『米』 第二話 



(第1話のおさらい)
正八角形のホールと8個の小さな部屋で構成された出口のない舘に閉じ込められた9、10期の8人
工藤の千里眼でも出口は見つからず、なぜか佐藤は眠り続けている
出口を探そうとした8人の元に突如目の前に現れたロボット
【サイサツセヨ】 その言葉に抗うべく、そして生き残るために8人は戦うことを選択する

★★★★★★

【サイサツセヨ  サイサツセヨ】
赤く点滅を繰り返す二つの眼と巨大な体を支える4本の足
ジジジと鳴り響く金属のこすれあう耳障りな音が8人を包み込む

「ど、どうしましょう!くどぅ、逃げる場所本当に見つからないんですか!」
「はるなん、うるさい!今、必死に探しているんだから黙って!!」
「まあちゃん、起きて!お願いだから起きて!」
「・・・」
慌てている仲間達と対照的に鞘師は落ち着いて自分達および敵の戦力を改めて確認する

鞘師自身の武器は水軍流の体術、洞察力、そして水を操る力
他の7人の仲間達の武器は体術および能力、そして共鳴という絆
戦闘に向いた能力者は鞘師自身と石田、それと誰かの能力を『複写』しているであろう譜久村
特に生田の『精神破壊』は機械相手では全く効果を示さないであろう
しかし生田は無駄な動きはあるものの十分な体術を会得している。
少なくとも肉弾戦なら戦力として数えられる

それに対して敵は機械および兵器による武力、圧倒的な制圧力とそれを可能にするであろう電子回路
可動性に長けた4本の足と重厚な装甲、殺戮兵器ならば当然備えられているであろう飛び道具、スタミナと縁の無い生命力

まず為すべきことはこの小さな部屋の中から脱出すること
8人が集まったこの小さなスペースでミサイルなり爆弾でも使われたなあひとたまりもない
少なくとも敵が何らかの行動を起こす前に、ここから意識を外す、または抜けださなくてはならない

(まあちゃんが起きていれば・・・)
佐藤の能力―『瞬間移動』で攻撃系の能力者、鞘師か石田と共に脱出し、部屋の外から攻撃する
それが最も理想的かつ効果的な方法だったのだが、その佐藤は眠り続けている
譜久村が動揺しているところを見る限り『複写』にも『瞬間移動』はないと考えざるを得ない

(それならば私があいつの注意をひくしかない)
腰のペットボトルホルダーから飛び出した水は刀の形となり手に収まった
ふぅっと一回吐き、呼吸を整え眼の前のロボットの懐めがけて飛び込んでいく

敵に届くまでのほんの一秒の間に鞘師は脳内で何度もシュミレーションを繰り返す

(リゾナンターで最も速い私に対して精確な射撃は困難であろう
 雨のようにふりしきる弾丸ならば水の膜をはった状態で反射神経のみで避ける
 それは田中さんから学んでいるため、可能だ)

(しかし、それがいきなりミサイルなり火炎放射をを使うことも考えられる
 私が避けるのは容易いだろうが、透過能力を持った香音ちゃんやあゆみちゃん以外は難しいだろう
 特に能力が戦闘に不向きなはるなんは避けようがないはず)

(それならば方法は一つ、脱出経路を確保し、かつ注意を私に向けさせる、しかない
 この刀で胴体部分に傷を負わせ、その衝撃を利用して頭上を飛び越え、センターホールへ道を作る
 敵はまずは私を追うだろうから、その間に他のみんなには部屋から逃げてもらう
 大きな場所に出ればそれぞれの持ち味が活かせる戦いが出来る)

「私に任せて」
駆けだした鞘師の姿に12の瞳が向けられる
視線を感じながらあと数歩でロボットに届く、そんな距離で鞘師は大きく跳んだ
目標は赤く光る2つの眼の下50cm、胸の中心部分
両手で鍔をしっかりと握りしめ、大きく両腕を後ろにふるう
刀を振るう瞬間弛緩させていた全身の筋肉を一気に硬直させ、自身が一つの大きな刀となる
大きく描かれた刃の軌道は美しい弧を描き、ロボットの胴体目がけて軌跡を描いた

ガキィィン

金属と金属がぶつかる音が響き渡る
硬度を金属並みに増した水の刃と鋼鉄の体がぶつかりあうその音に思わず鈴木は耳を押さえる
(や、やった!?)

