『異能力 -Blue flames and butterfly-』


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ナチュラル。
ニュートラル。
本当に孤独な人間というのは、それだけで『完全』な人間だ。
世界と一切関係せずに生きていけるような概念があるとすれば
それほどの角度からどんな具合に観察したところで、やはり『完全』と
表現せざるを得ないと言える。
完全なる孤独。
孤独なる完全。
それは『生死』が無いということ。

 愛し愛され殺し合うことが無いということ。

真の意味で孤独であろうと、完全であろうとすることは全ての連鎖
から解放されようという行為に他ならない。
因果から抜け出そうという行為に他ならない。

つまり殺さず、殺されず。求め合わず、必要とせず。
だから本当に孤独な人間というのは完全であり、そしてあまりにも寂しい。
誰とも、何とも関係しない。

そんな『完全』な人間に対等な人間が存在するだろうか。
誰かが願った『完全』な人間だとしても、何があっても何が起こっても
誰と会っても誰と別れても、運命も必然も因果も因縁も、そんな有象無象が
あろうがあるまいが、そんな魑魅魍魎がいようがいるまいが、物語の
流れになんの関わりもなく、

   ずっと、変わらないのだ

それが、きっと、つまり、「死なない」という事。
何のために生まれたのか、どういう意味で生まれてきたのか。
二つの疑問に対する答えに一切の持ち合せがない。

   それが「死なない身体」だ

生死には膨大なエネルギーが必要だ。
保存則にのっとって言えば、エネルギーは総じて「移り変わる」もの。
マクスウェルの悪魔でも無ければ、一定のエネルギーが厳密な意味で
「固定」されたままというのは有り得ない。

だがそれは、人間の常識であり、法則であり、道徳だ。
異能力を保持する人間の常識と、法則と、道徳は違う。

住む世界が、次元が、違う。
種族や種類ではなく、裏や表や逆や対偶ではなく。
違う世界の住人であるという事実があることで、『完全』な人間は
事実上の『完全』と成る。

それは屁理屈だと嘆くか。
解明は出来ずとも、確立をすることが出来なかった真実を。
ならば、傍観者であればいい。

永遠を与えられた人間を、傍観していればいい。
痛みを忘れ、戦いをやめ、他にも様々なものを放棄して
それは終わりがあったときには大事だったはずの思いも平気で捨てればいい。
死んだように時を過ごせばいい。
本当の生も死も知らず、ルールすら無視すればいい。

   それが嫌なら、守れ。

死を認識し、獲得し、捕縛し、対峙し、勝負し、対決すればいい。
死ぬのが怖いか。死ぬのは怖いか。
それでも向かい合え、殺しあえ、喰らい合え。

   此処は、そんな世界だ。
   死を覚悟すれば、生きてる間は死なずに済むのだから。

『完全』の外側で、『不完全』の彼女達は生きている。

―― ―― ―

久し振りに食べる蕎麦は、美味しい気がした。
普通の子供はカレーライスや、ハンバーグ辺りを選ぶらしい。
喫茶『リゾナント』に来る親子連れでスパゲッティを不器用に
フォークで取り、啜っているのを何度か見たことがある。

新垣と田中も自分が好きなものをそれぞれ選んで食べていた。
だがどちらとも小食なのか、それとも緊張からなのか、あまり食が進んでいない。
佐藤優樹も緊張はしている。
だが、食べたい物を食べただけで、人は簡単に笑うことができる。
田中や新垣は、ちゃんと笑っているようには見えなかったが。

佐藤が今の状況がそれほど良くない、というのは自覚している。
自分にも危険が及んでいることも。
だが新垣が「大丈夫」だと言った。田中も「良かったね」と言ってくれた。

あの三人が好きな食べ物も覚えてる。
工藤遥は抹茶が好き。 石田亜祐美はスイカが好き。
飯窪春菜はチョコレートが好き。
でもそれ以外にもたくさん好きなものがある。
その数だけ、笑顔があった。

たくさんの笑顔が浮かんで、消えていく。
こんな時間が続けば良いのに、と思う。
でも皆が居ないのは嫌だな、と思う。

食べた後、埠頭へ行くために電車を乗り継ぐことを決めた。
その時に佐藤は、田中の隣に居た。降りるまでの間、ずっと、ずっとだ。
彼女の横で手を握り、田中もそれを拒まなかった。

