『INNOCENCE』



それはまだ、仲間と出逢う前、えりが中学校に入ってすぐの話。


学校から帰ると、えり宛に郵便が届いていた。DMっぽかったけど、聞いたことのない会社だった。

「Office quarante-huit?何て読むんやろ?何かな?」

封を開くと、その内容に目を奪われた。
戦隊もの!仮面ライダー!他にもプリキュアとかの、色んなコスプレ衣装のカタログ!
しかもそれらが、とてもリーズナブル!
たまにコスプレのサイトとか見ても、売ってるのはすごく高いし、作るのもすごく手間がかかるみたいだし、あきらめとったと。
でもこれなら、お小遣いを少し貯めれば買えそう!
お年玉の残りとかも合わせて、念願の衣装をついに買ったっちゃん!
大好きなボ○ケンピンク!早速着ては、鏡の前で色んなポーズを取って、一人で笑う。
あ~、コスプレのイベントとか行ってみたいっちゃ。

それから何日か後、また郵便が届いた。新しいカタログかなと思って開けると、そうじゃなかった。
そこには、招待状と書かれていた。

“日頃のご愛顧の感謝を込めて、モニター会を開催致します。新商品の試作品についてモニター様の視点からの直のご意見を賜り、より良い商品の開発に活用させて頂きます。参加費無料。記念品プレゼント有。なお、当招待状はご本人様のみ有効です。”

試作品のイメージ画像には、最新ライダーや、某アイドルの歌衣装なんかもあった。
これらを試着することもできるらしいけん。
そしてそのモニター会の日、えりはその会場へと向かっていた。

会場の部屋へ通されると、何人かの同年代の女の子たちがいた。
最終的に10人くらいになり、同じ趣味を持つの同年代の人が近くにこんなにいたんだと嬉しくなったと。
時間になって、スーツ姿の男の人が数人入ってきた。

「本日は当社のモニター会にご来場頂き、誠にありがとうございます」

その後、早速試作品の衣装が出てきて、試着してみたり、ここはこうした方がいいんじゃないかとか、もっともらしい意見を言ってみたりした。
記念品の箱を渡され、これで終わりかなと思ったら、箱を開けて是非身につけてみて下さいと言われた。
開けてみると、お洒落なチョーカーとブレスレット!
みんな一緒につけてみると、会社の人が言った。


「実はそちらのチョーカーとブレスレットは、現在当社が制作を進めております、ご当地ヒーローの重要なアイテムになっております。
まだヒーローの詳細を申し上げることはできませんが、実は皆様には、このご当地ヒーローのオフィシャルサポーターになって頂きたいと思っております」

こんなことがあるんだ!
一も二もなく、えりは早速志願した。えりの他にも何人かが志願し、別室へ案内された…

「…あれ?」

気がつくと、いつの間にか自分の部屋にいた。
どうやって帰ってきたんだろう…?全然思い出せない。

「夢じゃあ…なかとね」

腕にはブレスレット、首もとに手をやるとチョーカー。夢じゃないのは確かなようだ。
そう言えば、一緒だった人たちとアドレス交換したっけ?携帯を取り出すが、それらしきものは見当たらない。
せっかく同じ趣味の人と会えたのに…。サポーターになる人たちとはまた会えるかな?
というか、自分がサポーターになれたのかどうかも覚えてないw なんであれから何も覚えてないっちゃろ…。


それからというもの、外出してたはずなのに、気がつくと帰宅していた、という事が何度かあった。
その時は決まって、あのチョーカーとブレスレットを付けていた。
…これ、絶対何かあると。

あのモニター会の日以来、あの会社からは何の音沙汰もない。何が起こっとーのか、この目で確かめてやるっちゃ。

次の休みの日、あの時の会場に再び行ってみた。
前来た時は気にしてなかったけど、テナント表示はOffice quarante-huitだけ。
裏手にある非常階段を忍び足で上り、中を窺う。しかし、どうやら人気はない。日曜日だし、誰も出勤してないだけとかいな…?
非常口の扉のノブを回すと…開いた!


