『異能力 -That's why murder of-』


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生きようと考えながら日々を生きる存在がいる。
死にたくないと考えながら日々を生きる存在がいる。
人は、生物は、今を生きている。それは同じだ。
死もまた、平等に訪れる。
ただ、其処には差異がある。

今、死ぬのか。
明日、死ぬのか、百年後に死ぬのか。
それは誰にもわからない。
今生きて、明日生きて、百年後にも生きているのか。
誰にも分からない。

けれど、分からないはずのことを、理解する存在がいる。
他者の命を絶ち、自らの命をも絶とうとする生物がいる。

自分は自分である。そう結論は出ている。
しかし、今はそう考えられない自分がいる。
自分は自分ではない。そんな結論がでている、ような気がした。
自分の中に、自分ではない何かがいて、自分に勝手なことを囁いてくる。

 生きて、戦って、死ね、と。

なんとも酷い話だ。
許容など到底できるものではないが、そうしなければいけない気もする。
それはきっと、とても楽なことだろう。
何も考えず、何もしようとせず、ただ生きてただ死ぬだけの存在になるのは。
気楽なことはいいことだ。

 楽に生きて、楽に死にたい。それは誰もが思う結末だから。

がちり。ぎちり。ぎちぎちぎち。

  ―――――― 今。

空気の中で、何かが軋むような音を聞いた気がする。
後藤真希は、身体に触れた。
軋む、歪む、この音は、自分から出ている音。

 そろそろ、限界らしい。
 そしてこの限界のときこそ、彼女があの空間から這い上がって来る時だ。

不器用なくせに科学者という地位についてしまった少女が浮かぶ。
延命のために心身を注いでくれたことに感謝したあと、自身に引き裂かれる
痛みが走る前に、彼女の意識は闇に堕ちた。

 ―― ―― ―

例え全てが黒血に呑まれようとも、其処に意志があれば生きられる。
暴走への道を歩もうとも、破滅への絶望に怯えようとも。
生きたいと思うなら、黒血はその本能に乗っ取って行動する。
全ては宿主の意志だ。

異能力が宿主の意志であるように。
共鳴が【言霊】であるように。
全てを決めるのは自分自身だ。

そして田中れいなは決めた。自分の命を賭けて、自分が歩んできた
道を外さない意志を示し、i914への対峙を果たす。
それは【悪魔】と称された自分ではなく、彼女との繋がりを誰よりも
強く感じてきた少女でしか成し遂げることが出来ない。
何故か。

 自分には、"先"がない。"未来"がない。
 そして、その"意志"がなかった。

―― 後藤真希としての意志ではなく、【闇】が其処に漂ってしまったから。

 天使と悪魔は神のために世界を傍観する。
 【闇】は傍観する。

 次の"光"を探す為に。




疼く。疼く。この数日よりも徐々に強くなり始めている心臓の疼き。
痒みを通り越して息苦しさを覚えるほどに。
銭琳が乗りこむ船が辿り着いたのは、どこかの岸壁だった。
人間の姿が見当たらないのは、不幸中の幸いだろうか。

近くに倉庫のような建物が並んでおり、雰囲気は埠頭そものもである。
時間帯としては夕刻を過ぎた頃だ。
すぐにでも動き出したいところだが、船旅の疲れが溜まっている。
今日はここに停泊し、明日に行動をうつしたほうが得策だろうか。

だが何か肌寒さを感じる。
疼きは止まらない。
嫌な感じが、する。
この不安は一体、第六感、というものなのだろうか。

 ―― 兇人の昏い瞳。そして煌々と瞬く黄金の燐光。

何処から。
遠く、そして近く、嫌な予感が疼く。疼く。
銭琳に声をかけようとした船員が、異常な汗をかいて瞳孔を
見開く彼女に恐怖を抱いていることに気付かない。船長が顔を出した。

 「張さん。貴方の保持する【認識阻害】の範囲はどこまでですか?」
 「ああ、そうだなあ、最高でも200…いや、300ならなんとかなるか。どうした?」
 「使用時間は?」
 「正確には分からないが、さすがに1時間もてばいいくらいだな。
 …まさか、もうアイツが来ているのか?」

船員と、船長である張には目的を話している。
だが彼らは異能者であっても、戦闘向けではない、いわゆる工作員だ。
銭琳の尋常ではない状態になにかを悟ったように、彼は声をかける。

