『リゾナンターЯ(イア)』 - 4


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ねえ。
約束だよ。
もしもうちらのどちらかが道を踏み外した時は。
その時は、どちらかの手で。
必ずだよ。


愛が、目を覚ます。
見知らぬ部屋だった。倒れこんでいた自分の周りを、後輩たちが囲んでいる。

「よかった。ここに着いた途端に高橋さん、倒れちゃうから」

聖が、愛の体に手を当てながら言う。
その顔には疲労の色が出ている。瞬時に光の力を放出した自分を、懸命に治癒してくれたのだろうと愛は理解した。

そうか。あーしはあの後、瞬間移動でこの廃屋の部屋にたどり着いて、それで限界になって…

そこで愛に疑問が浮かぶ。
瞬間移動?一体誰がそんな力を。

「まーちゃんの能力がなければ、今頃どうなってたか」

春菜の言葉で、にこにこしながらこちらを見ている優樹に目が向く。

「そっか。確か優樹ちゃんは瞬間移動の能力があったんだよね。でも、自分の近くにしか物体を移動できない限定
的な力だったんじゃ」
「んー。まさが目覚めたら何か大変なことになってたんで、とりあえずどっか行こうって思ったらここに来ちゃっ
たんです」

あっけらかんとそんなことを話す優樹。
そんなノリで能力が拡張してしまうのか、と呆れつつも、周りの人間は彼女の突発的な行動に感謝せざるを得ない。
が、愛にはまず聞かなければならないことがあった。

「そんなことより。どうしてこんなことになったのか。説明して」

気を取り直すように、表情を引き締める愛。
そもそも、なぜ「赤の粛清」と彼女たちが戦うことになったのか。前リーダーとして、彼女には知る権利があった。

促されるように、ぽつり、ぽつりと状況を説明する後輩たち。
里保や聖たちの話をしばらく黙って聞いていた愛だったが、やがて一言、

「それは拙速だったね」

とだけ言った。
若きリゾナンターたち、特に聖にとっては、胸を締め付けるような言葉。

507 自分:名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/07/27(土) 20:27:30.38 0
「たとえ優樹ちゃんが人質に取られている状況だったとしても。あんたたちだけでどうこうできる話じゃなかった
よね。少なくとも、連絡が取れないさゆ以外の先輩たちに相談するべきだった」
「はい…」

優樹を助け出したら、隙を見て逃げ出せばいい。聖も、他の仲間たちも、そう考えていた。
だがそれは、大きな間違いだった。「赤の粛清」が自分達と戦うのが目的ならば、そうやすやすと逃がすはずはない
のだから。

聖も、衣梨奈も、香音も。里保ですら。明らかに顔色が悪い。
おそらく、先の戦いでの恐怖が徐々に蘇ってきているのだろう。これ以上、彼女たちを言葉で追い込むようなことを
するのは得策ではない。それに。

この子たちを導くのは、さゆとれいなの役目やよ。

自分はもうリゾナンターのリーダーではない。
きっかけは警察上層部の引き抜きだが、自分があえて喫茶リゾナントを離れさゆみやれいなに託したのは、もっと大
きな理由。ここでしゃしゃり出ては、その意味がなくなってしまう。

「とにかく。今日はもう帰んな。家に帰る前に、リゾナントに寄ってね。さゆやれいなが、心配してるはずだから」
「えっ…高橋さんも一緒じゃないんすか?」

不安げな遥に、愛はゆっくりと首を横に振った。

「あーしがついて行ったら、あの二人の顔を潰すことになるから」

おそらく。
さゆみやれいなは彼女たちを叱責するだろう。下手すれば全員生きて帰ることも叶わなかったかもしれない大事件だ。
そうなるのが自然の流れ。
できれば、一緒にリゾナントまでついて行ってあげたい。

ただ、それをしてしまえば色々なものが無に帰すだろう。
愛がさゆみやれいなに託した未来への思いも、そして後輩たちが自ら立ち上がるきっかけも。

明らかに今回の件で肉体的にも、精神的にも疲弊している面々。
それでも、そのか弱き背中を見送ることしかしてはいけない。愛は、自らの心を必死に鬼にしようとしていた。


ダークネスの本拠地。
建物の中央に位置する大講堂には、多くの人間が詰め掛けていた。
ストリート系の若者、学生風の女性、身なりを整えた紳士。老若男女その数、ゆうに百を超えている。彼らは、ある一
つの目的を持ってこの場所まで足を運んできた。

「よくもまあ、こんな僻地まで足を運べるよな。ゲートがなかったらおいらはこんなクソ田舎、ゴメンだね」

そんな様子を講堂の二階に設置された幹部席から眺めながら、「詐術師」が眉をひそめる。

「彼らには、必要なのよ。心の寄り辺がね」

まるで地面を動き回る蟻の営みを観察するが如く目を向けるのは、「不戦の守護者」。
その傍らには従者である「神取(かんとり)」が、数人。

「…あの黒いタンクトップの男。いつか組織を裏切るわ。鈴音、処置を」
「かしこまりました」

「神取」の一人、鈴音と呼ばれた女性は小さく頷くと、次の瞬間にはその場から掻き消えていた。
幹部席の眼下では、タンクトップの男が数人の黒服に取り押さえられ連行されてゆく。
その一部始終を見ていた「詐術師」がひゅう、と口笛を吹いた。