しかし刀を振るった鞘師の眼の前には驚きの光景が
(な、なに?わ、私の刀を受け止めるなんて)
四足歩行型のロボットは二足歩行型に変形し、両腕で鞘師の刀を受け止めた
(やはり、一気に倒すことはできないか。しかしこれは困ったぞ)
キュイィィンと高調な音が響き、砲台と視線が合い鞘師は冷や汗が頬に流れたのを感じた

「里保に何すると!!」
生田の強烈な蹴りがロボットの背中に炸裂した
衝撃で鞘師の刃を掴んだ手が開き、その隙に鞘師は水の刀を解除し脱出した
「ありがとうえりぽん。助かった」
「イヒヒヒ、たいしたことしてないとよ」と部屋の外にいる生田が奇妙な笑みを浮かべる
「さあ、みんな今のうちっちゃ!こっちにくると!」
内心自分の役割を奪われたような気がする鞘師は複雑な心境ながらも、仲間達に声をかける

「わかりました、今のうちに皆さん、生田さんのいる大きなホールにいきましょう!」
飯窪、鈴木、工藤と足早に倒れ込んでいるロボットの横をすり抜けホールへと移動する
「ほら、あゆみちゃんもいくよ!」
「あ、まってください。まあちゃんが起きないんです!譜久村さん、肩をかしてくれませんか?」
「・・・いいえ、あゆみちゃんは先に行って、私がまあちゃんを背負いますわ」
そういい譜久村は不安そうな石田を押しのけ、満面の笑みで軽々と佐藤を背負った
「すごい!譜久村さん!同い齢なんて思えない!」
「そ、そうかしら?」

「あ、危ない、ロボットが動き出すよ!!」
眼を向けるとほんのわずかにロボットが震えていた
「二人とも急いでください!」
もともと高い飯窪の声が焦りのためか更に高くなる

「大丈夫よ。私は『知っている』。このロボットは私、聖が部屋を出るまで『起き上がれない』」
そうはっきりと明言する譜久村に佐藤を除いた6人の不思議なものを見るかのような視線が集まった
「譜久村さん、何言っているんですか!そんな格好つけなくていいから急いで!」
興奮する工藤と対照的に譜久村は石田に手を差し伸べ、ゆっくりとロボットの横を通り抜ける
「ほら、そいつ震えています!いつ動き出すか分からないですって!」
「大丈夫よ、くどぅ、私は『知っている』。私があと10歩動くまでロボットは『動かない』から」
1歩、2歩、3歩・・・全くロボットは動かない
そして10歩目を踏み下ろした瞬間ロボットはばねの様に跳ねあがった
「譜久村さんのいうとおりだ!!・・・何で鼻血でているんですか?」

『サイサツセヨ サイサツセヨ』
繰り返される電子音に次いでロボットの肩が大きく開いた
「!! みんな逃げて!!」
開いた穴から放たれる無数の銃弾
「ちょっと まつ っちゃ! はっ!! こんなの 避け 続けるの 無理 っちゃろ!」
「誰か あの 穴を ふさぐか 壊して! はるの 能力で みた 死角を 教えるから」
各々がハチの巣にならないように必死に銃弾から逃れようと足を速める

鞘師は逃げながらも飯窪に声をかける
「ねえ、はるなん、いつもどおりにサポートしてくれない?どぅと私の視点をはるなんの能力で繋いで!」
「な、なにいってるんですか?私、そんなことできませんよ!」
「大丈夫!私を信じて銃弾は私が全て弾き返すから、はるなんは能力の行使に集中してくれれば・・・」
「そうではなくて、私にそんな能力はありませんから!!」
「え?何言っているの?だってはるなんは」

そこに飛び込んできた工藤の声
「すごい!だーいしすごい!めっちゃ格好いい!」
いつのまにか止んでいる銃撃は石田の攻撃によるものなのだろう
振り返って眼に飛び込んだのはロボットを包む炎と同じ色の炎を手にまとった石田の姿

「なに?あの色の炎は・・・蒼い炎?」
かつてリゾナンターに所属していた火炎念動力者は緑炎を操っていた
しかし、いま、石田の掌に揺れるは蒼き炎
「譜久村さん!まあちゃんは無事ですか?」
「大丈夫だと思うけど・・・相変わらず起きないの」

「気を抜かないで!まだそいつ何かする気だよ!!」
鈴木の忠告と同時に腹部が大きく開き、ミサイルと思わしきものの先端が明るく照らし出される
「今度はミサイルゥ?やばっ あれは無理っちゃろ!逃げろ~」
「どこに逃げればいいんだろうね!!無理だって、あれは無理!!避けられないよ!!」
「これは私も『知りません』!」

「だーいし!またさっきみたく炎であれを止めてよ!」
「よーし、この蒼き炎の一族の私が」
「だめ!炎で壊したら爆発で私達木端微塵になってしまいますよ!」
「嘘 嘘 嘘!炎で壊すなんて嘘!やめる!やめる!」

慌てふためく6人の姿をみて鞘師もさすがに焦りを感じずにはいられない
(ダメだ、私の水ではあれは止められないし、止めたところで爆発してしまう
 だからといってどうすればいいんだ?水の防御壁?いや、だめだ8人を守るなんて水が足りない)

そうしている間にもロボットの震えは加速度的に増していく

(ダメなのか?)