 「お前の父親とはガキの頃からの付き合いで、いろんな任務で
 アイツを助けてやったもんさ、娘のお前を誰よりも心配してたが…。
 俺のことは気にするな、全力でサポートしてやる」

張はそう言って、他の船員へと声をかけていく。
銭琳は李純の眠る部屋へと向かった。
彼女はまだ眠る。以前よりも痩せてしまった身体、そして温かかった手。

 「ジュンジュンも望んでたネ、また会いたいト。
 きっト、愛ちゃんハ私達を待っててくれタ。だから私ハ、会いに行ク。
 起きてくれたラって思ってたケド…ごめんネ」

故郷の言葉ではなく、片言の日本語で話しかける。
それは彼女に帰ってきたことを伝えるかのように。

同じ言葉を理解しているはずなのに、あの頃の自分はそれを拒んでいた。
だけど今なら言える気がした。自分に対するしがらみは、もうないのだから。

銭琳が手を離そうとした時、グッと手首を引っ掴まれて驚愕する。
流れる涙、李純の純朴な瞳が輝いた。





投稿日:2013/07/12(金) 07:40:42.06 0




 「なあ、小春。小春はなんで、リゾナンターになってくれたん?」
 「別に、面白そうかなあって。それにイマドキ正義の味方とか
 どんな人達が集まるのかなって見てみたくて」
 「そうか。そうやな、あーしもなんで結成したんやろ。
 ホントに、イマドキ正義の味方なんて流行らんわな」
 「……愛ちゃんって、冗談も通じないですよね」
 「冗談やったの?」
 「……」

 「愛ちゃんはなんで、リゾナンターを作ろうなんて思ったの?
 チカラがあるだけで、誰かも知らない人の助けになろうなんて。
 お人好しを通り越して、世間知らずもいいところですよ。
 利用されるだけされて、愛ちゃんが得られるものなんてないのに」
 「なんか今日はよく喋るね。気にしてくれとるんやな」
 「……」
 「ごめんごめん、真面目に答えるからそんなにぶすくれんといてよ。
 …得られるもんはあるよ。こうして自分のやりたい事もしてるし
 とりあえず、皆がおるっていうのはあーし的には一番大きいな。
 正義の味方なんてもんを助けてくれるあんたらは、ホントに良い子やよ」
 「ならもし、小春達がその良心を利用しただけの人間なら、どうします?
 良い子ぶった顔をして、愛ちゃんを笑ってる人間なら、今までどおり接してくれます?」
 「小春、そこが、良い子なんやよ」
 「え?」

 「あんたは自分がやりたい事をしたらええんよ。
 あーしが自分のやりたいように正義の味方をしてきたように。もちろん皆もな。
 自分が信じた力、それが一番のチカラになるんよ」

久住小春がタクシーで移動していた時、異様なほどの震えが襲った。
全身を覆うような震えは心臓に達する。鼓動が荒い。
呼吸がしにくい、この状態は以前にもなったことがある気がする。

 『i914』と対峙した、あの時のよう。

感情が高ぶる。これは恐怖、いや、むしろ戦う場所へ身を投じる時のような興奮。
悔しい。悔しい。悔しい!
何故こんな想いをするのか分からない、感情が混濁する。
乱される、掻きまわされる、ぐちゃぐちゃに。
何かが違う、これは、自分の心なのかどうかがハッキリしない。
どうしてここまで自身の心を縛るような事態になっているのかが分からない。

分からない。
分からないが。きっと、理解している。
自分のこの手で終わりにする。そうしなければ何も進めないならば。

 「ここで降ります」
 「お客さん、すごい汗だけど、大丈夫かい?」
 「おじさん、すぐにここから離れた方がいいよ。出来るだけ遠くに」

サングラスを掛け直し、久住は運転手の言葉を聞き流しながら
財布から紙幣を取り出して足早に外へ飛び出した。
そこは公園の一角であり、真上にはモノレールの高架がある。
その先は運河へと続き、歩いても10分はかからずに辿り着く。