「組織の守護神、こんな時でも仕事が速いねぇ」
「仕方ないじゃない。”視える”んだもの」
「すごーい。こりゃ下手な行動は取れないってか。それより…」

気の無い相槌を打ちつつ、「詐術師」は気になっていた事を口にする。

「幹部連中、集まり悪すぎじゃね?なんでおいらたちしかいないんだよ」
「『永遠殺し』も来る予定だったんだけど。急な用事が入ったって、さっき連絡があったわ」

下の講堂から、ざわついた声がする。
目ざといものの一人が、最奥の壇上に現れた人物を見つけたからだ。

頭まですっぽりと覆っている、黒頭巾。
身に着けた黒い法衣と一体化し、その人物はまるで黒い影のように見えた。

「だ、ダークネス様がおいでになられた!」
「ダークネス様!ダークネス様!!」

大講堂のざわつきが、急激に大きくなってゆく。
老いも若きも、ダークネスと呼ばれる存在の名を、必死に叫んだ。

壇上に立った黒い影、それを集まった男女の声が大きく揺さぶる。
まるで炎をうねらす風のように。それが最高潮に達した時に、ついに影は口を開いた。

「…静粛に」

低い、しわがれた声。
しかし同時に、この場を覆いそして集いし者どもの心を掴むような、声。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、ぴたりと全ての音は止んだ。

「我々が、能力者がこの世界を支配するためには」

言葉を、ゆっくりと吐く。

「能力者に相応しい世界に、作り変えていかなければならない」

その言葉は、少しずつ、だが確実にしもべたちの心にしみ込んでいった。

「これからも、一層の働きを期待している」

黒頭巾越しに、黒い影が群集を見る。
堪えきれなくなった者が、ダークネス様!と叫ぶ。それをきっかけに、狂熱の渦が再び巻き起こった。

「ダークネス様、闇の帝王ダークネス様!」
「ダークネス様万歳!!」

その瞬間、大講堂の心は一つにまとめられた。
全ては、帝王ダークネスのために。そして能力者が支配すべき、世界のために。

「さすがは『闇の帝王ダークネス様』、民衆の心を掴むのがうまいねえ」

そんな狂乱を遠巻きに見ながら、「詐術師」が息を吐く。

「中身はただのおっさんなのに」

闇の帝王、ダークネス。
組織と同じ名を冠した「組織の長」。ここに集まったダークネスの構成員が、そう信じている存在。
そして、中身のない、虚構の存在。

「どんな組織にも、わかりやすい記号は必要よ。それが、ピエロだとしても」
「つうか哀れすぎんだろ。あいつなんかついこの前までしがない一般構成員だったんだぜ?能力も確か、エロいものし
か動かせない念動力」
「代わりがいくらでもいる存在に、哀れみは必要ないわ」

代わり、という言葉に「詐術師」が声を上げる。

「でも、『赤の粛清』の代わりなんていないぜ。あいつ、どうすんだよ。完全に暴走しちまってるって報告が入ってる
ぞ。お前の予知能力で何とかなんないのかよ」
「さあ。あたしの能力は、あくまでも『組織に害をなす未来』を摘み取るための予知。それにひっかからないってこと
は、あの子がしようとしていることは『組織にとって正しいこと』」

あくまでも、冷静に。
「不戦の守護者」は淡々と自らの前に横たわる事実を述べる。

「確かに。i914は厄介な存在だし、いずれ障害になるならさっさと潰したほうがいいか」
「あたしの予知は、絶対よ」
「ま、お前の予知が外れたことなんてないからな。マルシェのやつだって、メチャクチャやってるように見えて組織を
いい方向へ導いてんだろ?」
「そうね…」

「詐術師」の言うように、変わり者の科学者のやろうとしていることもまた、組織にとって正しいこと。その、はず。
それでも、「不戦の守護者」は心に湧く小さな染みのような疑念を拭い去ることができない。
本当にそうだろうか。目に見えるものだけが、果たして真実なのか。

幹部席の下方では、支持者たちの喝采を浴びている『闇の帝王』が、両手を掲げて偽りの栄光を享受していた。





投稿日:2013/07/27(土) 20:25:52.52 0


☆☆


繁華街から少し離れた、雑居ビル。
ぎらついた光と色の洪水から逃れるように、その小さなバーはビルの地下に佇んでいた。
闇に潜るように、還るように。
「永遠殺し」は、地下へと続く階段を降りてゆく。

世間から隔離されたような、場所。
扉を開けると、寡黙なマスターが静かにシェイカーを振っているのが見える。
カウンターには、女が一人。銀色のファーを纏った、ショートカットの女性だ。

