『ワクテカ Take a chance』


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『ワクテカ Take a chance』

〈どれが本気で〉

1-1

《さゆ、小春と戦いたいって、本気なの?
小春、そっちにいた頃より、かなり強くなってるよ》
スクリーンの中のマルシェが、怪訝そうな顔で道重さゆみに問う。
さゆみは、眉を吊り上げ、黙っている。
《どうやら本気みたいね……。分かった。小春に聞いてみるから、ちょっと待ってて》

数分後、闘技場の中央で、さゆみと久住小春が対峙した。
「シゲさ~ん、そんなにカッカしないでくださいよ~。
二人を飛ばしたのは、きっかが勝手にやったことっすから。
小春に八つ当たりするの、やめてくれませんかね~」
さゆみは何も言わず、右足を前に踏み出す。
「……しょうがないっすね」
小春はやれやれという顔で、右手をピンと前に伸ばした。
開いた五本の指の間を、蒼白い光が遊ぶように跳ねる。
「シゲさんを殺すと上の人から叱られるんで、その一歩手前でやめといてあげますね」
余裕綽々の小春を睨みながら、さゆみは白い指先をポケットに滑り込ませた。
取り出されたのは、お菓子が入っているらしい小さな袋。
「……!?」
小春の瞳に動揺が走る。
さゆみは袋を破り、中から溶けかかった小さなチョコレートを取り出した。
袋が床に無造作に投げ捨てられる。
小春の目が、そこに書いてある文字を確認した。
「いやあああ!!」
小春は突然しゃがみこみ、両手で頭を抱えた。


1-2

「小春?」
指令室のマルシェは、カメラをズームアップして袋の文字を読んだ。
(そういう……ことか……)
そこにはポップな字体で「ウイスキーボンボン」と書いてあった。

さゆみはチョコレートを奥歯で美味しそうに咀嚼しつつ、小春にゆっくり近づいていく。
小春の特殊能力が暴走を始めた。
小春の体が蒼白く光り、眩い電光を四方へ発射する。
一方、さゆみの体もピンク色の光を放ち始めた。
《小春!落ち着きなさい!》
マルシェの叫びは、雷鳴の轟音に掻き消され、小春の耳に届かない。
次々と放たれる稲妻の一筋が、さゆみの体を直撃した。
だが、その青白い光は、桃色の光の表面を滑り落ち、床へ抜けてしまった。
さゆみと小春の距離は、すでに5mを切ろうとしている。
「子どもみたいに怯えちゃって、スー、小春、可愛いの、スー」
「ヒ、ヒイイイイイイ!」
小春を包む蒼白い光球が、さらにその直径と輝度を増大させる。
稲妻はその数を増し、その一本一本が龍のように洞窟内をのた打ち回る。
壁が、床が、天井が、龍の牙によって、黒く焼かれていく。
電光は、鞘師たちにも襲い掛かった。
鞘師がれいなを、生田が譜久村を、石田が工藤を背負い、それぞれ必死に躱す。
スクリーンの下にいるUも、俊敏に電光を避けつつ、小春を心配そうに見つめている。

マルシェのいる指令室では、あちこちからアラーム音が鳴り響いていた。
小春の放電が、様々な精密機器に深刻なダメージを与えている。
マルシェは焦った。
(まずい……、このままじゃあ、テレポートジャマーにも影響がでる……)
マルシェは、マイクを握った。


1-3

《U!小春を飛ばして!》
Uは、待ち構えていたかのように、すぐに右手を前へ伸ばした。
「きっかり、10秒ちょっとー!」
Uの指先から、れいなや譜久村たちを消したあの光が放たれた。
闘技場の小春とさゆみが、黄色い光に包まれる。
光はすぐに収束したが、そこに二人の姿は無かった。

鞘師がれいなを床に下ろして息を整えていると、光とともに二人が戻ってきた。
ただし、その様子は、消える前とは全く違っている。
小春は、疲労困憊といった顔つきで、闘技場の中央に棒のように突っ立っている。
一方、さゆみは、小春の足元にうつ伏せで倒れていた。
「道重さん!」
鞘師の声に、さゆみの右手の指先がピクッと反応した。