あの時、田中の両目から流れた黒い水。
そして、今佐藤が掴んでいる手が、何か別の生物ような違和感を覚えた、あの時。

本当は聞いてみたい。
様子がおかしいから、本当は具合が悪いのではないかと。
それは自分のせいではないのかと。
自分ができることは何なのか、聞いてみたい。
もしそれが自分のせいだとしたら、このまま自分を捨ててくれても良いとさえ思うほど。
……嘘だ。
本当は捨ててしくない。できればずっと田中の傍に。

 「佐藤、ちょっとの間だけ、寝といてもいいっちゃよ。まだ着かんからね」
 「たなさたん、わたしにできることがあったら、なんでも言ってください。
 どうしていいかわかんないけど、おいてかれるのだけはやだけど。
 それいがいのことはできるから。できるかもしれないから」
 「大丈夫。れなはずっとおるよ。だから寝ときい」

電車に揺られながら、佐藤は田中の声と共に瞼を閉じる。
マスクを付けていて苦しいが、寝顔を見られるのはどこか気恥ずかしいので我慢する。


佐藤は祈りたくなった。鈴木香音が言っていた『神様』という存在に。
神様は一つ、願いを叶えてくれるという。
たくさん願いを叶えてくれたらいいのに、と思い至った時に、佐藤は祈る対象を変える。
どんなに祈っても助けてはくれない神様ではなく、自分達を救ってくれた
神様のような人達が、これが終わったらいつまでも笑顔で居られますように。

寝息を立て始めた佐藤を見て、田中は呟いた。

 「なあガキさん、佐藤のこと、頼むけんね、こいつ、ガキさんのことも
 好いとぉみたいやし、ま、まだまだ子供やけん、わがままやけど」
 「田中っち、それは卑怯だと、私は思うよ」
 「別にガキさんやなくても誰かに頼んどお、れなにはもう時間が少ないから」
 「…約束はしないよ。私も覚悟してるから」
 「そっか、まあ、こいつらなら大丈夫やね、さゆもおるし。うん、さっきの忘れていいよ」

穏やかな表情でそう言った。見た事のないほど覇気のない、掠れた笑顔。
そして田中れいなは、海に臨む。
傷だらけの身体と魂を抱えて、臨む。
自身の限界を知りながらも、ただひたすらに。

それが自分の在り方だと奮い立たせるように。




投稿日:2013/07/03(水) 22:03:52.25 0




 戦いがあればそれは一瞬だ。

 『戦い』と呼ばれる命の賭け事に時間を費やすことはない。
 全ては一瞬。
 全身全霊を込めた一撃。強者であればあるほど、強者が相手であればあるほど。
 同時に言葉が交わされるだろう。
 別れの挨拶を、再会の約束を。永劫の煉獄を、永遠の楽園を。

 ―― ―― ―

誰かは目を覚ます。
朝だから目覚めた。目覚めたからには起きるしかない。
瞼を上に引き上げ、眼球を外気に晒す。
光が物体に当たり反射したものを網膜で受けとり、視神経から脳に送って
画像処理し、見るという行為に成る。
天井。横を見ると部屋。机、椅子、床に転がる雑誌に本。
視覚情報の確認をしても、何も感じない。
炭素と水素。その他の物質の繋がりにしか思えない。

これが目覚める事、なんて無意味な行為だろう。
自分が生まれてから、こうして時が始まる。
なんて無駄な行為だろう。
それでも起きたからには立ち上がる。
床に足を下ろし、冷蔵庫を開けて、朝食を取りだす。

牛乳の瓶を脇に抱えて、左右の手に林檎とパンを手に取る。
牛乳と林檎とパン。
これらがなんのためのもので、そこからどうしたらいいのか判らなくなった。
冷蔵庫に戻す。

そこでようやく分かる。
冷蔵庫を閉じるように、内心を封じる。
いつまでも冷蔵庫に屈んだままではいられない。立ち上がった。
行き場を探して、椅子に腰を下ろして、テレビの番組を無機質な目で見つめる。

ああ、ここには、居場所が、ナイ。

 ―― ―― ―

 快楽殺人者でもなければ、『戦場』の中であっても戦いは一瞬で終わる。
 破滅する。その為の戦いであれば尚更だ。
 そうでなければ意味がない。意味のある戦いがないのなら、戦いを
 求める者がその答えを求めるしかない。
 『戦い』に理由を求めることは、既に魅入られているからだ。
 戦いに、命に、人間に。