「遅いじゃないですか、姉さん」
「待たせたわね。でも、組織の『茶番』の参加をかわすために、これでも色々と苦労したのよ」

言いながら、ショートカットの隣に座る「永遠殺し」。
テーブルには、華奢なグラスに満たされた青い液体、同じものを、とだけ言いそして再び女に向き直る。

「ダークネスのほうは、順調なんですか?」
「おかげさまで。飛ぶ鳥を落とす勢いのあんたのとこほどじゃないけど」
「実入りはいいけど、うちの『先生』は姉さんのところを恐れてる」

女が、戯れに懐からけん玉を出して弄びはじめた。
剣先から大皿へ玉を移動し、中皿へと動かそうとしたところで、玉が宙に止まる。

「よしなさい。今日はそんなことをするためにあたしを呼び出したんじゃないでしょう?」

時を止められた、けん玉。
女は小さくため息をつき、それから。

「組織を、抜けることになりました」
「意外ね。『後輩に席は譲らない』んじゃなかったの?」
「来たんですよ、そういう時代が。この前の組織編成で、成り上がりがトップに立った。支店の連中も獣化能力者の取引がどうのこう
のって話で大きく序列を上げた。あの場所での私の役目は終わったんです」

女の表情に見えるのは、寂しさかそれとも次世代への期待か。
「永遠殺し」にはそれはわからなかったし、理解するつもりもなかった。

「あたしたちはそう簡単に退かないわ。能力者にとって理想の国家を作る、その願いが叶うまではね」
「そういうのは、私にはわかりません。私は、私たちは理念よりも本能で行動しますから。姉さんのところの『a625』のように」

アルファベットのaから始まる型番を持つ、人造人間。
ダークネスと女の所属する組織がクローン技術を互いに共有している、ただ一つの揺ぎ無い証拠。

文字通り、流れることのない時の中で二人が佇む。
誰にも遮られることのない空気を、言葉にならない意思が交わされた。
だが、永遠さえ死に至るその場に、いつまでも浸っているわけにはいかない。
女が青色のカクテルを飲み干したのが、時の終わりの合図だった。

「そろそろ行きますよ。何か助けが必要だったら、声をかけてください。組織から離れるとは言え、それくらいの力はあるつもりです
から」

そう言い残し、女はファーコートを翻し店を後にした。
その背中を見送りながら、「永遠殺し」はふと彼女の言う「先生」とダークネスの先代科学部門統括の間に親交があったことを思い出した。

片や子供を庇護し、片や自由のために子供を手放した、か。

庇護は束縛でもあるし、それが本人のためになるとは限らない。
だが、女の言うところの「a625」は、いなくなった親の代わりに自らの友を生きる指針とし、生きる目的に摩り替えた。結局どちらが
幸せなのかは、誰にもわからない。

出す事のできない答えを求めるように、「永遠殺し」もまたグラスに揺れる青を喉に流し込むのだった。




「もう、本当に…本当に心配したんだから!!」

喫茶リゾナントに戻った面々は、予想通りさゆみに叱責を受けることとなった。
さゆみが任務から戻って来ると、壊れたテレビと不機嫌なれいなの姿。後輩たちの身に尋常ならざる何がが起こっているのは明白だっ
た。
訪れる不安、焦燥、想像したくない結末。
無事な姿を見せることで緊張は緩み、同時に溜まっていたものが一気に噴出するのも、また仕方がないこと。

「『赤の粛清』と戦ったって、何でそんなこと…せめてさゆみやれいなにどうして一言かけてくれなかったの!!」

避難先の廃屋で愛に言われたことと、同じ。
返す言葉もなく項垂れている後輩たちの中で、ただ一人さゆみをまっすぐ見据えるものがあった。

「でも、でも! 敵は、優樹ちゃんを人質にして、先輩たちに話したら殺すって!!だから、だからしょうがなく…!!」

新しく入ったリゾナンターたちのまとめ役として。
聖は、言わないわけにはいかなかった。確かに見通しは甘かった。けれども、その時点での自分達では他に取る方法が見当たらなかっ
た。やり場のない気持ちを抱えているのは彼女たちも一緒だったのだ。

「…じゃあ、敵が死ねって命令しよったら、フクちゃん死ぬと?」

さゆみの後ろで、それまで黙ってやりとりを聞いていたれいなが口を開く。

「えっ…そんなことは」
「敵に弱みを握られて、仲間の一人を殺せって言われたら、言うとおりにすると?」

れいなの強い眼光が、聖を射抜いた。
答えられない聖は涙を浮かべ、その場に泣き崩れてしまった。

「れいなは。ここでみんなを待っとる間、ずっとみんなのことを信じてた。やけん、みんなもれいなやさゆのこと、信じてるって思ってた」
「それは…」
「互いに信じあうのが、リゾナンターっちゃろ? それができないなら、リゾナンターやめり」

何かを言いかけた春菜だが、「リゾナンターを辞める」、その一言で言葉を発する事ができなかった。春菜だけではない。遥も、亜佑美も、
香音も、衣梨奈も、里保も。優樹でさえも。それだけ、れいなの言葉は重かった。