マルシェが小春に尋ねる。
《小春、大丈夫?どうやってさゆを倒したの?》
「小春は無事です……。あっちでのことは、後で報告します……。
とにかく、疲れました……。今日はもう帰らせてください……」
《……そう、分かったわ。じゃあ、今度ゆっくり教えてちょうだいね》
「はい……。それじゃあ、失礼します……」
そう言うと、小春は橋を渡って闘技場から出た。
Uが慌てて小春に肩を貸す。小春はそのまま、扉の奥へ消えて行った。

さゆみを介抱している鞘師達に、マルシェが声をかける。
《次が最後の実験よ。代表を一人決めて》
鞘師が立ち上がり、スクリーンに向かって言った。
「申し訳ありませんが、これ以上実験には協力できません」
関根梓が目を大きく見開き、鞘師の顔を見た。


〈どれを信じる?〉

2-1

《そっか……、さゆとれいながこうなっちゃったら、さすがに不安よね……。
分かったわ。あなたたち、もう帰っていいわよ。最後の実験はNo.6を使うから》
「里保ちゃん、ちょっと待って!」
鈴木が鞘師の前に立つ。
「最後の一人って、あのみーこっていう人だと思う。私、あの人と闘いたい!」
「香音ちゃん……。香音ちゃんの気持ちは分かるよ。でも、今の状況を考えてみてよ」
「里保ちゃん、お願い!私、あの人にどうしても勝ちたいの!」
鈴木の懇願する姿を、鞘師は困り顔で見つめている。

結局鞘師は、鈴木の志願を受け入れた。
鈴木は、最後の実験相手として残ることになった。
また、石田も、鈴木を心配して、そこに残ることを申し出た。
さらに、壁に背を預けて座っていた譜久村も、応急処置のために残ると言ってくれた。
一方さゆみは、戦いで負ったダメージが大きいらしく、生田の背中でぐったりしている。
また、工藤とれいなも、目を閉じて全く動かない。

この秘密研究所は、日本近海のとある無人島にある。
鞘師達が帰るには、船で海を渡るしかない。
マルシェは鞘師に、入り江に泊めてある船を使うように言った。
船の操舵室にある赤いボタンを押せば、自動操舵で近くの港へ向かうらしい。
だが、鞘師は、瞬間移動で帰ることをマルシェに願い出た。
れいな達を早く病院へ連れて行きたいというのがその理由である。
実験を早く再開したいマルシェは、ごねる鞘師の申し出を、渋々受け入れた。
マルシェは、関根梓に、いったん洞外に出て鞘師達を送り帰すように命じた。
《No.6はすぐに戻って来るんだよ。じゃないと、粛清人に処分されちゃうからね》
鞘師が工藤を、生田がさゆみを、飯窪がれいなを、それぞれ背負って帰途についた。


2-2

《それじゃあ、最後の実験を始めましょ!》
スクリーン下の扉が開き、一振りの日本刀を持った少女が現れた。
頭には鈍色のヘッドギアが嵌められている。
「鈴木さん!頑張ってください!」
石田の声援を背中に受けながら、鈴木は緊張した面持ちで闘技場へ向かった。

戦いが始まった。
日本刀の少女、仙石みなみは、鞘を投げ捨て、鈴木に猛然と斬りかかった。
鈴木はすぐに物質透過能力を発動し、仙石の斬撃をすり抜ける。
そして、わずかな隙を伺い、強烈な打撃を繰り出す。
もちろん、仙石もダークネスの研修生として、厳しい戦闘訓練を受けてきている。
一撃必殺の鈴木の重い蹴りを、舞うようにかわし続ける。
両者とも一歩も引かないまま、時間が3分、4分と過ぎていった。

鈴木の肩が大きく上下する。
もう体力が限界のようだ。
鈴木が退院したのはつい昨日のことである。
闘技場を見つめる石田の目つきが、険しくなっていく。

さらに数分が過ぎ、とうとう鈴木の足が止まった。
それを見た仙石は、高速の斬撃の準備に入る。
鈴木は両腕を胸の前に構え、右手首の腕時計をちらっと見た。
鞘師は、仙石が集中し始めてから10秒後に加速攻撃が発動すると言っていた。
鈴木は透過能力を最長で3秒間ほど持続できる。
ということは、8秒過ぎに透過能力を発動すれば、斬撃は完全に躱せる。
文字盤と仙石、両方を交互に見つつ、鈴木は心の中で数を数えた。
(…………4、…………5、……!?)
鈴木の視界から仙石の姿が消えた。