一陣の風が吹き、次の瞬間、ロボットが消えた
「今度はなんですか?」
「! はるなんあぶない!!」
驚きの声を上げる飯窪の懐めがけ鈴木が飛び、飯窪は衝撃のために一瞬息がつまりそうになる
「かのんちゃん!はるなんになにす」

そこで生田の言葉は遮られた
遥か上から何か大きな物体が落下し、生田のその後の言葉を打ち消したのだ
辺り一面に粉塵が舞い上がり視界が妨げられる
「かのんちゃん、はるなん!!」
二人の安否を確認する声に対して、鈴木の「大丈夫」という声が返って来て他の5人は安堵のため息を漏らす
「鈴木さん凄いな・・・はるの千里眼よりも先に動いたんだもん」

石田は落ちてきた金属の破片を拾い上げ、仲間達に見えるように高々と掲げた
「これ、さっきのロボットの赤い目に見えるんだけどみんなどう思う?」
鞘師は思った-間違いないだろう、と
(しかし・・・一体誰が?そしてどうやって?)

その疑問は静かに解決される
「あ~」と間の抜けたような声が聴こえたのだ
「よかった、まあちゃんが起きましたわ」
「チェッ、のんきに寝ているなんてはる達の気も知らないで」と悪態をつく工藤だが嬉しそうに佐藤の元へと駈け寄る
工藤が駈け寄ったにもかかわらず佐藤はきょろきょろと辺りを見渡してばかり

「まあちゃんどうしましたか?」
「・・・」
返事を返さない佐藤は静かに金属片に指を向け、バンと撃った
譜久村の背中から一瞬背負われていた佐藤の重さが消え、すぐに戻ってきた
幾つかの大きな金属が浮かび上がり、無数の細かな破片となり崩れ落ちた
「イシシシ」
そして笑う佐藤
「じゃあ、さっきのロボットを倒したのはまあちゃん?でも様子がなんだかおかしいんだろうね」
「なんか気味悪いっちゃ」

石田も顔を青ざめながら駈け寄り声をかけた
「まさきちゃん、大丈夫ですか?怪我とかしていないですか?」
「あー、あぬみんだ~」
間の抜けた声に一同の空気が緩んだものの、次の佐藤から出た言葉はその場を止めるには十分すぎるものだった

「なんで生きてんの?まあちゃんが殺したのに」

「・・・なにいってんのまーちゃん!!だーいしはここにいるじゃん!頭ホントにおっかしくなったの?」
誰よりも早く反応したのは誰よりも一番佐藤といることが多い工藤であった
「そ、そうですよ!まあちゃん、縁起でもありません!あゆみちゃんに謝るべきです!」
「そうっちゃ、あゆみちゃん、こうやって生きとうし、まあちゃんも生きてるっちゃろ」


「石田を殺した」という佐藤の発言を悪意のある冗談として捉える飯窪や生田と違う考えを鞘師は抱いていた

そして同様に違う感情を抱いた人物がもう一人
「まあちゃんのいっていることは嘘じゃないみたいだよ」
「? なんでそんなことわかるんですか?鈴木さん嘘はやめてくださいよ」
「だって嘘を言っている『音』がしないもん」
工藤の眼をじっと見ていう鈴木の言葉に今度は石田が反応する

「『音』ってなんですか?」
「鈴木さんの『超聴力』で心臓の音を聞いて、拍動の変化で嘘と本当を判定しているんです」
石田の問いに対して返すは飯窪
「ちょっとまってください!鈴木さんの力って『透過』じゃないんですか?」
「なに言っているの?香音の能力は『超聴力』だよ。そんなことより、あゆみんこその能力は?」

先程の蒼い炎のことを言っているのであろうと察した石田は再び炎を掌に灯した
「これのこと?これは白銀のキタキツネ様を守護する私の一族の蒼炎だよ!
 この力でまあちゃんをお守りするために私はリゾナンターに」
「待つっちゃ!あゆみちゃんの力は幻獣駆使(イリュジョナルビースト)やろ?」
「え?石限定念動力ですよね?」
「高速移動(アクセレーション)だよ!!」
「・・・みんな『嘘』の音はしないんだろうね」

鞘師は考える
全ての人間が真実を話している。にも関わらず事実は必ずしも一致していないのだ
(これを説明するには・・・)
鞘師はゆっくりと壁に近づき、水の刀を棍棒に変形させ思いっきり打ちつけた
力の限り強く打ちつけたにもかかわらず壁はまったくの無傷
先程のロボットの射撃によって開いた穴すら見当たらない
(この舘はおかしい・・・それにふくちゃんも香音ちゃんもあゆみちゃんもはるなんも私の知っている能力と違う
 もしかして・・・みんなは・・・)


★★★★★★

そんな8人を見下ろすように天井から送られたカメラの映像を一人の女性が眺めていた
ゆったりとしたソファーに座り、時折琥珀色の液体の注がれたグラスを手に取る
「おや?」
女性は表情を確認すべく、カメラのズームを鞘師にかける
何かを察知したように眉間にしわをよせた鞘師をみてふふん、と笑う
「さすがやな。勘付いたか?『水軍流の』鞘師、といったところやな
 さて・・・あいつらがどうするか、ここからが本番や」
溶けた氷がカランと楽しげな音をたてた
「じっくり調べさせてもらうで」




投稿日:2013/06/03(月) 12:53:51.13 0


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最終更新:2013年06月04日 07:51