「…今日はもう帰り。一晩休んで、それから、もう一度リゾナントの玄関に入る覚悟があるやつだけ、来たらいいけん」

れいなの言葉に頷く後輩たちだが、どことなく力がないように見えた。

「これからリゾナンターとして、ダークネスと戦わなきゃならないこと。厳しい戦いになると思う。だから、自分達の胸に、もう一度だけ
問いかけてほしい。成り行きじゃなくて、本当にあの恐ろしい人たちと戦う事ができるのかって」

れいなの言葉を継ぎ、さゆみが全員に問いかける。
ダークネスの幹部クラスと戦った経験があるからこそ、その言葉には真実があった。


新しいリゾナンターたちが出て行った後の、喫茶店。
キッチンに入り込んでいたさゆみが、小さなコーヒーカップを二つ携えて戻ってくる。
カウンターに佇むれいなの前にカップを置き、さゆみもれいなの向かいに座った。

「ごめんねれいな。本当はさゆみが言わなきゃいけない言葉だったのに」

申し訳無さそうに言うさゆみに、れいなは手を振り否定する。

「れいなが言いたかったから言っただけやけん。別にさゆのポジションを奪おうと思ったわけやなかよ」
「ううん、さゆみだったら、きっとあそこまで言えなかった。ありがとね」

さゆみは。
若い後輩たちにこれからの戦いについての覚悟を正すことができなかった。
組織随一の実力とは言え、たった一人の能力者にまるで歯が立たなかった自分達が、偉そうに後輩に決意を問うことをしてもいいのか。
思いは逡巡する。

それにしても、れいながまさかあんなことを言うとは。
かつての9人だった頃なら、きっとれいなは我関せずの態度を取っていただろう。

リゾナントを襲った悲劇から、数年が過ぎた。
後輩の育成に力を注ぎつつも、さゆみは、そしてれいなは。あの時よりも強くなった。それでも、再び「銀翼の天使」クラスの実力者の
襲撃を退けられるかどうかはわからない。

「あの子たちが、形はどうあれダークネスの幹部クラスに接触した。ある意味、ピンチだったかもしれんけど、逆にチャンスなのかもし
れん」

れいなが最初に気づいたのは、無事に戻ってきたはずの後輩たちの顔色が一様に冴えないことだった。ダークネスとの戦いの中で、自分
を含めた仲間たちが時折する表情にそれはとてもよく似ていた。ぎりぎりの死線を辛うじて潜り抜けてきた時の、表情に。

彼女たちには、その壁を乗り越えて欲しい。
だからこそ、れいなは敢えて厳しい言葉をぶつけた。敵に与えられた恐怖に、リゾナンターとしての使命や心の繋がりが打ち克つように。

「あの子たち、大丈夫かな」

言いながら、カップに口をつけるさゆみ。
湯気の向こうには、頼もしい同期の顔。

「れいなは、あの子たちのこと、信じてる。だってれいなの後輩やけん」
「さゆみの後輩でもあるけどね」
「もちろん、さゆのことも信じとうよ」

れいなが、いなくなった後も。
その言葉は口にすることなくれいなの中に消えてゆく。
自分のいない、喫茶リゾナント。そんなことを自然に考えるようになった。この体にあの忌々しい黒い血が流れている限り、その未来図は確
実なものとしてれいなに差し迫っている。

怖くはない。けど。

徐に啜ったカップの中の液体は、思いのほか、苦かった。





投稿日:2013/08/02(金) 07:50:28.07 0


☆☆☆



桜田門。
東京の中枢とも言うべきこの地に、正義の番人然として屹立する建物がある。
その建物の中の、組織でも上層部の人間しか出入りできない区画に存在する小さな会議室。
対能力者部隊「PECT」に代わり、警視庁の新たな能力者への切り札となる部署。今日はその部署の会合の日であった。

「集まりが悪いな」

会議室のテーブル。
三人の部下を前に指揮官と思しき中年の男が、言いながら肩を窄める。

「まったく、何で俺が代理とは言えこんなクソガキの世話をしなきゃならんのか。って思いましたよね?」
「なっ…勝手に人の心を読むなっ!!」

後退した額に脂汗を浮かべ明らかに動揺している男を見て、可愛らしいドレスを着た女が厭らしく微笑む。
真野恵里菜。通称サトリと呼ばれる、読心術(リーディング)の能力者。

「ほら真野ちゃん、おっさんのか弱き心を弄ばないの。というわけでさっさとはじめちゃいましょーよ。きっかおなかすいたん
で手短に終わらしたいんすけどー」
「だ、誰がおっさんだ!!」