2-3

鈴木は慌てて透過能力を発動した。
直後、左後方に仙石の気配が現れる。
鈴木のTシャツの左脇腹辺りが、ゆっくりと大きく口を開けた。
《香音ちゃん、驚いた?No.1には最初から薬を投与してあったの。ごめんね~》
スクリーンのマルシェは、楽しそうにそう言うと、顔を横へ向けた。
鈴木は、腹部から血を噴き出しながら、前へ傾いていく。
確かな手応えが闘いの終了を確信させたのか、仙石は鈴木の方を振り返らない。
だが、鈴木は倒れなかった。
右足を大きく前へ踏み出して体を支えると、後ろを振り返って猛然と駆け出す。
そして、仙石へ背後から跳びかかり、右腕で仙石の頭部を抱え込んだ。
鈴木は、そのまま全体重を乗せ、仙石の額を大理石の床に叩きつける。
鈴木の腕の中で、何かが砕けた。

一方、マルシェは、傍らに置いたノートパソコンの画面の数値を夢中で分析していた。
「ほう、6秒を切ってる!かなり縮まったわね。でも、加速度は変わらないのか……」
データを確認し終わると、マルシェは、ふたたびメインのモニターへ視線を向けた。
そこには、奇妙な場景が映っていた。
仙石と鈴木が、縦に並んでいる。
鈴木は黒く滲んだ緑色のTシャツの脇腹を抑え、スクリーンの少し下を睨んでいる。
その後ろに立つ仙石は、鈴木の背中へ体をぴったり押し付けていた。
「何……してるの……?」
よく見ると、仙石の額にヘッドギアは無く、その残骸と思しき物が床に散乱している。
右下の別の小さなモニターには、黄色く輝く譜久村の姿が見える。
マルシェの頭脳が、瞬時にこの状況を分析する。
(しまった!)
だが、すでに遅かった。
仙石の姿が消え、同時に鈴木が超高速で前へ跳びだす。
マルシェが衝撃に備えて身構えるのと、意識を失うのとは、ほぼ同時だった。


〈誰が本気で〉

3-1

(みずきちゃーーーーん!)
仙石の加速能力によって射出された鈴木は、心の中で絶叫しながら洞窟の側壁へ飛んだ。
そして、透過能力を発動し、厚さ20m程の岩盤を時速100kmの速度ですり抜けた。
暗転した視界が、すぐまた明るくなる。
光の中に、白衣の女性が見える。
透過能力を止めた鈴木の体が、その女性を突き飛ばした。
それでも、鈴木の速度は低下しない。
指令室の奥の壁が眼前に迫る。
突然、鈴木の体が、強く後ろへ引っ張られる。
Tシャツの背中に入れておいた小石を、石田が遠隔操作したのだ。
だが、まだ鈴木の体は止まらない。
石田の小石限定のサイコキネシスも、これだけ距離があると、力が落ちてしまう。
結局、鈴木の体は、奥の壁に激しくぶつかった。
数秒後、目の前の状況をやっと理解した戦闘員たちが、慌てて鈴木に銃口を向ける。
鈴木は、激突の痛みをこらえ、急いで透過能力を発動させる。
その直後、無数の銃弾が鈴木の体を透過し、大理石の床を抉った。
鈴木は高速で匍匐前進し、指令室のコンソールへ向かう。
そして、何十個もあるスイッチに目を走らせる。
(あった!)
鈴木の目が輝く。
同時に、鈴木の背中に衝撃が走る。
透過能力を持続できる3秒間が、終わってしまった。
銃弾によって肉と骨を砕かれながら、鈴木は、必死に右手を伸ばす。
人差し指と親指で、工藤が教えてくれた、銀色のスイッチをつまむ。
指先に力を込めて90度ひねると、カチッという手応えがした。
そこで、鈴木の意識は、完全に途切れた。


3-2

「………………!か…………!」

(……ん?……)

「…のんちゃ…!しっ……して!」

(……あったかいなあ……なんか、日向ぼっこしてるみたい……)

「香音ちゃん!目を開けて!」

(えっ!?私、寝坊しちゃった!?)