線路の下に公園があるというのも不思議な景色ではあるが
昼間であれば憩いの場としてそれなりの人も居ただろう。
普段なら人々の心をいやす公園内に生えている木々。

それが今は空恐ろしく感じるのは気のせいだろうか。
ざあっと風が吹き、木々の葉を騒がしく揺らした。
その木の葉のざわめきが、唐突に途切れる。

 それはとても、薄い世界。 
 虚ろな殺意と殺気に支配された世界。

そして、ほんの数メートル先にいる小さな影
こんなに接近されるまで気が付けなかった。感覚の衰えを痛感する。
相対する鬼の容姿を見た。
あれが、本来の姿なのだろう。

戦闘衣装を纏った全身に回路のような筋が這いまわり、それが
不気味な虹色の燐光を発している。
異能を保持する証として瞳には黄金が煌めき、金髪が燃えるように逆立つ。

もはや人間ではないあの人の命が煌々としている。
あの命を奪うか、奪われるかのみの関係。
ただ殺し合うのみの関係へと堕ちてしまった自分達。
言葉は通じるのかは分からないが、あの状態ではもう無意味なのかもしれない。

久し振りに会えたというのに、感動も何も無い。思い出話さえ浮かばない。
相手が何故、久住を選んだのか、その理由を本人は知らない。
i914が空虚な笑みを浮かべてきた事によって、考えることを止めた。

 「――――ッ」

【瞬間移動】で眼前に現れ、脳天を砕こうとでも言うように拳が打ち落とされる。
だが、遊具に【念写能力】を付与させた久住の姿が破壊されただけに過ぎない。
地面の砂ぼこりから飛び出す影。
久住は乾電池を挟んだ拳を握り、低く構えて半歩前進、同時に拳を打ち上げる。
狙ったのは顎。サングラスに光の筋が煌めく。
【発電】を付与させたこの一撃で、脳が揺れるという人間の常識が
通じてくれるかは分からない。
電流による火花を散らせながら、そのまま勢いを殺さずに打ち抜く。

その一撃は【精神感応】で既に把握され、i914は回避しつつ右手を腰にまわしてナイフを抜いた。
狙ったのは腹。内臓を引き裂こうとする金属の刃は、磁力操作の下で回避した。
瞬間、足で踏ん張り、膝と肘を上下からi914の手に正確にぶち当てた、指から嫌な音が鳴る。
そして一瞬だけ片足を下ろすと、そのまま大地を蹴って前蹴りを敢行する。

鳩尾への狙いはあっさりと跳躍で避けられ、その軸足をナイフで刺された。
激痛に呻き声が上がり、サングラスが地面に落ちる。だが一瞬の隙も与えてはいけない。
一つでも見せれば命は無い。死。死ぬくらいなら!
唇を噛み締めながら、久住は紫電で囲んだ頭突きをi914に喰らわせた。
体勢を崩すi914の視界から抜け、サングラスを拾うと【念写能力】で風景に紛れ込み
遊具の影へと隠れると、刃を手で思いっきり引き抜いた。傷口から大量の血が吹き飛ぶ。

 「っ…ホント…面倒くさいなあ…」

久住が取り出したのは、以前、道重さゆみから預かっていた【治癒能力】
が付与されている消毒液だ。
もしもの為にとメンバーに一人ずつ渡していたもの。
【ダークネス】には道重のような異能者はおらず、これに頼るのは三度目。

靴を脱いで吹きかけると、みるみる傷痕が癒えていく。
細胞の再生による痛みはあるが、それさえ我慢すればあっという間に完治する。
まるで魔法のような異能だ。靴の穴は直せないのは惜しいが。

 道重の顔が浮かんで、一瞬、想う。だがすぐに消えて、周りの様子を伺った。

i914は久住の光景をただ見つめていた。
現在進行形で【念写能力】を行使する久住の姿がどこにあるか知っているように。
余裕だとでも言いたげに、苛立ちを思える歪んだ笑みに、久住は口を開く。

 「こんな情けない小春が可笑しい?愛ちゃん」

それは親しげな人間に対しての呼び名。
思わず、という訳ではない、意図的に、意識的にそう呼んだ。
眼前の人物がどんなっだったのかを確認するように。
自身の胸中にある本人だと認識するために。

 「だけど、こんなあたしでも、意地ってのがあるんだよね」

久住はサングラスを掛け直し、自分の掌から紫電を生みだす。
ただ一発。渾身の一撃を与えれば、勝てる。
心臓を止める為に、この雷霆があるのだから。





投稿日:2013/08/01(木) 14:20:02.03 0