フォローしてるようでフォローしてないのは、適当な性格ゆえか。
吉川友。相手の心の傷を形にし、使役する悪夢召喚(サモンナイトメア)の能力者。

「二人ともやめなよ。主任さん、困ってるじゃない」
「ゆうかりんは優等生だねえ。でもさー、お友達の三人が来てない時点で説得力ないよ。って感じ?」

友の指摘に顔を赤くする、色白の少女。
前田憂佳。部署内で唯一、治癒(ヒーリング)能力を保有する能力者。

「能登と北原は別任務に出ているからな。数は少ないが仕方ない。これより定例会議を始める。吉川、報告を頼む」

主任がそう促すと、一歩前に出た友が立ち上がり、

「んじゃ報告ー。『赤の粛清』が単独行動してるみたい。しかも本拠地を発ってから、一度も戻ってないんだってさ」

と話す。

「もしかして、離反?」
「そこまではわかんないけど、部下も同僚もつけずに一人で行動してるっぽいね」
「さとります。これは幹部崩しのチャンスだって、思いましたね?」
「だから勝手に心を読むなっ!!」

再びの不意打ちに、主任が口角泡飛ばし抗議。
まったく食えない奴らだ、能力者ってのは。この中で唯一非能力者である彼は心の中で毒づきつつも、会合の本題を切り出す。

「我々の目的は、異能力を悪用し世の平穏を乱す連中を取り締まること。中でも『ダークネス』は最も警戒すべき組織だ。だ
が、上層部の能力者たちを除けば大した連中じゃない」
「つまり、上の人間を崩せば組織は自壊する。その手始めとして粛清人Aとして恐れられた『赤の粛清』を的にかけるという
わけですか」

恵里菜が、薄く微笑んだ。
心を読む必要はない。ダークネスの壊滅は、彼女達にとって大きな目標の一つなのだから。

「ああ。そこでだ。今回の『赤の粛清』の討伐をスマイレージにやってもらう」
「私たち、ですか」

憂佳が、困惑した表情を見せる。
スマイレージ。憂佳を含めた四人の少女たちによって構成される、対能力者部署の一部隊。

「物理攻撃、精神攻撃、そして治癒。今うちで一番バランスのとれている部隊だからな。不服か?」
「いえ、そんなことは」
「なら問題ないな。具体的な作戦は追って連絡する。戻って、他のメンバーに伝えるがいい」
「…わかりました」

一礼をしてから、憂佳が会議室を出る。
その儚げな後姿を見ていた友が、

「つーか主任、増員まだっすか? 正直うちらだけじゃ手が回らないって感じ。さっさとカリンとかあそこらへんを昇格
させちゃえばいいのに」

と言い放った。
その言葉の真意は。

「年少メンバーはまだ最前線に出られるほど育ってないんだ、無理を言うな」
「えー。さっきのゆうかりんの顔、見ました? わたし、戦いたくないんですぅ、そんな感じ? あれじゃ『赤の粛清』
に返り討ちに遭うのがオチじゃない?」
「課長の指示だ。嫌でもやらせる」

主任の横で、心を読み取った恵里菜が歪な表情をする。
なるほど、そういうことね。
もちろん、口にはしない。こういうことは後でのお楽しみに取っておくものということを、彼女は知っていた。




完敗だった。
生まれて初めての、そして言い訳ができないくらいの。

れいなは、惨めにも地面に這いつくばっていた。
手も足もでない、とはこういう事を言うのか。
そんなことを考えられるくらいに、心が戦闘から離れていた。

「ねー、そっちから喧嘩売っといてさあ。この体たらくはないんじゃない?」
「う…うるさい…」

相手からの挑発とも取れる言葉で、自らの闘志を奮い立たせるれいな。
だが、立ち上がった先に見えるのは、圧倒的とも言うべき実力の差。間違いなく、今まで出会ったどの人間より、強い。

地を噛み泥を被りながらも、腕を突き立てれいなは立ち上がる。
黒のジャケットを羽織った、金髪の女が気だるそうにこちらを見ていた。気の抜けたような表情は余裕から来るものなのか。

それが、気に食わない。
もともと、れいなが目の前の女に喧嘩を仕掛けたのもそんな単純な理由から。
彼女は既に内なる能力を自覚し、駆使することで街に屯する不良たちのリーダー的立場に立っていた。周りにはいつも、ご機嫌
伺いの舎弟たちが取り巻いてはいたが。

孤独。

周りに人がいるからこその孤独。どうあがいても分かち合えない感情をぶつけるが如く、れいなは己の拳で立ちはだかる者を
ねじ伏せていった。そして。目の前の金髪の女も、その一人になるはずだった。

それが、手も足も出ない。
れいなの体の倍はあろうかという大男も、徒党を組んだ集団も。さらには異能を身に着けたものですら。打ち倒してきたはず
の彼女が、何もできずに地に伏している。
子分たちは既にのびている。にしてもこの状況は、屈辱。

ただ。れいなは、戦ううちに彼女の中に孤高の崖に立つ金色の獅子を見ていた。
言うなれば、容易くは辿り着けない王の領域。
踏み越えてやる、という思いとともに添えられる密かな感情は。

全てのごちゃ混ぜの感情を束にするかのように、再び拳を握り締めたその時だった。
空き地の塀を破壊しながら、巨大なトラックがこちらに向かって突っ込んできたのは。




目を覚ます。
れいなは、頭を振り、自らの中の夢の断片を振り払った。
リゾナンターになる、ずっと前の出来事。それがなぜ、今になって鮮明な夢として蘇るのか。

きっと、黒い血のせいっちゃね。

一人ごちつつ、胸に手をやった。
黒血。成すすべもなくトラックに押し潰されたれいなを助けた、あの金髪は。
出血多量で瀕死のれいなに自らの血を分け与えた後に、その血の正体について語った。