ギィ…

不用心っちゃねー。お邪魔しまーす。
部屋を一つ一つ覗いていく。
モニター会をした一番広い部屋。折り畳みイスがいくつか立て掛けてあるだけ。
仕事をしてるらしき部屋。机がいくつかあるが、その上にパソコンが数台あるだけ。机の中に書類なども見当たらない。これでお仕事できるとかいな?
倉庫らしき部屋もあったが、ここは鍵がかかっていた。

その時、エレベーターが動く音が!慌てて非常口の外へ出る。
ところが、エレベーターはこの階を通過し、最上階まで行って止まったようだ。
テナント表示はこの階だけだったはずやけど…。

音を立てぬよう、階段を最上階まで上る。
この階は、外からは中を窺えない間取りだった。慎重に扉を開けて潜り込む。
一室から声が聞こえる。天井近くにある窓から室内を覗き込む。

そこには、モニター会の時に出てきた男の人たち。さらに、一緒だった女の子も何人か。
そして、女の子たちの首元には、あのチョーカーが見えた。
例のサポーターの打ち合わせとか?それにしては、女の子たちは身動きせずただ立ち尽くしたままだ。

あっ…ちょっと…腕が…。
懸垂よろしく窓枠に手をかけて覗き込んでいたが、もう限界…。その時、手が滑ってしまった!

「あっ!!」 ドシン!

「誰だ!」

ヤバっ!!
猛ダッシュで外の階段を下って逃げる。
しかし、下から先回りされ挟み撃ちとなってしまい、あえなく捕まってしまう。

「離して!はーなーしーてー!」
「なんだ、コイツもこないだ来た奴じゃねーか」
「ちょうどいい、予定外だがコイツも連れてくぞ」

先程の部屋へ連れていかれる。
女の子たちは表情を変えることなく、連れてこられたえりを見つめたまま相変わらず立ち尽くしていた。

「おい!」

男のその一言で、えりは女の子たちに抑え込まれた。
同年代の子とは思えない、すごい力だ。

「なんこれ!?サポーターじゃなかったと!?ご当地ヒーローとか嘘だったんやね!?」
「…フッ。ご当地ヒーローというのはあながち嘘ではないぞ」
「!?」
「強いて言えば、こいつら自身がヒーローかな」
「はあ!?どういう事!?」
「そのチョーカーとブレスレットの力を発動させると、超人的なパワーを持ち、意のままに操ることができる」
「これが…」
「ここは日本でも抗争の多い街だ。どこも兵隊を欲している。そこで、こいつらのような傭兵を作り出し、貸し出して大儲けするのさ」
「そんな…そんなのヒーローなんかじゃなか!ヒーローは平和を守る存在っちゃ!」
「なんとでも言えw まあお前は今回は採用を見送るはずだったが、見られてしまったからには仕方ない。おい、こないだ出来たばかりのVersion.2があったろ。あれ持ってこい」

少しして戻ってきた男は、前のものとはやや違うチョーカーとブレスレットを持っていた。

「改良を重ねて、ゆくゆくは世界中に売り出すのさ。おい、付けてやれ」

それを受け取った女の子たちは、えりの体に付けようとする。

「嫌!嫌!やめてー!!」
「お前は新型の被験者の第1号なんだぞ。もっと光栄に思ってほしいものだな」

もう…私、このままになっちゃうのかな…。もっと色々楽しいことしたかったな…。
その時、部屋のドアが勢いよく開いた。

「そこまでや!」
「な、なんだお前ら!?」
「え?えーと、あっしらは…」
「愛ちゃん自己紹介してる場合じゃないでしょーが!あ、話は全部聞かせてもらいましたから」
「おい!やっちまえ!」

女の子たちはえりをほったらかして、現れた2人の若い女性に向かっていった。
ところが、あっという間にみんな気絶させられていった。

「なんだこいつら、戦い慣れてやがる…」
「さあ、あんたらもおとなしくしな」
「誰がするかッ!」

男たちも女性に抵抗しようとしたが、すぐに組伏せられてしまい、細い紐のようなもので縛られた。
そして2人の女性は、えりに近づいてきた。

「大丈夫?ケガはない?」
「あなたの後をつけさせてもらってたの。もっと早く助けてあげることも出来たんだけど、私達もなるべく情報を引き出したかったからさ。怖い思いをさせてゴメンね」
「ウッ…ウッ…ふえええええええ~」

えりは安心して泣き出した。
そして、平和を守るヒーローに出逢えた。

「…っていう話なんですぅ」
「ウソ!?あの時の子、生田だったの!?」
「そうだったんです~、んふふ~」
「てゆーかさ、あんた警戒心なさ過ぎw」
「え~!?」
「なんでいきなり手紙来てホイホイ行っちゃうのよw」
「え~だって~」
「それに、あんた不合格だったんだw」
「見る目がないですよね~」
「そーゆーことじゃない!」


でも、えり、強くなりましたよ。
色んなことを経験して、色んな人と出逢って。
平和を守るヒーローに、少しでも近づけてるとかいな?




投稿日:2013/07/07(日) 21:19:03.81 0















最終更新:2013年07月08日 12:17