見て、譜久村も目を細める。
工藤は、海水浄化装置に付属していた金属のコップを、再び地面に置いた。
そして、四つん這いになった譜久村の乳房の真下にくるように、位置を調整した。
小さな手がピンク色の突起を掴む。譜久村は目を閉じ、低い声と吐息を漏らした。
「譜久村さん、変な声出さないでくださいよ!」
そう言いながら、工藤の指が白い液体を勢いよく絞り出す。
「うわー!どんどん出てくる!」
「もう!」
そう恥じらう声にも、悦楽の響きが濃厚に混じっている。
譜久村の右の鼻孔から、赤い糸が垂れ落ちた。


3-3

二人の体力は完全に回復した。
譜久村が獣化能力を使って、乳牛に変身してくれたおかげだ。

リンリンと握手したあの夜、譜久村は、ジュンジュンの能力も手に入れることができた。
その翌日、譜久村は、大きな鏡の前で早速獣化能力を試してみた。
だが、鏡に映っていたのは、譜久村が思い描いていた姿とは全然違っていた。
(……どうして、……牛なの?)
皆に笑われるのが嫌だったので、譜久村はこの能力を封印することに決めた。
さゆみとれいなには、獣化能力は習得できなかったと嘘をついてしまった。

「譜久村さん、しつこいですよ!ハル、絶対に誰にも言いませんから」
「絶対だからね!……ちょっと、何でにやけんてんの!」
譜久村が声を荒げると、工藤はギャハハと笑いながら逃げ出した。
そんな元気な工藤の様子を見て、譜久村は顔では怒っていたが、心の中では笑っていた。

その次の夜。空には、ここで見るのは最後となるであろう月が、まるく光っている。
譜久村と工藤は、月光に満ちた明るい砂浜に俯せになっていた。
いつ元の世界に戻れるのか、正確な時刻は分からない。
そのため、倒れた姿勢のままで、とにかくその時を待つことにした。
「譜久村さん」
「ん?」
「道重さんたち、ハルたちが元気だって知ったら、きっとびっくりするでしょうね」
「そうだね。きっとすごく喜んでくれると思う」
「……ハル、嬉しいです」
「どうして?」
「だってハルたち、元気じゃないですか。それってあいつに勝ったってことでしょ?
田中さん、これでハルたちのこと、少しは認めてくれるかな……」
譜久村が笑顔で頷こうとしたとき、辺りが黄色い輝きに包まれた。


〈Ending:泣くのはいやだ笑っちゃお〉

譜久村と工藤が戻って来た。
譜久村は、高橋愛の生写真を手にとり、周りを囲んでいる全員の心に話しかけた。
(皆さん、そのままの姿勢で聞いて下さい!どぅーも聖も無事です!)
さゆみ達の安堵の思いが、譜久村の心に届く。
譜久村は、異次元世界で起こった出来事を全て話した。
久住小春の残留思念を読みとったこと、海水浄化装置と食料を見つけたこと、
おかげで二人とも無事であること、そして、銀色のスイッチのこと。
ただし、自分が牛になったことだけは、言わなかった。

スイッチの話を聞いた時、鞘師の顔色が変わった。
さゆみはそれを見逃さなかった。
さゆみは譜久村の手に自分の手を重ねる。譜久村を介して、さゆみは鞘師に尋ねた。
(りほりほ……、愛瞳さんを救う方法、思いついたのね?)
鞘師は驚いたようにさゆみを見る。
(多分、りほりほが考えていることと、さゆみが考えていることは同じだと思う。
……でも、危険な賭けだから、りほりほは言うのをためらってる。……そうでしょ?)
鞘師の沈黙が、さゆみの推測が当たっていることを教えてくれる。
《さゆ、怒ってる?でも、Uのやったことは、私の責任じゃないからね……》
マルシェの声が洞内に響き渡る。
(みんな……少し待ってて。さゆみ、確認しておきたいことがあるの)
そう告げると、さゆみは立ち上がった。
そして、スクリーンを睨みつけて、静かに言った。
「マルシェ……、一つお願いがあるの……」

―おしまい―





投稿日:2013/08/24(土) 18:01:56.61 0




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