― 分子レベルで特殊な回路を組み込まれたげんけー細胞のしゅーごーたいの産物? とにかく、すごい血らしいんだよね。
その力であんたは、死の淵から戻ってこれたわけ ―

ついさっきまで鬼神のような強さでれいなを叩きのめした人物とは思えない、間の抜けた発言。だが、その言葉には続きが
あった。

『ただし、ごとーにしか合わない』

女が言うには、元々その黒い血は自分のためだけに開発されたもので、他人に分け与えるようなものではないと言う。普通
の人間なら身に取り込んだだけで血に取り込まれ、滅ぼされるとも。
では、なぜれいなに女は血を分けたのか。

「なんかさあ、あんたなら大丈夫だと思ったんだよね。なんとなく」

一見無謀な賭けが成功したかに見える結果。しかしそこには大きな瑕疵がある。
れいなの血は赤い。けれど、それが黒くなった時。それはれいなが黒い血に取り込まれる兆し。ある意味、緩慢な死刑宣告
だった。

けれど、れいなはそれでも構わなかった。
どの道死ぬ筈だった自分。それ以前に、拳を振るうことでしか満たされない毎日。いつ、どこで死んだところでそれはどう
でもいいこと。
ある時までは、本気でそう思っていた。

「たなさたーーーーーん!!!!!!!!」

背後からの、元気なタックル。
振り返らずともそれが誰なのかはわかっている。

「こらぁ、佐藤!!」

言いながら、引っ付いてきた頭をくしゃくしゃと撫でた。
優樹はその間、嬉しそうにぐりぐりと自分の頭をれいなに押し付ける。

「たなさたん。まさはあんな奴らに絶対に、負けませんから」

そうかと思いきや、突然の決意表明。
基本的には子供過ぎるくらいに子供なのだが、時折こうやって意外な面が飛び出す。

「そりゃ頼もしいっちゃね」
「がってんしょうちのすけですぜ」

返しの意味はよくわからないが、優樹なりのやる気の表れだとれいなは解釈した。
彼女だけではない。あの日、れいなが後輩たちに覚悟を問うた日の翌日から。恐らく、悩み、考え、そして結論を出したのだろう。
早々と世界一の能力者を目指してますから!と言い切った衣梨奈を筆頭に、次々と喫茶リゾナントに顔を出す若きリゾナンターたち。

言葉を尽くす春菜、空元気も元気のうちの遥、真面目なことを言えば言うほど寒い空気を醸しだす亜佑美。希望を胸に前進する香音、
簡素な言葉とともに目標を口にする里保、そして最後に店を訪れた聖。
優樹だけは、いつもの調子でイヒヒヒと笑いながらやって来た。まさかあの話を聞いても何も感じるものはなかったのでは、と心配
しかけたが杞憂に終わったようだ。彼女もまた、立派なリゾナンターの一員なのだ。

あの女の言葉通りなら、この身はそのまま呪われた血に飲み込まれ滅びるのを待つだけ。
そんなものは、怖くない。けど。

会いにいかな、いけんね。

それが具体的な解決策である根拠など、どこにもない。
ただ、黒き血の繋がりの先が、あの女であることもまた事実。
れいなは、決意を固めつつあった。

「銀翼の天使」と並び称されるダークネスの最強能力者である、黒き翼を携えし悪魔と会う決意を。





投稿日:2013/08/06(火) 23:49:22.22 0


☆☆☆☆



「ママー、いちご食べたーい」

どこにでもある住宅街の、一軒家。
いちご柄のカーテン。いちご模様のベッド。いちごのクッション。
まるでおとぎの国に迷い込んだかのような部屋の中で。
その少女はベッドに腰掛け、執事やメイドに接するかのような口調で「母親」に命じた。

「はいっ!只今持ってまいります!!」
「パパー、肩揉んで」

続いて傍らの「父親」にもそう命令する。
一礼してから、少女の背後に回り肩をもみ始める。そんな光景を見ながら、もう一人の少女が、

「いいなあ、かにょんは。紗季もそういう『能力』がよかったな」

と羨望の言葉を呟いた。

「いいじゃんサキチィ。何度殺しても死なない能力者なんて、そう居ないよ?」
「確かずっと昔にいたダークネスの幹部も似たような能力者だったっけ。仲間内の争いで殺されちゃったらしいけど」
「へえ。じゃあサキチィもうまくやれば『殺せる』んだ?」
「はぁ?紗季の力はそいつのとは根本的に違うし」

何がおかしいのか、けたけたと笑いはじめる紗季。
そこへ、会議帰りの憂佳が入ってきた。

「ゆうかお帰り。どうだった会議は」
「『赤の粛清』討伐指令が下りたよ」

憂佳の言葉に、紗季や花音が沸き立つ。
いよいよダークネス攻略に着手することができる。これまで小さな仕事しか与えられなかった鬱積を晴らす、いい機会。だが、当の
憂佳の表情は冴えない。