 ―― ―― ―

何度か人間を殺したことがある。
全てが罪を背負っていた者ばかりだった。
重さに耐えきれず、苦痛に歪んでいた異能者達だった。
それは奪い合う戦いではなかった。ただ一方的な暴力だ。

何故なら誰かは誰よりも一番強かったから。
強者だったから、誰もが簡単に殺されてしまった。
抗っても尚、その事実から逃れられないのなら、諦めるしかない。

なんて、悲しい真実だ。誰かにとっても、相手にとっても。

 「平和な世界でなにをしてるんだろうね、私達は」
 「平和な世界なんて無いよ」

【言霊】使いは誰かの対等になることを拒んだ。
だが、隣に居ることを許してほしいと言ったあの日から
彼女は誰かの隣に居座っている。

 「あたしは、世界のすべては戦場だと思ってる」
 「そういえばごっちんって、軍の人たちとも相手したことあるんだっけ」

愛称で呼ばれた誰か、後藤真希は氷雪が荒れ狂う戦場の話をした。
分厚い戦闘服に着込んだ異能兵団や、幾千ものチカラの煌めき。
異能が撒き散らす破壊と死の嵐が、戦士たちの命を麦穂のように刈り取っていく。

後藤の虚ろな瞳は、遠い過去の戦場を彷徨っていた。
自分の異能が命を呑む。自分の手にはその感触がないからなのか、

 あまりにも罪悪感が薄い。

戦友と共に後藤へと挑んだ兵士たち。
異能の雨を潜り、自身のチカラを振るって敵の頭蓋を叩き割ろうとした
一人を潰した時も。
硝煙漂う荒野を越え、血河を渡り、戦友の腐乱死体が溢れた塹壕を進んだ
異能者達を一掃し終えた時も。

 「って、そういえば私が依頼したんだよね。
 あの人達が日本への潜入を模索してるって情報が入ったから。
 …暇かい、何もないこの日常が」

 「戦いはいつも一瞬なんだよ。断続的にある訳じゃない。
 だから別に不満があるわけじゃない、ただ寂しいってだけ」
 「寂しい、か。…じゃあさ、また頼まれてくれないかな」
 「またお使い?」
 「まあ、ごっちんにしてもちょっと気になるんじゃないかってさ」

【言霊】使い、安倍なつみはある写真を取り出す。
都内の孤児院へと向かった後藤はそして出逢う事になった。
突然の来訪者である後藤を、孤独の色で見つめていた田中れいなと。

とても綺麗な瞳の色彩だった。
浅瀬に輝く海に近い、だがそこには誰もおらず、彼女だけが佇む静寂。
誰かを寄せ付ける前に、誰かを拒んでしまう波の音。
どちらから言葉を交わしたのかは分からない。

きっかけとしては、孤児院の中にある竹に短冊を付けたがっていた
彼女の手伝いをしたのだけは覚えている。
そう、あの日は、世間一般では七夕というものの日だった。

彼女の短冊を見て、何も感じない。
ただ、少女もまた、空っぽなのだと感じる。
空っぽの日々に何を見出せばいいのか、彼女も模索していたのだろうか。

其処に現れた謎の人物。後藤に、初めて田中は喋った。

 「ねえ、おかあさんとおとうさんの知り合いって、ホント?」

 ―― ―― ―

あれは戦いというものでも、闘争本能というものでもない。
虐殺。暴力。力で無力を捩じ伏せるだけの、意味のない戦いだった。
田中博士。夫妻。
i914の母親。i914の数々の失敗作。妹達。
田中博士はあの時に起こしてしまった。
全てが狂ってしまったあの日。止めなければいけなかった。

闇の帝王と呼ばれたダークネスが絶望を叫び、魂は目醒めた。
後藤は外されて、独りになった。
この世界には必要とされていない人間達が生きてしまった。

 だから、あたしは、仲間を殺した。

拒まれた世界の中で、ただ、生きるだけの存在にならないように。
この世界には居ない筈の仲間を。
だから、終わらせなければいけない。自分でもなく、仲間でもなく。
この世界を創ってしまった彼女達が。

だから田中れいなを逃がす手引きをした。
既に高橋愛は姿を消している。
彼女だけではいけない、完全に消滅させる者が残っていてはいけない。

抑制できる異能者を、あともう一人。
【悪魔】は笑う、嗤う。これで全ての形が当てはまる。

世界を整えよう。【天使】と共に、この世界の傍観者として。




投稿日:2013/07/09(火) 12:35:48.09 0