鈴木は、瞼を開けた。
ピンク色の光が眩しい。
ぼやけた視界の中に、二つの大きな瞳が浮かび上がった。
「ありがとう!かのんちゃん!ほんとにありがとう!」
(あ……、道重さんだ……)
鈴木は、ようやく状況を理解した。胸に安堵の思いが湧き上がる。
「道重さん……、道重さあああん!」
普段滅多に出さない黄色い声を挙げ、鈴木はリーダーの胸にしがみ付いた。
さゆみも、力一杯その体を抱きしめた。

あの時、鈴木が命を賭して回したのは、瞬間移動妨害装置のスイッチだった。
スイッチ上のOFFの文字が光るやいなや、それを千里眼で「見」ていた工藤が叫んだ。
「切りましたっ!」
さゆみ、生田、鞘師、工藤、そして関根梓の5人は、8匹の犬が作る円の中にいる。
さゆみが梓を見ると、梓はすでにボス犬のチョッパーへ合図を出していた。
鳴き声とともに、さゆみ達は鈴木のいる指令室へ飛んだ。


3-3

指令室に着いた5人は、それぞれ、自分の為すべきことを行った。
鞘師は一陣の旋風のように駆け回り、戦闘員を次々と殴り倒していく。
生田は、精神破壊波を放って、鞘師を援護する。
さゆみは、鈴木の治療に全力を傾ける。
工藤はコンソールを操作し、闘技場の譜久村たちを指令室へと誘導する。
梓は、新井愛瞳の拘束具を外し、傷だらけのその体を優しく抱きとめた。

暫くして、譜久村、石田、そして日本刀を手に持った仙石が、指令室へ駆け込んできた。
すでに、ダークネスの戦闘員は、全員が床に倒れて呻き声を上げている。
さゆみは、愛瞳を治療していて、梓がそれを見守っていた。
「香音ちゃん!」
譜久村の声が聞こえると、鈴木は寝たまま、愛嬌のあるいつもの笑顔を見せてくれた。

気絶していたマルシェが目を覚ました。さゆみ、生田、鞘師の三人が見下ろす。
「マルシェ、あなたの負けなの」
「……やるわね……、完全に騙されたわ……」
「梓さんの仲間を解放しなさい。そしたら命は助けてあげる」
マルシェの血の滲んでいる口角が上がる。
「……さゆ、これで私に勝ったつもり?」
「え?」
マルシェの指がベルトのバックルに触れる。
すぐに鞘師がマルシェの手を払う。
だが、マルシェの頬の笑みは消えない。
「マルシェ!何をしたの!?」
「切り札はねえ、最後まで取っておくものだよ」
マルシェの言葉が終わるのと同時に、鞘師が床に崩れ落ちた。
続いて、譜久村や石田たちも次々と倒れていく。鈴木もゆっくりと瞼を閉じた。
薄れゆく意識の中、さゆみが最後に見たのは、立ち上がるマルシェの姿であった。


〈Ending:誰を信じる?〉

静まりかえる指令室、立っているのはマルシェと梓の二人だけだった。
梓の瞳からは、理性の光が失われている。
「No.6。No.1とNo.7を連れて、A-1ラボの実験室へ行け。
着いたら、そこにいる他の験体を全て支配し、次の指示があるまでそこで待機」
梓はコクリと頷き、倒れている仙石と愛瞳に手をかざす。
二人は目を開け、無表情で立ち上がり、梓とともに指令室から出て行った。
梓に向かって懸命に吠えていた八匹の犬も、諦めたように三人について行った。

マルシェは脇腹をさすりながらつぶやいた。
「いてて、あばら折れてるかな?……。しかし、すっかり油断しちゃってたわ……。
No.6の脳に細工しといて、ほんと良かった……。」
マルシェは床に寝ている戦闘員の一人の頭を蹴とばした。
「ねえ、いつまで寝てんのよ!さっさと起きなさいと、殺すわよ!」
戦闘員が一人、また一人と、よろよろ立ち上がる。
「そんな体じゃもう役に立たないから、とっとと本部へ帰りなさい。
後は私一人でやるから。……あ、言っとくけど、全員懲罰だから覚悟しといて!」
戦闘員たちは、傷の浅い者が重傷者に肩を貸し、ぞろぞろと部屋から出ていった。
指令室には、マルシェと意識の無いさゆみ達だけが残った。

マルシェは、足元に倒れているさゆみを見下ろした。
「さて、と……。せっかくだし、さゆからも頂いておこうかな……」
そう言って、マルシェは目を細めた。
そして、口元に垂れている血を、真っ赤な舌でぺろりと舐めとった。

―おしまい―





投稿日:2013/08/20(火) 21:28:18.03 0


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