「どしたの憂佳、元気ないよ」
「そんなんじゃない。けど」

人一倍子供な紗季はともかく、憂佳の様子がおかしいのは花音にでもわかる。が、憂佳はそれをはぐらかすかのように、

「またよそ様の家を借りて一人娘ごっこ?やめようよ、そういうの」

とだけ言った。その眼差しは、一心不乱に花音の肩をもみ続ける「父親」へと注がれている。

「だってしょうがないじゃん。能力は有効に使わないと」
「そうそう。シンデレラレボリューションっていうらしいよ、これ」

悪びれずに答える花音と、尻馬に乗る紗季。
やがて花音によって洗脳された「母親」が恭しくいちごの積まれた皿を持ってくると、憂佳は諦めに似た思いを乗せてそれっきり
黙ってしまった。

「やった!いちごだぁ、いっただきまーす」
「ちょっとサキチィ食べすぎ!これは花音のいちごなんだから」

紗季がぽいぽいといちごを口に放り込むとともに広がる、甘酸っぱい香り。
食欲の化身をいちごのクッションで制しつつ、花音が思い出したように、

「そういえばあやちょは?一緒じゃなかったの?」

と憂佳に訊ねた。

「彩花ちゃん、道の途中にあった美術展の看板見たら『あーっこれ、あやが見たい絵がある!!』って言って、そのまま」
「うちのリーダーは自由ですこと、ほんと」

そんなことは織り込み済み、と言った納得の表情をする花音。
紗季も、彩はわけわかんないことばっかり言ってるからねー、と言いまたけらけらと笑いはじめた。

「ま、あやちょのことは憂佳に任せたから。あの子、憂佳にしか心開かないし」
「ミステリアスだよねえ、彩は」

違う。そうじゃない。
それは、あの子を理解してあげようという気がないだけだ。
憂佳はその言葉を胸に閉じ込める。口から先に生まれたような二人を相手にすると、溜め込むことが多くて困る。それもまた、胸
の奥へと消えていった。




スクランブル交差点を中心に、広がる街並み。
ひっきりなしに走り交う、大小の車。信号待ちで屯する、人の群れ。
携帯を絶えずいじる女子高生、耳に挿したイアホンに身を任せる若い男。憂鬱そうに手提げ鞄をぶら下げるスーツ姿の中年。
信号が、青になる。われ先にと、対岸へと歩き出す人々。スクランブルの十字が、あっという間に人で溢れ返った。
そんな日常とも言うべき光景の中で、白いワンピースを着た少女はいかにも、浮いていた。

― これが最後の研修です。あなたに自由外出を許可します。期間は3日間、その間は何をしても構いません ―

白衣の女性、Dr.マルシェはそう言った。
研修と言うには、あまりに大雑把な内容ではあったが。

圧倒的な人の波に、さくらは言葉を失っていた。
こんなにも多くの人間が、この世には存在している。ダークネスの本拠地で過ごし、必要な時だけ外に出るような環境では知りえ
なかった、事実。

どん、と背中に強い衝撃を受ける。
振り返ると、不機嫌そうな中年の姿が。

「ったく。こんなとこでぼさっと突っ立ってんじゃないよ!」
「あっ、す、すいません」

どうやら自分が彼の進路を塞いでいたらしい。
それだけ言うと、その中年はすたすたと向こう側へと歩いていってしまう。

さくらの頭の中で迅速に構築されるシミュレーション。
踵を返す中年の肩を掴み、引き倒す。
無防備になった腹に、致命傷の一撃を加える。
だが、それが実行に移されることはない。不用意な争いは得策ではない。そう説いたのは、組織の重鎮である「永遠殺し」だった。

さくらは雑踏に立ち尽くすのをやめ、周りの人々と同じように歩いてみる。
たったそれだけのことで、自身を包む疎外感が薄れたような気がした。最もそれはやはり「気がした」だけで、現実は何も変わら
ない。

さくらが能力者であり、その他の人々が非能力者であるという、現実。

この国を形作る現代社会は非能力者に支配された世界である。
さくらがこの世に生を受けてまもなく、そう教えられた。そして、ダークネスという組織の存在意義は、その雁字搦めの構造をひっ
くり返すことにある、とも。

そういった世界に、さくらは突如として放り出された。3日間の限定ではあるが、何をすればいいかは何も教えてくれなかった。世
界を体感することで世界を学べということなのか。にしても、何をどうすれば学ぶ事ができるのかは、わからなかった。

答えを探すように、さくらは街を歩き続ける。
まるで誰かに、助けを求めるかのように。


だが、それが実行に移されることはない。不用意な争いは得策ではない。そう説いたのは、組織の重鎮である「永遠殺し」だった。


本日も通常営業、喫茶リゾナント。
味はそこそこ、客足はちらほら。
一部の常連客の熱い支援によって支えられていると言っても過言ではない有様だが、先代、先々代から続く喫茶店の灯を消してはなら
ない。店主さゆみとメインシェフれいな、それと高校を卒業しフリーとなった春菜の三人が中心となり今日もリゾナントは元気に営業
していた。

とは言え。
調理の要であるれいなは「本業」で忙しく毎日リゾナントに居られるわけでもなく。店主のさゆみにしても、料理のほうはからっきし。
残る春菜にして料理が得意というわけでもなく。
必然的に調理場ではレンジでチンが主力になってしまっていた。

ただ、客もまばらなこの状況は春菜自身都合が良くもある。
あの絶望的な「赤の粛清」との戦い。一度は心が折れかけもしたが、春菜自身のポジティブシンキングもあり再びリゾナントに立つ決意
ができた。
それでも、不安が全て消えたわけではない。「赤の粛清」のような実力者と手合せしなければならない状況など、これからいくらでも起
こりうるからだ。

能力者同士の戦いは。力の強弱だけでは決まらない。

そう教えてくれたのは、かつてのリゾナンターのリーダーである新垣里沙だった。
それは春菜が日頃愛読しているバトル漫画でも同じ。要は、どう能力を使いこなすか。
春菜の能力は、五感強化。自らの五感を自在に操る力は五感の共鳴とも称される特殊な能力だ。

ああ、承太郎さんみたいにクールに戦いを展開できたらなあ。

彼女の敬愛する漫画の主人公に思いが行きかけた、その時。

からんからん。
来客を知らせるドアベルの音に、思考を遮られた春菜は反射的に席を立つ。

「いらっしゃいませ!!」

後ろめたさを覆い隠すように声を張り上げる春菜。
が、甲高い声質もあってかどうしてもひょろくなってしまう。

「何や飯窪、そんなんやったら客も帰ってまうで」
「つんくさん!」

来客の正体、それは白いタキシード姿の胡散臭そうな金髪の中年。
自称「能力プロデューサー」ことつんくであった。

「今日も田中も道重もおらんのか。こらメシについては期待できひんなあ」
「え、そんなことは…」
「まあええわ。アイスコーヒー、頼む」

食い下がろうとする春菜を片手であしらいつつ、カウンター席に座るつんく。

「そう言えば飯窪、お前ら『赤の粛清』とやりあったんやって?」
「さすがはつんくさん、情報が早いですね」
「ま、お前らを発掘した俺としても鼻が高いわな」

そう言えば、私たちがいた宗教団体の存在を高橋さんたちにリークしたのがつんくさんだったっけ。直接自分たちを救出したのはリ
ゾナンターなのに、と思いつつもその経緯を考えればつんくの言う事にも一理あるのだろうか。

差し出されたアイスコーヒー(インスタント)を一気に飲み、一息つくつんく。
やっぱリゾナントのコーヒーは最高やな、という適当な感想を流し、春菜はつんくに訊ねる。

「前からお聞きしたかったんですけど」
「おう、俺が答えられるもんなら、何でも答えるで?」
「つんくさんは能力者ではないのに、どうやって能力者を見つけるんですか?」

春菜の疑問は。
能力者同士ならば、互いに相手が能力者であることを感知できる。だが、普通の人間にその術はないはず。そこに注目するのは当然
の話だった。

「それはな…これや」

つんくがどや顔で出して見せたそれは。
大きさはちょうど、ボールペンくらい。先には、くたびれた中年の顔を模した装飾がついている。それはどことなく、つんく自身に
似ていた。

「何ですか、これ」
「能力者探知機。論より、証拠や」

訝しがる春菜の前にその妙な道具を突き出したつんく。すると、小さな中年の顔がくるくると回りだし、春菜の正面で止まるとともに。

ピコーン!!

間抜けな擬音とともに、中年の頭の上に電球マークが浮かび上がった。

「つんくさん、これは?」
「探知機がお前の能力に反応したっちゅうことや」

凄い。ちょっとデザインが気持ち悪いけど。
春菜はその道具の存在に素直に感嘆した。

「つんくさん凄いです!こんなのどうやって発明したんですか?」
「それは企業秘密っちゅうやつや」

言いながら、口に人差し指を当てるつんく。
恐らくどこかの企業に外注しているのだろう。そんなことを春菜が思っていると、つんくの懐の携帯がけたたましい音を立てた。

「もしもし、俺や。ほう。そらええな。よっしゃ、いっちょ俺自ら出向いて確認するか」

電話の向こうの相手と一通り会話をした後、つんくは残りのアイスコーヒーをひと飲み。

「急用が入ってもうた。もうちょっとゆっくりして他の新メンの話とか聞きたかったんやけど。まあ、また寄るわ。道重と田中によ
ろしく言うといて」

それだけ言うと、慌てて店を飛び出してしまった。
慌しい人だ。それに比べこの喫茶店は。
先ほどから一向に客の来ないリゾナント、思わずため息が出てしまうほど。でも。

今日、喫茶リゾナントにちょっとしたハプニングが起こるのを春菜が知るのは、まだ先の話。






投稿日:2013/08/11(日) 11:51:04.21 0